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国際平和拠点ひろしま

【コラム2】核兵器禁止条約(TPNW)に関する個人的評価と、同条約採択後の核軍縮を進めるために可能な進路

【コラム2】核兵器禁止条約(TPNW)に関する個人的評価と、同条約採択後の核軍縮を進めるために可能な進路

ティム・コーリー

本稿では核兵器禁止条約(TPNW)の評価を、「原因」と「効果」という2つの側面から行うこととしたい。

1.原因

TPNWの交渉は様々な要因の影響を受けた。多くの非核兵器国は、核兵器不拡散条約(NPT)上の核兵器国による核戦力削減のための継続的な行動がなされていないことで、NPTの不可侵性が脅かされているとの懸念を抱いていた。すべてのNPT締約国により合意された核兵器廃絶に向けた行動指針は、勢いをほぼ失っていた。

NPTには、5核兵器国と、核兵器は最終的には廃絶されるとの期待の下で核兵器を決して保有しないと自らを義務付けた186カ国との間の緊張関係が、長期にわたって付きまとってきた。NPT上の5核兵器国とその同盟国は、核兵器のない世界へ至る道程には、包括的核実験禁止条約(CTBT)を通じた核実験の禁止、並びに核分裂性物質の生産を禁止する条約(FMT)が必要だと認識している。

しかしながら、この2つの取組は停滞しており、核廃絶に向けた進展は妨げられてきた。CTBTの発効とFMTの交渉はいずれも、核保有国によってブロックされている。多国間核軍縮が行き詰っているとの認識は核保有国にはなく、国際社会は岐路に立たされた。核軍縮のアジェンダは核保有国に委ねられ、彼らのペースで次なる段階への一歩が踏み出されるのか(たとえば、CTBTの批准、ジュネーブ軍縮会議(CD)または他の場でのFMTの交渉、NPT運用検討会議で核兵器国が合意した主要な行動実施など)、あるいは空白を別の方法で埋め合わせるのかの分かれ道に立っていた。

NPT締約国が2010年に広く表明した核兵器の非人道的影響についての懸念により、核兵器を取り巻くリスクだけでなく、上述のような一向に解消されない袋小路にも注目が向けられた。非核兵器国、市民社会、そして国連や赤十字を含む政府間機関の幅広い連合が弾みをつけた機運は、すぐさま核兵器の禁止に向けた新たな一歩として発展した。その支持者は、核軍縮は今日の緊迫した国際安全保障環境の犠牲者になってきたとの、核保有国及びその同盟国が主張してきた論理には納得しなかった。核兵器の禁止を唱道する者にとって、そうした議論は核兵器の正当化と同義であり、NPTとその不拡散の精神とは相容れないものだった。

今日まで深く根を下ろす膠着状態のまま、2016年10月に国連総会でなされた、後にTPNWとなる条約の交渉開始についての決定は、広く支持されはしたがコンセンサスとは程遠いものであった。その成果である条約は、122カ国の賛成、1カ国の反対(オランダ)、1カ国の棄権(シンガポール)で、1年の時間も費やさずに採択された。しかしながら、2016年に核兵器の禁止への要求に反対または棄権した50あまりの国連加盟国は、そのほとんどが交渉に加わらなかった。

2.効果

このように、TPNWの誕生は困難と論争を招いてきた。この条約の効果を評価するためには、以下の4点を確認する必要がある。

1)核兵器のない世界に向けて必要な措置のなかで、核兵器の禁止は欠くことのできないステップである(既に化学兵器や生物兵器を禁止する手段は存在する)。

2)TPNWの考案者の意図はいかなる国も排除しないということだが、条約交渉に参加しなかった核保有国とその同盟国から支持を取り付けることは、非常に困難である。

3)条約の批准過程に多大な時間を要することに鑑みると、現段階(56カ国の署名と5カ国の批准があるのみという条約への公式の支持のレベルに基づけば)でTPNWがどれほどの法的効果を有することになるかを評価するにはあまりに早急である。

4)TPNWはNPTを補完するというよりは補強するものであるが、その最も重要な効果は、NPTを侵食している亀裂に対処するよう行動を促すことかもしれない。TPNWの成立は、動揺する現実―多国間核軍縮に向けた方法の立案に際して、引き続き一致が見られないこと―を明確に示している。

核保有国と非核兵器国はこの最後の現実を認めることが肝要である。一致点の余地を探るには、まずギャップを縮める方法に焦点を当てることかもしれない(たとえば、議論のフォーマットや、非公式専門家グループ、廃絶への手続き的枠組みなど)。その次に、実質事項を追求し得る(たとえば、リスクの緩和、信頼醸成措置の特定、脅威の削減など)。いずれにしても、こうした努力は熱心に、そして緊急性をもって始められなければならない。世界終末時計の針が終末まで残り2分にまで早められたことは、事故や誤算により、あるいは意図的に引き起こされる核戦争の脅威が、危機的なレベルにまで高まっていることを示しているからである。

(国連軍縮研究所シニアフェロー)

 

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