【インタビュー】「経済の武器化にどう向き合うか(エネルギー、食糧など)について 『オイシックス・ラ・大地』
ビジネスと平和貢献のあり方との関係を議論する「世界平和経済人会議ひろしま」。第8回目となる2023年4月の開催では、「ウクライナ侵攻後の国際社会経済とビジネスによる平和貢献」をテーマに議論が行われた。今回は、ウクライナ侵攻に伴う食糧危機の現状やビジネス貢献について、セッション2に登壇いただいたオイシックス・ラ・大地㈱より、グリーン戦略室の東海林園子(とうかいりん そのこ)さんに話を聞いた。
●事業内容について
弊社は2000年にECを中心とした食品宅配「Oisix(オイシックス)」を展開する企業として創業しました。2017年に同じく食品宅配を行う「大地を守る会」、2018年に「らでぃっしゅぼーや」を経営統合、社名をオイシックス・ラ・大地とし、国内、香港、上海にて「食」領域の事業を行っています。
「これからの食、これからの畑」を企業理念に、食の課題をビジネスの手法で解決することをミッションとしており、サステナブルリテール(持続可能な小売り)企業を目指しています。創業当時より、「つくった人が、自分の子どもに食べさせられるもの」のみを扱っており、全アイテムの放射性物質検査を実施するなど、独自の安全基準を満たす食材をお届けしています。現在では、個人のお客様だけでなく、保育園等にもお届けし、会員者数は主力ブランドのオイシックスで40.1万人、3ブランドの合計で約51万人(2023年3月現在)となっています。
もともと3ブランドとも、環境や生産者に配慮したサステナブルな事業を志して創業したのですが、これまではサステナブルな取り組みを当たり前に行ってきていたため、積極的にアピールはしてきていませんでした。当社がサステナブルな取り組みを生活者に伝えることで行動が変わり社会が変わると考え、これからは、伝えることにも力をいれていきたいと考えています。
そして、サステナブルリテール企業を目指し、自社だけでなく他社をも巻き込みながら、フードロスの削減やプラスチック削減、CO2削減、次世代との取り組みなども積極的に行っていきたいと考えています。グループ内にコーポレートベンチャーキャピタル「フューチャーフードファンド」も立ち上げ、新進フードテック企業の支援活動も行っています。
▲国内主要3ブランド
●ウクライナ侵攻の影響による食糧危機の日本社会への影響と対策
ロシアのウクライナ侵攻により、肥料や資材、燃料の高騰など、生産者が農作物や水産物を作るうえでの生産コストが上がり、生産者の利益率の低下が起きています。消費者においては、食料品の高騰が続き、食料がないわけではないけれど価格が高いという問題が起きています。この食糧危機において、弊社では身近なことから始められるアクションに取り組んでいます。
農水省によると、日本で発生する1年間のフードロス量は523万トン。523万トンは流通にのった食品からの廃棄量であり、その前に生産地で廃棄された分はカウントされていないため、さらに多くのフードロスが生まれていることになります。一方で食糧危機によって貧しい国では飢餓が発生しています。
この問題の解消に少しでも寄与するため、弊社ではこれまで捨てられていたものに付加価値をつけ、アップグレードさせた商品を開発・販売するアップサイクルブランド「Upcycle by Oisix」を立ち上げました。
たとえば、三陸では近年、特産品であるわかめの表面に穴が開くという現象が発生し、塩蔵わかめなどの従来の商品にはできないわかめが増えています。これにより、三陸全体で切り落とされ、廃棄されるわかめの量は全体の約5割に及んでいるのです。弊社では生産者からこの問題を聞き、「Upcycle by Oisix」で規格外のわかめをアップサイクルしたスナックを販売しました。すでに販売中のスープやだし、そうめんなど、わかめや昆布のロスをなくすための商品開発にも一層力を入れています。
▲国産穴あきわかめの玄米スナック
ほかにも、1企業だけでは実現できない大規模なサステナブルアクションを行うため、企業同士の協業もさらに進めていきたいと考えています。
一例としては、2022年から梅酒のCHOYAさんとの協業を始めました。梅酒作りに使用した後の梅の実を、CHOYAさんから梅の生産者に引き渡しドライフルーツに加工、弊社が販売しています。CHOYAさんは梅にこだわり、生産者を大切にしているメーカーさんなので、捨てられてしまう梅の実にもう一度息吹を与えてみませんかというお話をすると、喜んで協力してくれました。生産者の方の産業の創出につながりますし、ドライフルーツは海外輸入品が多いので、国内でまかなえれば国内自給率の向上にも貢献できます。梅の実のドライフルーツは産地にもなかった新しい食べ方ですが、消費者の皆様には味はもちろん、健康志向の観点からも大変ご好評をいただいています。
フードロスの問題では、大手企業ほど課題を抱えていることも多いのです。一緒にアクションを取ることにより、問題解決に少しでもつなげることができれば、と考えています。
●SDGsをはじめとする社会貢献への取り組み
弊社では会員制サブスクリプションモデルの実現により、流通におけるフードロスは約0.2%と、食品小売業において圧倒的に低い水準を実現しています。
当社のような食品・小売り企業は、消費者を巻き込んだアクションができることが強みです。消費者の皆様がサステナブルを意識しなくても、おいしく楽しく食べてもらうことで、自然とサステナブルにつながっているという仕掛けを作ることが大切だと考えています。味についてはお客様からのフィードバックを注視し、お客様に求められる味を追求しつつ、いかに食べるまでの手間がかからないかということにも注力しています。また、生産者と密接に連携し、体に良いものをていねいに育ててもらうことで、素材そのものの味や食感が優れたものをお届けすることにより、多くのお客様に喜んでいただいています。社内に安全安心に関する添加物や加工方法などの細かな規定があり、それを確実に守ることでおいしさにたどり着くというのが私たちの考えです。また、ECサイトという特性を生かし、たとえば昨日までトマトがトップページだったところを、次の日にはトウモロコシに変えるなど、生産現場の状況に応じて売り場の調整を迅速にできることがメリットだと考えています。
三陸のわかめのように産地のフードロス削減につながる商品開発やミールキットの「Kit Oisix」の利用による家庭での食品廃棄量削減を通して、サプライチェーン全体のフードロス削減にも貢献しています。次世代の能動的なサステナブルアクションを促すために、小学校・中学校での特別授業の実施、大学生とのビジネスコンテストの開催なども積極的に行っています。
▲2023年実施 小平第六小学校での特別授業
この他、先進国の私たちと開発途上国の子どもたちが食事を分かち合うというコンセプトで活動する非営利団体「Table for two」を創設時からサポートし、おにぎりの写真を投稿することでアフリカ・アジアの子どもたちに給食を届けられる「おにぎりアクション」に協賛しています。また2021年12月より、ひとり親世帯を中心に、子どものいる困窮家庭に向けた食品支援のプロジェクト「We Support Family」もスタートしました。サポート企業様から提供いただいた食材物資を当社がとりまとめ、ニーズをマッチングし、食生活支援を行う団体に配送する仕組みです。これまでも子ども食堂への食品支援は行っていましたが、こうした仕組みを作ることでより効果的な支援を行うことができています。
●広島に期待すること
広島県には観光で欧米やオーストラリアから訪れる方がたくさんいらっしゃいます。さらに、平和の象徴都市として、平和×サステナブルをグローバルに発信できる特別な存在なのではないかと思っています。
おいしいものを食べると、人って笑顔になりますよね。家庭の食卓が笑顔になることは、平和の一歩ではないかと思うのです。その笑顔を、広島から世界につなぐような取り組みを、できれば弊社もかかわらせていただいて、一緒に行えたら幸いです。
オイシックス・ラ・大地株式会社
執行役員
グリーン戦略室 室長
東海林 園子(とうかいりん そのこ)さん
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