1 全体概要
【訪問場所】 ウィーン(オーストリア)
【取組】
「第11回NPT運用検討会議第1回準備委員会」での働きかけ
2 主な内容
「第11回NPT運用検討会議第1回準備委員会」での働きかけ
NPT運用検討会議第1回準備委員会の場で、2つのサイドイベントを開催しました。1つ目は長崎県と共催で、「持続可能な平和と繁栄について」をテーマに、核兵器と持続可能性のつながりについて議論し、2つ目は「核抑止の代替案:核軍縮の中期的視点という提案」をテーマに、中・長期的な核軍縮の取り組みについて議論しました。また、準備委員会の主要な関係者に直接面会し、本県の取組への賛同を得るための働きかけを行ったほか、会場で、広島県/HOPeの取組を紹介するバナー展示を行いました。
サイドイベント①の開催【8月1日(火)】
2045年までのできるだけ早い時期に核兵器廃絶を達成するためには、今、何をしなければならないのか、というバックキャストの観点から、様々な団体のビジョンや活動について紹介がありました。併せて核兵器と持続可能性にはどのようなつながりがあるのかについて議論しました。
【日 程】令和5年8月1日(火)
【場 所】Conference Room M4(ウィーン国際センター)
【テーマ】持続可能な平和と繁栄について
【登壇者】
モデレーター:島田 久仁彦(HOPeプリンシパル・ディレクター)
パネリスト:
・岡井 朝子 ※オンライン参加(国連開発計画(UNDP)総裁補兼危機対応局局長)
・パトリシア・ヤヴォレック(核脅威イニシアティブ(NTI)グローバル核政策プログラム・オフィサー)
・セバスチャン・ブリクシー・ウィリアムズ(英米安全保障情報会議(BASIC)エグゼクティブ・ディレクター)
・マルシナ・ラングリン(マーシャリーズ教育イニシアティブ(MEI)プログラムコーディネーター)
【参加者】25名(県議会団7名を含む)、 オンライン参加14名
【主な議論】
- UNDPからは、核戦争の脅威や文化の分断により、政治や政策が公平で包括的な社会から遠ざかっている今、持続可能性を担保した新しいアプローチと解決策が求められており、環境が整うのを待つのではなく、まずは行動すること、そして信頼と団結を高めるために、個人の利益を超えた人類と地球のための視点を持つことの重要性が示された。
- NTIは、核の問題は、政策、人間の行動、ふるまい、決定、信念や仮説が相互作用するシステムの問題だと分析し、核のコミュニティと他の関連した分野と協力して一緒に行動し、核兵器使用が社会や経済、環境システムに及ぼす長期的影響をよく理解し、核兵器のない世界をポジティブに描くことが必要だと述べた。
- BASICは、核兵器がその製造から使用までの過程で多くの害を人間や地球に与えていること、そして自然や環境の安全は人間の生業のベースであり、そこが崩れてしまえば、人間の通常生活は成り立たないことを指摘した上で、ウクライナ戦争後のヨーロッパにおける持続可能な安全保障システムを考える取組を紹介した。
- MEIは、ビキニ環礁での核実験によりマーシャル諸島の人々が受けた影響や歴史について語った上で、今も続く生態、自然環境、文化への影響をみると、核兵器と環境問題は世界平和への最大の脅威であると説明した。
- 最後に、HOPeユース大使からHOPeが取り組む「未来へのおりづるキャンペーン」の紹介、参加の呼びかけを行いました。
サイドイベント②の開催【8月2日(水)】
現在取り組まれている危機管理の段階の先にある中・長期的な核軍縮の取り組みとしてできること、核抑止を再考し、代替案を考えることの重要性ついて、専門家が議論しました。
【日 程】令和5年8月2日(水)
【場 所】Conference Room M4(ウィーン国際センター)
【テーマ】核抑止の代替案:核軍縮の中期的視点という提案
【登壇者】
モデレーター:秋山 信将(一橋大学国際・公共政策大学院院長)
パネリスト:
・ティティ・エラスト(ストックホルム国際平和研究所 上級研究員)
・アンドリュー・フッター(英国レスター大学教授)
・ステファン・ハーゾグ(スイス連邦工科大学チューリッヒ安全保障研究センター 上級リサーチャー)
【参加者】22名(県議会団7名を含む)、オンライン参加28名
【主な議論】
- 米露の軍備管理交渉が進まなくても、核抑止は数千発の核兵器で十分に機能する。中期的には、最小限の弾頭数の核兵器による最小核抑止を採用することで、抑止の破綻によりもたらされる破滅的な結果を回避する可能性を高めることが出来る。また、核保有国だけでなく、核の傘の国にもできることはあり、核抑止への参加について、コストと利益の観点から、その便益を検証するべきである。
- 核抑止と核軍縮を別々に考えることはできない。核兵器が担ってきた役割の一部を戦略非核技術が代替できるかもしれない。また、核兵器のない世界を目指すには、核軍縮と開発のために、核技術の民生用と軍事用のバランスを取ることも大事だ。核兵器のない世界を求めるのであれば、それがどういう世界かをデザインすることも欠かせない。
- 核兵器によるリスク低減は軍縮ではなく、核兵器のある世界を生き、核兵器の危険性を回避するための政策だ。核抑止の大部分はその時々の幸運で成り立っており、絶対に破綻しないというものではない。一方で、核抑止は、他の国が核兵器による保護を求めるための拠り所となっている。
- 核抑止を乗り越えるには、大胆な変化が必要だ。長期的に望ましい、実行可能な核軍縮の方法を描くことが求められる。学術分野において、核関連の授業では、核抑止にかなりの時間が割かれ、核軍縮については参考文献程度であり、核抑止の代替案については議論もされない。「ハーバード大学・マッカーサー財団 核抑止を乗り越えるワーキング・グループ」では、世界各国の専門家と、この足りない議論を行い、変化を起こす目的で活動している。
- 最後に、HOPeユース大使からHOPeが取り組む「おりづるキャンペーン」の紹介、参加の呼びかけを行いました。
国連及び各国関係者への働きかけ【7月31日(月)~8月3日(木)】
滞在期間中、NPT運用検討会議第1回準備委員会の運営に携わる幹部や各国関係者と個別に面会し、ひろしまラウンドテーブル議長声明を手交するとともに、今会議において、しっかりと核軍縮の取り組みを進めてもらうよう、直接、働きかけを行いました。
(ア)中満泉国連事務次長兼軍縮担当上級代表との面会
核兵器を取り巻く国際情勢の今後の展望や、核軍縮に関する国連内での議論について、意見交換を行いました。G7広島サミットで、G7首脳が広島ビジョンで核軍縮へのコミットメントを再確認したことを歓迎しつつも、核軍拡の時代に入った現在の国際情勢において、どのように核軍縮へと戻していくかという課題について、議論しました。また、持続可能性の観点から、核兵器廃絶を推進する取組について説明を行い、賛同を得ました。
(イ)ゲッツ・シュミット・ブレンメ大使(在ウィーン国際機関ドイツ政府常駐代表)との面会
持続可能性の観点から核兵器問題を提起する新しいアプローチについて説明を行い、「グローバル・アライアンス「持続可能な平和と繁栄をすべての人に」」(通称GASPPA)の活動を紹介しました。核エネルギーの問題についても意見交換し、大使は、バランスが大事であり、核兵器問題も核エネルギー問題も日々の政治の論争として扱われるべきではないとの認識を示しました。
(ウ) アダム・シャインマン大使(米国務省核不拡散担当大統領特別代表)との面会
核兵器を取り巻く国際情勢、とりわけ核兵器保有国間の現状について、意見交換を行いました。大使からは、米国は前提条件なしで、ロシアと中国に対話のドアを開いており、米国としてはあくまでも世界の現状維持を目的としていることが説明されました。
(エ) ヤルモ・ヴィーナネン大使(NPT運用検討会議第1回準備委員会議長)との面会
持続可能性の観点から取組を紹介し、大使からは一般市民が核兵器の問題に関与していくことは、多くの国々の政策決定を変えていくきっかけになりうるとの賛同を得ました。大使は、核抑止に依らない安全保障の追求についても理解を示し、厳しい国際情勢で核兵器を手放すことが難しくな っている中でも、各国の政治的意志の重要性を強調しました。また、広島・長崎は、被爆体験を次世代に伝え、核兵器は戦争の手段ではないことを訴える重要な役割を果たしているとの認識を示しました。
(オ) 引原毅大使(在ウィーン国際機関日本政府常駐代表)との面会
持続可能性の観点から核兵器廃絶を目指す取組について、環境問題のように核兵器の問題が自分事として捉えられていない現状への課題を共有しました。また、核軍縮についても、中・長期的な取組も含めてシナリオ感を持つことの重要性に理解を示し、核兵器保有国による軍縮への取組が必要となるとの認識を示しました。
(カ) 水内龍太大使(在オーストリア日本国大使館特命全権大使)との面会
本県の核兵器廃絶に向けた取組を紹介し、理解を得ました。核軍縮、核兵器問題における国際情勢、オーストリアの動向についても意見交換を行いました。
(キ) ルイス・ハビエル・カンプサーノ大使(駐オーストリア メキシコ大使)等との面会
核兵器は、軍事・国家安全保障面のみならず、食糧安全保障、気候変動、健康、環境、ジェンダー等、様々な面への影響があるとの認識を示しました。核兵器禁止条約(TPNW)では人道的イニシアティブの観点から影響を調査し、訴えかける活動を進めていることから、県が取り組む持続可能性の取組との親和性を共有しました。またTPNWを推進するメキシコとして、締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を求めました。
(ク) テブロロ・シト大使(キリバス国連常駐代表)との面会
太平洋の国々が経験した、核兵器国の核実験により長年苦しめられてきた歴史から、核兵器がひとたび使われれば、環境や食糧、人々の健康に取り返しのつかない影響があることに深い理解を示し、核兵器と持続可能性の取組に対し、強い賛同を得ました。
NPT運用検討会議第1回準備委員会会場でのバナー展示
- 期間中、会場に集まった多くの方が通る通路において、県/HOPeの取組を紹介するバナー展示を行いました。
- バナーの前で、武井俊輔外務副大臣に面会し、直接、県/HOPeの取組を説明するとともに、ひろしまラウンドテーブル議長声明を手交しました。
3 成果
【NPT運用検討会議第1回準備委員会への貢献】
- 2026年NPT運用検討会議に向けては、準備委員会での議論も厳しい状況にある中、サイドイベントで専門家の議論を通して、持続可能性と安全保障の中・長期的視点という2つの新しい観点から、多面的に核兵器廃絶と核軍縮の重要性を訴えることができました。
【賛同者の拡大】
- グローバル・アライアンスが推進する、持続可能性の観点から核兵器問題を提起する新しいアプローチについて、サイドイベント参加者や会議関係者等から賛同を得ることができ、今後、ポストSDGsに核兵器廃絶を位置づけていくための弾みとなりました。
【政策づくり】
- 核抑止に代わる安全保障政策づくりについて、大使等と直接意見交換し、方向性や必要性について理解や賛同を得ることができました。
【被爆地からの発信力強化】
- 被爆県である本県と長崎県が、昨年に引き続き、協力してサイドイベントを開催し、また、会議運営関係者との面会も一緒に行うことで、会議関係者に対し、核兵器廃絶と核軍縮の進展の重要性を力強く示すことができた。
- 県議会団の派遣は、本県が進める、核兵器のない平和な世界の実現に向けた取組について、自治体を挙げて取り組んでいる姿勢を発信することができ、大きな意義がありました。
【ユース大使の活動】
- 同行したHOPeユース大使が、サイドイベントに同席して、自分の言葉で未来へのおりづるキャンペーンへの参加呼びかけを行ったほか、会議関係者との面会に同席して直接言葉を交わし、キャンペーンへの参加をお願いしたほか、NPT運用検討会議第1回準備委員会での議論を傍聴するなど、核軍縮・不拡散の交渉現場に立ち会う経験を通じて、次世代の育成につなげられました。
4 日程
月 日 | 項 目 | 場 所 |
7/31 (月) |
日本発/現地着
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ウィーン |
8/1 (火) |
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ウィーン |
8/2 (水) |
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ウィーン
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8/3 (木) |
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ウィーン |
8/4 (金) |
フランクフルト着(飛行機の遅延により一泊) |
フランクフルト |
8/5 (土) |
日本着 |
※日付表示は現地時間
※組織名称は一部略称使用
5 参考
サイドイベントURL(Reaching Critical Willのサイト)
https://reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/npt/2023/calendar