被爆から75年となる2020年の夏に「パンフルートになった木」という絵本が発売されました。この絵本は、原爆投下後に「75年は草木も生えない」と言われていた広島で、力強く息を吹き返した被爆樹木が“パンフルート”という楽器に姿を変えて、平和へのメッセージを伝えていくという実話をもとにしたお話です。この絵本のモデルとなった千田小学校（広島市中区千田町）の合唱隊の指導を行う島本裕充さんと、絵本の作者である巣山ひろみさんにお話を伺いました。

一生懸命に演奏し歌う児童らは、自分たちができる形で、広島から平和と原爆について考えてもらいたいとメッセージを送ってくれている

「６年前に千田小学校に植えられていた被爆樹木である“カイヅカイブキ”の木が枯れてしまった時に、この木をどうにか“子どもたちが触れて体験できるようなものとして残したい”というということで、たくさんの方のお知恵とお力をいただいて楽器にすることになりました。それも、子どもでもすぐ吹けるようになる “パンフルート”になったのです」（島本さん）

千田パンフルート合唱隊は、小学校3年生から中学校3年生までが一緒に活動。「アメイジング グレイス」や「アオギリのうた」などを、パンフルートと合唱で奏でている

パンフルートは、葦や竹や木などで作られた管を束ねた楽器です。千田小学校のカイヅカイブキの木は広島市在住のパンフルート作家の香原良彦さんの手により、3年をかけて95台のパンフルートになりました。合唱隊も年々人数が増え、現在小学3年生から中学3年生までの28名が在籍しています。

巣山ひろみ（すやま・ひろみ）さんは、広島市在住の児童文学作家。主な作品に「パン屋のイーストン」シリーズ（出版ワークス）、「バウムクーヘンとヒロシマ　―ドイツ人捕虜ユーハイムの物語―」（くもん出版）などがある

一方、絵本の作者である巣山ひろみさんは、4年前に「被爆樹木カイヅカイブキが“パンフルート”に生まれ変わった」という新聞記事を目にしたことをきっかけに、千田小学校の合唱隊と学校史、パンフルート工房、被爆体験証言者らに取材を重ねていきます。

「合唱隊の歌声とパンフルートの音色の美しさ、そして子どもたちの平和を願う気持ちに強く惹かれました。この子たちは今、自分たちができることで平和の尊さを未来に伝えようとしています。私も『この素晴らしい活動を伝えたい、絶対に本にしたい』と思いました。また被爆者の方に取材していく中で、これまで誰にも被爆のことを話さなかった方たちが『今伝えておかないといけない』と、語りはじめたことを知りました。その被爆者の方たちの姿と、長い間小学校を見守ってきた木がパンフルートになって音を発するようになった姿と重なりました」（巣山さん）

島本裕充（しまもと・ひろみつ）さん。長年、教諭として県内の小学校で指導。
子どもたちに、音楽を通して平和の大切さを伝え続けている

こうして、『パンフルートになった木』の絵本が生まれました。千田小学校合唱隊は現在『千田パンフルート合唱隊』と名前を変えて、定期的に練習を重ねています。

「音楽って瞬間の芸術ですから、消えてなくなりますよね。レコーダーとかCDで媒体に残すことはできますが、絵本という別の形で残るというのは、とても夢があることで嬉しく思っています」（島本さん）

　2020年8月6日には、合唱隊の子どもたちの歌声とパンフルートの演奏がライブ中継（事前録画）で世界に向けて発信されました。これからも、「パンフルートになった木」の絵本とともに、広島から世界へ平和を伝えていきます。

2020年8月5日には旧日本銀行広島支店（広島市中区）で、『ひろしまから世界に向けて平和希求の芸術イベント「平和と美術と音楽と」』において、千田パンフルート合唱隊の演奏・収録が行われました。

『パンフルートになった木』

文：巣山ひろみ

絵：こがしわかおり

少年写真新聞社

詳細は（https://www.schoolpress.co.jp/topics/item/c-710_1.html ）