当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

折り鶴の灰から作った釉薬を使う陶磁器 平和への思いを託して世界へ



 橙色のゆれる明かりに、静かに浮かび上がる折り鶴が美しい「折鶴ランプ」。

 世界中から広島に届けられた“折り鶴”を宮島最古の寺院・大聖院で“お焚き上げ”を行い、折り鶴に託された“平和への思い”を昇華させた灰を陶器にかける釉薬(ゆうやく)として活用。折鶴をモチーフとして生まれ変わった「折鶴灰釉香炉 祈り」「折り鶴ランプ 燈」を制作したのは宮島御砂焼の窯元『対厳堂』三代 山根興哉さん。

 作品に込められた思いを聞くため、JR宮島口駅から国道沿い岩国方面、徒歩数分にあるギャラリー『対厳堂サロン』を訪ね、お話を伺いました。



 宮島御砂焼の由来は、江戸時代まで遡ります。この時代、安芸の国の旅人は嚴島神社本殿の下の御砂を道中のお守りとして頂いて旅に出ました。そして、無事に旅から戻るとお守りの砂に旅先の砂を加え、倍にしてお返しするという「御砂返し」という風習がありました。その御砂を混ぜた粘土で嚴島神社の祭器が作られるようになったのが、「宮島御砂焼(みやじまおすなやき)」の始まりです。

 当時は宮島島内に窯元があり、縁起物の焼き物として受け継がれて来ましたが、長きにわたる歴史の中で、御砂焼は幾度となく消滅の危機があったのも事実です。縁起の良い、お守りや祭器に端を発する「宮島御砂焼」を絶やしてはいけないと、大正元年に初代 興哉が宮島口に築窯、山根対厳堂(現在の屋号は対厳堂)を創業しました。

 当窯では、宮島御砂焼の歴史と伝統に寄り添い、いまでも嚴島神社本殿下の御砂をご祈祷していただき、粘土に練込み制作しています。私は三代 興哉として、贈答品や日常の器を作りながら作家としての作品も制作しています。

 

 歴史と伝統があるのはもちろんですが、昨今の対厳堂では厳島神社御用窯としての役割を更に重んじ、広島ならではのストーリーのある焼き物の制作に力を入れています。その中のひとつ「折鶴香炉 祈り」は、大聖院にてお焚き上げされた平和記念公園の折鶴の「灰」を焼き物の釉薬に活用して制作しました。

 国内外から届けられる折鶴は年間1000万羽、10トンにものぼり、広島市は平和を願う思いのこもった折鶴を活用するため、絵ハガキや包装紙への再生などさまざまな取り組みを行っています。そうした「折鶴の昇華」の取り組みの中、宮島最古の歴史を持つ「宮島弥山 大本山 大聖院」では、「折鶴のお焚き上げ」が行われています。使われる火は、弥山山頂で1200年燃え続けている「消えずの霊火」。平和記念公園の「平和の灯」の元火でもあります。そのお焚き上げの「灰」を大聖院の座主より拝受し、焼き物の釉薬に活用しました。

 通常の釉薬の灰は木の灰ですが、折り鶴の灰は紙の灰です。全世界から届く折り鶴は、紙もさまざま、そして鶴をつなぐ糸もさまざま。不純物が多いため何日もかけてアクを抜き、精製し、調合、試行錯誤を繰り返して「折鶴の灰の釉薬」を完成させました。

「折鶴灰釉香炉 祈り」

 釉薬は完成したものの、世界中の思いのこもったこの釉薬を使って何を作るべきか、ずいぶん悩みました。この作品を手にした人々が、“心穏やか”に、“手を合わせ”、“平和を祈る”ことができるにはどうしたら良いか考えた結果、線香を灯し立ち上る煙に手を合わせて平和を祈ることのできる“香炉”を制作するに至りました。そうして完成した香炉は、真っ先に大聖院へ奉納させていただくこともできました。

 制作には特殊な技術と工程があるため、現在は受注生産となっており、オーダーをいただいてから1年ほどお待ちいただいています。

 注文からお渡しまでの1年という期間を課題と考えたので、もっと身近で手に取っていただけるものとして、キャンドルを灯す「折り鶴ランプ」を制作しました。上蓋は原爆の子像のシルエットをイメージさせる形状で、釉薬をかけずにマットに仕上げ、キャンドルを置く受け皿に“折鶴の釉薬”をかけています。付属のキャンドルは、神様の島である宮島の森で育った蜜蜂の蜜蝋キャンドル。橙色の温かみのある光が心を落ち着かせてくれます。

「折り鶴ランプ 燈」

 灰といっても、思いのこもった折り鶴の灰は特別なものです。大切に、手間をかけて釉薬を作り、再び造形に戻し平和への思いを形にすることができました。まさにものづくりの力だと思います。ぜひ、大切な人、海外の方への贈りものとして、平和の願いを贈っていたただきたいと思っています。

 広島から平和を願う気持ちを発信すること、宮島に根付く1200年のストーリーを伝えることは、地域のためにという大げさなことではなく、広島の宮島口で100年以上にわたって続けさせていただいている窯元としての使命だと思っています。これからも、私たちのものづくりでできることは何かを考え、私たちがするからからこそ意味があることに積極的に取り組んでいきます。



〇折鶴灰釉香炉 祈り(線香、折り鶴の灰、角台付き)7万7000円 ※受注生産

〇折り鶴ランプ 燈(宮島蜜蝋キャンドル付き)1万3200円

収益の一部は広島市の平和推進のため寄付をしています。


宮島御砂焼 対厳堂サロン

住所:広島県廿日市市宮島口1丁目3-39

電話:0829-56-0027

時間:10:30~17:30

休み:水曜

HP:https://miyajimayaki.jp/

この記事に関連付けられているタグ