平和を考える映画コラム①『長崎の郵便配達』
©️The Postman from Nagasaki Film Partners
©︎坂本肖美
年間200本以上の映画を上映している広島市中区の映画館「八丁座」「サロンシネマ」を運営する序破急の方々に、「今観ておきたい平和を考える映画」をテーマに、おすすめの作品を紹介してもらいます。
平和都市広島の街中映画館・八丁座では、毎年夏には平和関連の映画を上映しています。今年の8月5日より八丁座で上映する『長崎の郵便配達』も、ぜひこの時期にご覧いただきたいドキュメンタリー映画です。
本作のきっかけとなったノンフィクション小説『THE POSTMAN OF NAGASAKI』の著者ピーター・タウンゼンド氏は、第2次世界大戦中にイギリス空軍のパイロットとして英雄的活躍をした元空軍大佐です。終戦後のマーガレット王女とのロマンスは世界に報道され、後に『ローマの休日』のモチーフとなったとも言われています。
その後タウンゼンド氏は、世界で戦争被害にあった子どもたちについての執筆活動を始め、取材で訪れた長崎で谷口稜曄(スミテル)さんと出会います。谷口さんは16歳で郵便配達中に被爆し、背中に大きなやけどを負いながらも奇跡的に生還した体験を、国内外で語りながら核兵器廃絶を訴え続けてきました。タウンゼンド氏は谷口さんへの取材をもとに、1984年に『THE POSTMAN OF NAGASAKI』を出版しました。タウンゼンド氏と谷口さんは、戦勝国の元軍人と敗戦国の被爆者という立場を超え、終生強い友情で結ばれていたといいます。
映画『長崎の郵便配達』は、タウンゼンド氏の娘であり女優のイザベル・タウンゼンドさんが、遺品である取材テープや著書の記述をたよりに長崎での父親の足跡をたどっていく姿を、生前に谷口氏と交流のあった川瀬美香監督が追ったドキュメンタリーです。
タウンゼンド氏も谷口さんも現在は他界し、戦争の悲惨さを語り継ぐ人たちは年々少なくなってきています。イザベルさんも川瀬監督も直接の戦争体験はありませんが、親の世代が経験した平和への教訓をこれからの世代に語り継いでいくことに大きな意義を感じて映画製作を決意したといいます。
広島出身の大林宣彦監督は、ピカソの『ゲルニカ』を例にして「映画や絵画等の芸術は風化しないジャーナリズムだ」と言いました。さらに、芸術には平和を願う心を言葉よりも強く広く人々の心に届けることが可能であり、それは作品として語り継がれることでいつまでも風化しないのだと語っておられました。
タウンゼンド氏は小説、イザベルさんは演劇、川瀬監督は映画という作品にして、平和の重要性を後世に語り継ごうとしています。映画館もまた、そうした表現者の想いをスクリーンを通してお客様に伝えていく「郵便配達」でありたいと思っています。
©︎坂本肖美
■『長崎の郵便配達』
■8月5日(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開
監督・撮影:川瀬美香 構成・編集:大重裕二 音楽:明星/Akeboshi
エグゼクティブ・プロデューサー:柄澤哲夫
プロデューサー:イザベル・タウンゼンド、高田明男、坂本光正 プロダクション・アシスタント:坂本肖美
企画制作:ART TRUE FILM 製作:長崎の郵便配達製作パートナーズ
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド
2021年/日本/日本語・英語・仏語/97分/4K/カラー/2.0ch/日本語字幕:小川政弘 フランス語翻訳:松本卓也
配給:ロングライド
©️The Postman from Nagasaki Film Partners
公式サイト:longride.jp/nagasaki-postman
八丁座
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TEL:082-546-1158 FAX:082-546-1159
サロンシネマ
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