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国際平和拠点ひろしま

(2) 核兵器のない世界の達成に向けたコミットメント

A) 核兵器のない世界に向けたアプローチ

NPT 前文では、「核軍備競争の停止をできる限り早期に達成し、及び核軍備の縮小の方向で効果的な措置をとる意図を宣言し、この目的の達成についてすべての国が協力することを要請」している。また同条約第6 条では、「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と定められている。
「核兵器の廃絶」あるいは「核兵器のない世界」という目標に公然と反対する国はなく、NPT 運用検討プロセスや国連総会などの場で、核兵器国や他の核保有国も核軍縮へのコミットメントを繰り返し確認してきた。しかしながら、そうしたコミットメントは「核兵器のない世界」の実現に向けた核軍縮の着実な実施・推進を必ずしも意味するわけではなく、核軍縮は2021 年も具体的な進展を見ることなく停滞が続いた。

 

核保有国のアプローチ

5 核兵器国は、2021 年7 月に定例の5 核兵器国会議(核兵器国は国連安保理常任理事国(P5)会議と呼称している)をオンラインで開催した。5 核兵器国を代表してフランスは、10 月の国連総会第一委員会で、「我々は、すべての国の安全保障が損なわれないなかでの核兵器のない世界という究極の目標を支持する」と述べたうえで、会議の成果として以下の6 点を報告した6。

➢ 核兵器国内での予見可能性、信頼及び相互理解を強化する手段として、また具体的なリスク低減策として、ドクトリンと核政策に関する対話を重視している。5 核兵器国は、この目的のためにNPT運用検討会議でサイドイベントを開催する意向と、ドクトリンに関する意見交換を進める考えを再確認した。
➢ NPT 運用検討会議にとって価値の高いテーマである戦略的リスク低減に関して、進行中の作業を評価するとともに、この問題について長期的に取り組む用意があることを再確認する。
➢ 兵器用核分裂性物質の生産を禁止する、多国間の、国際的かつ効果的に検証可能な非差別的条約(FMCT)の交渉を、ジュネーブ軍縮会議(CD)においてコンセンサスベースで、すべての関係国の参加を得て行うことを支持する立場に変わりはない。
➢ 核関連の用語集第2 版がほぼ完成した。各国の核政策に関する相互理解を深める透明性と信頼醸成のための重要な手段である。
➢ 5 核兵器国は、東南アジア非核兵器地帯の目的を支持し、東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)に関連する東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との交流を深めることができることを再確認する。
➢ 原子力の平和利用について、5 核兵器国は、NPT の第3 の柱を強化する必要性を想起し、原子力技術へのアクセスを拡大し、エネルギー転換における原子力の役割を支援することに引き続き取り組んでいる。ウィーンでは、運用検討会議に向けた5 核兵器国の共同成果物の準備が進められている。

5 核兵器国会議は、12 月にも開催された。
5 核兵器国は、「NPT の三本柱に対する永続的なコミットメントと、その普遍化への無条件の支持を再確認」し、また「NPT のもとで、核軍縮に関する効果的な措置や、厳格かつ効果的な国際管理のもとでの全面かつ完全な軍縮に関する条約について、誠実に交渉を進めるとの約束を再確認した。5 カ国は、すべての国の安全保障が損なわれることのない、核兵器のない世界という究極の目標を支持する」とした。また、5核兵器国は、以下のような点について「第10 回NPT 運用検討会議に向けて、P5 プロセスの様々な作業工程に関する進捗状況を確認した」7。

➢ それぞれの核のドクトリン及び政策に関する最新情報を交換し、核兵器国間の予測可能性、信頼及び相互理解の強化に資するこの分野の継続的な議論へのコミットメントを改めて表明した。この観点から、このワークストリームは具体的なリスク低減策であると考え、この議論を進めるとともに、運用検討会議において核のドクトリンと政策に関するサイドイベントを開催する意思を再確認した。
➢ 核紛争のリスクを低減するために協力する責任があることを認識した。核兵器使用の可能性を減少させるために、次のNPT 運用検討サイクルにおいて、P5 プロセスにおける戦略的リスク低減に関する実りある作業を構築することを意図している。
➢ 「P5 主要核用語集」の第2 版を承認した。この用語集を5 核兵器国の作業文書として第10 回NPT 運用検討会議に提出し、会議中にサイドイベントを開催することを決定した。
➢ 東南アジア非核兵器地帯を含む非核兵器地帯の目的へのコミットメントを再確認し、東南アジア非核兵器地帯条約議定書について、核兵器国とASEAN 諸国との間で議論を進めることの重要性を想起した。また、大量破壊兵器とその運搬手段のない中東地域の確立への支持を想起した。
➢ シャノン・マンデートに基づき、すべてのCD 参加国の参加を得て、非差別的、多国間、国際的かつ効果的に検証可能なFMCT の交渉を行うことへの支持を改めて表明した。
➢ 原子力の平和利用の恩恵を共有し、NPT の柱を強化する必要があることを強調した。

核兵器国はそれぞれ個別にも、核軍縮への考え方について、国連総会第一委員会などの場で言及した。
中国は、「自衛のための核戦略を堅持し、核兵器の究極的な包括的禁止と徹底的な廃棄を支持し、核兵器のない世界の構築を支持している」こと、「核軍縮は、世界の戦略的安定とすべての国の安全保障を維持することを前提に、段階的かつバランスのとれた削減を行う、公正で合理的なプロセスであるべきだと主張している」ことなどを強調した8。
ロシアは、「核兵器のない世界の達成という崇高な目標へのコミットメントを共有している。答えなければならない問題は、世界の安定を損ねたり、国家間の溝を深めたりすることなく、この目標に向けていかに前進するかということである。我々は、核軍縮に向けた真の進展は、コンセンサスに基づく決定、調整された段階的な措置、平等かつ不可分の安全保障の原則、及び戦略的バランスを維持する必要性を維持することによってのみ達成できると固く信じている」9と述べた。
フランスは、「核軍縮に向けたステップ・バイ・ステップ(step-by-step)アプローチの一環として、すべての国の安全保障が損なわれない、核兵器のない世界に向けた具体的な進展に貢献する、前向きな核軍縮アジェンダを提示してきた」10とした。
英国は、「安全保障・防衛・開発・外交政策統合見直し」で、「我々は、核兵器のない世界という長期的な目標に引き続きコミットする。現下の安全保障環境を考慮しつつ、効果的な軍備管理・軍縮・不拡散措置を維持・強化するために努力し続ける。我々は、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用など、あらゆる面でNPT の完全な実施に強くコミットしており、核軍縮のための信頼できる代替ルートは存在しない」11という方針を再確認した。
米国は、国連総会第一委員会では核兵器の廃絶に関するコミットメントには言及しなかったが、6 月の米露首脳会談で発表された「戦略的安定に関する共同声明」で、ロシアとともに、「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならないとの原則を再確認」した12。また、6 月の米英首脳会談において、「核抑止力と近代化計画に関する緊密な連携を維持しつつ、効果的な軍備管理と核セキュリティ、並びに核兵器のない世界という目標へのコミットメントを再確認
した」13。
NPT外の核保有国では、インドが、「普遍的、非差別的かつ検証可能な核軍縮という目標にコミットしている。…核兵器の全面的な廃絶に向けた段階的アプローチに関するインドの提案は、CDでの包括的核兵器禁止条約の交渉を求めるというものである」14と発言した。他方、パキスタンのカーン(Imran Ahmed Khan)首相は、核抑止力が印パ間の戦争の勃発を抑制してきたと示唆しつつ、「私は核武装に完全に反対」であり、「カシミール地方で和解が成立すれば、2つの隣国が文明人として暮らすことになるであろう。そうすれば、核抑止力は必要なくなるであろう」と述べた15。

 

核軍縮環境創出(CEND)イニシアティブ

核軍縮の前進には国際安全保障環境の改善が必要だとする米国は、自国が提唱する「核軍縮環境創出(CEND)イニシアティブ」のもとで、2019 年に環境創設作業部会(CEWG)を主催した。2020 年9 月の「CEND リーダーシップ・グループ・ミーティング」には、43 カ国(核兵器国、非核兵器国、NPT 非締約国、非同盟諸国、米国の同盟国、核兵器禁止条約〔TPNW〕署名国など)の外交官が参加した。
バイデン政権発足後、CEND の動向はほとんど報じられていないが、ウッド(Robert Wood)米軍縮大使は2021 年5 月にCD で、「米国は引き続きCENDを全面的に支持し、核軍縮の進展に関する建設的で実行可能な提案を特定するための努力を続けている」とし、以下の課題に対応する3 つのサブグループが、非政府の専門家ファシリテーターのサポートを受けつつ、取組を着実に進めており、2020 年11 月の全体会合で議論されたタイムラインに従って、2022 年後半に各サブグループからの勧告事項を最終決定し、2023 年初頭にそれらの調査結果を発表する予定であると述べた16。

➢ 国家が核兵器を保持、取得あるいは増強するインセンティブを低減し、核兵器の削減と廃絶のためのインセンティブを高めること(共同議長:オランダ、モロッコ)
➢ 核不拡散努力を強化し、核軍縮に対する信頼を築き、さらに前進させるためのメカニズム(共同議長:韓国、米国)
➢ 核兵器に関連するリスクを低減するための暫定措置(共同議長:フィンランド、ドイツ)

 

非核兵器国のアプローチ

核軍縮へのアプローチについて、5 核兵器国が「ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」を主張するのに対して、米国と同盟関係にあり拡大核抑止(核の傘)の下にある非核兵器国(核傘下国)が「ブロック積み上げ(building blocks)アプローチ」に基づく「前進的アプローチ(progressive approach)」を、また非同盟運動(NAM)諸国が「時限付き段階的( time-bound phased)アプローチ」をそれぞれ提唱してきた。
2021 年の国連総会では、新アジェンダ連合(NAC:ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ)が、同連合は「核兵器の保有が人類にもたらしている継続的な脅威と、この生存に対する脅威への唯一の防御策は核兵器の完全な廃絶であるとの信念に取り組むべく設立された。核兵器のない世界を達成し、維持することが、NACの最大の目標である」と述べたうえで、「具体的で、透明性があり、相互に強化され、検証可能かつ不可逆的な核軍縮措置の実施、並びにNPTの義務とコミットメントの履行を提唱している」とした。さらに、「世界の安全保障環境は、何もしないことの言い訳ではなく、むしろ緊急性の必要性を強めている。不足しているのは、望ましい条件ではなく、政治的な意思と決意である」とも主張した17。
NAM 諸国は、核軍縮が進展しないという「状況は、核兵器国の不遵守によるものであり、核不拡散体制や国際的な安全保障構造への脅威となっている。…NAM は、核軍縮と核兵器の完全廃絶に向けた多国間の努力を歓迎する。…NAM は、核兵器が人類にもたらす脅威への一般市民の認識を高めることの重要性を強調する」18と発言した。また、NAM 諸国が提案して採択された核軍縮に関する国連総会決議では、「CD に対して、可能な限り早期に、かつ最優先事項として、2022 年に核軍縮に関する特別委員会を設置し、特定の時間枠内で核兵器の全面的廃絶につながる段階的な核軍縮計画について交渉を開始するとの要請を再度表明する」19とした。
米国と同盟関係にある非核兵器国は、「我々のアプローチは、核兵器がもたらすリスクを見失うことなく、国際的な安全保障環境を考慮するものである。実際、NPTは常に、地政学的な現実を考慮しつつ野心的な目標を追求するための手段となってきた。核兵器のない世界を実現するという目標に変わりはない」と述べたうえで、これらの国々が支持する「現実的かつ包摂的措置」として、NPT の普遍化、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、CD における兵器用核分裂性物質の生産禁止条約の交渉、核軍縮検証に関する協力、戦略的・核リスクの低減を目的とした措置、既存の消極的安全保証の再確認または強化、核兵器に関する透明性の向上、核ドクトリンに関する包括的な対話などを挙げた20。

 

ストックホルム・イニシアティブ

スウェーデンは2019 年に、「『行動可能な』実施措置が必要」だとして、核軍縮に関する「飛び石(stepping stone)アプローチ」を提唱し、これに基づく「ストックホルム・イニシアティブ」を主導してきた。
2021 年1 月にアンマン(ヨルダン)で開催された第3 回閣僚級会合には、16 カ国(アルゼンチン、カナダ、エチオピア、フィンランド、ドイツ、インドネシア、日本、ヨルダン、カザフスタン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス)が参加し、共催国の記者発表によれば、2020 年のベルリンでの会合で合意された、核兵器のない世界への道を前進させるための22 の具体的な提案として含まれた「飛び石」を支持するよう、NPT 締約国に求めた21。また、7 月にマドリード(スペイン)で開催され、15カ国(アルゼンチン、カナダ、フィンランド、ドイツ、インドネシア、日本、ヨルダン、カザフスタン、韓国、ニュージーランド、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス)が参加した第4 回閣僚級会議では、「核兵器を保有するすべての国に対して、リーダーシップを発揮し、核リスクへの対応・低減を行い、NPT のもとでなされたコミットメントを実現するための重要な措置の採用を通じて核軍縮を促進するよう、改めて呼びかけた」22。
7 月には、NPT 運用検討会議に向けた21カ国による作業文書「核リスク低減パッケージ」を公表し、政治的シグナルとしての宣言的コミットメント、核兵器国によるコミットメントの刷新と拡大されたリスク対話、NPT 締約国による措置の支援、研究・分析・教育・認識、プロセスの確立について、多くの具体的な提案を行った23。
12 月には第5 回閣僚級会議が開催され、18 の参加国(共催国のスウェーデンとドイツに加え、アルゼンチン、カナダ、エチオピア、フィンランド、ドイツ、インドネシア、日本、韓国、ヨルダン、カザフスタン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス)は第10回NPT 運用検討会議に向けて、引き続き協力して取組を進めることで一致し、閣僚級共同プレスステートメントを採択した。

 

B) 日本、新アジェンダ連合(NAC)及び非同盟運動(NAM)諸国などがそれぞれ提案する核軍縮に関する国連総会決議への投票行動

2021 年の国連総会では、例年どおり核軍縮に関する3 つの決議―日本が提案した「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話( Joint courses of action and future-oriented dialogue towards a world without nuclear weapons )」24 、NACなどが提案する「核兵器のない世界に向けて:核軍縮コミットメントの履行の加速(Towards a nuclear-weapon-free world: accelerating the implementation of nuclear disarmament commitments ) 」25 、及びNAM 諸国による「核軍縮( Nuclear disarmament)」26―がそれぞれ採択された。これらの3 つの決議について、本報告書での調査対象国による2021 年国連総会での投票行動は下記のとおりである。

➢ 核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話―賛成158(豪州、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、日本、カザフスタン、オランダ、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スウェーデン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦〔UAE〕、英国、米国など)、反対4(中国、北朝鮮、ロシア、シリア)、棄権27(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、パキスタン、南アフリカなど)
➢ 核兵器のない世界に向けて:核軍縮コミットメントの履行の加速―賛成140(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、シリア、UAE など)、反対34(ベルギー、中国、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、北朝鮮、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、トルコ、英国、米国など)、棄権15(豪州、カナダ、日本、韓国、パキスタンなど)
➢ 核軍縮―賛成124(ブラジル、チリ、中国、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、シリア、UAE など)、反対41(豪州、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、スイス、トルコ、英国、米国など)、棄権22(オーストリア、インド、日本、北朝鮮、ニュージーランド、パキスタン、南アフリカ、スウェーデンなど)

日本が提案した核兵器廃絶決議は、前年と同様に2018 年以前の決議と比べて簡素になり、核兵器国による透明性及び信頼醸成の向上、核リスクの低減、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアム、CTBT の署名・批准、核軍縮検証への貢献、軍縮・不拡散教育の促進といった、比較的短期的に着手可能な措置を「共同行動の指針」として挙げるとともに、核軍縮の前進のために「未来志向の対話」を求めるものとなった。また、2021 年の決議では、NPT のもとで「すべての締約国が核軍縮と核不拡散に関するすべての義務を遵守することの必要性を強調」し、1995 年、2000 年2010 年のNPT 運用検討会議で合意された決定やコミットメントを履行する重要性を再確認した。
この決議には、上記の他の2 つの核軍縮に関する決議とは異なり、一部とはいえ核兵器国のフランス、英国及び米国が前年と同様に賛成し、さらには共同提案国となった。また、前年の決議に棄権した複数の西側非核兵器国は、2021 年の決議には賛成票を投じた。他方、この決議には批判も少なくなく、オーストリアは棄権の理由として、過去のNPT 運用検討会議で合意された文言から後退していることなどを挙げ、「決議に含まれる文言は、運用検討会議のいかなる成果物のための青写真を提供するものではない」とした27。また、日本の決議案は、2018 年まで「核使用による壊滅的な人道上の結末」に「深い懸念」を表明したが、前年に続いて2021 年の決議でも「深い懸念」を記載せず「認識する」と弱めた表現が用いられた。決議案は第一委員会において、18 パラグラフにわたって分割投票に付された。

 

C) 核兵器の非人道的結末

2015 年NPT 運用検討会議以降、オーストリアなどが主導する「人道グループ」は、核兵器の非人道性と、これを基盤とした核兵器の法的禁止に向けて、積極的に主張及び行動を展開していった。その結果が、2017 年のTPNW 採択であった。
2021 年の国連総会では、前年に続き、「人道グループ」諸国などが提案し、核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的影響を強調し、すべての国に対して核兵器の使用や拡散を防止し、核軍縮を達成するよう求める決議「核兵器の非人道的結末( Humanitarian consequences of nuclear weapons)」28が採択された。投票行動は下記のとおりであった。

➢ 核兵器の非人道的結末―賛成148(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インド、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、シリア、UAEなど)、反対12(フランス、イスラエル、ポーランド、ロシア、英国、米国など)、棄権29(豪州、ベルギー、カナダ、中国、ドイツ、韓国、北朝鮮、オランダ、ノルウェー、パキスタン、トルコなど)

また、やはり「人道グループ」諸国などが提案し、核兵器の本質的な非道徳性とその廃絶の必要性を強調した決議「核兵器のない世界の倫理的重要性( Ethical imperatives for a nuclear-weapon-free world)」29の投票行動は下記のとおりである。

➢ 核兵器のない世界の倫理的重要性―賛成135(オーストリア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、シリア、UAE など)、反対37(豪州、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ロシア、トルコ、英国、米国など)、棄権14(中国、インド、日本、北朝鮮、パキスタン、スウェーデン、スイスなど)

核兵器国は、核兵器の非人道的側面に関する議論に当初から積極的ではなかった。それでも英国及び米国は2014 年の第3 回核兵器の人道的影響に関する国際会議に出席したが、人道グループが核兵器の法的禁止を公式に追求し始めると、この問題からさらに距離を置いた。2021 年国連総会第一委員会におけるステートメントでも、5 核兵器国は核問題に言及する際に、「人道的(humanitarian)」という言葉を用いていない。
日本が主導してきた核軍縮に関する国連総会決議に関しては、2016 年までの「核兵器のあらゆる使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念」という一文から、2017 年及び2018 年の決議で「あらゆる」という言葉が削除され、さらに2019 年の決議では、「深い懸念」という表現も削除された。また、2018 年の決議で記されていた、「核兵器使用の非人道的結末についての深い懸念が、核兵器のない世界に向けたすべての国による努力を下支えする主要な要素であり続けている」との一文は、2019年の決議には盛り込まれなかった。2020 年に続き2021 年の決議も、上述の点について、前年の決議と同様の表現ぶりとなった。


6 “Statement by France as Coordinator of the P5,” General Debate, First Committee, UNGA, October 7, 2021.
7 “Final Joint Communique,” P5 Conference Paris, December 3, 2021, https://www.mid.ru/en/foreign_policy/news/-/asset_publisher/cKNonkJE02Bw/content/id/4983321.
8 “Statement by China,” Clusters I to IV, First Committee, UNGA, October 13, 2021.
9 “Statement by Russia,” General Debate, First Committee, UNGA, October 6, 2021.
10 “Statement by France,” General Debate, First Committee, UNGA, October 5, 2021.
11 United Kingdom, Global Britain in a Competitive Age, p. 78.
12 “U.S.-Russia Presidential Joint Statement on Strategic Stability,” June 16, 2021, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/06/16/u-s-russia-presidential-joint-statement-on-strategic-stability/.
13 “Joint Statement on the Visit to the United Kingdom of the Honorable Joseph R. Biden, Jr., President of the United States of America at the Invitation of the Rt. Hon. Boris Johnson, M.P., the Prime Minister of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland,” June 10, 2021, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statementsreleases/2021/06/10/joint-statement-on-the-visit-to-the-united-kingdom-of-the-honorable-joseph-r-biden-jrpresident-of-the-united-states-of-america-at-the-invitation-of-the-rt-hon-boris-johnson-m-p-the-prime-min/.
14 “Statement by India,” General Debate, First Committee, UNGA, October 21, 2021.
15 Anwar Iqbal, “No Need for Nuclear Deterrence If Kashmir Dispute Resolved: PM,” Dawn, June 22, 2021,https://www.dawn.com/news/1630746.
16 Robert Wood, “Prevention of Nuclear War, Including All Related Matters: Nuclear Risk Reduction,” Remarks to the CD Plenary Thematic Debate on Agenda Item 2, May 18, 2021, https://geneva.usmission.gov/2021/05/18/ambassador-woods-remarks-to-the-cd-plenary-thematic-debate-on-agenda-item-2/.
17 “Statement by South Africa on behalf of the NAC,” First Committee, UNGA, October 11, 2021.

18 “Statement by Indonesia on behalf of the NAM,” First Committee, UNGA, October 4, 2021.
19 A/RES/76/46, December 6, 2021.
20 “Joint statement by Italy on behalf of a group of countries,” Thematic One to Four, First Committee, UNGA, October 14, 2021.
21 “Press release by co-hosts of 3rd Ministerial Meeting of Stockholm Initiative for Nuclear Disarmament,” January 6, 2021.
22 “Press release by co-hosts of 4th Ministerial Meeting of Stockholm Initiative for Nuclear Disarmament,” July 5, 2021.
23 “A Nuclear Risk Reduction Package,” Working paper by the Stockholm Initiative, supported by Argentina, Australia, Belgium, Canada, Denmark, Ethiopia, Finland, Germany, Iceland, Indonesia, Japan, Jordan, Kazakhstan, Luxembourg, the Netherlands, New Zealand, Norway, the Republic of Korea, Spain, Sweden and Switzerland, July 2021, https://www.government.se/4a2425/contentassets/690891c6d51244e188aa6e8f2677f57c/workingpapernuclearrisk
reduction_stockholminitiative_endorsed-by-21-states-july-2021.pdf.
24 A/RES/76/54, December 6, 2021.
25 A/RES/76/49, December 6, 2021.
26 A/RES/76/46.
27 “Austria—Explanation of Vote after the Vote Cluster 1 – Nuclear Weapons,” First Committee, UNGA, October 27, 2021, https://www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com21/eov/L59_Austria.pdf.
28 A/RES/76/30, December 6, 2021.
29 A/RES/76/25, December 6, 2021.

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