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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(4) TPNW

A) 署名・批准の状況
2017年9月20日に署名開放されたTPNWの署名国・批准国は着実に増加してきた。TPNWは2020年10月24日に批准国が50カ国に達したことで、条約第15条に従って、2021年1月22日に発効した。2023年末には署名国が93カ国、締約国が69カ国となった。調査対象国のうち、締約国はオーストリア、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド及び南アフリカ、署名国はブラジル及びインドネシアである。

 

B) 締約国会議
TPNWの第2回締約国会議は、2023年11月27日~12月1日にニューヨークの国連本部で開催された。会議には56の締約国、国連など国際機関、並びに122の非政府組織が参加した。また、豪州、ベルギー、ブラジル、エジプト、ドイツ、インドネシア、ノルウェー、スイスなど33カ国がオブザーバー50として参加した。

5日間の会議では、ハイレベル会合、核兵器の非人道的影響に関するテーマ別討論、一般討論に続いて、「条約の現状と運用、その他条約の目的と目標を達成するために重要な事項の検討」が行われた。

会議には、第1回締約国会議の決定に基づいて設置された条約履行のための会期間構造から、以下のような報告書が提出された。

「被害者支援・環境修復、国際協力・支援に関する非公式作業部会の共同議長報告書」
「普遍化に関する非公式作業部会の共同議長報告書」
「ジェンダー・フォーカル・ポイント報告書」
「TPNWと、NPT及び他の関連する核軍縮・不拡散文書との間で、具体的な協力が可能な分野をさらに探り、明確化するための非公式ファシリテーター報告書」
「年間の活動に関する科学諮問グループ報告書」51
「核兵器、核兵器のリスク、核兵器の非人道的結末、核軍縮、及び関連問題の現状と進展に関する科学諮問グループ報告書」
「第4条の履行に関する非公式作業部会共同議長報告書」

また、以下のような作業文書をもとに、最終文書の策定に向けて議論が行われた。

➢ 作業文書1「TPNW:軍縮の倫理に向けて」(バチカン市国)
➢ 作業文書2「会期間構造」(議長)
➢ 作業文書3「締約国会議のテーマ別討論」(議長)
➢ 作業文書9「TPNWの下での締約国の安全保障上の懸念の普遍化」(オーストリア)

会議最終日には、「宣言」及び「決定」がコンセンサスで採択された。

 

「宣言」
「核兵器の禁止を堅持し、その破滅的な結果を回避することへのコミットメント」52と題する「宣言」では、以下のような点を含め、TPNWの下で、核抑止の正当性を否定し、核兵器の世界的な禁止を追求していく意思が言及された。

核兵器がもたらす破滅的な非人道的影響に対する重大な懸念を再確認する。この影響は、適切に対処することができず、国境を越え、人間の生存と福祉に重大な影響を及ぼし、生存権の尊重とは相容れない。
核兵器がもたらす壊滅的な非人道的影響とリスクは、核軍縮のための道徳的・倫理的要請、並びに核兵器のない世界の実現と維持の緊急性を支えるものである。核兵器がもたらす人的犠牲や、人命と環境を守る必要性を強調しつつ、これらの点をすべての軍縮政策の中心に据える必要がある。
新たな科学的研究により、核兵器がもたらす破滅的な非人道的影響とそれに関連するリスクが、多面的かつ連鎖的に作用していることが明らかになった。
核兵器が存在し続け、軍縮に意味のある進展が見られないことは、すべての国の安全保障を損ない、国際的緊張を悪化させ、核による大災害のリスクを高め、人類全体にとって存続の脅威となる。核兵器の使用に対抗する唯一の保証は、その完全な廃絶と、二度と核兵器が開発されないという法的拘束力のある保証である。
核兵器を使用するという威嚇や、激しさを増す核の暴言に対して、引き続き深い憂慮の念と、断固たる遺憾の意を表明する。我々は、核兵器のいかなる使用や使用の威嚇も、国連憲章を含む国際法に違反するものであることを強調し、さらに、核兵器のいかなる使用も国際人道法に反するものであることを強調する。いかなる核の威嚇も、明示的であれ暗示的であれ、また状況の如何にかかわらず、明確に非難する。
核兵器に関するレトリック、並びにいわゆる「責任ある」行動を正常化しようとする試みを拒否する。
核兵器は、平和と安全を守るどころか、政策の道具として使われ、強制や威嚇、緊張の高まりにつながっている。核抑止力を正当な安全保障のドクトリンとして新たに提唱し、主張し、正当化しようとする試みは、国家安全保障における核兵器の価値に誤った信任を与え、水平的・垂直的な核拡散の危険性を高めている。
TPNWは、核兵器の譲渡や管理を受けたり、核兵器の駐留、設置、配備を許可したりすることを明確に禁止している。そうした核の取極を持つすべての国に対して、そうした取極を終了し、条約に参加するよう求める。
核兵器の権威を失墜させ、汚名を着せ、完全に廃絶するという不屈のコミットメントにおいて、これまで以上の決意を持っている。
核軍縮・不拡散体制の礎石であるNPT、CTBT、非核兵器地帯条約など、他の補完的な条約の下での活動を含め、軍縮・不拡散体制を全体として前進させ、強化するために役割を果たす。
TPNW締約国は、NPTの完全な締約国として、TPNWとNPTの相互補完性を再確認する。我々は、NPTの下での義務を履行し、責任、約束、合意を遵守し続ける。我々は、核兵器の包括的な法的禁止を発効させることにより、NPT第6条の履行を前進させたことを喜ばしく思う。
TPNWの義務に抵触しない限り、過去に締結した条約に由来する義務の履行を完了する際、TPNWとその目的・趣旨に対する我々のコミットメントは影響を受けないことを明確に確認する。

 

「決定」:制度面での合意
会議で採択された主として制度面に関する「決定」53では、決定1において、「条約履行のための会期間構造」として、「普遍化」(共同議長国:南アフリカ、ウルグアイ)、「被害者支援・環境修復、国際協力・支援」(共同議長国:カザフスタン、キリバス)、「第4条の履行」(共同議長国:マレーシア、ニュージーランド)という3つの非公式作業グループを設置すると定められた。また、条約のジェンダー規定の実施を支援するジェンダー・フォーカル・ポイントとしてメキシコが指名された。さらに、既存の核軍縮・不拡散体制とTPNWの補完性に関して、会期間の非公式なファシリテーターにアイルランドとタイが任命された。

決定4では、「被害者援助及び環境修復のための国際信託基金設立の実現可能性とガイドラインの可能性について、焦点を絞った議論が行われる」こと、並びに「第3回締約国会合において、被害者支援と環境修復のための国際信託基金の設立を優先的に検討するため、その実現可能性とガイドラインの可能性に関する勧告を盛り込んだ報告書を第3回締約国会合に提出する」ことが規定された。

決定5では、会期間の「TPNWの下での国家の安全保障上の懸念に関する協議プロセス」を設置すること、オーストリアがコーディネーターに任命されることが記載された。このプロセスでは、締約国・署名国の間で、科学諮問グループ、赤十字国際委員会(ICRC)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、その他の利害関係者や専門家の参加を得て、以下のような包括的な主張と勧告を含む報告書を第3回締約国会議に提出することとなった。

核兵器の存在と核抑止の概念から生じる、条約に明記された正当な安全保障上の懸念、脅威、リスク認識をよりよく広め、明確にすること。
核兵器の非人道的影響とリスクに関する新たな科学的証拠を強調・宣伝し、核抑止力に内在するリスクや仮定と並置することで、核抑止力に基づく安全保障パラダイムに挑戦すること。

 

C) 署名国・締約国の動向
TPNWを支持する国々はNPT準備委員会でも、特に核兵器の非人道性や法的禁止、並びにNPT第6条の履行にかかる効果的な措置といった観点からTPNWの重要性を論じるとともに、条約がNPTと補完関係にあることを主張した。TPNW締約国・署名国は共同声明を発出し、「NPTに完全にコミットする締約国として、NPTの下で、またCTBT、非核兵器地帯条約、TPNWそのものといった他の補完的な条約の下で、義務を完全に履行し、責任と合意を遵守し続ける」と述べた。また、「すべての国に対して、遅滞なくTPNWに加入するよう求める。この一歩を踏み出す準備がまだできていない国に対しては、TPNW締約国・署名国と協力的かつ建設的に関与するよう訴えるとともに、…第2回TPNW締約国会議にすべての国が出席するよう奨励する」と呼びかけた54

NACは、「TPNWは、世界の軍縮体制における不均衡と、一方では生物・化学兵器、他方では核兵器の扱いとの間の格差に対処することを目指すものである。それは、核兵器に対する人道的アプローチの取り入れ方を含め、NPTを強化・補完するものであり、第6条の実施の緊急性を強調するものである。両条約の補完性が適切に反映されることを期待する」55と論じた。

TPNWを支持する国々が国連総会に提案し、採択された決議「核兵器禁止条約」56では、非締約国に対して可能な限り早期に署名、批准、受諾、承認または加入するよう呼びかけた。この決議の投票行動は、以下のとおりであった。

賛成123(オーストリア、ブラジル、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカなど)、反対43(カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イスラエル、日本、韓国、北朝鮮、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ロシア、スウェーデン、トルコ、英国、米国など)、棄権17(豪州、サウジアラビア、スイスなど)-シリアは投票せず

核兵器の法的禁止に関連して、国連総会では前年と同様に「核兵器の威嚇または使用の合法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見のフォローアップ」57、及び「核兵器使用禁止条約」58という2つの決議が採択された。その投票行動は、それぞれ以下のとおりである。

核兵器の威嚇または使用の合法性に関するICJの勧告的意見のフォローアップ―賛成135(オーストリア、ブラジル、中国、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、ニュージーランド、パキスタン、サウジアラビア、南アフリカ、スイス、シリアなど)、反対35(豪州、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、ポーランド、ロシア、スウェーデン、トルコ、英国、米国など)、棄権15(カナダ、インド、日本、オランダ、ノルウェー、北朝鮮など)
核兵器使用禁止条約―賛成120(中国、エジプト、インド、インドネシア、イラン、カザフスタン、メキシコ、南アフリカ、シリアなど)、反対50(豪州、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国など)、棄権14(ブラジル、日本、北朝鮮、パキスタン、ロシア、サウジアラビアなど)

 

D) 未署名国の動向
核保有国は、引き続きTPNWに反対するとの立場を変えていない。5核兵器国を含む核保有国はいずれも、TPNWは核兵器の禁止に関する慣習国際法を形成するものではなく、署名していない国に対していかなる義務も生じさせないとの立場を主張している。

多くの核兵器国は、NPT準備委員会で必ずしもTPNWへの強い批判を述べたわけではなかったが、そのなかでロシアは、「たんに核兵器を非合法化することを含め、『核兵器ゼロ』への『近道』を含むスキームはまったく実現不可能であると信じている。こうした考えに基づき、我々は一貫して、TPNWのような試みは逆効果であると述べてきた。核軍縮の最終目標である『核兵器のない世界』という理念を共有する一方で、TPNWの性急な起草と締結は、この目標に近づいていないと確信している。TPNWは、NPT締約国間の分裂を深め、NPTの存続可能性を弱めただけである」59と、厳しい反対意見を述べた。

本調査対象国でTPNW非締約国のうち、豪州、ブラジル、エジプト、ドイツ、インドネシア、ノルウェー、スイスが、第2回締約国会議にオブザーバーとして参加した。ベルギー、ドイツ、ノルウェーは会議での演説で、いずれも北大西洋条約機構(NATO)の核抑止態勢への支持を明言し、またTPNWへの加入を明確に否定した。他方、ドイツは被害者援助・環境修復について、国際協力や研修の支援、核実験の影響に関する統計調査、放射線が女性・少女に与える影響の調査といった具体的な取組に協力する意向を表明した60。

日本は、前回に続いて第2回締約国会議に参加しなかった。小林麻紀外務報道官は記者会見で、「核兵器禁止条約そのものにつきましては重要な条約であるものの、『核兵器のない世界への出口』、そこに至る道筋というのは、核兵器国が1か国も参加していない中では立っていないという現状の中で、日本としては、唯一の戦争被爆国として、核兵器国を関与させる努力をしていくと、そういった観点から、今般の会合にオブザーバー参加しないという決断をしたというものです」61と発言した。日本が2023年の国連総会に提案した核兵器廃絶決議では、前年の決議に続いて、条約の成立や発効などといった事実関係のみではあるが、TPNWに言及した。


50 2022年の第1回締約国会議には、豪州、ベルギー、ブラジル、ドイツ、インドネシア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスなど34カ国がオブザーバーとして参加した。

51 科学諮問グループは、2023年3月に設置され、15名の委員が任命された。同グループの報告書は、核兵器の現状、核兵器のリスク、核兵器の非人道的影響、核軍縮、及び同グループのマンデートに基づく関連問題に焦点を当ている。
52 TPNW/MSP/2023/14, December 13, 2023.

53 Ibid.

54 “Joint Statement on the TPNW,” Cluster 1, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 3, 2023.
55 “Statement by Mexico on behalf of the NAC,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, July31, 2023.
56 A/RES/78/35, December 4, 2023.
57 A/RES/78/33, December 4, 2023.
58 A/RES/78/55, December 4, 2023.

59 “Statement of Russia,” Cluster 1, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 3, 2023.
60 “Statement by Germany,” TPNW 2MSP, November 29, 2023.

61 「小林外務報道官会見記録」外務省、2023年11月22日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken5_000005.html。

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