コラム2 核兵器禁止条約
川崎 哲
核兵器禁止条約は2017 年7 月7 日に国連で採択され、50 を超える国の批准をえて2021 年1 月22 日に発効した。この条約は核兵器の使用は国際人道法違反であるとして、その開発、保有、使用また威嚇を全面的に禁止している。こうした行為を援助しまた奨励することや、他国の核を自国に配備したりすることも禁止している(以上、第1 条)。また、核保有国が加わった場合の廃棄の道筋について定めている(第4条)。さらに、核兵器の使用・実験の被害者に対する援助や、核実験等によって汚染された環境の回復を締約国の義務とし、そのための国際協力についても定めている(第6、7 条)。
いかなる国にも、核兵器に関わるいかなる行動も、いかなる場合においても禁止するというこの条約は、他の核軍備管理や核不拡散の条約とは異なり、核兵器そのものを根本的に否定している。条約前文は、被爆者(hibakusha)や核実験被害者が受けてきた「受け入れがたい苦しみ」を心に留めると記している。こうした核被害者を含む世界の非政府組織や赤十字などとともに、オーストリアやメキシコなど「人道イニシアティブ」と呼ばれる有志諸国がこの条約制定を牽引した。2017 年に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞したが、その受賞講演で被爆者のサーロー節子さんは核兵器を「絶対悪」と述べた。核兵器を否定する強い規範が国際法の形で生まれたことが、この条約の最大の意義である。
一方、核兵器を保有する9 カ国はいずれもこの条約を拒絶している。さらに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本、韓国、豪州などいわゆる「核の傘」に頼る国々も、この条約に署名・批准する意思をみせていない。そのため、この条約の実効性を疑問視する見方もある。しかし、核兵器を非人道兵器と断ずる国際法ができたことにより、核兵器の使用や開発に対する抑制力が高まることが期待されるほか、経済界においては金融機関が核兵器製造企業への投資をやめるという動き(ダイベストメント)が広がっている。核兵器に汚名を着せる効果は上がっている。
条約発効後1 年以内に第1 回締約国会議が開かれると定められているが、新型コロナウイルスの影響により延期され、2022 年半ばに開催される予定である。同会議はウィーンで開かれ、条約の署名・批准の促進(普遍化)、核保有国が加入した場合の核兵器廃棄の期限および検証制度や、核被害者の援助と環境回復のあり方などが議論される予定だ。条約非締約国もオブザーバー参加が可能であり、スウェーデン、スイスなどのほか、NATO 加盟国であるノルウェーとドイツもオブザーバー参加することを表明している。日本の岸田首相はこの条約を核兵器のない世界への「出口にあたる重要な条約」と評価しており、日本がオブザーバー参加するかどうかが注目されている。
かわさき・あきら:ピースボート共同代表