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国際平和拠点ひろしま

(8) 兵器用核分裂性物質生産禁止条約 (FMCT)

A) 条約交渉開始に向けた取組
1995 年NPT 運用検討・延長会議で採択された「原則及び目標」では、CD におけるFMCT の即時交渉開始及び早期締結が目標に掲げられた。しかしながら、現在に至るまで条約交渉は開始されていない。2020年のCD の会期でも、FMCT の交渉を行う特別委員会(ad hoc committee)の設置を盛り込んだ作業計画を採択できなかった。前年までと同様に、パキスタンが兵器用核分裂性物質の新規生産だけでなく、既存のストックをも条約交渉の対象に含めるよう強く主張し、これが受け入れられない限りは作業計画の採択に反対するとの姿勢を変えなかったためである。中国及びイスラエルは、兵器用核分裂性物質の新規生産禁止を定めるFMCT の交渉開始に賛成しているが、西側核兵器国ほどの積極性を示しているわけではない。
2020 年の国連総会では、翌年の国連総会の暫定議題に、「全面完全軍縮」と題する項目の下に、「核兵器またはその他の核爆発装置のための核分裂性物質の製造を禁止する条約」と題する小項目を含める決定案が、賛成184、反対1(パキスタン)、棄権4(イラン、イスラエル、北朝鮮、シリア)で採択された。

B) 生産モラトリアム
軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)などは核保有国に対して、FMCT が成立するまでの間、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言・実施するよう求めてきた207。これに対して、前年までと同様に中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮がモラトリアムを宣言していない。このうち、少なくともインド、パキスタン及び北朝鮮は、兵器用核分裂性物質の生産を続けていると見られる。
中国は現在、兵器用核分裂性物質を生産していないと考えられている208。しかしながら、中国は生産モラトリアムには否定的であり、その理由として中国の軍縮大使は、「生産モラトリアムは、FMCT 問題を完全かつ効果的に解決するための基本的な道筋ではない。とりわけ現在、一部の国が今日肯定したことを翌日には否定するかもしれず、また前政権が行った政策や公約を現政権が恣意的にすべて否定することもありうる」209と発言した。他方で11 月には、真偽は不明ながら、中国が核弾頭を製造するための極秘の計画の一環として、プルトニウム及びウランの生産施設を急速に拡大していることが報じられた210。
米国については、兵器「用」ではなく、生産モラトリアムにも反していないが、米エネルギー省が、海軍用原子炉に使用する高濃縮ウラン(HEU)の生産を2050 年代に再開する計画を明らかにしている211。
核保有国は、自国が保有する兵器用核分裂性物質の量を公表していないが、民間の研究所による分析・推計については本報告書第3 章で取りまとめている。


207 NPT/CONF.2020/PC.III/WP45, April 29, 2019.
208 たとえば、Hui Zhang, “China’s Fissile Material Production and Stockpile,” Research Report, International Panel on Fissile Materials, No. 17 (2017); Hui Zhang, “Why China Stopped Making Fissile Material for Nukes,” Bulletin of the Atomic Scientists, March 15, 2018, https://thebulletin.org/2018/03/why-chinastopped-making-fissile-material-for-nukes/ などを参照。
209 “No Clear Path forward for Fissile Material Cut-off Treaty,” IPFM Blog, May 24, 2020, http://fissilematerials.org/blog/2020/05/no_clear_path_forward_for.html.
210 Bill Gertz, “China’s ‘Secretive, Crash’ Nuclear Buildup Revealed,” Washington Times, November 12, 2020, https://www.washingtontimes.com/news/2020/nov/12/china-expanding-nuclear-arms-plants-revealed/.
211 U.S. Department of Energy, “Secretary Brouillette Announces the Nuclear Fuel Working Group’s Strategy to Restore American Nuclear Energy Leadership,” April 23, 2020, https://www.energy.gov/articles/secretary-brouillette-announces-nuclear-fuel-working-groups-strategy-restore-american.

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