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国際平和拠点ひろしま

(2) 核兵器のない世界の達成に向けたコミットメント

A) 核兵器のない世界に向けたアプローチ
NPT 前文では、「核軍備競争の停止をできる限り早期に達成し、及び核軍備の縮小の方向で効果的な措置をとる意図を宣言し、この目的の達成についてすべての国が協力することを要請」している。また同条約第6 条では、「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と定められている。
「核兵器の廃絶」あるいは「核兵器のない世界」という目標に公然と反対する国はなく、NPT 運用検討プロセスや国連総会などの場で、核兵器国や他の核保有国も核軍縮へのコミットメントを繰り返し確認してきた。しかしながら、そうしたコミットメントは「核兵器のない世界」の実現に向けた核軍縮の着実な実施・推進を必ずしも意味するわけではなく、核軍縮は2020 年も具体的な進展を見ることなく停滞が続いた。
2020 年9 月26 日の「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」には、グテーレス(António Guterres)国連事務総長が声明を発表し、「核兵器のない世界という共通の目標に導くことができる、信頼の上に構築され、また国際法に基づく、強化され包摂的で刷新された多国間主義を必要としている。核兵器を保有している国々が主導しなければならない。そうした国々は、信頼を回復し、核のリスクを軽減し、核軍縮に向けた目に見える措置を講じるために、真の誠実な対話に立ち戻らなければならない。核戦争に勝利することはできず、決して戦ってはならないという共通の理解を再確認すべきである。また、約束したことを実行するための措置を講じるべきである」9と訴えた。また、中満泉・国連事務次長・軍縮
担当上級代表は8 月のインタビューで、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に触れつつ、「私たちは、世界がいかに脆弱であるかを見てきた。想像を絶することが実際に起こり、それは信じられない速さで世界中に広がっていった。これまで考えられなかった状況が起こりうる。これは核兵器にも当てはまる」10とし、「核戦争が実際に起きるのは想像しづらいが、予防のためにはリスクをなくしていくことが必要だ」11と主張した。

核保有国のアプローチ
5 核兵器国は、2020 年2 月にロンドンで定例の5 核兵器国会議を開催した。前年に続き共同声明は採択されなかった。中距離核戦力条約(INF 条約)などを巡って米国とロシア・中国が対立し、一致したのは核兵器禁止条約(TPNW)に反対することだけだったとされる。議長国の英国は5 核兵器国を代表してジュネーブ軍縮会議(CD)で5 核兵器国会議について報告し、すべての側面でのNPT へのコミットメント、並びにそれぞれの義務を遵守し、条約のあらゆる側面において条約の目標を前進させるための個別的及び集団的な努力を継続するとのコミットメントを改めて表明するとともに、NPT 運用検討会議に関連する国際安全保障環境などに関して意見交換したと述べた12。
3 月のNPT 発効50 周年に際しては、核兵器国は共同声明を発表し、「我々はNPTの下で、核軍縮に関連した効果的な措置についての誠実な交渉と、厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約の追求に引き続き関与している。我々は、すべての国にとっての安全保障が損なわれない形での核兵器のない世界という究極の目標を支持する。国際的な緊張を緩和し、国家間の安定、安全及び信頼の条件を構築することで、NPT は核軍縮に重要な貢献をしてきた。NPT は、核軍縮のさらなる進展に不可欠な条件の構築に貢献し続けている」13とした。
10 月の国連総会第一委員会では、フランスが代表して、5 核兵器国間の対話の状況を報告した。この報告では、上述の5 核兵器国によるNPT へのコミットメントを改めて確認するとともに、核兵器国間会議で合意された核軍縮のための取組として、以下の6 点を挙げた14。

➢ ドクトリンに関する対話
➢ CD における兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉への用意
➢ 核に関する用語集(第2 版)の作成
➢ 東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)議定書に関する東南アジア諸国連合(ASEAN)各国とのさらなる議論
➢ 原子力技術の便益にかかる国際社会との共有
➢ NPT 運用検討会議への各核兵器国による国別報告書の提出

核兵器国はそれぞれ個別にも、核軍縮にコミットしていることを国連総会第一委員会で言及した。
たとえば中国は、「中国は核兵器保有初日から、核兵器の完全な禁止と廃棄を主張してきた」と述べ、核兵器の先行不使用や非核兵器国への安全の保証( security assurances)を宣言してきたことに言及した。中国は同時に、最大の核戦力を保有する国が大幅な削減を検証可能で不可逆的かつ法的拘束力のある形で行うことが、他の核兵器国が核軍縮の多国間交渉に参加する必要条件だという従来からの主張を繰り返した15。
ロシアは、「核軍縮は、戦略的安定性に影響を与えるすべての要因を考慮した上で、ステップ・バイ・ステップ( step-bystep)・アプローチを通じて、すべての国に平等で不可分な安全保障の原則に基づいて初めて達成できる」と論じた。またロシアは、2019 年の米国によるINF 条約脱退後、地上発射中距離ミサイルについて、米国のシステムが配備されるまでの間は自国も配備しないとの一方的なコミットメントを行ったと報告した16。
その米国は、ロシアによる核軍備管理条約違反、あるいは中露による核戦力の積極的な近代化が国際安全保障環境を不安定化させていると批判した上で、後述するように新START 延長問題の解決、並びに米露だけでなく中国も参加する新しい時代の軍備管理への移行を求めた17。
他方、フォード(Christopher A. Ford)米国務次官補は2020 年の国連総会第一委員会で以下のように述べたが、核不拡散及び原子力平和利用と比較して、NPT の文脈における核軍縮の重要性が必ずしも言及されているわけではない。
NPT は、核兵器の拡散を防止する国際的な取組の礎石であり続けている。NPT は、人類の健康と開発のために原子力の平和利用を促進するためにも不可欠なものである。また、NPT 第6条は、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」をNPT の各締約国に課していることを明確にしている18。
フランスは、「NPT の三本柱に等しく注意を払いつつ、NPT の中心的規範の厳格な遵守」、並びに「現実的な唯一の方法である漸進的なアプローチの推進」などを、NPT 及び核軍縮への対応の基礎にすると論じた19。また英国は、「NPT と核軍縮に向けたステップ・バイ・ステップ・アプローチへの強い支持を改めて表明する。…NPTの枠組みの下で、核兵器のない世界を実現するという長期的な目標に深くコミットしている」20と発言した。
NPT 外の核保有国では、インドが国連総会第一委員会で、「普遍的かつ非差別的で、検証可能な核軍縮という目標に向けて不動の姿勢を貫いている。我々が求めているのは、ステップ・バイ・ステップ・プロセスを通じた核兵器の完全な廃絶である」21との例年の主張を繰り返した。パキスタンは、自国が提唱している南アジアにおける戦略的自制体制は依然としてテーブルの上にあり、軍縮に向けた有意義な進展には、地域的・世界的な課題に対処するための具体的なステップが必要であるとも付言した。また、核軍縮は、第1 回国連軍縮特別総会で合意された原則に沿って、包括的かつ全体的な方法で追求されなければならないと述
べた22。
核兵器の保有を肯定も否定もしないイスラエルは、国連総会第一委員会では核軍縮へのコミットメントについて言及しなかった。他方で、「NPT だけでは地域特有の安全保障上の挑戦を解決することはできないし、一部の加盟国によるNPT 違反が繰り返されている。条約発効以来、5件の重大なNPT 違反のうち4件が中東で発生している」23と述べて、NPT への不信感を表明した。
核軍縮環境創出(CEND)イニシアティブ
核軍縮の前進には国際安全保障環境の改善が必要だとする米国は、自国が提唱する「核軍縮環境創出(CEND)イニシアティブ」の下で、2019 年に環境創設作業部会(CEWG)を主催した。同年11 月にロンドンで行われた第2 回会合には31 カ国が参加し、第1 回会合に続いて、核へのインセンティブを低減すべく安全保障環境を変えるための措置、不拡散努力を強化し、核軍縮における信頼を構築すべく導入できる制度やプロセス、並びに核保有国間の戦争の可能性を低減するための暫定的措置について議論するとともに、2020〜2021 年にさらなる議論を行うことを決定した。
43 カ国(核兵器国、非核兵器国、NPT非締約国、非同盟諸国、米国の同盟国、TPNW 署名国など)の外交官が参加した2020 年9 月の「CEND リーダーシップ・グループ・ミーティング」では、フォード米国務次官補が、「外交対話が軍縮の進展を阻害してきた多くの障害を克服するための真の機会を得るためには、3 つの『避けられない事実』を常に念頭におく必要がある」24と述べ、以下の3 点を挙げた。

➢ 軍縮に向けた行動(movement)は、現実の兵器保有国が、それが実現可能、安全、検証可能、かつ持続可能であると感じた場合にのみ、またその程度において、用いることが可能となる。
➢ したがって、こうした行動は、安全保障環境における対立、紛争、脅威の状況の性質とそれらがどのように認識されているかに大きく依存する。
➢ 将来の核兵器のない世界をより可能性の高いものにするための唯一の真剣かつ実行可能な道は、そのような状況を持続的に改善することにある。

議論の内容は公表されていないが、11 月には全体会合が開催された。その市民社会へのアウトリーチ・イベントで、フォード国務次官補は、作業部会の会合を今後も四半期ごとに開催し、そのうち2021 年秋と2023 年春に全体会合を行うこと、2023 年初頭までに各サブグループの作業の第1 フェーズが完了し、何らかの報告書が取りまとめられると期待していること、2023 年序盤に第2 フェーズの作業をどのような形で実施するか評価する機会を持つことなどを明らかにした25。
非核兵器国のアプローチ
核軍縮へのアプローチについて、5 核兵器国がステップ・バイ・ステップ(stepby-step)アプローチを主張するのに対して、米国と同盟関係にあり拡大核抑止(核の傘)を供与される非核兵器国(核傘下国)が「ブロック積み上げ(building blocks)アプローチ」に基づく「前進的アプローチ(progressive approach)」を、また非同盟運動(NAM)諸国が「時限付き段階的(time-bound phased)アプローチ」をそれぞれ提唱してきた。
2020 年の国連総会第一委員会では、新アジェンダ連合(NAC:ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ)が、同連合は「生存に対する脅威への唯一の防御策は、核兵器を完全に廃絶し、二度と製造されないことを保証することであるとの信念に基づいて設立され」たものであり、「設立以来、具体的で透明性があり、相互に強化され、検証可能で不可逆的な核軍縮措置の実施と、NPTの枠組みの中での義務とコミットメントの履行を提唱してきた」26と述べた。また、核軍縮の進捗の遅さについて、「この間、一定の進展が達成されたとはいえ、十分とは言い難い。我々は、進捗の遅さ、並びに既存または新たな国際安全保障上の挑戦に基づき、これを正当化しようとする一部の国の取組を深く憂慮している。世界の安全保障環境は不作為の言い訳ではなく、むしろ緊急な取組の必要性を強めている。欠けているのは、好ましい条件ではなく、政治的な意思と決意である」27と主張した。
NAM 諸国も核軍縮を巡る状況を強く批判し、以下のように発言した。「核兵器国が採用してきた既存のアプローチ、いわゆるステップ・バイ・ステップ・アプローチは、核兵器の全面的廃絶に向けた具体的かつ体系的な進展をもたらし得なかったことは明らかである。過去数十年の間に核不拡散に関して目に見える前向きな進展があったにもかかわらず、核軍縮の前進は、戦略的安定性を含む誤った概念に囚われ続けている。今こそ、核軍縮について新たな包括的なアプローチをとる時である」28。また、NAM 諸国が提案して採択された国連総会決議では、「軍縮会議に対して、可能な限り早期に、かつ最優先事項として、2021 年に核軍縮に関する特別委員会を設置し、特定の時間枠内で核兵器の全面的廃絶につながる段階的な核軍縮計画について交渉を開始するとの要請を再度表明する」29とした。
日本は、以下のように発言した。

菅首相が国連総会の演説で述べたように、広島と長崎は決して繰り返してはならない。この決意のもと、日本は、戦時中唯一の被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けて努力を惜しまない。
…一方で、私たちは、国際的な緊張が高まる中で、厳しく不安定な安全保障環境の中で生きていることは否めない。核兵器のない世界の実現という共通の目標を達成するための方策は、このような現実を踏まえたものでなければならない。核兵器のない世界の実現には、核兵器保有国の具体的な対策が必要である30。

2020 年3 月のNPT 発効50 周年に際しては、多くの非核兵器国がこれを歓迎する声明を発表した。たとえば、日本は、以下のような外務大臣談話を発表した。

我が国は、NPT が国際的な核軍縮・不拡散体制を支え、国際社会の平和及び安全の確立と維持に貢献してきたことを高く評価します。国際社会は、大量破壊兵器拡散の脅威増大や核軍縮に関する見解の相違といった厳しい状況に直面しています。このような中、核兵器国と非核兵器国の双方が参加し、現実的かつ具体的な取組を行うためにも、NPT 体制の維持・強化が必要です。NPT が引き続き重要な役割を果たし続けるためにも、本年のNPT 運用検討会議に向けて国際社会が結束することを呼びかけます。我が国も、核兵器のない世界の実現に向けて着実に前進するための努力を粘り強く重ねてい
く考えです31。

他方で、17 の非核兵器国(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、南アフリカなど)は、「過去50 年間に核軍縮の進展はあったが、十分だと言うにはほど遠く、核軍縮の義務はいまだに果たされていない。現在の(核兵器の)近代化・高度化計画は、達成された進展を覆す危険に晒している。同時に、既存の協定が打ち切られたり、他の協定が危険に晒されたりするなど、多国間の核軍縮・軍備管理構造の非常に憂慮すべき侵食を目の当たりにしている。現代の世界的な安全保障環境と挑戦は、緊急の進展を正当化するものである」32との危機感を示した。そのうえで、NPT の「締約国は今こそ、言葉を明確で合意されたベンチマークとタイムラインに裏打ちされた具体的な行動に移す時である。そうした努力によってのみ、私たちが記念している過去50 年の重要な成果をさらに向上させ、NPT の次の50 年の成功に向けて前を向くことができるのである」と呼びかけた33。
また、NACは国連総会第一委員会において、「NPT の採択とその無期限延長の基礎は、核兵器国が核軍縮の追求と達成を法的に約束し、その見返りに非核兵器国が核兵器を開発しないことを法的に約束した『グランド・バーゲン』であることを想起することが必要である。核兵器の無期限の保有を前提とすることは、NPT の目標と目的に反し、NPT の信頼性と有効性を損なう恐れがある」34とした。
ストックホルム・イニシアティブ
スウェーデンは、「飛び石( stepping stone)アプローチ」を2019 年に提唱し、「『行動可能な』実施措置が必要」だとして、核兵器の重要性の低減、協力の慣習の再構築、核リスクの低減、及び透明性の強化という4 つの原則のもとで「飛び石」として具体的措置を列挙した35。また、スウェーデンは2020 年2 月に公表した文書で、「飛び石アプローチ」に基づくストックホルム・イニシアティブの目的について、「NPT の枠組みの中で、現実的で結果を重視した軍縮アジェンダへの政治的支持を構築することである。このイニシアティブは、共通の基盤を築き、NPT 運用検討会議の成功を促進することを目指している」とした。また、「野心的で現実的な軍縮アジェンダに対する幅広い政治的支持を構築することで、他のイニシアティブを補完しようとするものである」とし、「ストックホルム・イニシアティブは、協力的・包摂的アプローチを取っている。すべてのNPT 加盟国に、結果を重視した対話に参加するよう呼びかける」36とした。
2020 年2 月にベルリンで開催された「核軍縮のためのストックホルム・イニシアティブ閣僚会合」では、15 カ国(カナダ、ドイツ、インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイスなど)が共同声明を発表し、核リスクの低減、核兵器に関する透明性の最大化、核兵器の役割低減、米露新START の延長、核兵器の一層の削減、FMCT 交渉の推進、多国間核軍縮検証能力の開発支援、軍縮教育やジェンダー問題の推進などを提言した37。
B) 日本、新アジェンダ連合(NAC)及び非同盟運動(NAM)諸国などがそれぞれ提案する核軍縮に関する国連総会決議への投票行動
2020 年の国連総会では、例年どおり核軍縮に関する3 つの決議、すなわち日本が提案した「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話(Joint courses of action and future-oriented dialogue towards a world without nuclear weapons)」38、NAC などが提案する「核兵器のない世界に向けて:核軍縮コミットメントの履行の加速( Towards a nuclear-weapon-free world: accelerating the implementation of nuclear disarmament commitments)」39、及びNAM 諸国による「核軍縮(Nuclear disarmament)」40がそれぞれ採択された。これらの3 つの決議について、本報告書での調査対象国による2020 年国連総会での投票行動は下記のとおりである。

➢ 核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話

 提案:日本、トルコ、UAE、英国、米国など
 賛成 150(豪州、日本、カザフスタン、フィリピン、ポーランド、スウェーデン、トルコ、UAE、英国、米国など)、反対4(中国、北朝鮮、ロシア、シリア)、棄権35(オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、エジプト、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、パキスタン、サウジアラビア、南アフリカ、スイスなど)

➢ 核兵器のない世界に向けて:核軍縮コミットメントの履行の加速

 提案:ブラジル、エジプト、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、南アフリカなど
 賛成 138(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、シリア、UAE など)、反対33(ベルギー、中国、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、トルコ、英国、米国など)、棄権15(豪州、カナダ、日本、韓国、北朝鮮、パキスタンなど)

➢ 核軍縮

 提案:インドネシア、ナイジェリア、フィリピンなど
 賛成 123(ブラジル、チリ、中国、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、シリア、UAE など)、反対41(豪州、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、スイス、トルコ、英国、米国など)、棄権22(オーストリア、インド、日本、北朝鮮、ニュージーランド、パキスタン、南アフリカ、スウェーデンなど)

日本が提案した決議は、前年同様に、2018 年以前の決議と比べて簡素になり、核兵器国による透明性及び信頼醸成の向上、核リスクの低減、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアム、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名・批准、核軍縮検証への貢献、軍縮・不拡散教育の促進といった、比較的短期的に着手可能な措置を「共同行動の指針」として挙げるとともに、核軍縮の前進のために「未来志向の対話」を求めるものとなった。また、2020 年の決議では、「軍拡競争を防止する効果的な措置に関して軍備管理対話を開始する核兵器国の特別な責任につき再確認」41することが言及された。
この決議には、上記の他の2 つの核軍縮に関する決議とは異なり、一部とはいえ核兵器国の英国、及び前年は棄権の米国が賛成し、さらには共同提案国となった。しかしながら、前年の決議に賛成票を投じたフランス、並びに複数の西側非核兵器国は、2020 年の決議には棄権した。
第一委員会での採決において棄権または反対した国からは、過去のNPT 運用検討会議で採択された合意について、その履行を求めるという文言が決議案から削除されたこと、「核兵器廃絶の『究極的』目標」という表現に後退していること、TPNW や中東非大量破壊兵器地帯に関する言及がないこと、CTBT への署名・批准が核実験防止の選択肢の1 つという扱いに弱められたことなどが批判された42。また、日本の決議案は、2018 年まで「核使用による壊滅的な人道上の結末」に「深い懸念」を表明したが、前年に続いて2020 年の決議でも「深い懸念」を記載せず「認識する」と弱めた表現が用いられたことについても、引き続き批判がなされた。

C) 核兵器の非人道的結末
2015 年NPT 運用検討会議以降、オーストリアなどが主導する「人道グループ」は、核兵器の非人道性と、これを基盤とした核兵器の法的禁止に向けて、積極的に主張及び行動を展開していった。その結果が、2017 年のTPNW 採択であった。
2020 年の国連総会第一委員会では、「人道グループ」諸国などが、核兵器がもたらす壊滅的な人道的結末と、核兵器が存在し続けることによるリスクに深い懸念を表明した。また、前年に続いて国連総会では、人道グループなどの提案による決議「核兵器の非人道的結末(Humanitarian consequences of nuclear weapons)」43が採択された。投票行動は下記のとおりであった。
➢ 核兵器の非人道的結末

 提案:オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイスなど
 賛成 146(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インド、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、シリア、UAE など)、反対13(フランス、イスラエル、韓国、ポーランド、ロシア、英国、米国など)、棄権29(豪州、ベルギー、カナダ、中国、ドイツ、北朝鮮、オランダ、ノルウェー、パキスタン、トルコなど)

また、南アフリカが主導し、採択された決議「核兵器のない世界の倫理的重要性(Ethical imperatives for a nuclear-weaponfree world)」44の投票行動は下記のとおりである。
➢ 核兵器のない世界の倫理的重要性

 提案:オーストリア、エジプト、メキシコ、フィリピン、南アフリカなど
 賛成 134(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、シリア、UAE など)、反対37(豪州、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、トルコ、英国、米国など)、棄権14(中国、インド、日本、北朝鮮、パキスタン、スウェーデン、スイスなど)

核兵器国は、核兵器の非人道的側面に関する議論に当初から積極的ではなかった。それでも英国及び米国は2014 年の第3 回核兵器の人道的影響に関する国際会議に出席したが、人道グループが核兵器の法的禁止を公式に追求し始めると、この問題からさらに距離を置いた。2020 年国連総会第一委員会における5 核兵器国のステートメントでも、「人道的(humanitarian)」という言葉を用いていない。
日本が主導してきた核軍縮に関する国連総会決議に関しては、2016 年までの「核兵器のあらゆる使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念」という一文から、2017 年及び2018 年の決議で「あらゆる」という言葉が削除され、さらに2019 年の決議では、「深い憂慮」という表現も削除された。また、2018 年の決議で記されていた、「核兵器使用の非人道的結末についての深い懸念が、核兵器のない世界に向けたすべての国による努力を下支えする主要な要素であり続けている」との一文は、2019年の決議には盛り込まれなかった。2020 年の決議も、上述の点について、前年の決議と同様の表現ぶりとなった。


9 António Guterres, “Message on the International Day for the Total Elimination of Nuclear Weapons,” September 26, 2020, http://www.unic-eg.org/eng/?p=30121.
10 Nishikawa Mitsuko, “UN Disarmament Chief: Learn from Coronavirus Pandemic to Build toward Nuclear-Free World,” NHK, August 13, 2020, https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/backstories/1250/.
11 「中満次長『核戦争のリスクなくせ』 コロナ禍教訓に『大惨事』ある」『時事通信』2020 年8 月11 日、https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081100854&g=int。
12 “Conference on Disarmament Holds First Plenary under the Presidency of Argentina,” United Nations Geneva, February 21, 2020, https://www.unog.ch/unog/website/news_media.nsf/(httpNewsByYear_en)/F5EF6594A65D6B9CC12585150060F211?OpenDocument.
13 “Joint Statement by the Foreign Ministers of China, France, Russia, the United Kingdom, and the United States on the Fiftieth Anniversary of the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons,” March 10, 2020, https://www.state.gov/joint-statement-by-the-foreign-ministers-of-china-france-russia-the-united-kingdom-and-the-unitedstates-on-the-fiftieth-anniversary-of-the-treaty-on-the-non-proliferation-of-nuclear-weapons/.
14 “France on behalf of the P5 countries,” First Committee, UNGA, October 19, 2020.
15 “Statement by China,” First Committee, UNGA, October 12, 2020.
16 “Statement by Russia,” First Committee, UNGA, October 9, 2020. 他方で米国は、INF 条約脱退の理由として、ロシアがINF 条約に違反する地上発射巡航ミサイル(GLCM)を実験・配備し、その不遵守が是正されなかったことを挙げてきた。
17 “Statement by the United States,” First Committee, UNGA, October 9, 2020.
18 Ibid.
19 “Statement by France,” First Committee, UNGA, October 16, 2020.
20 “Statement by the United Kingdom,” First Committee, UNGA, October 15, 2020.
21 “Statement by India,” First Committee, UNGA, October 14, 2020.
22 “Despite Crumbling Disarmament Machinery, States Must Return to Multilateral Path towards Eliminating All Nuclear Weapons, Delegates Tell First Committee,” United Nations Meetings Coverage and Press Releases, October 16, 2020, https://www.un.org/press/en/2019/gadis3628.doc.htm.
23 “Statement by Israel,” First Committee, UNGA, October 19, 2020.
24 Christopher Ashley Ford, “Reframing Disarmament Discourse,” CEND Leadership Group Meeting, September 3, 2020, https://www.state.gov/reframing-disarmament-discourse/. この会合の具体的な参加国及び議論の内容は公表されていない。
25 Christopher Ashley Ford, “From ‘Planning’ to ‘Doing’: CEND Gets to Work,” CEND Working Group Civil Society Outreach Event, November 24, 2020, https://www.state.gov/cend-gets-to-work.
26 “Statement by Mexico on Behalf of the NAC,” First Committee, UNGA, October 14, 2020.
27 Ibid.
28 “Statement by Indonesia on Behalf of the NAM,” First Committee, UNGA, October 9, 2020.
29 A/RES/75/63, December 7, 2020.
30 “Statement by Japan,” First Committee, UNGA, October 16, 2020.
31 外務省「核兵器不拡散条約(NPT)の発効50 周年(外務大臣談話)」2020 年3 月5 日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/page1_000847.html。
32 “Joint Communiqué to Commemorate the 50th Anniversary of the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT),” May 19, 2020, https://www.un.int/philippines/statements_speeches/joint-communiqu%C3%A9-commemorate-50th-anniversary-treaty-non-proliferation-nuclear.
33 Ibid.
34 “Statement by Mexico on Behalf of the NAC,” First Committee, UNGA, October 14, 2020.
35 NPT/CONF.2020/PC.III/WP33, April 25, 2019.
36 “Statement by Swedish Foreign Minister Ann Linde,” Conference on Disarmament, February 24, 2020, https://www.government.se/speeches/2020/02/national-statement-at-the-conference-on-disarmament/.
37 “Ministerial Meeting of the Stockholm Initiative for Nuclear Disarmament,” February 25, 2020, https://www.swedenabroad.se/en/embassies/un-geneva/current/news/stockholm-initiative-for-nuclear-disarmament/.
38 A/RES/75/71, December 7, 2020.
39 A/RES/75/65, December 7, 2020.
40 A/RES/75/63, December 7, 2020.
41 このパラグラフについては、第一委員会での投票で、中国のみが反対、北朝鮮など30 カ国が棄権した一方、他の核保有国を含む136 カ国が賛成した。
42 GA/DIS/3657, November 4, 2020, https://www.un.org/press/en/2020/gadis3657.doc.htm. また、Ray Acheson,
“The Unsustainability of Hypocrisy,” First Committee Monitor, Vol. 18, No. 4 (November 8, 2020), pp. 1-2 なども参照。
43 A/RES/75/39, December 7, 2020.
44 A/RES/75/73, December 7, 2020.

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