解説を通して世界をつなぐ
国内外から平和記念公園や平和記念資料館を訪れるたくさんの人たちに、ガイドとして、被爆の実相を伝える役目を担うヒロシマ ピース ボランティア。世界にヒロシマの思いを伝える辻靖司さんと松本愛美さんに話を聞いた。
解説を通して一番話したいこと、伝えたいこと
松本:被爆の実相を知っていただくために、当時の暮らしぶりが分かる写真などを見せながら解説をしています。一発の原子爆弾によって一瞬にしてその日常が奪われたにもかかわらず、その後、広島は復興を果たしたことから、いま戦争で焼け野原になっている海外の国々にとって、復興のロールモデルになればいいと思っています。
辻:平和記念資料館の展示は、被爆者の遺品や、写真パネルなどを通じて、原爆が及ぼした熱線、爆風、放射線による被害、そして核兵器の恐怖や非人道性を伝えています。2017年、核兵器廃絶に向け、国連加盟国の約6割を超える122カ国の賛同によって核兵器禁止条約が採択されました。しかし日本政府は条約に賛同しておらず、署名・推進を拒んでいます。唯一の被爆国としての責務から、核廃絶に向け日本が世界の先頭に立ち、リーダーシップを取るようになればと思いながらボランティア活動に取り組んでいます。
解説をした各国の方の反応やそこから感じた思いとは
松本:核兵器保有国の方が来られても、実際に展示を見られ、説明を聞いていただくなかで、核兵器はよくないと感じられています。私が解説をした方の中には、それでも核兵器が必要だと言われた方はいらっしゃいませんでした。広島に来られ、多くの人にこのような思いを持っていただけたら嬉しいです。
辻:ボランティアを始めたばかりのころ、アメリカの中学生に解説をする機会がありました。案内を終えて、その学校の先生が僕を抱きしめてくれました。「自分たちの国がこんな酷いことをしてすみませんでした。ヒロシマをもっと知ってもらわないといけない。熱線、爆風、放射線被害の実態について、自分たちが習ったことと、資料館の説明とでは大きく違う。家族や友人をはじめ、大統領など国政を担っている人にも資料館を見学してもらう必要がある」と感想を述べられました。真心を込めて話すと、核兵器廃絶に向けて、原爆を投下したアメリカの方々にもよく理解していただけるのだと、大きな自信になりました。
松本:私が解説中に自分の意見を言うことはありませんが、唯一、私が尋ねるのは、「広島の原爆のことを、学校などで勉強されていますか?」ということです。これには「勉強はするけれど、ちょっとしか聞いたことがない」という返事が多く、広島の被爆の実相を、解説を通してしっかりと伝える役割は大きいと感じています。
広島から未来へ向かってできること
辻:小学生への平和学習講座で、被爆の実相や核兵器をめぐる世界情勢を話し終えた後、家に帰ってみんなの家族に今日の話をしてほしいとお願いするのです。すると子どもたちは「みんなに話をする、必ずする」と口々に言ってくれます。核兵器廃絶、恒久平和の大切さを理解してくれたのだと感じ、平和学習活動の達成感を実感する時間です。我々は次の世代の子どもたちのために核兵器廃絶と、恒久平和の実現を目指していかないといけません。
松本:私が解説をしていると、若い世代の人が解説をされるのかと、びっくりされる方もいらっしゃいます。「次の世代に引き継いでいけるね」と言われますが、今度は私たちが、さらに次の若い世代へとバトンを引き継いでいかなければいけないと思います。
核兵器廃絶を呼びかけて活動し続ける辻さん。次の世代へ被爆の実相を継承していく松本さん。2人の心の底にあるものは核兵器廃絶と世界の恒久平和を訴え続けていく強い思い。ボランティアを通じて世界中の方たちに広島の思いを届けてくれています。
辻 靖司(つじ・せいじ)さん。1942年広島県生まれ。1960年、東洋工業株式会社(後のマツダ)入社。2002年に定年退職し、2003年頃からピースボランティアをはじめ平和学習講座講師、被爆体験伝承者として活動中。
松本愛美(まつもと・まなみ)さん。1989年兵庫県生まれ。2011年、広島市立大を卒業し、広島で就職。会社勤務の傍ら、2017年からピースボランティア活動を開始。
ヒロシマ ピース ボランティア
個人・家族や10~15人までのグループを対象に、資料館の展示解説や、平和記念公園及び周辺の慰霊碑等を一緒に巡り解説を行っている。
ガイドの依頼については、事前の予約がおすすめ
詳しくは下記HPにて
http://hpmmuseum.jp/modules/info/index.php?action=PageView&page_id=18 (広島平和記念資料館ホームページ)
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