当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018(7) 包括的核実験禁止条約(CTBT)

A)CTBT署名・批准

包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名国は2017年末の時点で183カ国、このうち批准国は166カ国であり、いずれも前年末から変わっていない。また、条約の発効に必要な国として特定された44カ国(発効要件国)のうち、5カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国)の未批准、並びに3カ国(インド、パキスタン、北朝鮮)の未署名が続いており、条約は発効していない(この他に、調査対象国ではサウジアラビア及びシリアが未署名)。CTBT発効促進に関しては、9月20日に、第10回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議が開催された。会議では、同月3日の北朝鮮核実験を最も強い表現で非難するとともに、発効要件国を中心とする未署名国・未批准国に対する早期署名・批准、並びに核実験モラトリアムの維持などを呼びかける最終宣言が採択された144。これに先立つ5月には、CTBT発効促進共同調整国である日本及びカザフスタンの両外相がゼルボ(Lassina Zerbo)CTBTO事務局長と共同で、CTBTの早期発効のための努力再活性化を求めるアピールを発表した145。またNPDIは2017年NPT準備委員会で、地域の緊張緩和を支援するため、地域的に調整してのCTBT批准も検討し得るとした146。

9月のCTBT発効促進会議では、署名国・批准国が行ったCTBT発効促進のための活動(未署名国・未批准国へのアウトリーチなど)の概要を取りまとめた文書が配布された147。この文書では、2015年6月から2017年5月までの間の活動として、発効要件国に対する二国間の取組(豪州、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、フランス、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、トルコ、UAE、英国など)、それ以外の国に対する二国間の取組(豪州、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、フランス、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、トルコ、英国など)、グローバル・レベルでの多国間の取組(豪州、ベルギー、ブラジル、カナダ、フランス、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、トルコ、UAE、英国、米国など)、地域レベルでの多国間の取組(豪州、ベルギー、ブラジル、カナダ、フランス、日本、メキシコ、ニュージーランド、トルコ、UAEなど)が紹介された。

B)CTBT発効までの間の核爆発実験モラトリアム5核兵器国、インド及びパキスタンは、核爆発実験モラトリアムを引き続き維持している。核兵器の保有の有無を公表していないイスラエルは、核爆発実験の実施の可能性についても言及していない。北朝鮮は、累次の安保理決議で核実験の禁止が義務づけられたにもかかわらず、モラトリアムを宣言せず、2017年には前年に続き核爆発実験を実施した。

C)包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会との協力

調査対象国によるCTBTO準備委員会への分担金の支払い状況(2017年末時点)は、下記のとおりである148。

全額支払い(Fully paid):豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インドネシア、イスラエル、日本、カザフスタン、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、トルコ、UAE、英国

一部未払い(Partially paid):メキシコ、米国

(未払いにより)投票権停止(Voting right suspended):ブラジル、イラン、ナイジェリア

米議会は国防授権法で、CTBTOへの分担金支払いを制限するとともに、核実験禁止に関する安保理決議2310は、CTBTの目標及び目的に反する行動を控えることを米国に義務付けるものでも義務を課すものでもないとし、さらにその説明文(explanatory statement)では、「条約の批准、あるいは条約発効の準備を含むようなCTBTの活動を米国の分担金で支援するのはまったく不適切だ」とした149。

D)CTBT検証システム発展への貢献

CTBTの検証体制は着実に整備が進められてきた。後述する2017年9月の北朝鮮による核実験も、国際監視制度(IMS)の地震学的監視施設が、自然地震とは異なる地震として検知した。

IMSステーションの設置については、本調査対象国のうち、未署名国で検証システムの発展に全く関与していないインド、パキスタン、北朝鮮及びサウジアラビアを除けば、中国、エジプト及びイランでの進展が遅れているという状況に変化はない150。このうち中国に関しては、2016年12月に放射性ガス観測施設1カ所を稼働させ、2017年中にもう1カ所の放射性ガス観測施設が認証された。

日本は2017年2月、CTBTの監視網の強化のため、243万ドルを拠出するとCTBTOに正式に通知した151。このうち164万ドルは放射性物質の移動式観測装置に用いられ、当初2年間は北日本地域に設置される。

E)核実験の実施

北朝鮮は2016年の2回の核爆発実験の後も、次の地下核実験に向けた準備とも取れる行動を繰り返した152。そして2017年9月3日、北朝鮮は豊渓里の核実験場で6回目の地下核実験を実施した。CTBTOによれば、IMSで観測された地震波はマグニチュード6.0で、この地震の規模から爆発威力は160kt程度と推計され、北朝鮮による実験では過去最大を記録した153。北朝鮮は同日、ICBMに搭載する水爆の実験に成功したと発表し、あわせて開発した核弾頭がEMP攻撃も可能な多機能弾頭だとした154。北朝鮮はその後、太平洋上での核実験を示唆したが、2017年中は実施されなかった。他方、北朝鮮が核実験場の西側坑道の掘削作業を続けていると報じられており155、これが将来の核実験に使用される可能性がある。核爆発実験以外の活動については、米国が核備蓄管理計画(SSP)の下で、「地下核実験を行うことなく備蓄核兵器を維持及び評価する」ことを目的として、未臨界実験、あるいは強力なX線を発生させる装置「Zマシン」を用いて超高温・超高圧の核爆発に近い状態をつくり、プルトニウムの反応を調べるという実験を含め、核爆発を伴わない様々な実験を継続してきた。国家核安全保障局(NNSA)はその種類及び回数をホームページで公表してきたが、2015年第1四半期を最後に更新されていない

(2017年12月現在)156。米国以外の核保有国では、フランスが、核兵器の信頼性・安全性を保証する活動として、極端な物理的状況下での物質のパフォーマンス、並びに核兵器の機能をモデル化するシミュレーション及び流体力学的実験(hydrodynamic experiments)を実施していること、さらに、これらは新型核兵器の開発を念頭に置くものではないことを明らかにしたが157、その具体的な実施状況については公表していない。またフランスと英国は2010年11月に、X線及び流体力学実験施設の建設・共同運用に関する協定を締結している158。残る核保有国は、核爆発を伴わない実験の実施の有無に関して公表していない。CTBTは核爆発を伴わない実験を禁止していないが、NAM諸国はそうしたものを含めて核兵器に係る実験の即時・無条件の停止、並びに核実験場の実現可能で、透明性・不可逆性があり、検証可能な方法での閉鎖などを求めている159。


[144] 「第 10 回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議最終宣言(骨子)」外務省、2017 年 9 月 20 日、http:// www.mofa.go.jp/mofaj/files/000291811.pdf。

[145] “Joint Appeal by Mr. FUMIO KISHIDA, Minister for Foreign Affairs of Japan, Mr. KAIRAT ABDRAKHMANOV, Minister for Foreign Affairs of Kazakhstan and Dr. LASSINA ZERBO, Executive Secretary of the CTBTO PrepCom,” May 2, 2017, https://www.ctbto.org/fileadmin/user_upload/statements/2017/02052017_CTBTO_Japan_Kazakhstan_ JointAppeal.pdf.

[146] NPT/CONF.2020/PC.I/WP.3, March 17, 2017.

[147] CTBT-Art.XIV/2017/4, September 14, 2017.

[148] CTBTO, “CTBTO Member States’ Payment as at 31-Dec-2017,” https://www.ctbto.org/fileadmin/user_upload/ treasury/52._31_Dec_2017_Member_States__Payments.pdf.

[149] Kingston Reif, “Hill Wants Development of Banned Missile,” Arms Control Today, Vol. 47, No. 10 (December 2017), p. 37.

[150] CTBTO, “Station Profiles,” http://www.ctbto.org/verification-regime/station-profiles/.

[151] “Japan Gives US$ 2.43 Million to Boost Nuclear Test Detection,” CTBTO, February 23, 2017, https://www.ctbto. org/press-centre/highlights/2017/japan-gives-us-243-million-to-boost-nuclear-test-detection/.

[152] たとえば、核実験場における地下トンネルの掘削については、Frank Pabian and David Coblentz, “North Korea’s Punggye-ri Nuclear Test Site: Analysis Reveals Its Potential for Additional Testing with Significantly Higher Yields,” 38 North, March 10, 2017, http://38north.org/2017/03/punggye031017/ を参照。

[153] この核実験は、実験場付近で複数の地滑りを引き起こすほどの規模であった。Frank V. Pabian, Joseph S. Bermudez Jr., and Jack Liu, “North Korea’s Sixth Nuclear Test: A First Look,” 38 North, September 5, 2017, http:// www.38north.org/2017/09/punggye090517/.

[154] “Kim Jong Un Gives Guidance to Nuclear Weaponization,” KCNA, September 3, 2017, http://www.kcna.co.jp/ item/2017/201709/news03/20170903-01ee.html.

[155] Frank V. Pabian, Joseph S. Bermudez Jr. and Jack Liu, “North Korea’s Punggye-ri Nuclear Test Site: Tunneling at the West Portal,” 38 North , December 11, 2017, http://www.38north.org/2017/12/punggye121117/.

[156] NNSA, “Stockpile Stewardship Program Quarterly,” https://nnsa.energy.gov/ourmission/managingthestockpile/ sspquarterly.

[157] NPT/CONF.2015/PC.III/14, April 25, 2014.

[158] NPT/CONF.2015/29, April 22, 2015.

[159] NPT/CONF.2015/WP.7, March 9, 2015.

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る