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国際平和拠点ひろしま

原子力科学者会報イベントにおける広島県知事メッセージ

2021年1月27日(水)(米国時間)に原子力科学者会報が開催した終末時計のイベントで湯崎広島県知事のメッセージが配信されました。

終末時計とは?

 

 

皆さん,おはようございます。広島県知事の湯崎英彦です。

この度貴重な機会をいただきましたことに,感謝を申し上げます。レイチェル・ブランソン会長はじめ,原子力科学者会報メンバーの皆様,ゲストの皆様のご尽力に深く敬意を表します。原子力科学者会報が核兵器をはじめとする大量破壊兵器や気候変動問題など人間の脅威となる科学技術上の問題へ極めて重要な啓発を行っていることに敬意を表したいと思います。

核兵器の廃絶は,全ての被爆者の悲願にあるにもかかわらず,世界には,今なお1万3千発以上の核兵器が存在し,核保有国は核戦力の近代化を継続しています。また,核軍縮の停滞が続く中,状況はさらに悪化しています。それは,中距離核戦力全廃条約(INF条約)の失効や,「包括的共同作業計画(JCPOA)」からの米国の一方的な離脱,イランのJCPOA義務の一部履行停止などから明らかです。

こうした中,私は核兵器国,非核兵器がともに喫緊に核兵器廃絶を進めていただくためには,その元凶である,得体の知れない核抑止論の打破が重要であると考えています。

広島県ではこの問題を解決するため,SIPRIやチャタムハウスなど世界的平和研究機関との研究を進めています。その中で,現在の核抑止をめぐる状況には,4つの観点から大きな問題があることが分かってきました。

1つには,抑止の前提となっている,理想的な選択を行う意思決定者のもとで国家は常に合理的であるという仮定,2つ目は,米国と同盟国間との間に見られるような拡大核抑止の有効性への懸念,3つ目は,極超音速滑空機に対する防衛システムの脆弱性などに見られるような新技術の影響,4つ目は,小型核の登場などにより通常兵器と核兵器の境界が曖昧になってきていることです。

言い換えると,核抑止論はこうした極めて不確実性の高い前提に立ち,さらに技術革新や地政学的要因により核抑止への懸念は増しています。このような中,何の疑いも持たず核抑止論に寄りかかり,思考停止に陥ることは,私たちには到底できません。

核兵器保有により敵の攻撃を抑止するという核抑止論は,科学的根拠のない,あくまでも人々が共同で信じている考えであり,虚構に過ぎないものなのです。万有引力の法則といった宇宙の真理とは全く異なるものです。万有引力は間違うこともなければ,感情に流されず,予想を覆すこともありません。しかし,我々人間は違います。私たちの命やこの地球の存在を核抑止論に委ね続けられないほど,私たちは,核攻撃の危機に瀕した際,感情に流され,予想を覆し,間違いを犯してきたという十分すぎる証拠があります。

幸いなことに,核抑止は人間の作った虚構であるが故に,皆が信じなくなれば意味がなくなります。どのように強固な岩盤であろうと,それが人々の「考え」である限り,我々は自分達の手で安全保障の在り方を変えることができるはずです。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は,「軍縮アジェンダ」の中で,今日の国際社会における核兵器を含む軍縮の課題を包括的に示し,このアジェンダの着実な履行には,全ての国連加盟国や国際機関,NGOとの議論を促進することが求められる,としています。地球上のすべての人々がステークホルダーであるこの課題については,幅広いアクターによる議論を促し,人々を結集して,国際合意を形成していくことが重要だと思います。

広島は一刻も早い時期に,全ての国連加盟国が一致して,核兵器廃絶を新たな目標として設定することを目指しています。

核抑止から人類が脱却し,被爆者が存命の一刻でも早い時期に核兵器を廃絶するためには,ローマ教皇が広島で示唆されたように,世界の叡知を集め,すべての国々,すべての人々が行動しなければなりません。
皆さん,今こそ,後世の人々に,その無責任を非難される前に,叡知を集めて行動しようではありませんか。

ありがとうございました。

 

終末時計発表イベント

原子力科学者会報の終末時計発表イベント全編(英語)はYouTubeからご覧ください。

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