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国際平和拠点ひろしま

コラム2 発効後の核兵器禁止条約

ベアトリス・フィン

2021 年1 月22 日、国際的な核政策の様相は決定的に変化した。核兵器禁止条約(TPNW )が発効したのである。核兵器は今や、国際法の下で違法となった。TPNWは、核兵器使用の非人道的結末と増大する使用リスクを重視しており、条約の発効は核軍縮にとって象徴的な勝利以上のものである。締約国が条約の下で義務を履行し、それらの行動、並びに条約によって生じた高まる核兵器禁止への規範が非締約国に影響を与えることで、条約は具体的な影響をもたらし続けるであろう。この条約を推し進めた外交官と市民社会の連携は、TPNWが完全に履行され、普遍化に至るまで、止まることはない。TPNW の発効は、核軍縮が新しく希望に満ちた局面を迎えたことを示している。
TPNW の発効により、批准または加盟した締約国は、条約の義務のすべてを履行しなければならない。なによりもまず、条約第1 条に定められた禁止事項を遵守しなければならない。TPNW は締約国に、核兵器の開発、実験、生産、製造、譲渡、保有、貯蔵、使用または使用の威嚇、あるいは領域内への配備を認めることを禁止している。また、これらの活動のいずれかに従事するように誰かを援助、奨励または勧誘することも禁止する。これらの禁止事項は、多くの締約国にとって、核兵器不拡散条約(NPT)やいくつかの非核兵器地帯条約さえも超えた、新たな法的コミットメントとなっている。国際法の下でこれらすべての活動を禁止することで、これらの行為のいずれかにいまだに従事している国家、企業、組織に対して、国際社会から非難されている行為への関与を止めるよう明確なシグナルを送っている。
しかし、それら禁止事項の遵守に加え、締約国はTPNW を履行する積極的な行動を取らなければならない。締約国には、短期的に実施する必要のあるいくつかの措置がある。期限が目前に迫っているのは、すべての締約国が条約発効後30 日以内に、核兵器の状況に関する申告を提出するものである(第2 条)。国連軍縮局は、ガイドラインとして赤十字国際委員会(ICRC)のモデル申告書を公開した。締約国には、条約の下でその他技術的要件を満たすために、より長い期限も設定されている。すべての締約国は、条約が当該国について発効するまでに、国際原子力機関(IAEA)と保障措置協定を発効しておかなければならない。また、国際法における標準的行動として、締約国は条約を履行し、違反を罰するために、国内法制を確実に行うべきである(第5 条)。
他のより複雑な行動は、さらなる時間を要するか、あるいは継続的な義務を意味する場合もある。一例は、核兵器の使用や実験の影響を受けた人々や場所を支援するために、被害者援助を提供し、環境修復を開始するという画期的で積極的な義務である。影響を受けた国は、第6 条の下でこれらのプログラムを実施するという主要な義務を負うが、第7 条はこの義務に基づき、実施すべき立場にあるすべての締約国が影響を受けた国と協力すべきだと明記している。締約国は、この作業を開始するにあたって、発効後1年以内にいくつかの措置を講じることができるが、これは継続的な義務である。同様に、すべての締約国は第12 条の下で、二国間会合、国際フォーラムにおける声明、あるいは地域ワークショップの開催を含め、非締約国に対して条約への参加を奨励することで、条約の普遍化を促進する義務を負う。条約が完全に普遍化するまで、これは締約国にとって継続的な義務となろう。締約国は、締約国の定例会議を開催する際に、これら及びその他の義務をさらに発展させる機会を得るだろう。
それゆえ、この条約が締約国に対して新たな法的義務を創り出したことは明らかである。しかし、非締約国についてはどうだろうか。TPNW の発効により、非締約国はどのような影響を受けるだろうか。
非締約国は、締約国が条約の下で義務を履行することで直接的な影響を受ける可能性があり、またTPNW によって推進される核兵器禁止への規範の高まりに影響を受けることもあろう。条約の普遍化に向けた締約国の義務は、条約の履行が非締約国に波及効果をもたらしうる一例である。TPNW の締約国が、かつて非締約国にTPNW で禁じられた行動の援助、奨励、勧誘を行い、その後条約を遵守すべくその行動を停止したとすれば、それは非締約国に対しても影響を与える可能性がある。締約国が、核兵器の使用や実験による被害者を援助し、汚染された環境を修復するプログラムをいかに発展させるかは、核保有国の既存のプログラムにも影響を及ぼしうる。
履行による波及効果を超えて、核兵器禁止を促す規範が高まることで、TPNW は核保有国を含むすべての国家に影響を与えるだろう。これに先立つ地雷やクラスター弾の禁止条約では、条約に加盟していない国であっても、国や企業、金融機関が国際法の下で禁止された兵器には関わりたくないことを示している。これらの条約の発効後、国、企業、金融機関は政策の転換や兵器の製造停止、製造企業への投資の停止を行った。これらの機関が、法的義務なしに行動を変化したことは、署名国や締約国の域を超えた国際条約の範囲を示している。条約が成長し続け、国際法の確立された文書として定着していくにつれ、今後何年にもわたってその規範の力も拡大し、軍縮の様相を形作っていくだろう。

ベアトリス・フィン:核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長

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