ひろしまイニシアティブ骨子
~核兵器廃絶のための世界的行動の呼びかけ~
核兵器廃絶のための世界的行動の呼びかけ
核兵器は,切迫した脅威を人類全体にもたらしている。核兵器廃絶は,持続可能な地球そして人類の生存を保障するために,必ず実現しなければならない課題である。最近の国際関係の悪化は核の脅威を増大させており,これに科学技術の発展が絡むことで不確実性は一層高まっている。また,気候変動と災害の甚大化は,私たちが生存のために結束した行動をとることを緊急に求めている。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大は,国際社会に対して,共通の安全保障のための一層の協力を求めている。COVID-19のパンデミックは,「理論上は起こりうるが現実には起きないだろう」と根拠なく思われてきた大惨事が現実に起こりうることを示した。人類が対処不能な大惨事を起こしうる脅威は,それが起きる前に,取り除いて予防するほかない。被爆75年を契機に,広島県は核兵器廃絶のための世界的な行動をすべての国,国際機関,市民社会に改めて呼びかける。
1.国連における核兵器廃絶目標の合意
今日,世界各国の政府や国際機関,企業を含む市民社会は,国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために協力を強めている。核兵器は,このためのあらゆる努力に対する脅威となっている。核兵器が使用されたら,その影響は世界の環境,社会,経済のあらゆる基盤を破壊し,取り返しのつかない影響をもたらす。核兵器の保持,近代化を含む開発に注がれている資源は,SDGs達成のために振り向けられるべきである。国際社会は,国連事務総長の「軍縮アジェンダ」を着実に履行しつつ,SDGsと軍縮の関係について議論をさらに深める必要がある。国連創設100年を目指した目標の中に,国連加盟国は一致して,核兵器廃絶の達成を位置づけるべきである。そのため,遅くとも2030年には核兵器保有国を含む明確な国際合意が達成されなければならない。せめて被爆者が御存命のうちに,一日も早く核兵器廃絶が国際合意となるように,さまざまな国際的プロセスにおいて働きかけを強めていく必要がある。
2.核兵器を拒否する世界的規範の強化
被爆者は,自らが生きているうちに核兵器廃絶をと願い,訴えてきた。その声は,2017年に核兵器禁止条約の採択,2021年にその発効という形で結実した。広島県は,日本政府をはじめ世界のすべての国の政府に対して,同条約に署名・批准するよう求める。同時に,被爆者が訴えてきた核兵器の非人道性を世界に伝えていく若い世代の育成にさらに力を入れていく。これらの取組が核兵器を非正当化し,これを拒否する規範を強化し,各国を動かす力になる。
3.核軍縮の促進と核兵器に依存しない安全保障の探求
核軍縮のための二国間および多国間の諸条約の多くが危機に瀕しており、その立て直しが急がれる。国際社会は,既存の核軍縮合意を維持しその完全履行を確保しつつ,新たな核軍縮・軍備管理の交渉を促進するために協力すべきである。核兵器のない平和な世界を達成するためには,それを支える新たな安全保障メカニズムが必要である。既に多くの専門家や研究機関が,核抑止に代替する核兵器に依存しない安全保障政策や核軍縮の具体的方策について提案している。広島県は,これらの研究と啓発をさらに後押ししていく。
4.協働のためのプラットフォームの構築
広島県は,この呼びかけに応える国,国際機関,市民社会(企業,NGO,教育,宗教,メディアなど)の間のパートナーシップを促進し,協働のためのプラットフォームを構築する。既存のネットワークや枠組みを生かしながら,さまざまな取組がさらに有効に連携しあえるような場を,広島県は提供していく。国際的には,諸政府や国際機関,NGOが協議する場を提供し,国内的には,行政と市民社会が知恵と力と資金を出し合う仕組みを強化する。同時に,世界中の一人一人が,自発的に,核兵器廃絶への思いを高め,発信していく機運を盛り上げていく。これらのプロセスでは,被爆者の声を継承しつつ,若い世代が中心にいることが不可欠であり,とりわけ女性のリーダーシップを促進することが重要である。
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