映画『ドライブ・マイ・カー』 平和を感じる広島のロケ地を巡ってみよう
撮影の大半が広島で行われ、第79回ゴールデングローブ賞や第94回米アカデミー賞国際長編映画賞受賞などで、世界的にも注目された濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』。2021年11月に開催された広島国際映画祭で濱口監督は「妻を亡くした男性の再生の物語。原爆という傷から復興した広島は物語のコンセプトにぴったり」と語っています。
ロケ地の誘致や撮影のサポートを行った広島フィルム・コミッションの西﨑智子さんに、ロケ地の中から平和を感じることができるスポットを教えてもらいました。
【映画『ドライブ・マイ・カー』あらすじ】
突然妻を失った喪失感に苦しみ葛藤する舞台演出家の主人公・家福(かふく)。広島で開催される演劇祭の演出を任された家福は、愛車の赤いサーブで広島入りし、寡黙な専属ドライバー・みさきと出会います。みさきと過ごすうちに、それまで目を向けようとしなかったあることに気づかされていきます。
●広島市環境局中工場
2004年に完成した、広島市中区南吉島にある瀬戸内海に面したゴミ焼却施設です。ネガティブに捉えられやすいゴミ処理施設のイメージを払拭するため、臭いや有害物質を除去する設備をそろえ、焼却施設をアート作品のように見せる美術館のようなつくりになっています。
西﨑さん
「映画のメイン舞台が広島に変更される大きな要因となった場所です。この建物は、平和記念公園を手掛けた建築家・丹下健三氏の研究所で学んだ谷口吉生氏によって設計されました。丹下氏が構想した原爆ドームや原爆慰霊碑、平和記念資料館を結ぶ『平和の軸線』の理念を受けて、この軸線の延長線上に建てられました。さらに、平和の軸線を海まで遮らないように、建物の中央をガラス張りの吹き抜けにしたつくりになっています。このことを濱口監督に説明すると『ごみ処理施設にまで平和の理念が根付いている。国際演劇祭の開催地にふさわしい』と感銘を受けられたようです。作品内ではみさきのお気に入りの場所として登場し、みさきの過去が語られます。」
【データ】
広島市中区南吉島1-5-1
電話:082-249-8517
HP: https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/93/
(見学などの詳細はHPでご確認ください)
●広島国際会議場
国際交流の推進と市民文化の向上を図ることを目的として、平和記念公園内に設置されている施設。設計は、平和記念公園や平和記念資料館を手掛けた建築家・丹下健三氏によるもので、1955年に建てられた「広島市公会堂」が、1989年に現在の「広島国際会議場」に建て替えられました。国際会議・講演会やコンサートのほか、修学旅行生の平和学習の場としても利用されています。
西﨑さん
「映画の中では、主人公の家福が演出を手掛ける『広島国際演劇祭』の会場となった建物です。また、地下の駐車場は家福とみさきが初めて出会った場所で、ここから物語が動き出します。建物の裏手にある慰霊碑や原爆ドームも見える広場では、物語の中で重要な場面となる多言語劇の野外稽古のシーンが撮影されました。この日のスケジュール表には、『今日はとても大切な場所をお借りします。忘れずに』という言葉が記されていました。」
【データ】
広島市中区中島町1-5 (平和記念公園内)
HP: https://www.pcf.city.hiroshima.jp/icch/
※詳細はHPでご確認ください
●広島高速4号線(広島西風新都線)
広島市内中心部(西区中広)と北西部の広島西風新都(安佐南区)を、トンネルと橋で結ぶ全長約5㎞の自動車専用道路。長さ約3880mの西風トンネルは、広島県内で一番長いトンネルです(2022年9月現在)。また、東側出口付近からは太田川放水路に架かる広島西大橋と市中心部のビル群の絶景を望むことができます。
西﨑さん
「映画の中では何度か長いトンネルが登場し、毎回トンネル内を走行する間の家福とみさきの会話で、二人の心の距離が近づいていきます。この西風トンネルの場面では、みさきが自らの過去を打ち明け、それまで会話の少なかった家福も耳を傾けます。二人の距離が縮まったころ、広島の街の美しい夜景が二人を迎えてくれます。その光は『ヒロシマ』が見事に復興を遂げたことを感じさせてくれ、二人にとっての希望の光のようにも見えます。」
【データ】
区間:広島市西区中広町~安佐南区大塚東町
HP: https://www.h-exp.or.jp/construction/route4/
●おりづるタワー
原爆ドームの傍らに立ち、それぞれの平和を感じてもらいたいとの願いが込められている建物。地上約50mの展望台から望む街の景色を通して、「75年は草木も生えない」と言われた原爆の惨禍からの復興を果たした、広島の人たちの力強さを感じとることができます。また、この建物のシンボル的な存在である「おりづるの壁」は、世界中の人々の思いがこもったおりづるが積み重なることで完成します。
西﨑さん
「おりづるタワーでは相生通りを走る赤いサーブの撮影を行いました。濱口監督は当初『ヒロシマの街の歴史の深さを知らない自分が、広島で撮るのはまだ早い』と考えられていたため、作品内で平和記念公園や原爆ドームが登場することはほとんどないのですが、この場面ではほんの数秒、原爆ドームが映っています。」
【データ】
広島市中区大手町1-2-1
電話:082‐569‐6803
休み:不定休
HP:https://www.orizurutower.jp/
※営業時間や入場料などの詳細はHPでご確認ください
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