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国際平和拠点ひろしま

(2) 核セキュリティ・原子力安全にかかる諸条約などへの加入、参加、国内体制への反映

(2) 核セキュリティ・原子力安全にかかる諸条約などへの加入、参加、国内体制への反映
A) 核セキュリティ関連の条約への加入状況2001 年の9.11 米国同時多発テロ以来、原発施設へのテロリストの攻撃が現実的な脅威となるなか、核セキュリティのみならず、原発での事故を防止する観点に立つ原子力安全や、原子力の軍事転用を防止するための保障措置も含めて、それぞれのオーバーラップする領域(セーフティとセキュリティのインターフェース)に焦点を当てた取組が進められている56。こうした背景から、以下核セキュリティ・原子力安全にかかる条約などへの加入、参加、そして国内体制への反映状況を点検する。まず核セキュリティ及び原子力安全に関する諸条約としては、核セキュリティ・サミットのコミュニケでもたびたび言及57されてきた核物質の防護に関する条約(核物質防護条約、CPPNM ) と改正核物質防護条約(CPPNM/A)、核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロ防止条約)に加えて、原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)、原子力事故の早期通報に関する条約(原子力事故早期通報条約)、使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(放射性廃棄物等安全条約)、及び原子力事故または放射線緊急事態の場合における援助に関する条約(原子力事故援助条約)などがある。これらの条約について、調査対象国の関与を軸に検討を行ったところ、各条約の概要は以下のとおりである。
➢ CPPNM(1987 年発効):2019 年12 月時点で締約国数160 カ国。同条約は平和目的のために使用される核物質の国際輸送に際し、適切な防護措置を取ること、並びに適切な防護措置が取られない場合には核物質の国際輸送を許可しないことを締約国に求めるとともに、権限のない核物質の受領、所持、使用、移転、変更、処分または散布により、人的・財産的被害を引き起こすことや、核物質の盗取などの行為を犯罪化することを要求している。
➢ CPPNM/A(2016 年発効): 2019年12 月時点で締約国数123 カ国。同条約はCPPNMの改正として2005 年に採択されたもので、防護措置の対象が国内の核物質や原子力施設にも拡大され、また法律に基づいた権限なしに行われる核物質の移動と、原子力施設に対する不法な行為が犯罪とされるべき行為に含められた。その結果、CPPNM に比べ、その適用範囲は大幅に広がった。CPPNM/Aは核セキュリティに関して法的拘束力を有する唯一の存在となっており、そのために条約の発効後も引き続き未批准国への働きかけが求められている。
➢ 核テロ防止条約(2007 年発効):2019 年12 月現在、締約国数116 カ国。同条約は悪意をもって放射性物質または核爆発装置などを所持・使用する行為や、放射性物質の発散につながる方法による原子力施設の使用、または損壊行為を犯罪とすることなどを締約国に義務付けている。CPPNM/A とともに、今日の核セキュリティに関する法的枠組みを支える柱となっている。
➢ 原子力安全条約(1996 年発効):2019 年9 月現在、締約国数88 カ国。同条約は原子力発電所の安全性の確保や安全性向上を目指す観点から、自国の原子力発電所の安全性確保のために法律上、行政上の措置を講じ、同条約に基づき設置される検討会への報告を実施し、また他の締約国の評価を受けることなどを締約国に義務付けている。
➢ 原子力事故早期通報条約(1986 年発効):2019 年9 月現在、締約国数124 カ国。同条約は原子力事故が発生した際、IAEA に事故の発生事実や種類、発生の時刻や場所を速やかに通報し、情報提供することを締約国に義務付けるものである。
➢ 放射性廃棄物等安全条約(2001 年発効):2019 年9 月現在、締約国数82カ国。同条約は使用済燃料及び放射性廃棄物の安全性確保のために法律上、行政上の措置を講じ、同条約に基づいて設置される検討会への報告を実施し、また他の締約国の評価を受けることなどを義務付けている。
➢ 原子力事故援助条約 ( 1987 年発効):2019 年9 月現在、締約国数119 カ国。同条約は、原子力事故や放射線緊急事態に際して、事故や緊急事態の拡大を防止し、またその影響を最小限にとどめるべく、専門家の派遣や資機材提供などの援助を容易にするための国際的枠組みを定めている。
調査対象国の動向に限れば、シリアがCPPNMとCPPNM/A を批准し、またイランが放射性廃棄物等安全条約の批准を完了する予定だと発表したことを除けば、2019年はこれらの核セキュリティ関連条約を巡って大きな動きは見られなかった。他方、すべての条約において締約国数が漸増した。一般に、条約の批准手続きには時間を要するケースも多いなか、核セキュリティ・原子力安全分野での署名・批准が着実に進展している事実は評価できよう。なお、原子力安全条約以降の条約では、安全上の防護措置を課すことが定められている。こうした防護措置は核セキュリティ上の防護措置にも援用できることから、本報告書において核セキュリティに関連する国際条約とみなしている。以下、これらの国際条約について調査対象国の署名・批准状況を表3-4に示す。

B)「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告」改訂5 版(INFCIRC/225/Rev.5)
2019 年時点で最新となる「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告」は、ワシントンでの最初の核セキュリティ・サミットの開催に前後した2011 年にIAEA が発表したINFCIRC/225/Rev.5 である。INFCIRC/225/Rev.5 の勧告措置に準拠した物理的防護措置を導入・履行するとともに課題を炙り出し、個別の対応策をいかに打ち出すかはすべてが国家の責任であり、各国の規制当局と事業者の取組に委ねられている。また、IAEA はINFCIRC/225/ Rev.5 の履行ガイドを発表しており、その最新版は2018 年に刊行された「核物質及び核施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告 INFCIRC/225/Rev.5(2011 年刊行)履行実施手引き」58となっている。
調査対象国における今日の核セキュリティ体制を評価する上で、同指針の勧告措置の取り入れも重要な指標になり得ることから、本調査では主に2019 年の第63 回IAEA総会やNPT 運用検討会議第3 回準備委員会などでの各国声明を参照し、評価を行った。

 

INFCIRC/225/Rev.5 の勧告措置適用に関する各国の状況
各国首脳レベルが参加し、国際的にもメディアの注目が集まった核セキュリティ・サミットの終了後、INFCIRC/225/Rev.5の勧告措置の導入や適用に言及する情報発信量は減少している。2019 年においても、原子力導入に力を入れている一部の国々を除けば、かかる傾向に大きな変化は見られなかった。同勧告措置の導入に関する情報発信量の減少理由が、策定から9 年が経過したINFCIRC/225/Rev.5 に関して新たにアピールすべき事項が少ないためなのか、それとも核セキュリティ・サミットなど情報発信のプラットフォームが縮小した結果、その適用状況に言及する機会自体が減っているからなのかは定かではない。そのなかで、調査対象国で直接的・間接的に同勧告措置への対応について言及のあった事項は以下のとおりである。
法令整備の分野について、インドネシアは、更なる国際的な義務と関与に貢献することになる現在進行中のインドネシア原子力エネルギー法の見直し過程において、IAEA の立法支援を受けており、原子力安全、核セキュリティ、保障措置及び緊急事態準備などを組み込む同改正法案は2020年に議会審議の最終段階に入ることを予定していると発表した59。ポーランドは原子力安全と核セキュリティ双方のフレームワークの改善を継続しており、規制の準備態勢について優先的に保証するべく、2019 年8 月に規制チームが建設ライセンスのサンプルアプリケーションの安全性評価と評価を実施するシミュレーションを完了、シミュレーション中に収集された多くの観察結果を分析し、原子力安全規制の枠組みをさらに改善するための行動計画開発に使用するとしている60。トルコは原子力規制官庁の設置に続けて、トルコ原子力エネルギー庁の再編成の完了を発表した。移行期プロセスの一部としてトルコの法的枠組みは見直され、原子力規制官庁からは新たな規制が発出された61。
核物質防護について、エジプトは国内の第1 及び第2 研究炉における物理的防護システムの近代化プロセスを進めるにあたり、核セキュリティ文化を取り入れたと発表した62。
妨害破壊行為に対する物理的防護措置としては、ベルギーは核セキュリティ強化のために、原子力施設の警備を特別な訓練を受けた武装警察へと徐々に入れ替えていると発表した63。サウジアラビアは核テロを含むあらゆるテロと戦うための努力の一環として、IAEA の監督下で数千万ドルを拠出し、核セキュリティ特別センターを設置したと発表した64。
内部脅威対策について、ベルギーの連邦原子力管理機関と内務省は米国エネルギー省国家核安全保障局(NNSA)との協力により、3 月に内部脅威の緩和のための国際シンポジウムを開催した。同シンポジウムには50 カ国から200 名が参加し、最良慣行について意見交換を行うことで、内部脅威の問題に対する意識向上に貢献したとされる65。
サイバーテロへの対応として、ベルギーは立法上及び規則上の枠組みの強化に取り組んでおり、4 月に原子力セクターに特化したサイバーセキュリティ規制の法的枠組みを採択したと発表した66。ドイツはコンピュータセキュリティの文脈で、原子力施設における核セキュリティの強化に全面的に関与しており、この分野での国際協力を促進していると発表し、実際に9 月にベルリンにてIAEA 原子力サイバーセキュリティ技術会合をホストした67。韓国は、11 月にIAEA と韓国原子力統制技術院(KINAC)の協力のもと、サイバー攻撃からの原子力施設の防御にかかるワークショップを開催し、20 カ国32 名が模擬シナリオを活用したトレーニングコースに参加したと発表した68。

表3-5:各国のINFCIRC/225/Rev.5 の勧告措置の適用・取組状況

勧告措置の適応・取り組み状況について公開情報などから情報が得た、あるいは実施が表明された国 中国、フランス、ロシア、英国、米国、インド、イスラエル、パキスタン、豪州、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、エジプト、ドイツ、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、ポートランド、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、トルコ、UAE
実施していない、あるいは情報がない国 オーストリア、ノルウェー、シリア、北朝鮮

56 IAEA, “INSAG-24: The Interface Between Safety and Security at Nuclear Power Plants A Report by the International Nuclear Safety Group,” 2010.
57 “Nuclear Security Summit 2016 Communiqués,” 2016 Washington Nuclear Security Summit, April 1, 2016.
58 IAEA, “Nuclear Security Series No. 27-G Implementing Guide Physical Protection of Nuclear Material and Nuclear Facilities (Implementation of INFCIRC/225/Revision 5)”.
59 “Statement of Indonesia,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
60 “Statement of Poland,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
61 “Statement of Turkey,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
62 “Statement of Egypt,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
63 “Statement of Belgium,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
64 “Statement of Saudi Arabia,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
65 “Statement of Belgium,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
66 Ibid.
67 “Statement of Germany,” 63rd IAEA General Conference, September 2019.
68 “IAEA Conducts Training Course on Protecting Nuclear Facilities from Cyber-Attacks,” IAEA, November 15, 2019,https://www.iaea.org/newscenter/news/iaea-conducts-training-course-on-protecting-nuclear-facilities-from-cyberattacks.

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