核抑止を再考する-乗り越えるためのアプローチ-
米ハーバード大学核政策研究部門が運営する新たな研究者ネットワーク・プロジェクトの一環で、「核抑止を乗り越えるワーキング・グループ」(*)が開催する対面での学術会議を広島に誘致しました。この機会を活用して、広島で協働による公開イベントを開催することとなりました。
*「核抑止を乗り越えるワーキング・グループ」は、マッカーサー財団の支援により、米ハーバード大学核政策研究部門が運営する研究者ネットワーク・プロジェクト「核を再考するリサーチ・ネットワーク」を構成するワーキング・グループのひとつである。18か国から研究者が参加し、新しい研究として、核抑止の概念の再検証や、核兵器なき世界を可能にするかもれない核抑止の代替案について理解を深めることを目指している。
開催日:令和5年4月28 日(金)
実施主体:へいわ創造機構ひろしま(HOPe)
広島県
ハーバード大学-マッカーサー財団 核抑止を乗り越えるワーキング・グループ
場所:広島国際会議場(併せてオンラインで配信)
【オープニング】
- (知事) 核兵器廃絶に向けて今必要なことは、安全保障の現状を理解した上で、多様な視点で核抑止を見直し、長期的な視点で取り組んでいくことだ。
- (ジョバンニーニ博士) 過去の恐ろしい核の時代は終わったという認識は、ウクライナ侵攻により、間違いだったことが示された。私達はなぜ冷戦において、核がもたらす危機やそこから教訓を学ぶことができなかったのか。この課題に答えるため、ハーバード大学が立ち上げた研究者ネットワークでは、核抑止を再検討する研究を行っている。
湯﨑 英彦 | 広島県知事 | |
フランチェスカ・ジョバンニーニ | ハーバード大学ベルファーセンター エグゼクティブ・ディレクター |
【セッション1】いま核抑止を見直す意義とは」
(発言趣旨)
- 核抑止は歴史的な文脈の中でできた。冷戦時の核抑止概念は、米ソ対立の文脈にあった。現在はプレーヤーの数も増え、経済的には相互依存の世界にあり、全く違った核抑止の状況が台頭し、そのリスクも異なっている。ワーキング・グループでは、これまでの核戦略に関するコンセプトや分析カテゴリー、また研究の方法論に関して理解を深め、それらの変更の可能性を探っている。概念的なイノベーションを起こし、核抑止の概念に疑問を呈し、リスクも再度検討していく。グローバルに様々な声、文献を反映していきたい。
- 核抑止を再検討する際には、核兵器開発というオプションを手放す難しさ、核兵器を手放すことを求めることの難しさがあり、核抑止に固執する理由には、その力の大きさがある。ウクライナ戦争下で強い恐怖に直面している人たちに、核兵器を持たないように語ることには困難が伴うことを認識しておくべきだ。
- 西洋の文脈での核抑止論が南アジアには、適用しにくい。印パ関係においては、核抑止だけでは不十分で、地理、国内の要因、国境を越えた文化的つながり、相手国へのイメージ、核と通常兵器の非対称性なども核政策に影響を与えてきた。
西田 充【モデレーター】 | 長崎大学多文化社会学部教授 | |
ハッサン・エルバーティミー | 英国ロンドン大学キングスカレッジシニア講師 核抑止を乗り越えるワーキング・グループ共同議長 |
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マシュー・ハリーズ | 英王立防衛安全保障研究所 拡散・核政策部門ディレクター | |
タンビ・クルカルニ | 核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク 政策フェロー | |
アナニャ・マホトラ | 核脅威イニシアティブ プログラム・オフィサー |
【セッション2】「核抑止を乗り越えるための研究分野」
(発言趣旨)
- 核抑止は、日常的な実践、すなわち、都市計画、地域経済、環境破壊、公衆衛生等の問題と深く結びついている。広島と長崎に投下された原爆は、マンハッタン計画の下で、先住民から奪った土地に設置された研究所で作られたし、カザフスタンやマーシャル諸島の核実験は、植民地化の歴史とも、深く結びついている。そのため、歴史、政治、経済、社会といった多角的な視点から、フェミニズムを軸として核問題を研究している。
- 南アフリカは、核兵器を保有していたが、廃棄した国。核兵器の廃棄が何をもたらすのかを示す国である。研究では、核抑止の代替案として、既に存在する非核兵器地帯に注目し、非核兵器地帯がこれまでに何をしてきたのか、今後、他の国が倣っていくことはできないのかについて調べている。
- これまでの核軍縮には、安全保障上の代替案の提示がなかった。HOPeとの研究では、核抑止や拡大核抑止を必要としない安全保障システムとはどういったものか、どのように人々に安全保障を担保することができるのかについて、研究していく。
- アジア太平洋の中には、核保有国9か国のうち、6か国が存在している。核抑止を再考するためには、アジア太平洋地域への理解が重要。各国が核兵器をどのように考え、それが西欧と、どう違うのかを考える必要がある。核抑止を考えるには、包括的な視点、つまり、環境や人権など他の分野の視点を盛り込むことも大切だ。
- 核脅威イニシアティブが主導するプロジェクトの1つ、Horizon2045では、21世紀的アプローチを世界に対して提言しようとしている。何が動機となり、問題となり、核兵器があるのかというシステム的なアプローチにより、変化を起こせるポイントを探している。また、核兵器のない世界からのアプローチでは、核兵器が廃絶された状態を維持するためにどのような法律が必要かなどを調べている。さらに核兵器に依存することで、他のグローバルな問題に対処できていないのではないかという考えから、現在のやり方や脅威で傷ついている人たちに参加してもらっている。
西田 充【モデレーター】 | 長崎大学多文化社会学部教授 | |
ローラ・コンシダイン | 英国リーズ大学准教授 核抑止を乗り越えるワーキング・グループ メンバー |
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シーズウェア・ムフォフ・ウォルシュ | 南アフリカウィットウォーターズランド大学講師 核抑止を乗り越えるワーキング・グループ メンバー |
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マシュー・ハリーズ | 英王立防衛安全保障研究所 拡散・核政策部門ディレクター | |
タンビ・クルカルニ | 核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク 政策フェロー | |
アナニャ・マホトラ | 核脅威イニシアティブ プログラム・オフィサー |
関連記事(外部)
- 核脅威イニシアティブ(NTI)ブログ「Atomic Pulse」
アナニャ・マホトラ 「初めての広島訪問(Reflections on My First Visit to Hirsohima)」
- 原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)
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