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国際平和拠点ひろしま

コラム 3 核兵器の重要性の高まり― いかに対応するか

ティティ・エラスト/シャノン・カイル/ ピョートル・トピチカノフ

ロシアや米国をはじめとした核兵器国が、 軍事計画及び基本方針において核兵器に新 たな役割を付与し、または役割を拡大させ ることを決定したことをめぐり、国際的な 懸念が高まっている。これらの決定は、核 兵器国の国家安全保障における核兵器の重 要性の高まりを反映したものであり、核兵 器の段階的な周辺化という冷戦後の流れを 大きく転換するものである。

一方、上記以外の変化として、核兵器の 役割を限定していこうとする動きにも変化 が生じており、一部の国々は核兵器の役割 や目的を拡大させてきた。例えば、米国は 2018 年版の核態勢見直し(NPR)におい て、米国の核戦力は、「化学兵器、生物兵 器、サイバー及び大規模な伝統的攻撃を含 む…多方面での潜在的な危険及び脅威の増 大に対する防衛手段」として用いられると した1 。こうした文言は、他の核兵器国の ドクトリンと同様、核兵器使用の敷居につ いてかなりの不明確性を有している。

さらに、限定核戦争の概念は、軍事計画 を立案する者の間で新たな関心を集めてい るようである。ロシアが「エスカレート・ トゥ・ディエスカレート」とされるドクトリン、すなわち紛争を終結させるための限 定的な核兵器使用を考えているとの指摘は、 西欧諸国の間でロシアが核兵器の使用に訴 える準備を進めているとの懸念を高めた。 この懸念は、米国の 2018 年版 NPR に盛り 込まれた事実上の核の敷居の引き下げにも つながっている。これは、「低出力オプシ ョンを含む米国の柔軟な核オプションの拡 大」や新たな核搭載巡航ミサイルの建設に よって、推察されるロシアのドクトリンに 対抗しようとするものである2 。

こうした動きは、ロシアとアメリカ及び NATO 間における政治的信頼性の低下、さ らには米露間における核軍備管理の深刻な 危機と一致している。透明性や対話チャン ネルの喪失は、潜在的に新たな武装化の力 学を生み出し、これまでの核ドクトリンに おける不明確さを一層増大させつつ、結果として誤算による核兵器使用の危険性を高めている。

何をすべきか。

核兵器国は、近年の負の傾向を転換し、 核兵器の重要性を低減させていくうえで、 いくつかの措置を講じることが可能である。

宣言政策―核兵器国は「核戦争に勝者は なく、決して戦われてはならない」3 とい う 1987 年のレーガンとゴルバチョフの宣 言のように、宣言政策を通して自制を示す ことが可能だろう。他の措置としては、中 国がすでに採用している核兵器の先制不使 用(NFU)政策の採用が挙げられる。加え て、非核兵器国に対しては核兵器を使用しないという既存のコミットメント、いわゆる消極的安全保障を強化していく必要がある。

透明性措置―仮に 2010 年の新戦略兵器 削減条約(新 START)が 2021 年 2 月に失 効した場合、米国及びロシアは、同条約に 基づく検証制度により提供されている透明 性を失うことになる。新 START の延長に 向けた米ロ合意は、相手国の戦力態勢や軍 事能力に対する誤認の防止に直結するもの となるだろう。

より一般的には、核兵器国は核リスク低 減の必要性について緊急の国際合意に基づ き事を進めていくことも可能だ。ここにおいては、核ドクトリンの不明確さの解消に 注意を向ける必要がある。2020 年の核不拡 散条約(NPT)再検討会議のサイドイベン トとして予定されている、NPT 上の五核兵 器国間での核ドクトリンをめぐる議論は、 核戦力及び核ドクトリンに関するより広範 な多国間協議を開始するための足がかりとなり得る。

戦略的安定性に関する協議―究極的には、 核兵器国はこれまで自国の戦略やドクトリ ンにおいて核兵器の重要性の高まりに寄与 してきた根本的な問題に対処するべく、核 リスクの低減に向けた措置や核の自制に関 する宣言の域を超えて行動していく必要がある。とりわけ、中国、ロシア、米国の間 で、各国の戦略的安定性(ここでは核兵器 を最初に使用するインセンティブを欠いて いることよる核戦力の増強に対するインセ ンティブの欠如と定義される)の実現に向 けたアプローチについての持続的な協議が 必要とされている。今後の主要な課題の一 つは、三ヶ国の間で摩擦の種となっている

戦略的攻撃能力と戦略的防衛能力の相互関係にある。

高まる核兵器の重要性の問題に取り組む 責任は核兵器国にある一方で、非核兵器国 や市民社会についても核兵器に対する悪の 烙印を強化していくことや、核リスクの低 減に向けた努力を促進していくことで重要 な役割を果たしていくことが可能である。 同時に、核兵器国に対して、核政策において自制を示すとともに、最終的には検証可 能な軍備管理・軍縮協定と実践的措置を導き得るような持続的な戦略的安定性に関す る協議へ参加することを積極的に促していく必要がある。

(ティティ・エラスト ストックホルム国 際平和研究所(SIPRI)シニアリサーチャ ー/シャノン・カイル SIPRI 軍縮・軍備 管理・不拡散プログラムディレクター/ピ ョートル・トピチカノフ SIPRI シニアリ サーチャー)


1 The U.S. Department of Defense, Nuclear Posture Review 2018, February 2018.

2 Ibid.

3 “Joint Statement by Reagan, Gorbachev,” Washington Post, December 11, 1987, https://www.washingtonpost. com/archive/politics/1987/12/11/joint-statement-by-reagan-gorbachev/cd990a8d-87a1-4d74-88f8-704f93c80cd3/.

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