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国際平和拠点ひろしま

コラム 6 ローマ教皇フランシスコのメッセージ

川崎 哲

2019 年 11 月 23~26 日にローマ教皇が 38 年ぶりに訪日した。24 日、教皇フラン シスコは被爆地長崎と広島を訪れた。朝東 京を発って両都市を回りその夜のうちに東 京に戻るという強行スケジュールであった が、そこまでして両被爆地を訪れたのはフ ランシスコの核兵器問題に対する強い思いゆえだろう。

教皇は、午前の長崎爆心地公園で核兵器 についてのメッセージを発した1 。教皇は、 この地は、「核兵器が人道的にも環境にも 悲劇的な結果をもたらすことの証人である」 とした上で、貧困に苦しむ人々がいるなか で繰り広げられる軍拡競争は「貴重な資源 の無駄遣い」であり「天に対する絶え間の ないテロ行為」だと断じた。

そして今日、「兵器使用を制限する国際 的な枠組みが崩壊」しつつあり「多国間主 義の衰退」が進んでいると警告し、「核兵 器禁止条約を含め、核軍縮と不拡散に関す る主要な国際条約」に則った行動を世界に 訴えた。そして「核兵器は、今日の国際的 また国家の安全保障に対する脅威から私た ちを守ってくれるものではない」と政治指 導者らの覚醒を求めた。

夕方の広島平和記念公園での「平和のための集い」では、「原子力の戦争目的の使 用」は倫理に反するとした上で、核兵器の使用のみならず保有自体が倫理に反すると 述べ「これについて、私たちは裁きを受け ることになります」と強調した2 。事前に 作成され配布されていた原稿には、核兵器 の「使用」が倫理に反するとのみ書かれて いたが、教皇は日本に到着してから「保有」 も付け加えることにしたのである3 。

核兵器を使用はしないが万が一のために 保有しておくというのが、核兵器を必要悪 として是認する核抑止論の立場である。教 皇フランシスコは、これを明確に批判した のだ。

教皇は広島でさらに「差別と憎悪のスピ ーチで…どうして平和について話せるでし ょうか」「真の平和とは、非武装の平和以 外にありえません」と述べ、今日世界に広 がる排外主義、自国第一主義や軍備増強に 警鐘を鳴らした。また、広島の被爆者の中 には「異なる言語を話す人もいた」として 外国人被爆者の存在に注意を喚起すること も忘れなかった。さらに「現在と将来の世 代に、ここで起きた出来事の記憶を失わせ てはなりません」と述べ、被爆 75 年を迎え ようとする今日における継承の課題を投げ かけた。

このメッセージに先立ち、教皇は、諸宗 教の代表者らに挨拶し、数十人の被爆者一 人ひとりの手を取り声をかけた。この姿勢 は、上述のような一つひとつの言葉にも増 す強いメッセージを発していた。

帰国する機上の記者会見で教皇は、被爆 者との出会いで「とても強く心を動かされた」とし、核兵器の使用も保有も倫理に反 することをカトリックの教義書に明記する と述べた4 。世界にカトリック信者は 13 億 人と言われ、これがもたらす影響は大きい。 まさに、被爆地が世界を動かした画期とし て、歴史に刻まれるだろう。

(ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際 キャンペーン(ICAN)国際運営委員)


1 「教皇の日本司牧訪問 教皇のスピーチ 核兵器についてのメッセージ」長崎・爆心地公園、11 月 24 日、https:// www.cbcj.catholic.jp/2019/11/24/19818/。

2 「教皇の日本司牧訪問 教皇のスピーチ 平和のための集い」広島平和記念公園、11 月 24 日、https://www.cbcj. catholic.jp/2019/11/24/19823/。

3 NHK「ローマ教皇『核兵器保有も倫理に反する』は世界への強い訴え」2019 年 12 月 18 日。

4 「核兵器使用・保有は『倫理に反する』、ローマ教皇 公式教義書に明記の意向」『AFP』2019 年 11 月 27 日; 「教皇『原発、利用すべきでない』『完全な安全必要』踏み込む発言」『東京新聞(共同)』2019 年 11 月 28 日。

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