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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023特別寄稿:第10回NPT運用検討会議

第10回運用検討会議議長  グスタボ・スラウビネン

第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議は、当初から非常に大きな課題に直面していた。特に、5核兵器国が核軍縮の義務とコミットメントを果たしていないことに、大多数の締約国が不満を募らせ、NPTの基礎となる「グランドバーゲン」そのものが存亡の危機を迎えていた。核兵器禁止条約(TPNW)の採択と発効により、分裂はさらに拡大したように見えた。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による中断も、核兵器国が運用検討会議での激しい批判に直面するのを避けるために、度重なる延期を利用しているという考えを悪化させたに過ぎなかった。その一方、中断期間によって、手続き面だけでなく、実質的な問題についても、すべての締約国が何度かオンライン協議を行う時間を確保することができた。機運を維持するために、国連軍縮部(UNODA)は一連のトピック別・地域別ウェビナーを共催するという、素晴らしい仕事をした。しかし、運用検討会議をオンラインまたはハイブリッド方式で実施するという選択肢が、参加国の注目を集めた。いくつかの非同盟運動(NAM)諸国代表団とロシアからの厳しい反対に直面し、このオプションは最終的に断念された。目下の重要かつ複雑な問題は、「成熟した」伝統的なアプローチによる直接の交渉プロセスを必要としていたため、これは正しい判断であったことが証明された。
パンデミックによる制約が徐々に解除され、運用検討会議の日程が確定しようとした時、ロシアのウクライナ侵略が国際安全保障環境を大きく変え、運用検討会議での交渉に新たな複雑な課題を追加したのである。私は議長として、戦争の影響をNPTの義務に直接影響する問題や行動に限定して」カプセル化」するよう代表団に求めた。しかし、このアプローチに、紛争に直接関与した代表団は従わなかった。ロシア当局による核兵器使用の脅威は、ロシア代表団はこれを否定したが、交渉プロセスを劇的に変化させた。その上、ロシア軍によるウクライナの原子力発電所への攻撃と占拠は状況を悪化させ、双方が最低限の対話をすることさえ不可能にした。

過去の運用検討会議でのコミットメントの有効性、核兵器の近代化と拡大、消極的安全保証と核リスク削減、NPTとTPNWの関係、核兵器の人道的影響、核拡散のリスクの高まりと北朝鮮などの地域的問題、中東やAUKUS(豪・英・米の安全保障枠組み)のプロジェクト、国際原子力機関(IAEA)の保障措置システム、追加議定書、原子力安全と核セキュリティ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効と兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉の支援、原子力の平和利用へのアクセスの拡大・改善に対する高まる要求を満たすための新しいアプローチなど、他にも多くの重要課題があり、条約の3本柱の下で議論や交渉が必要だったし、また行わなければならなかったのである。

運用検討会議に設置された3つの主要委員会と3つの補助機関は、いずれも経験豊かなベテラン外交官が委員長を務め、NPTの履行状況を検証するとともに、条約の義務とコミットメントをさらに履行するための具体的行動(1995年運用検討会議が求めた、過去を振り返り、将来を見据えるというアプローチ)を検討する責任を果たした。主要委員会や補助機関に割り当てられた会合がキャンセルされたことは一度もなかった。これは、すべての代表団が運用検討会議期間中に自らの役割を果たすという決意と強さを如実に反映している。立場の違いから交渉がほとんど不可能な状況であっても、議論されないまま放置された問題はなかった。
こうしたギャップを埋める方法を探していた私は、フィンランド代表に、主要な問題についてコンセンサスを得ることができるような文言を作成するため、いくつかの国の代表団を集めたグループを招集するよう依頼した。このグループは、すべての地域グループ、政治的グループ、立場から、最も幅広くバランスの取れた代表を反映し、その数はコントロール可能な規模に保たれた。この作業は容易ではなく、結果は完璧とは言い難いものであった。しかし、それは重要な前進であり、主要委員会及び補助機関の議長が提供した文言と合わせて、コンセンサスによる最終文書採択の可能性が高いと考えた草案を作成した。
総会で草案に対する反応を注意深く聞いた後、私は相当な数の代表団と1対1の集中的な二者会合を行った。これらの代表団は草案のいくつかの要素について深刻な反対(いわゆる」レッドライン」)を表明していた。彼らを取り込むために、私は各代表団にとって最も問題となる「レッドライン」をできる限り反映した形で草案に若干の変更を加え、ある程度の柔軟性を示す必要があった。しかし、その多くは他の代表団の立場と真っ向から対立するものでもあり、すべてを受け入れることはできなかった。その後、私は、すべての代表団にとって「同じように幸せではない」ものの、合意を阻むまでには至らないという理解のもと、私の最善の努力を反映させた妥協案を提出した。

会議の最終日、私が交渉を行った代表団からは、彼ら自身または私の要請によって修正された最終文書に対して、これを受け入れるという確認を得た。しかし、ロシアの代表団からは、直前になって「支持しない」という示唆があった。ロシア側との緊迫した会談のなかで、ウクライナでの戦争に関する重要な問題について、モスクワの立場を反映した非常に具体的な文言を私が導入しない限り、合意を阻止せざるを得ないと説明があった。私は、会議の初日からロシア側からの強い要求を受けていたが、そのうちのいくつか、つまり彼らが」ブラックライン」と呼ぶものについては、できる限り対応するようにした。ロシアの残りの要求は、他のどの代表団からも支持を得られなかったため、盛り込むことは不可能だった。私は、ロシアの「ブラックライン」を受け入れることで、すでに大きな政治的リスクを負っており、それがコンセンサスを妨げない程度であれば十分だという印象を持っていた。しかし、そうではなかった。私の見立てが的外れだったのか、それとも彼らの立場が変わったのか。いずれにせよ、この時、それは非常に明確だった。彼らは、「ブラックライン」も「レッドライン」もすべて文書に取り込むことを要求してきた。
運用検討会議の事務局長と慎重に選択肢を検討した結果、私は成果文書の草案をこれ以上修正することなく、全体会議に提出し、行動を起こすことにした。ロシア代表団が記録に残る形でこれに異議を唱え、私は仕方なく最終文書を私自身のものに変更した、すなわち「合意文書」ではなく、「議長声明」である。

しかし、会議の閉会前に、私はすべての代表団の合意により、NPTの歴史上初めて、NPTの運用検討プロセスの強化に関する作業部会を設置するという正式な決定を採択することができた。私たちが直面した困難な状況の下、これは小さいながらも具体的な前進だと信じている。あとは、締約国が賢く利用するのみである。たとえば、核兵器国による報告義務(核兵器に関する情報を含む)をより明確にすること、コミュニティとして核リスク削減に関する実践的なステップを特定すること、非核兵器国に対する安全保証に関する条約の交渉、原子力の平和利用及び協力をさらに促進するための革新的な行動に関する取組などである。
多くの人が、私たちが成功しなかったのは、締約国が核軍縮に関する行動のベンチマークやタイムフレームを設定するなどの具体的なステップを含む最終文書に合意しなかったからだと考えている。これはまだ高い課題であり、政治的な意思と、すべての締約国からの圧力が必要であろう。しかし、私たちも失敗したわけではない。1カ国を除くすべての代表団が、不完全ながらも、私たちの立ち位置に関する最低限の理解を反映した成果文書に合意する用意があったことは、締約国を結びつける利益の共同体が依然として有効であることを反映している。そうすることで、私たちは「システム上の失敗」を回避することができた。国際的な安全保障の状況や核兵器国の政治的な意思により、第11回運用検討会議において、私たちがやり残したところから再開し、NPT締約国の大多数が要求し、またそれに値するような、真の進展に合意することを期待している。

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