広島県では,広島県出身のJICAボランティアを対象に,ひろしま平和貢献大使を委嘱しています。大使の方々には,赴任国と広島県の架け橋として,広島の被爆の実相や復興の歩みについて伝える原爆展を現地で積極的に開催していただくこととしています。
今回は,2018年度にナミビアに赴任された酒井剛佑さん(2018年度1次隊/小学校教育)に現地で開催した原爆展について紹介してもらいます。
自己紹介
私は小学校教員として広島市で7年間働いた後,青年海外協力隊(JOCV)に参加しました。2018年度1次隊としてナミビアに派遣され,その年の8月から「ンタラコンバインドスクール」という学校で,活動を開始しました。主に授業改善,児童生徒への指導または学習の理解度の向上を目的として活動を行っていました。
現在は広島市の教員として働いており,私の経験したことやそこで学んだことを児童に語ったり,出前講座で多くの人に伝えたりしています。
開催への思い
1945年8月6日の朝に,世界で初めて核兵器が人類に対して使用されました。そして,その被害にあった人々が広島の人々です。今から70年以上も前のことになるため,被爆経験者は随分と少なくなってきています。そのため,私たちのような「戦争を知らない世代」が,核兵器の恐ろしさや戦争の愚かさを今の世代の方々,または後世に伝えていかなければなりません。広島出身の一人として,世界で類を見ないこの悲惨な歴史を多くの人に伝えたいと思い,ナミビアでの「原爆展」の開催を決めました。
開催の様子
ナミビアのオングウェディバという町で年に一回,各企業や商店などが集まり,大規模な博覧会が行われており,そのトレードフェアに数年前からJICAも出展し,日本の文化やJICAのボランティア活動について紹介していました。2019年は今までJICAが行っていた日本の文化の紹介だけでなく,「原爆展」のブースも設けて,平和にも関心をもってもらえるように工夫しました。しかし,2018年の出展場所とは異なり,少し人通りの少ない場所での出展となり,集客が見込めるか不安でしたが,参加者の多くが日本の文化に興味を持っており,JICAのブースの前で足を止めて着物を着たり,けん玉や書道などの体験を楽しんだりしていました。訪問客がそうした体験を楽しむ中,ときより原爆展のブースに入り,資料を真剣に眺めたり,戦争や原爆のことについて質問する方もいました。
展示やプレゼンテーションの様子
屋外での出展でしたが,テントを二張り建て,その中に「25枚の原爆写真ポスター」を展示することができました。原爆が落ちる前の広島市と落ちた後の写真を見比べることができるため,訪問した方たちも原爆の凄まじい威力を感じ取ることができていました。また,「どのくらいの被害が及んだのか?」といった質問が多くあり,その際ポスターの資料を見せながら説明することで参加者の理解が容易になりました。プレゼンは約一時間行い,その間に「ピカドン」(一切の会話がなく,原爆が投下される前から投下された後の悲惨さをアニメーションで表したもの)を鑑賞する時間を設けました。中には何人かの子どもたちが参加していましたが,その映像の時は集中して観ていました。プレゼンをした際には,20人~30人程度の方が集まり,ほとんどの方が最初から最後まで参加してくださいました。プレゼンは一日一回行い,三日間参加したため,全部で三回行いました。
「原爆展」を開催してみて感じたこと
ナミビアでの活動中に「原爆展」を行うことは,私の一つの目標でもあったため,それが達成できたことは非常に有難いことでした。また,開催に際して,JICA中国の橋本さんをはじめ,資料を提供してくださった広島平和記念資料館の方,JICAナミビア事務所,ナミビア大使館,そして文句ひとつも言わずに手伝ってくれた同じJOCVの仲間に感謝の気持ちでいっぱいです。また,その同僚から「今回原爆展をすることで,私たちも知らないことをたくさん知ることができた。」と言ってくれました。参加者だけでなく,協力してくれた仲間にも何かを伝えることができたなら,原爆展を行った価値は大いにあったと思いました。
「原爆展」に参加される方は平和に対する興味・関心が高いように感じました。参加者の一人に「教科書では,原爆については1ページにも満たない程度で紹介されているだけだ。今回は詳しく知ることができて良かった。」と言ってもらえました。
最も印象に残っていることは,一人の参加者がプレゼンの内容に納得がいかないと言われた事です。それはバラクオバマ元大統領と被爆者の一人である坪井さんの会話の内容に対してでした。坪井さんは「アメリカを責めていないし,恨んでもいない。」とオバマ元大統領に伝えたことを紹介したところ,その方は感情が高ぶっていました。実はその方は戦争経験者であり,家族を戦争で失ってしまったため,「相手を憎まないことなんてできない。」といった内容を何度も話されていました。私もこのことに深く考えさせられました。正しい答えがある訳ではなく,それぞれの考えを尊重しなければいけません。ただ,その方は最初から最後までプレゼンを見てくださり,しっかりと平和について考えてくださりました。プレゼンでは敢えてこうしなければいけないといった文章は控えました。一人一人が過去の歴史を正確に知り,各々が平和について考え,行動することが必要であると考えていたからです。相手を許すことができないというのも彼女の考えであるため,それを否定することはできません。ただ,今回のプレゼンを経て,平和について考えたり,少しでも平和への思いや行動が変容したりするだけでも,今回の「原爆展」の開催に価値があったといえると思います。
今回このような貴重な経験をできたことは私にとっても大きな財産になりました。協力してくださったみなさん,本当にありがとうございました。