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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(5) 核関連輸出管理の実施

A) 国内実施システムの確立及び実施
核関連輸出管理にかかる国内実施システムの確立・実施状況に関して、2023年には顕著な動きは見られなかった。調査対象国のうち豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、スイス、英国及び米国は、原子力供給国グループ(NSG)を含む4つの国際的輸出管理レジーム104に参加し、いずれも国内実施制度(立法措置及び実施体制)を整備し、リスト規制に加えて、リスト規制品以外でも貨物や役務(技術)がWMDや通常兵器の開発、製造などに使用されるおそれがある場合に適用されるキャッチオール規制を実施するなど、原子力関連の輸出管理を着実かつ適切に実施してきた105。

こうした国々は輸出管理の強化に向けた活動も活発に行ってきた。たとえば日本は、アジアでの、及び国際的な不拡散の取組を促進すべく、アジア諸国や域外主要国を招き、アジア輸出管理セミナーを毎年開催してきた(2021年は新型コロナ禍で開催されなかった)。2023年2月の第29回アジア輸出管理セミナーには30カ国・地域と8つの国際機関などから約150名が参加し、先端技術の重要性の高まりを踏まえた産業界・学会へのアウトリーチ、アジアの輸出管理強化、並びに国際的な枠組みにおける活動などに関して議論が行われた106。

また、ウィーン10カ国グループはNPT準備委員会に提出した作業文書で、「締約国は、核物質、機微な機器または技術を供給する前に、受領国がNPTに関連するIAEA保障措置、適切な核セキュリティ体制、不正取引と闘うための最低限の措置、及び再移転の場合の適切な輸出管理のための規則及び規制を整備していることの保証を求める責任を負う」107ことを提案した。

上記以外の本調査対象国のなかで、NSGメンバー国はブラジル、中国、カザフスタン、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコである。これら7カ国も、キャッチオール規制の実施を含め、核関連の輸出管理にかかる国内実施体制を確立している。このうち、中国は2021年末に「輸出管理白書」を公表し、「中国は真の多国間主義を支持する国際条約とメカニズムの権威を守り、公正で合理的かつ非差別的な国際的輸出規制の実施を積極的に推進する」とし、国家安全保障への全体的アプローチの維持、国際的な義務とコミットメントの尊重、国際協力と協調の促進、並びに輸出管理措置の濫用への反対といった基本的立場を示すとともに、中国の取組を概観した108。

NSGメンバー以外の本調査対象国に関しては、エジプト、インドネシア、サウジアラビアでは適切な輸出管理制度・体制の構築に至っていない。他方、そのエジプトやインドネシアを含むNAM諸国は、「核拡散の懸念は、多国間で交渉され、普遍的、包括的かつ非差別的な協定を通じて対処するのが最善であることを強調する。さらに当グループは、不拡散管理の取極は、透明性が高く、すべての国の参加に開かれたものであるべきであり、開発途上国がその継続的発展のために必要とする平和目的の物質、設備、技術へのアクセスに制限を課すべきではないことを強調する」109と述べるなど、輸出管理レジームの多くが国連の枠組みの外で、選択的かつ非包括的な方法で、また開発途上国の適切な関与なしに開発されたことを批判してきた。

NPT非締約国のインド、イスラエル及びパキスタンは、いずれもキャッチオール規制の実施を含む輸出管理制度を確立している。NSGではインドのメンバー国化に関する議論が続いているが、2023年もNSGメンバー国によるコンセンサスには至らなかった。中国は、NPT非締約国にNSG参加が認められた前例はないとの原則論110に加えて、非公式には、インドの参加を認めるのであればパキスタンの参加も認めるべきだと主張してきたとされる111。そのパキスタンは、原子力安全と核セキュリティに関して模範的な行動をしているとして、NSGに参加する資格があると主張してきた。

北朝鮮、イラン及びシリアといった拡散懸念国が、輸出管理の実効的な国内実施体制を整備していることを示す報告や資料を見出すことはできなかった。これらの国の間では、後述するように、少なくとも弾道ミサイル開発にかかる協力が行われてきたと見られている。また北朝鮮は、シリアの黒鉛減速炉建設に関与したと疑われている。

 

B) 追加議定書締結の供給条件化
NSGガイドライン・パート1では、パート1品目(核物質や原子炉などの原子力専用品・技術)の供給条件にIAEA包括的保障措置の適用を定め、さらに濃縮・再処理にかかる施設、設備及び技術の移転に関しては、2011年6月に合意された改訂版で、「供給国は、受領国が、包括的保障措置協定を発効させており、かつ、モデル追加議定書に基づいた追加議定書を発効させている(又は、それまでの間、IAEA理事会により承認された適切な保障措置協定(地域計量・管理取極を含む。)を、IAEAと協力して実施している)場合にのみ、この項に従って、移転を許可すべきである」112(第6項(c))としている。

NPDIやウィーン10カ国グループなどは、包括的保障措置協定及び追加議定書がIAEA保障措置の現在の標準であり、これを非核兵器国との新しい供給アレンジメントの条件にすべきだと主張してきた113。日本や米国がそれぞれ締結した最近の二国間原子力協力協定には、核関連物質を供給する要件として、相手国によるIAEA追加議定書の締結を規定している。

これに対してNAM諸国は、「IAEA包括的保障措置及びNPTの厳格な遵守が、条約非締約国との原子力分野での協力の条件であり、また、そのような国との間で、原料物質もしくは特殊核分裂性物質、または特殊核分裂性物質の処理、使用もしくは製造のために特別に設計または準備された装置や物質を移転するための供給協定を締結するための条件であることを強調する」114と述べ、NPT及びIAEA包括的保障措置協定の当事国に対する核関連資機材、物質、技術の移転にいかなる制限も課すべきではないと主張している。中国及びロシアも、追加的な条件・義務を課すことに反対している。このうちロシアは、「もう1つの破壊的な傾向は、各国の原子力技術へのアクセスを制限する口実としてNPTを利用することである。そのようなことをする国々は、原子力の平和利用の権利を保証するNPT第4条を忘れている。また、このようなアプローチは、条約が不公平であるという誤った印象を与えるため危険である。実際には、NPT締約国の一部が、短期的な政治的課題に対処するために、NPTの条項を乱用しているだけである」115と発言した。

核兵器拡散の観点から最も機微な活動の1つであるウラン濃縮、及び使用済燃料の再処理に関しては、平和目的であり、IAEA保障措置が適用される限りにおいて、非核兵器国であってもNPTのもとでは禁止されていない。他方で、その技術の拡がりは、核兵器を製造する潜在能力をより多くの非核兵器国が取得することを意味しかねない。上述のように、NSGではIAEA保障措置協定追加議定書の締結を濃縮・再処理技術の移転の条件に含めた。

また、米国がUAEと2009年に締結した原子力協力協定では、UAEが自国内で一切の濃縮・再処理活動を実施しないことが義務として明記されており、「ゴールド・スタンダード」と称されて注目された。しかしながら、2014年のベトナムとの協定など、米国がその後に締結・更新した他国との原子力協力協定では、米台協定を除き、同様の義務は規定されていない116。なお、日本がUAE及びヨルダンとそれぞれ締結した原子力協力協定では、協定のもとで移転、回収あるいは生成された核物質の濃縮・再処理が禁止されている。

近年、注視されてきたのは米・サウジアラビア間の原子力協力を巡る動向である。米国はサウジアラビアとの二国間原子力協力協定交渉にあたり、サウジアラビアによるサウジ領域内での濃縮・再処理の放棄を求めているが、サウジアラビアは応じていない。また、サウジアラビアは、IAEA保障措置に関してSQP改正議定書、包括的保障措置協定、並びに追加議定書のいずれも締結していなかったが、前述のように、2023年には包括的保障措置協定の締結に向けて作業を進めていると明らかにした。

 

C) 北朝鮮及びイラン問題に関する安保理決議の履行
北朝鮮
北朝鮮の核・ミサイル活動に対しては、その停止を求めるとともに厳しい非軍事的制裁措置を科す累次の国連安保理決議が採択されてきた。すべての国連加盟国は安保理決議のもとで、核兵器を含むWMD関連の計画に資する品目及び技術の移転防止が義務付けられている。

安保理決議の履行状況については、北朝鮮制裁委員会専門家パネルが年2回、報告書を公表してきた。2023年3月の報告書では、以下のような点などが指摘された117。

➢ 専門家パネルは、北朝鮮が関与する無形技術移転の調査を継続している。 
➢ 石油精製品は、排他的経済水域内で北朝鮮のタンカーに引き渡される「直送」タンカーによって、引き続き不正に提供されている。本報告書の海事分野では、北朝鮮が2022年に船舶(主に貨物船)の取得を大幅に加速させたこと、及びその取得を促進する者たちが採用した手法に焦点を当てる。北朝鮮領海内における貨物の不正な船舶間輸入は依然として続いている。北朝鮮産石炭の船舶間輸出禁止は継続している。
➢ 偵察総局のアクターに起因するサイバー活動は継続した。2022年に北朝鮮のアクターによって窃取された暗号通貨資産の価値は、過去のどの年よりも高かった。北朝鮮は、サイバーファイナンスに関与するデジタルネットワークにアクセスするため、並びに兵器開発計画を含む潜在的価値のある情報を盗むために、ますます洗練されたサイバー技術を使用するようになった。 
➢ パネルは、北朝鮮の軍事通信機器の明白な輸出について調査し、弾薬輸出の報告についても調査を開始した。
➢ 韓国当局は、国家に支援された北朝鮮のサイバー脅威アクターが2017年以降、全世界で約12億ドル相当の仮想資産を盗取し、そのうち2022年だけで約6億3,000万ドルを盗取したと推定している。あるサイバーセキュリティ企業は、2022年に北朝鮮のサイバー犯罪によって10億ドル(窃盗時)以上のサイバー通貨がもたらされたと評価しており、これは2021年の2倍以上である。

同年9月の中間報告では、以下のような点などが指摘された118。

➢ 本報告書において、パネルは、北朝鮮に石油精製品を配送する船舶が展開した、多種多様な制裁回避手段について記述した。これには、探知を回避するためのより巧妙な手段、影響を受ける海域での取引場所の変更、多段階の積み替えに関与する船舶の追加などが含まれる。パネルは、北朝鮮が安保理決議に違反して石油精製品を輸入し続けているとの情報を入手した。安保理制裁に違反した船舶の取得が続いており、北朝鮮は審査期間中、新たに14隻の船舶を取得した。北朝鮮からの石炭の船舶間輸出が禁止されている。
➢ 国境はほぼ閉鎖されたままであったが、貿易量は主に鉄道輸送の再開により増加した。多種多様な外国産品の輸入が急速に再開された。パネルは引き続き、奢侈品の輸入に関する報告を調査した。
➢ 北朝鮮のハッカーは、2022年に17億ドルと推定される記録的な水準のサイバー窃盗を行った後、暗号通貨やその他の金融取引所を標的に世界的な成功を収め続けたと報告された。偵察総局のために働くアクターは、資金や情報を盗取するためにますます洗練されたサイバー技術を使い続けた。暗号通貨、防衛、エネルギー、医療分野の企業が特に標的にされた。
➢ 北朝鮮は引き続き国際金融システムにアクセスし、不正な金融活動に関与していた。パネルは、このような活動を支援する海外で活動する金融機関と同国の代表を調査した。国境が再開されたことで、北朝鮮の国民が現金や高額商品を運搬するケースが増加する可能性がある。パネルは、情報技術、外食、医療、建設部門を含め、制裁措置に違反して海外で働いている国民が収入を得ているとの報告を調査した。
➢ パネルは、北朝鮮の軍事通信機器と弾薬の輸出疑惑に関する調査を継続するとともに、同国による加盟国への武器またはその他の軍事支援の売却の可能性について、多数の調査を開始した。
➢ パネルは引き続き、北朝鮮によるロシアへの武器輸出に関する疑惑を調査した。2022年11月に弾薬(砲弾、歩兵用ロケット、ミサイル)が鉄道で届けられたという主張に加え、米国は、この取引の背後にコリア・マイニング・デベロップメント・トレーディング・コーポレーション(KOMID)とワグナー・グループが関与していると報告した。ロシアは、「ある加盟国が提供した写真は包括的な証拠ではなく、北朝鮮に対する国際的な制限措置の違反を示すものではない。北朝鮮を発着する物品の移動は、同国に関する安保理決議の要件を考慮して行われている。理事会の制裁の禁止と制限は遵守されている。ロシアの所管当局は違反を発見しなかった」と反論した。パネルはこれ以上の証拠を入手しておらず、提供された画像に写っている列車が弾薬輸送に使用されたものであることを確認できていない。

北朝鮮に対する制裁措置の実施に関しては、特に近年、中国及びロシアの動向に対する懸念が指摘されてきた。両国は、北朝鮮によるミサイル発射実験や偵察衛星打上げに際して、北朝鮮を擁護する発言を繰り返し、国連安保理による非難声明の発出や決議の採択に反対した。2023年7月にはG7諸国と豪州、韓国及びニュージーランドの国連大使が中国の国連大使に書簡を送付し、「北朝鮮による制裁回避を目的とした海洋活動阻止への支援を早急に求める」としたが、中国国連代表部は国際的義務を果たしていると反発した。

中朝関係よりも大きく懸念されているのが、露朝関係の急速な緊密化である。ロシアのウクライナ侵略に対して、北朝鮮はロシア支持を明言してきた。2023年9月13日には、ロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地で露朝首脳会談が開催された。プーチン大統領は会談に先立ち、記者団から北朝鮮の人工衛星の開発を支援するのか問われ、「それがここに来た理由だ。北朝鮮の指導者はロケット技術に大きな関心を示しており、彼らは宇宙開発を試みている」119と述べた。首脳会談では、北朝鮮からロシアへの武器・弾薬などの供与、並びにロシアから北朝鮮への軍事技術の提供なども議論されたと見られている。安保理決議では、北朝鮮との武器・関連物資の取引を全面的に禁止しているが、ラブロフ(Sergey Lavrov)外相は首脳会談後、「北朝鮮に対する制裁は、(平壌との)対話の確立に問題があり、安全保障理事会でかなり深刻な議論があった、まったく異なる地政学的状況で採択された」120と発言した。

露朝首脳会談後の10月26日、英国防省は、過去数週間に北朝鮮からロシアに弾薬などを積載したと見られるコンテナ1,000個以上が運ばれたとの分析を公表した121。また、韓国の国家情報院は11月1日、北朝鮮がロシアに、8月初旬から船舶やその他の輸送手段を通じて100万発以上の砲弾を輸送したとの見解を示した122。11月21日には北朝鮮が偵察衛星の打上げを実施したが、露朝首脳会談以後にロシアの技術者が北朝鮮に入り、エンジンに関する技術支援を行ったとの分析も示された123。12月30日、カービー(John Kirby)戦略広報調整官は、ロシア軍が少なくとも1発の北朝鮮製短距離弾道ミサイルをウクライナに発射したと述べた124。

 

イラン
イラン核問題に関して安保理決議のもとで設置されたイラン制裁委員会及び専門家パネルは、JCPOA成立後、イランの主張により終了し、その後は安保理が監視の責任を担っている。

JCPOAに基づき、イランによる原子力関連資機材の調達は、JCPOAのもとで設置された調達作業部会の承認を得なければならない。その件数は半年ごとに安保理に報告されてきた。2023年6月及び12月の報告によれば、それぞれの報告期間内に検討された提案はなかった125。

イランが核関連の不法な調達活動を実施しているか否かは定かではないが、欧州の情報機関はイランがそうした活動に従事しているとの報告を明らかにしてきた。2023年には、ドイツ、オランダ及びスウェーデンの情報機関がそれぞれの報告書で、イランがそれらの国において核兵器開発に利用可能な技術や資機材の調達活動を行っていると報告した126。

JCPOAでは、合意発効から8年後となる2023年10月18日(または、IAEAが「イランのすべての核物質が平和的活動に使われている」との拡大結論を導出する日の早いほうの日)を「移行日」とし、EUは核関連物質と弾道ミサイル禁輸の解除などを含むさらなる制裁解除措置を実施すること、米国は停止中の制裁法の終結または修正を検討すること、イランは大統領と議会の憲法上の役割に基づき、追加議定書の批准を模索することが規定されている。

国連安保理事務局は10月18日、国連加盟国に書簡127を送付し、イランへのミサイル品目の輸出入制限を含む決議2231の附属書Bの第3項、第4項及び第6項の規定を正式に終了するとともに、安保理制裁の下でのイランの個人・機関への財産没収及び金融サービス提供に関連する制裁を終了することを通知した。イラン外務省及び国防省はそれぞれ声明を発表し、安保理決議2231号で定められた、イランのミサイルや無人航空機(UAV)、並びにそれらの開発技術にかかる取引の制限が終了したと発表した128。

これに対して、フランス、ドイツ及び英国は2023年9月14日の共同声明で、「イランが2019年以降、一貫してJCPOAのコミットメントを厳格に遵守していないことを受け、フランス、ドイツ、英国の政府は、2023年10月18日のJCPOA移行日以降も、イランに対する核拡散関連措置とともに、武器・ミサイル禁輸措置を維持する意向である」と表明した。同時に、「外交的解決策を見出すという我々のコミットメントは変わらない。今回の決定は、追加制裁を課すものでも、あるいは(イランによるJCPOAの不履行を理由に、解除された制裁措置を再発動するという)スナップバック・メカニズムを発動するものでもない。イランがJCPOAの約束を完全に履行すれば、我々は決定を覆す用意がある」(括弧内引用者)とした129。

EUも移行日前日、「核・弾道ミサイル活動に関与する個人や団体、またはイスラム革命防衛隊(IRGC)に所属しているとされる個人や団体に対して、最初に国連が課した指定を維持するための法的措置を採択した」との声明を発出した。この声明では、「EUの制裁体制の下で存在する部門別及び個人別の措置を維持し、これには特に、イランの核拡散に関連する措置、並びに武器及びミサイルの禁輸措置が含まれることに合意した」ことも記載した130。

米国は10月18日に、イラン、香港、中国、ベネズエラに拠点を置き、イランの不安定化させる弾道ミサイルとUAV計画を可能にしている11の個人、8つの団体、1つの船舶に制裁を課すと発表した。これとは別の動きとして、米国務省はイランの高官2人に対し、「イランのミサイル計画に重大な貢献をした活動に従事している」として制裁を課し、さらに「イランを拠点とする2つの団体とロシアを拠点とする4つの団体」に対しても制裁を課した131。米国は、イランが弾道ミサイル計画の部品を世界中から入手するために行っている欺瞞的行為に関する「イラン弾道ミサイル調達勧告」も公表した132。

他方、上述の国々はJCPOAに規定されたスナップバック条項を発動しなかった。

ロシア外務省は移行日の前日、「ミサイル技術管理レジームに該当する製品のイランとの間の供給は、もはや国連安保理の事前承認を必要としない」との考えを明言した133。中国も、「安保理決議とJCPOAで予定されているイランに対する関連制限措置及び一方的措置が解除されることを支持する」134と述べた。

 

拡散懸念国間の取引
北朝鮮とイランが核・ミサイル開発で協力関係にあるとの懸念が以前から指摘されてきた。北朝鮮制裁委員会専門家パネルの2021年3月の報告書では両国間の長距離ミサイル開発計画に関する協力が再開されたと記載されたが135、2022年及び2023年の報告書には、北朝鮮とイランの協力関係に関する記述はない。

北朝鮮とイランによる核分野での協力関係に関しても懸念が示されてきたが、公開された証拠などに乏しく、そうした主張は立証されていない。

 

D) 拡散に対する安全保障構想(PSI)への参加
米国が2003年5月に提唱した「拡散に対する安全保障構想(PSI)」について、オペレーション専門家会合に参加する豪州、カナダ、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ロシア136、トルコ、英国、米国など21カ国に、イスラエル、カザフスタン、サウジアラビア、スウェーデン、スイス、UAEなどを加えた106カ国が、PSIの基本原則や目的への支持を表明し、その活動に参加・協力している。

PSIの実際の阻止活動については、インテリジェンス情報が深く絡むこともあり、明らかにされることは多くはない。他方、PSIのもとでは、阻止訓練の実施とこれへの参加、あるいはアウトリーチ活動の実施を通じて、阻止能力の強化が図られてきた。

2023年5月30日~6月2日には、PSIの閣僚級会議とアジア太平洋地域の阻止訓練「イースタン・エンデバー23」が韓国で実施された。閣僚級会議には日米豪など70カ国が参加した(招待された非メンバー国の中国は不参加)。また、海上阻止訓練は済州島で6カ国(豪州、カナダ、日本、韓国、シンガポール、米国)により実施された。各国の専門家らによる学術会議及び机上訓練、並びにPSIオペレーション専門家会合も開催された。

8月には、米国とタイの共催により、バンコクで東南アジアPSIワークショップが開催された(両国に加えて、カンボジア、ブルネイ、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、豪州が参加)。ワークショップの主眼は、現代のWMD拡散経路を検証し、WMD阻止義務についての理解を深め、法的枠組みとパートナーのベストプラクティスを探求し、東南アジアにおける「WMD対策」コミュニティのつながりを強化することとされた。ワークショップでは、国連軍縮部による世界と地域の拡散の脅威に関する専門家ブリーフィング、パネルディスカッション、地域における潜在的なWMD関連拡散活動に関する政府内の情報共有と意思決定に焦点を当てたシナリオに基づく議論などが行われた137。

10月には、米国が主導して、PSIの「阻止原則宣言」賛同国のうち約50カ国がイラン問題に関する共同声明を発出し、以下のように述べた138。

イランに関して、PSIの原則に合致して、我々は、弾道ミサイル関連の品目、材料、設備、物品、技術の供給、販売、移転を防止するために、以下を含む、地域内外の平和と安定を守るために必要なあらゆる措置をとるというコミットメントを確認する。(1)UAV関連を含むミサイル関連物資のイランへの、及びイランからの移転を阻止するための効果的な措置をとること、(2)イランの拡散活動に関連する情報を迅速に交換するための合理化された手続きを採用すること、(3)イランのミサイル及びUAV関連の問題に対処するため、関連する国内法的権限を見直し、強化に努めること、(4)イランのミサイル及びUAV計画に関連する阻止活動を支援するための具体的な行動をとること。

2018年1月には、北朝鮮の密輸行為など対北朝鮮安保理決議に違反する活動に対して、決議に基づき、公海上で決議違反の物資を輸送していると疑われる船舶を発見した際は、旗国の同意を得て検査を実施すること、並びに自国の船舶が北朝鮮籍の船舶と海上で積み荷を移転するのを禁止することなどを確認した共同声明が発表された139。

北朝鮮による瀬取りなど海上での国連安保理決議に違反する活動に対して、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が2017年12月から日本海や黄海で警戒監視活動にあたっており、瀬取りの様子は外務省ホームページに掲載されている140。警戒監視活動は2023年も継続して実施され、日米に加えて、これまでに豪州、カナダ、フランス、ドイツ、ニュージーランド及び英国が参加している。

 

E) NPT 非締約国との原子力協力
2008年9月、NSGにおいて「インドとの民生用原子力協力に関する声明」がコンセンサスで採択され、インドによるIAEA保障措置協定追加議定書の締結や、核実験モラトリアムの継続などといったコミットメントを条件として、NSGガイドラインの適用に関するインドの例外化が合意された。その後、インドとの二国間原子力協力協定が、豪州、カナダ、フランス、日本、カザフスタン、韓国、ロシア及び米国との間で締結されてきた。他方、そうした国々によるインドとの実際の原子力協力は、豪州、カナダ、フランス、カザフスタン、ロシアからのウランの輸入、並びにアルゼンチン、モンゴル、ナミビア及びウズベキスタンとの同様の合意141を除き、必ずしも進んでいるわけではない142。また、米国は引き続きインドのNSGメンバー国化を支持しているものの143、実現していない。

パキスタンに関しては、2010年4月に合意された中国によるパキスタンへの2基の原子炉輸出がNSGガイドラインに違反するのではないかと依然として批判されている。中国は、NSG参加以前に合意された協力には適用されないという祖父条項(grandfather clause)によりNSGガイドライン違反ではないと主張している。中国はまた、それらの原子炉で用いる濃縮ウランも供給している144。中国のNSG参加が2004年であったことを考えると、とりわけこの合意が祖父条項によりNSGのもとで認められるか否かは、これらの供与より前になされた2基の原子炉供与以上に疑わしい。両国は2023年6月にも、中国からパキスタンに7基目の原子炉を供給する契約に署名した145。

NAM諸国は、NPT非締約国との原子力協力に批判的であり、以下のように主張している。

NAM諸国は、条約非締約国との原子力分野における協力の条件として、IAEA包括的保障措置及び条約の厳格な遵守を通じて、例外なく核不拡散が追求され、実施されなければならないことを強調する。…非核兵器国への原料物質もしくは特殊核分裂性物質、または特殊核分裂性物質の加工、使用もしくは製造のために特別に設計または準備された装置もしくは物質の移転のための新たな供給取極は、必要な前提条件として、IAEA包括的保障措置、並びに核兵器またはその他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的拘束力のある約束の受諾を要求すべきである146。


104 NSGに加えて、オーストラリア・グループ(AG)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)及びワッセナー・アレンジメント(WA)。
105 日本はこのうち韓国について、2019年7月、国内輸出管理体制の不備などを指摘し、対韓輸出管理の運用見直しを行ったが、2023年4月に「グループA(旧ホワイト国)」に再指定すると発表した。
106 外務省「第29回アジア輸出管理セミナー」2023年3月1日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/n_s_ne/page3_003640.html。
107 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.17, June 15, 2023.

108 State Council Information Office of the People’s Republic of China, “China’s Export Controls,” December 29, 2021, https://english.www.gov.cn/archive/whitepaper/202112/29/content_WS61cc01b8c6d09c94e48a2df0.html.
109 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.11, June 14, 2023.
110 “Foreign Ministry Spokesperson Geng Shuang’s Regular Press Conference,” Ministry of Foreign Affairs of China, January 31, 2019, https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/t1634507.shtml.
111 “China and Pakistan Join Hands to Block India’s Entry into Nuclear Suppliers Group,” Times of India, May 12, 2016, http://timesofindia.indiatimes.com/india/China-and-Pakistan-join-hands-to-block-Indias-entry-into-Nuclear-Suppliers-Group/articleshow/52243719.cms.

112 INFCIRC/254/Rev.10/Part 1, July 26, 2011.
113 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.17, June 15, 2023; “Statement of New Zealand,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 4, 2023.
114 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.13, June 14, 2023.
115 “Statement by Russia,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
116 米国とメキシコが2018年5月に締結した二国間原子力協力協定では、メキシコが機微な原子力活動を実施しないことが前文に記載されている(シルバー・スタンダード)。
117 S/2023/171, March 7, 2023.
118 S/2022/656, September 12, 2023.

119 “Putin Meets Kim, Says Russia Will Help North Korea Build Satellites,” Reuters, September 13, 2023, https://www.reuters.com/world/putin-says-russia-help-north-korea-build-satellites-2023-09-13/.
120 “Russia’s Lavrov Says Situation Has Changed Since North Korea Was Hit by U.N. Sanctions,” Reuters, September 13, 2023, https://jp.reuters.com/article/idUSKBN30J0T4/.
121 Twitter of the U.K. Ministry of Defence, October 28, 2023, https://twitter.com/DefenceHQ/status/1717442824927363583. また、北朝鮮からロシアへの武器・弾薬移転に関しては、以下も参照。James Byrne, Joseph Byrne and Gary Somerville, “The Orient Express: North Korea’s Clandestine Supply Route to Russia,” RUSI, October 16, 2023, https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/report-orient-express-north-koreas-clandestine-supply-route-russia.
122 Jack Kim and Ju-min Park, “Russian Help to Boost North Korea Bid to Launch Spy Satellite, South Korea Says,” Reuters, November 1, 2023, https://www.reuters.com/world/asia-pacific/north-koreas-chances-succeeding-spy-satellite-launch-high-skorea-2023-11-01/.
123 「北衛星発射予告、ロシア技術者の直接支援で能力向上か 韓国国防相「エンジン問題ほぼ解消」」『読売新聞』2023年11月21日、https://www.yomiuri.co.jp/world/20231121-OYT1T50147/。
124 Jeff Mason and Josh Smith, “White House says Russia used missiles from North Korea to strike Ukraine,” Reuters, January 5, 2024, https://www.reuters.com/world/white-house-north-korea-recently-provided-russia-with-ballistic-missiles-2024-01-04/.

125 S/2023/448, June 30, 2023; S/2023/963, December 6, 2023.
126 “Iran’s Illicit Procurement Related to Weapons of Mass Destruction in the Netherlands, Sweden, and Germany During 2022,” Memeri, June 21, 2023, https://www.memri.org/reports/irans-illicit-procurement-related-weapons-mass-destruction-netherlands-sweden-and-germany.
127 “Official Announcement of End of UN Security Council Sanctions against Iran,” Islamic Republic News Agency, October 19, 2023, https://en.irna.ir/news/85264338/Official-announcement-of-end-of-UN-Security-Council-sanctions.
128 “UN Bans on Iran’s Missile Program Expire, No Snapback in Sight,” Iran International, October 18, 2023, https://www.iranintl.com/en/202310189792.
129 “E3 statement on the JCPOA – September 2023,” September 14, 2023, https://www.gov.uk/government/news/e3-statement-on-the-jcpoa-september-2023.

130 “EU Maintains Restrictive Measures Against Iran under the Non-Proliferation Sanctions Regime after Oct. 18,” Reuters, October 18, 2023, https://www.reuters.com/world/eu-maintains-restrictive-measures-against-iran-under-non-proliferation-sanctions-2023-10-17/.
131 Elad Benari, “US Sanctions Iran’s Ballistic Missile and Drone Programs,” Israel National News, October 19, 2023, https://www.israelnationalnews.com/news/378771.
132 “UN Bans on Iran’s Missile Program Expire, No Snapback in Sight,” Iran International, October 18, 2023, https://www.iranintl.com/en/202310189792.
133 Ibid.
134 “Foreign Ministry Spokesperson Mao Ning’s Regular Press Conference,” Ministry of Foreign Affairs of China, October 20, 2023, https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/202310/t20231020_11165059.html.
135 S/2021/211.
136 ロシアは2022年以降、PSIへの参加を停止している。

137 “U.S. and Thailand Co-host Proliferation Security Initiative (PSI) Workshop in Bangkok to Strengthen Regional Nonproliferation Coordination,” U.S. Embassy & Consulate in Thailand, August 18, 2023, https://th.usembassy.gov/u-s-and-thailand-co-host-proliferation-security-initiative-psi-workshop-in-bangkok-to-strengthen-regional-nonproliferation-coordination/.
138 “Joint Statement on UN Security Council Resolution 2231 Transition Day,” October 18, 2023, https://www.state.gov/joint-statement-on-un-security-council-resolution-2231-transition-day/. 豪州、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、韓国、スウェーデン、英国、米国などが共同声明に参加した。

139 “Joint Statement from Proliferation Security Initiative (PSI) Partners in Support of United Nations Security Council Resolutions 2375 and 2397 Enforcement,” January 12, 2018, https://www.psi-online.info/psi-info-en/aktuelles/-/2075616. 発表当初は17 カ国が署名。その後、2018 年末までに署名国は42 カ国となった。このうち『ひろしまレポート』調査対象国は、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、英国、米国。
140 外務省「北朝鮮関連船舶による違法な洋上での物資の積替えの疑い」2023年11月15日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/nsp/page4_003679.html。
141 Adrian Levy, “India Is Building a Top-Secret Nuclear City to Produce Thermonuclear Weapons, Experts Say,” Foreign Policy, December 16, 2015, http://foreignpolicy.com/2015/12/16/india_nuclear_city_top_secret_china_pakistan_barc/; James Bennett, “Australia Quietly Makes First Uranium Shipment to India Three Years after Supply Agreement,” ABC, July 19, 2017, https://www.abc.net.au/news/2017-07-19/australia-quietly-makes-first-uranium-shipment-to-india/8722108; Dipanjan Roy Chaudhury, “India Inks Deal to Get Uranium Supply from Uzbekistan,” Economic Times, January 19, 2019, https://economictimes.indiatimes.com/news/defence/india-inks-deal-to-get-uranium-supply-from-uzbekistan/articleshow/67596635.cms.
142 “No New Power Projects from Indo-US Nuclear Deal,” The Pioneer, March 9, 2020, https://www.dailypioneer.com/2020/india/no-new-power-projects-from-indo-us-nuclear-deal.html.
143 Srinivas Laxman, “US Reiterates Support for India’s Inclusion in Nuclear Suppliers Groups,” The Times of India, June 24, 2023, https://timesofindia.indiatimes.com/india/us-reiterates-support-for-indias-inclusion-in-nuclear-suppliers-group/articleshow/101225911.cms.
144 “Pakistan Starts Work on New Atomic Site, with Chinese Help,” Global Security Newswire, November 27, 2013, http://www.nti.org/gsn/article/pakistan-begins-work-new-atomic-site-being-built-chinese-help/.

145 Ayaz Gul, “Pakistan Signs $4.8 Billion Nuclear Power Plant Deal with China,” Voa News, June 20, 2023, https://www.voanews.com/a/pakistan-signs-4-8-billion-nuclear-power-plant-deal-with-china/7144967.html.
146 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.11, June 14, 2023. 他方、NAM諸国の個別の発言を見ると、いくつかの国は特にイスラエルへの原子力協力を強調して批判し、他方で中パ間の原子力協力に対する批判は見られない。

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