Hiroshima Report 2018(6) 原子力平和利用の透明性
A)透明性のための取組
平和目的の原子力活動が核兵器への転用を意図したものではないことを示すための措置には、IAEA保障措置の受諾に加えて、自国の原子力活動及び今後の計画を明らかにするなど透明性の向上が挙げられる。IAEA追加議定書を締結する国は、核燃料サイクルの開発に関連する10年間の全般的な計画(核燃料サイクル関連の研究開発活動の計画を含む)をIAEAに報告することが義務付けられている。主要な原子力推進国も、原子力発電炉の建設計画をはじめとして、中長期的な原子力開発計画を公表している94。他方、原子力計画を公表していないものの核活動を行っている(とみられる)国(イスラエル、北朝鮮、シリア)、あるいは原子力計画を公表しているもののその計画にそぐわない核関連活動を行っていると疑われている国に対しては、核兵器拡散への懸念が持たれる可能性がある。
5核兵器国、ベルギー、ドイツ、日本及びスイスは、1997年に合意された「プルトニウム管理指針 (Guidelines for the Management of Plutonium)」(INFCIRC/549)のもとで、共通のフォーマットを用いて、民生用分離プルトニウムなど(すべての原子力平和利用活動におけるすべてのプルトニウム、並びに当該国政府によって軍事目的には不要だとされたプルトニウム)の量を毎年、IAEAに報告している。2016年末時点での民生用分離プルトニウム量については、上記9カ国のうち、英国を除いて報告がなされた。フランス及びドイツは、プルトニウムだけでなく民生用HEUの量も報告した。また、日本がIAEAに提出した上記の報告は、2017年8月に原子力委員会が公表した「我が国のプルトニウム管理状況」に基づくものであり、そこでは分離プルトニウムの管理状況が詳細に記載されている95。
豪州、オーストリア、ブラジル、カナダ、チリ、エジプト、イラン、カザフスタン、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、トルコ、UAEについても、核分裂性物質の保有量を公表しているか、あるいは少なくともIAEAに申告している核分裂性物質に関しては保障措置が適用されているという意味で、一定の透明性が確保されていると言える。
B)核燃料サイクルの多国間アプローチ
非核兵器国が独自の濃縮・再処理技術を取得するのを抑制する施策の1つとして、核燃料サイクルの多国間アプローチが検討されてきた。これまでに、オーストリア、ドイツ、日本、ロシア、英国、米国及びEU、並びに核脅威イニシアティブ(NTI)がそれぞれ、また6カ国(フランス、ドイツ、オランダ、ロシア、英国、米国)は共同で提案を行った。
様々な構想のなかで具体的に進展しているのが核燃料バンクである。アンガルスク(ロシア)に設置された国際ウラン濃縮センターに続き、2017年8月には、核脅威イニシアティブ(NTI)、クウェート、ノルウェー、UAE、米国及びEUの拠出を得て、カザフスタンにIAEA低濃縮ウラン(LEU)バンクが開設された。この核燃料バンクには、最大90トンのLEU(1,000MWの軽水炉の運転に十分な量)が備蓄されるが96、IAEAがLEUの購入及び搬送、装備品の購入などのコストを、カザフスタンがLEU貯蔵のコストをそれぞれ負担する97。
[94] 主要国の原子力発電を含む原子力開発の現状及び今後の計画については、世界原子力協会(World Nuclear Association)のホームページ(http://world-nuclear.org/)にも概要がまとめられている。
[95] 内閣府原子力政策担当室「我が国のプルトニウム管理状況」2017年8月1日、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/ iinkai/teirei/siryo2017/siryo27/siryo2.pdf。
[96] IAEA, “IAEA and Kazakhstan Sign Agreement to Establish Low Enriched Uranium Bank,” August 27, 2015, https:// www.iaea.org/newscenter/news/iaea-moves-ahead-establishing-low-enriched-uranium-bank- kazakhstan.
[97] “Kazakhstan Signs IAEA ‘Fuel Bank’ Agreement,” World Nuclear News , May 14, 2015, http://world-nuclear-news. org/UF-Kazakhstan-signs-IAEA-fuel-bank-agreement-14051502.html.