おりづるタワーから 戦後100年の未来へ託すプロジェクト
原爆ドームの傍らにそびえる「おりづるタワー」。戦争や原爆から復興してきた広島の人たちの力強さを、地上約50メートルの展望台から望む街の景色を通して感じとることができます。そんなおりづるタワーの展望台から、歩いて地上へ降りることができる9層からなる全長450mのスパイラルスロープを、広島ゆかりのアーティスト9名の巨大アート作品で彩るプロジェクトが始動しました。
アーティストそれぞれの想いが、個性あふれる感性や技法をもとに完成へと近づいていく過程は、あの日、何もかも無くなってしまった広島の街が、再び生まれてくる様子を見るかのようです。
『WALL ART PROJECT"2045 NINE HOPES"』の企画を担当した長岡優さん
「このプロジェクトは、戦後100年となる2045年をテーマに、「願い」をアートで描く『WALL ART PROJECT"2045 NINE HOPES"』と題して実施しています。広島にゆかりのある9名のアーティストの方にお願いし、それぞれの願いを力強く描いていただいています」
そう話すのは、このプロジェクトの企画担当者のおりづるタワー事務局・長岡優(ながおか・ゆう)さん。
「戦後75年を越えた今、未来へ向けて何が残せるか、という想いからスタートしたこの企画。後世に引き継ぎたい『2045年への願い』を、被爆地・広島から世界へ向けて、ウォールアートという巨大なキャンバスでダイナミックに表現していただいています」
今回このプロジェクトに参加する9名のアーティストは、ウォールアートをはじめアニメーションや切り絵など、幅広いジャンルの方たち。20代~90代の各世代のアーティストが、9層に分かれたスロープに大きな足場を組み、戦後100年に伝えたい熱い想いを、それぞれの技法で表現しています。制作中のアーティストの方々に、作品についてお話を伺いました。
9層目
土井紀子(どい・きこ)さん
1997年生まれ。広島市立大学大学院において、絵画やシルクスクリーンをはじめとした作品を制作している。
「昔から人の暮らしと結びつきの強い馬と、その影をカラフルなドットで表現する作品です。美しく走る馬は人々に勇気を与え、広島の影をその馬が未来へ導いていくというイメージ。カラフルなドットやその中に混ぜる蓄光塗料は、折り鶴から作られた再生紙の色合いと、灯ろう流しをイメージしています」
8層目
若佐慎一(わかさ・しんいち)さん
1982年生まれ。広島市立大学大学院出身。日本の風土と宗教観をテーマに、さまざまな作品を提供。またファッションブランドを立ち上げるなど、多方面で活躍する。
「昔から日本に伝わる招き猫をメインビジュアルに、日本のオリジナルカルチャーを全面に出しています。ここは外国の方も多く訪れる場所ですので、それを7色の虹色で表現することで、多様性と平和ということを伝える作品にしていこうと考えています」
6層目
田中美紀(たなか・みき)さん
1981年生まれ。依頼主のビジョンを絵画で表現し思考を可視化するコンサルタントアートという活動を中心に活躍。おりづるタワーをつくった松田哲也さんの著書『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』の装丁も手がける。
「この場所は私にとって、魂が生まれ変われる場所。すべての人の誕生日を祝いたいという思いから、366個の誕生花を考え、この壁に描いています。乳母車を絵の中心に描き、それを取り巻くように花を配することで、いろいろな人が混ざりあって、新しいものが生まれてくることを願っています」
3層目
三桝正典(みます・まさのり)さん
1960年生まれ。ジャパニーズモダンをテーマに活動を続ける美術家。独自の視点から生み出される襖絵や掛け軸といった作品は、尾道市の浄土寺をはじめ、各地の寺社や茶室で展開されている。
「2羽の白いカラスをメインに描いていきます。白いカラスは実際には存在しない鳥で『あり得ないこと』をイメージしています。広島は原爆という『あり得ないこと』を体験し、そこから今まで乗り越えてきた都市でもあります。大切な人と共に未来を見つめ、力強く乗り越えていく祈りや願いに繋がるメッセージになればと思っています」
1層目
三浦恒祺(みうら・つねき)さん
1930年生まれ。15歳の時に広島市西区横川付近で被爆し、その体験をもとに原爆の惨状を伝えるべく描き続ける。
今回のプロジェクトでは、三浦さんが所属する団体「光陽会」の広島支部員2名が、三浦さんの作品を描く。
光陽会広島支部・木村順子さん
「三浦先生はこれまでずっと、原爆の惨禍を被爆者からの発信として、油絵で『原爆の形象』シリーズを制作してこられています。ここでは、両サイドに『破壊・復活』、中央には先生が暮らされている山形県鶴岡市のお住まいから見える輝く太陽、穏やかな日本海、実り多い広々とした庄内平野をモチーフに『復活』を主体に描き、平和のイメージを表現されています。この3点の作品を先生の平和への願いとして描かせていただいています。広大な壁面に私一人では到底描けません。同じ広島支部の浜本典子さんや広島市立大学の若い学生さんたちと一緒に取り組むことができ、とても貴重な経験をさせていただいています」
それぞれの想いを描く「WALL ART PROJECT"2045 NINE HOPES"」。制作は2022年1月下旬から始まり、4月下旬を目途に9作品すべてが完成する予定です。スパイラルスロープをくだりながら、完成した作品だけでなく、制作の過程も鑑賞することのできるプロジェクト。戦後100年の未来へ、一体何を託していくのか、完成が楽しみです。
WALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES"
公開制作期間:2022年1月21日~4月26日(予定)
完成予定:2022年4月29日
おりづるタワー
TEL:082‐569‐6803
住所:広島市中区大手町1-2-1
展望台入場料:(一般)大人:1700円、中・高校生:900円、小学生:700円、幼児(4歳以上):500円 ※おりづる投入料金:100円
営業時間:10:00~19:00(展望台最終入場は閉館の1時間前まで。時期やイベントにより営業時間の変更あり)※新型コロナウィルスまん延防止重点処置による開館等、最新の営業時間についてはHPをご確認ください
休:不定休
HP:https://www.orizurutower.jp/
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