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国際平和拠点ひろしま

あの日の“記憶”を永遠に語り継ぐ〜AIを駆使した被爆証言応答装置




NHK広島放送局の被爆体験継承プロジェクト「永遠に語り継ぎたい 〜未来に残す、あのときの記憶〜」。2023年1月の国立広島原爆死没者追悼平和祈念館など、これまでに数カ所で期間限定公開されたほか、G7広島サミットでも外国人メディアなどを対象に公開され大反響を得ました。

会場に据えられた画面の中に、証言当時91歳の被爆者、梶本淑子(かじもと よしこ)さんの等身大の映像が映し出されています。タブレット端末をタッチしながら「こんにちは」と呼びかけると、「こんにちは」と笑顔で答えてくれる梶本さん。用意された99の質問リストから、『原爆が落ちた瞬間、何を思いましたか?』など気になるものを選んで質問すると、「そうですね、あのとき……」と、映像の中の梶本さんが言葉を選びながら語りかけてくれます。

その声は優しくあたたかで、ときにユーモアも滲み、すぐに会話の中に引き込まれます。AIを使った応答装置だとわかっていても、画面の正面に座って対話をしていると、不思議とご本人と対話をしているような錯覚に陥るのです。


画面に映るのは、広島で被爆し2001年から被爆体験証言者として活動されている梶本さん


NHK広島放送局のコンテンツセンター チーフ・プロデューサーの生田聖子(いくた せいこ)さんは、開発に至ったきっかけについてこう話します。

「原爆の日とその後に、広島の人たちに何があったのか。それを知るには、被爆者の方に直接話を聞くのが一番です。しかし、被爆者の方の平均年齢が85歳を超える中、そうした機会はますます貴重になっています。被爆者なき世界が近づいている中で、何か出来ることはないのか……。そんな想いで立ち上がったのが、このプロジェクトです。」

NHK広島には、これまでに撮影した被爆者の方々の証言映像がたくさんあります。「証言映像や被爆者の方の手記はどれも非常に貴重な内容ばかりですが、時間をとってご覧いただくのが難しい場合もあります。やはり直接お会いして、その方のお人柄にも触れながら質問して答えていただく、双方向のコミュニケーションに勝るものはないと思うのです。」

被爆者の方に直接会って証言を聞く経験を、これからも長く実現できる新しい伝え方はないだろうか。そう考えていたとき、ヒントになったのがアメリカでホロコーストを経験した人たちの証言を残すために開発されたAIを活用した応答装置でした。

「そのような装置を作れたら、国内外の人たちに広島の経験を語り継ぐことができるのではないかということになり、プロジェクトがスタートしました。装置もいちから開発すべく、東京大学のデジタルアーカイブズの構築に携わっていらっしゃる先生や歴史学の先生、また広島と長崎の国立原爆死没者追悼平和祈念館の皆さんにお集まりいただいて、方向性を相談したのです。」

この会議で「次世代を担う人たちを巻き込んで作るべき」という意見が出たことから、若い世代に街頭インタビューを行い、「あなたなら被爆者にどんなことを聞いてみたいか」と質問。さらに、事前に梶本さんの手記を読んだ広島市立基町高等学校の生徒さんたちにも意見を募り、900以上の質問にまとめました。


会場で使用されている質問リスト、テーマごとに質問が分けられている


「私たちが開発したのは、質問者が発した質問に含まれるキーワードを手がかりに、AIが梶本さんの証言から当てはまるものを引っ張ってきて回答する、というシステムです。ChatGPTのような生成AIではないので、ある程度まとまったデータ量が必要でした。」

2022年春、NHK広島放送局に梶本さんを招き、朝から夕方まで5日間、インタビューを行いました。


梶本さんへのインタビューの様子 写真提供:©NHK


「ご高齢なので、体調を見て休憩しながらでしたが、さすがに900以上の質問にお答えいただくのは大変だったと思います。それでも梶本さんは『これが最後の仕事になると思うから』と最後までおつきあいくださいました。梶本さんには本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。」

その後、撮影したデータベースをAI開発会社に渡します。梶本さんが答えた内容に含まれている戦争の話題で使われる用語や時代背景、衣食住などの言葉をAIに学習させ、“記憶のネットワーク”を構築します。そうすることで、たとえば『被爆後に最初に食べたものはなんですか?』といった質問をすると、“原爆”、“食べ物”といったキーワードを手がかりに、梶本さんの証言にある、被爆後に食べたおにぎりに涙した話を呼び起こすのです。

システムとしては自由に質問しても回答する場合もありますが、音声の誤認識などもあるため、これまでの体験会では厳選された99の質問リストから体験者が気になるものを選んでAIの梶本さんに質問するというスタイルを取りました。

「質問の中には『恋はしていましたか?』『生きるのが嫌になったとき、梶本さんならどうしますか?』など、戦争に直接関係ない話題もあります。そうした話題から梶本さんの人柄を知ることで、いかに私たちと同じ普通の人がある日突然被爆し、人生を変えられてしまったかということを感じていただければと思います。」


「ときどき、話に熱が入って質問した内容から話がそれてしまうのも、同じ人間らしくて共感できるなと思います」と生田さん。


「テレビ番組を作るときには、限られた時間の中で情報をわかりやすく伝えるため、「“長いものをカットしてつなぎ合わせる”編集作業が重要です。しかし、今回のプロジェクトを通して、“大切なものは、カットしてしまう部分にもある”と改めて感じました」と生田さんは話してくれました。

「被爆した後も長い人生を生き、さまざまな経験をしてきた梶本さんの証言だからこそ、いっそう胸に響くと思います。梶本さんのありのままの証言を未来に残すことができ、本当に光栄に感じています。」

いくつかの回答には英語の字幕もつけられており、G7広島サミットでは体験した外国人記者の方に好評だったそう。「今後は英語でも質問できるようになれば、海外の方に被爆者の方との対話を体験してもらう、すばらしい機会になると思っています。」

英語対応も含め、今後も技術的な検討を続けつつ、イベントなどで一般公開していく予定とのこと。機会があれば、ぜひ梶本さんとの貴重な“対話”を体験してみてください。


■紹介サイト

https://www.nhk.or.jp/hiroshima/hibaku75/taiwa/

■お問合せ先

NHK 広島放送局

広島市中区大手町2-11-10

082-504-5111

https://www.nhk.or.jp/hiroshima/

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