chapter1-21.2 なぜ今なのか?
核軍縮は今、重大な局面を迎えている。次に述べるような昨今の展開は、私たちが核削減に向かって前進していると期待させてくれている。2009年4月のプラハのスピーチにおいて、オバマ大統領は、「核兵器のない世界」に関する自身のビジョンを力強くまた情熱をもって語り、それに向けての取組を新たに約束した。米国大統領が核兵器の削減のみならず全廃も提唱することはめったにないことである。このほかの展開として、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)を設立した日本とオーストラリアの取組や米国による新たな核態勢の見直し(NPR)、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議での64項目の行動計画を盛り込んだ最終文書の採択も挙げられる。ICNNDでは包括的核軍縮・核不拡散に向けた計画が提案され、NPRでは消極的安全保証が明確に提示され、これにより核拡散への誘惑を断ち切る道が開かれた。最後に、米国とロシアが新戦略兵器削減条約(新START)に署名、批准したという重要な動きも忘れてはならない。これらは、「核兵器のない世界」に向かって私たちが前進していることを強調するものである。
しかしながら、核軍縮の達成には、非常に多くの難題が横たわっているのも事実である。核拡散は警戒すべきレベルに達し、今までは核が存在しなかった地域にまで広がっている。米国とロシアの核保有量が大幅に削減されたことは歓迎すべきことであるが、両国の戦略兵器の削減は他の地域や国々での核不拡散、核兵器削減を保証するわけではない。事実、北朝鮮への核拡散及び六カ国協議の明らかな停滞によって、東アジア地域における核抑止力への依存は弱まるどころか再確認されているのが現状である。核抑止や拡大抑止が国家安全保障上不可欠な要素であると考える国家に対して、米ロの核軍縮が及ぼす影響は限定的であろう。
また、核軍縮への希望の兆しが見えてきたころ、時を同じくして、核テロリズムという新たな脅威も出現した。2001年9月11日のテロ攻撃を通じて、テロリストの政治目標には非戦闘員の大量虐殺も含まれうることが明確になった。テロリズムの増大は、破綻国家を含む世界中の多くの地域における平和構築の失敗と密接に関連している。ゆえに、広島は、核戦争による人類絶滅のリスクを減らすためだけでなく、テロ出現の脅威を少なくする手段として平和を構築するためにも貢献すべきである。
しかしそのためには、何がなされるべきなのだろうか。核兵器の使用は人道に対する犯罪であり、核に依存したどのような平和も、望ましくないばかりか持続しない。だが、「核兵器のない世界」へ移行するためには、現状の米ロの軍縮プロセスだけでは、それ自体重要ではあるが不十分であり、非核保有国の関与が必要となってくる。核軍縮プロセスを、核兵器全般の正当性に対する単なる否認で終わらせてはならない。核戦力に依存しない持続的平和の方法や核抑止に代わる手段を模索する上で、私たちは、個々の国際的緊張関係や軍事衝突に焦点をあてる必要がある。国際紛争での核兵器の役割を減じ、最小限にし、そして最終的には排除する方法、言い換えれば国際紛争を非核化する方法を見つけなければならない。
ここで私たちが提案するのは、包括的核軍縮だけでなく、潜在的な国際紛争の非核化、すなわち国家安全保障における核能力への依存を低下させることにも焦点をあてた多国間国際交渉プロセスである。核に依存した国家安全保障は、結局のところ、冷戦の最中における核兵器管理のために生み出されたアジェンダである。米ロの核軍縮プロセスは、両国の指導者が軍拡競争の時代に終止符をうち相互に核削減に取り組むという決断があって初めて可能であった。すなわち、相互関係の非核化という大胆なステップによって実現したものであるということを私たちは忘れてはならない。
ロシアと米国の関係を除くと、国際紛争の非核化という取組は今日世界のどこにも見当たらない。このままでは、現状の米ロ間軍縮プロセスは、近い将来失速してしまう。核兵器のない世界を私たちの未来として真に望むのであれば、米ロ関係をこえて、国際紛争における核兵器への依存の度合いを減少させるような措置を講じなければならない。そのための取組は、ロシアと米国だけでなく、非核保有国も重要な役割を果たすべきである。
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