広島県は核兵器廃絶に向けて,海外の有力な研究機関と共同研究を実施し,その成果を核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議等で提言として発信することにより,核軍縮の具体的なプロセスを進展させることを目指しています。
これまで,国連軍縮研究所(UNIDIR),ストックホルム国際平和研究所(SIPRI),王立国際問題研究所(チャタムハウス)と連携協定を締結し,共同研究を行っています。令和3年度は,新たに英国レスター大学とも研究を実施しました。
令和3(2021)年度
1 レスター大学(英国)
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テーマ:第三の核時代における抑止と新技術と軍縮 (Deterrence, Disruptive Technology and Disarmament in the Third Nuclear Age)
- 著者:アンドリュー・フッター教授
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概要:本研究では,多極化と軍事上の急速な技術革新が進む現在を「第三の核時代」と呼び,この特徴が,これまでの核抑止や戦略的安定性をいかに複雑化させ,不安定化させる可能性があるのかを,米露中印の4か国の関係性から説明する。特に,非核戦略兵器の技術革新は,核兵器のように戦略的役割(*1)を可能にさせ,戦場における戦術的役割(*2)との区別もあいまいにすることで,核抑止や安定性が損なわれ,偶発的なエスカレーションにもつながりやすくなる。また,4か国のそれぞれの関係性と地域情勢が,複雑に各国の安全保障戦略に影響し合う多極化の中で,各国の目的に応じて新技術の配備が政治的に決定されることで,これまでの固定の二国間における相互脆弱性に基づいた安定性が揺らぎかねない状況であることを説明する。その上で,将来の安定と平和のために,軍備管理や規範などの制限によってより安定的な抑止や地域的安定性を追求するアプローチと,逆に新技術の進化を活かし,核兵器ではなく非核戦略兵器による抑止と安定を目指したり,核兵器禁止条約など倫理的圧力によって核軍縮を目指したりするアプローチを提案する。
*1 戦略兵器:敵の重要な施設など中核に攻撃を加え,戦争遂行能力を失わせることを目的とした兵器。
*2 戦術兵器:特定の戦域,戦場における戦闘作戦遂行を目的とした兵器。
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本文:https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2022/04/Deterrence-Disruptive-Technology-and-Disarmament-in-the-Third-Nuclear-Age.pdf
(本文は英語のみとなります。)
2 SIPRI
- テーマ:「最小核抑止」への再訪:多国間核軍縮の土台づくり(Revisiting ‘Minimal Nuclear Deterrence’: Laying the Ground for Multilateral Nuclear Disarmament)
- 著者:ティティ・エラスト 上級研究員
- 概要:本研究では,米露が突出した核弾頭数を保有する現状において,多国間核軍縮(特に米中露の三か国枠組み)を目指す上で必要なステップである核兵器数の削減について,「最小核抑止」の観点から考察する。かつて冷戦終結後と2010年代に米露間で新戦略兵器削減条約(新START)(*1)が締結されたことで盛り上がった「最小核抑止」の議論から,核抑止の目的やそのための攻撃対象について検討する。その上で,「最小核抑止」における核抑止は数百の核弾頭数で成り立つことと,核抑止が崩壊した(核兵器が使用された)際の破滅的な結果を避けるために,保有数全体の出力数にも制限をかける必要性について説明する。また,「最小核抑止」を採用する場合に考えられる,米露中の戦略上の課題や技術発展によってもたらされる課題を指摘し,乗り越えるための政策について提言する。
*1 新戦略兵器削減条約(新START):核弾頭及びその運搬手段の削減等を規定した米露の二国間条約。2011年2月発効。10年間有効だったが,2021年に両国が合意し,2026年2月まで延長された。
(本文は英語のみとなります。)
令和2(2020)年度
1 SIPRI
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テーマ:新たな技術と核軍縮:前進するためのアウトライン (New Technologies and Nuclear Disarmament: Outlining a Way Forward)
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概要:本研究では,段階的で管理された「移行」アプローチに基づく核軍縮の進展が,核兵器不拡散条約 (NPT) と核兵器禁止条約 (TPNW) を取り巻く議論に見られる核廃絶主義者と核抑止論者の溝を埋める可能性があることを示唆する。同時に,核廃絶主義者と核抑止論者,両陣営の議論であまり注目されてこなかった,新たな技術による核抑止と核軍縮への影響について光を当てることを試みる。軍縮への漸進的または「step-by-step」アプローチは新しいものではないが,提唱者の積年の言行不一致により,信憑性が損なわれている。これに対して,段階的で管理された「移行」アプローチでは,普遍的な核軍縮という究極のゴールに向けた,重要な中間ゴールになると目される,最小限核抑止に注目しつつ,核兵器のさらなる削減を進めるにあたっての障壁を乗り越えるため,早急に具体的な措置を講ずるよう強調している。
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本文:https://www.sipri.org/sites/default/files/2021-05/2105_new_technologies_and_nuclear_disarmament_0.pdf
(本文は英語のみとなります。)
2 チャタムハウス
- テーマ:核抑止の言説:知識,前提条件,不確実性,政策的含意(国際安全保障プログラムワークショップサマリー)(Nuclear Deterrence Discourse: Knowledge, assumptions, uncertainties and policy implications (International Security Programme Workshop Summary))
- 主な論点
・核抑止の言説に存在する不確実性について
・核抑止はリスク低減の一形態か
・核爆発のリスクのための客観的基準を見つけることは可能か
・核抑止の影響等を証明できない中で,どのような政策的帰結が描かれるべきか - 結論
・国家間の信頼構築のために国際的な枠組みが重要
・新たな技術の進展について理解を深める必要がある
・核兵器の存在意義について理解を深める必要がある - 本文:https://hiroshimaforpeace.com/en/wp-content/uploads/sites/2/2021/06/Nuclear-Deterrence-Discourse.pdf
(本文は英語のみとなります。)
令和元(2019)年度
1 SIPRI
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テーマ:核兵器の更なる制御に向けて:核兵器使用の閾値の増大 (Towards Greater Nuclear Restraint: Raising the Threshold for Nuclear Weapon Use)
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概要:本レポートは,核抑制の姿勢の欠如が安全保障にもたらすリスクに焦点を当てている。一方では,問題は,技術開発,政治的緊張,および核軍備管理の膠着状態の結果として近年増大している核兵器の先行使用に関する不確実性に関係している。他方では,非核兵器国による大量破壊兵器(WMD)の拡散脅威に対応するため核の閾値を低下させるという長期的な傾向がある。レポートでは,5核兵器国(NWS)の現在の核政策の最も問題のある側面を特定したのち,教義の曖昧さを減らすための提言や核兵器使用の閾値を高く維持する信頼できる保証を含むより大きな制約を主張する。また,レポートでは,1968年の核兵器不拡散条約(NPT)の文脈の中で対話を追求するというNWSによる最近の合意に基づいて,核ドクトリンに関する幅広い国際的な対話のための概念的なツールを提供することを目指している。
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本文:https://hiroshimaforpeace.com/joint-research-2/sipri-2019/
(本文は英語のみとなります。)
平成30(2018)年度
1 SIPRI
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テーマ:核軍縮検証を運用可能なものにする (Operationalizing nuclear disarmament verification)
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概要:平成29年度の9つの提案を踏まえ,核兵器保有国及び非核兵器保有国双方が関心を有する問題である「核軍縮検証」に焦点をあて,運用可能な核軍縮検証について検討を行った。新たな方法を発展させる一方で米ロ二国間管理条約等既存のノウハウする努力も怠ってはならない。一つの政策アプローチとして,UNのフレームワークの中で,多国間協議を行うことを提案する。
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本文:https://hiroshimaforpeace.com/en/wp-content/uploads/sites/2/2019/09/sipriinsight1904_0.pdf
(本文は英語のみとなります。)
2 チャタムハウス
- テーマ:21世紀の核抑止力に関する様々な見方 (Perspectives on nuclear deterrence in the 21st century)
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概要:核抑止の役割に関して,それが安全保障を促進するのか,妨害するのかについて,相反する見方がある。チャタムハウスが明らかにした4つの論点について,異なる見方を提示する。21世紀において,抑止力は「脅威」や「罰」の側面を必ずしも含まず,脆弱性に言及したり,重要な資産を保護することができるレジリエンス措置(拒否的抑止)が含まれるだろう。
- 本文:https://www.chathamhouse.org/2020/04/perspectives-nuclear-deterrence-21st-century
(本文は英語のみとなります。)
平成29(2017)年度
1 UNIDIR
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テーマ:北東アジアにおける核兵器の役割の低減 (Reducing the Role of Nuclear Weapons in North East Asia)
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概要:北東アジア(北朝鮮)における核兵器の役割を低減させるため,核兵器のみが核兵器を抑止しうるという冷戦的思考に対抗する提案を行う必要がある。米国と北朝鮮が現状の武装勢力を置き換えて非核化させるための和平交渉が保留になっている中での仮のステップとしては,「デーラー(メイド)抑止」戦力を発展させることを提案する。
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本文:https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/UNIDIR2018.pdf
(本文は英語のみとなります。)
2 SIPRI
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テーマ:核兵器国及び非核兵器国双方の努力により核兵器削減を進めるための方策及び具体的な実施手順 (Setting the stage for progress towards nuclear disarmament)
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概要:平成28年度の研究を踏まえ,より具体的な実施手段として,「核兵器国によるNPT第6条及び核兵器のない世界追及へのコミットメント再確認」,「核戦争を回避するための多国間宣言」,「非戦略核兵器のリスク低減」,「核軍縮検証業務を実施可能なものにする」,「非核兵器地帯の全締約国に対する消極的安全保障の適用」,「地域の軍備管理・安全保障プロセスの推進など」9つの提案を行った。
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本文:https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/SIPRI2018.pdf
(本文は英語のみとなります。)
平成28(2016)年度
1 UNIDIR
- テーマ
・NPTと禁止条約の交渉:架橋の視点から(The NPT and the Prohibition Negotiation: Scope for Bridge-building)
・核の抑止力という幻想-同盟国にとっての教訓 (The mirage of nuclear deterrence –Lessons for allies)
・核軍縮と核兵器禁止条約 (Nuclear Disarmament and a Nuclear Weapons Ban Treaty)
- 概要
内在する核拡散リスクを回避するには,核兵器保有国と非核兵器保有国の側で是正措置を取る必要がある。そのためには,核抑止力の有効性の批判的評価,核兵器に依存しない広範な抑止力の用意についての検討,断固とした政治外交戦略が必要。
核兵器の保有と利用を禁止する条約の有効性に関する問題を考察。有効性の評価は,最終的には核兵器の国際政治上の文脈が重要なものかどうかの判断,そしてそれが国々の行動と政治家の理解に直接的又は間接的にどの程度影響を与えるかにかかっている。
- 本文:https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/UNIDIR2017.pdf
(本文は英語のみとなります。)
2 SIPRI
- テーマ:完全な核軍縮という究極目標に向けて核兵器国と非核兵器国が連携する方策の検討 (Engagement on nuclear disarmament between nuclear weapon-possessing states and non-nuclear weapon states)
- 概要:核兵器廃絶に向けたアプローチを巡る,核兵器国,核傘下国及び非核兵器国の主張・立場の調査・分析を行い,核兵器廃絶の実現という目的に向けて,核兵器国と非核兵器国の間の対話を促進するための方策を二つ提案した。一つは「核兵器保有国及び非核兵器保有国の役割と責任の見直し」,もう一つは,「事故や戦争による爆発防止及び軍縮の促進に貢献する核兵器に関する措置の透明性」である。
- 本文:https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/sipri2017.pdf
(本文は英語のみとなります。)
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