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国際平和拠点ひろしま

エネルギー危機で変わる「持続可能」の意味 変化に関心を持ち続ける(合同会社エネルギー経済社会研究所)

 2022年9月に開催された「2022世界平和経済人会議ひろしま」では、「ビジネスによる積極的平和~世界の平和と安定のために~」をテーマに,経済人たちが議論を行った。参加企業の中から,合同会社エネルギー経済社会研究所の取り組みについて,代表 松尾 豪氏に話を伺った。

1) 御社の事業内容について教えてください

2021年に事業開始したエネルギーに特化したシンクタンクです。電力会社、再エネ発電事業者、石油会社といったエネルギー業界、国内外の金融機関に対してサービスを提供していまして、国内外の電力及び燃料の市場制度調査や事業実行支援を主に行なっています 。最近はGX(グリーントランスフォーメーション)(注1)の関連投資の市場制度調査も手掛けています。

2) セッションでの御発言に関連した取組等について

今回のセッションの中で、「世界のあらゆる地域で、以前にも増してS+3E(安全性を大前提にした経済性・安定供給・環境適合性向上の両立)の重要性が増している。」とのご意見をいただきました。これについて、①政府レベル②企業レベル③個人レベルでどのような取り組みが必要か、教えてください。

 

 

<① 政府レベル>
今回のエネルギー危機で、持続可能という言葉の意味合いが非常に大きく変わりつつあると理解しています。これまでは主に環境面、特に地球温暖化対策に向けた温室効果ガス削減に向けた取り組みといった性格が大きかったものの、エネルギー危機を経て、「持続可能」に含まれる環境面以外の要素、例えば貧困解消といった要素が非常に大きくなりつつあります。社会・経済の視点、また国際関係など、あらゆる角度から持続可能性を模索していく必要があると考えます。
象徴的な事例として、COP26(注2)後の国際関係を指摘することができます。COP26の議長国はイギリスでしたが、脱石炭が非常に大きくクローズアップされました。石炭火力発電だけでなく、南アフリカやコロンビアといった石炭産出国も石炭輸出産業の依存型経済からの脱却を迫られましたが、エネルギー危機を経て、欧州は石炭の輸入が過去最高に達しています。石炭産出国は欧州から更なる石炭の輸出拡大を求められています。危機だから仕方がない部分はありますが、脱石炭を求めてきた欧州が石炭産出国に助けてもらっている実態も指摘できます。カーボンニュートラル時代を迎えるにあたって、持続可能な形で円滑な移行をどのように進めていくことができるのか。日本だけの問題ではなく、国際的に議論が必要だと理解しています。


<② 企業レベル>
企業は、排出量削減の視点での取り組みが目立ちます。特に日本企業は、輸出産業への影響を鑑みると、引き続きゼロエミッションの電気や再エネを求め、排出量を削減する取り組みが肝要だと考えています。他方で、企業は社会全体で「持続可能」の言葉が持つ意味合いが変化しつつあることも認識する必要があります。国際的に環境面以外の要素が重視される可能性もあり、社会・経済を見極めながら経営方針を探っていく必要があるのではないでしょうか。


<③ 個人レベル>
非常に規模が大きいお話なので、個人レベルでできることは非常に少ないとは思いますが、関心を持つ、連帯を表明することはできると思います。地球温暖化対策が非常に喫緊な課題になりつつある中、環境意識を向上させていく、さらに貧困問題など社会全体には様々な課題が存在し、様々な角度から持続可能性を見ていく必要があります。「持続可能な社会」に関心を持ち続ける必要があると考えています。

3) 海外での実例があれば,そちらもご紹介ください

ご質問に合った回答ではないと思いますが、次回のCOP28は、大きな分水嶺になる可能性を感じています。
COP28の議長国はUAE(アラブ首長国連邦)で、議長はADNOC(アブダビ国営石油会社)石油会社のCEO、エネルギー担当国務大臣です。彼の主張は、当面の間、石油とガスは必要であるといったものです。
我々も改めて認識する必要があるのは、脱炭素を完全に実現した経済圏は、産業革命以降の近代国家では存在しません。脱炭素の理想と現実を突きつけられているのが、
COP28だと感じています。脱炭素の必要性は否定しませんし、むしろ脱炭素化に向けた温室効果ガス排出削減に向けた取り組みは肝要だと考えています。但し、理想の実現に向けたハードルはしっかり認識し、技術革新や意識変革に向けた努力を続けていく必要があります。
我々にできる環境に配慮した取り組みを一つずつ積み上げていくことが非常に重要になってきていると思います。

4) 広島県への期待

真に平和で持続可能な国際社会の実現に向けて、今後広島県の活動へ期待することはありますか。

 

エネルギーの視点から広島県に期待することを申し上げます。ロシア軍のウクライナ侵攻により、ウクライナの各種エネルギーインフラがミサイル等の攻撃で破壊されています。大変残念ながら、ザポリージャ原発や南ウクライナ原発といった原子力発電所もロシア軍に攻撃される事態に直面しています。世界初の稼働中の原子力関連施設に対する軍事攻撃です。エネルギーインフラの攻撃にあたっては、ロシアのエネルギー専門家が軍に協力しているといった報道もあります。また、ロシアは欧州に対して天然ガス供給を停止するなど、エネルギーを武器として活用していると指摘されています。
私は、エネルギー産業やエネルギーに関する知見は、社会・経済の平和と安定供給のために活用されるものであるべきだと強く感じました。実態としては、太平洋戦争直前のABCD包囲陣(注3)や、第四次中東戦争時のモラル・エンバーゴ(注4)など、国家間のパワーバランスに翻弄されてきたエネルギーですが、文明社会に最も必要な要素の一つで、戦争になることもあれば、活用によっては平和に貢献することもできると考えます。被爆地であり平和都市である広島からエネルギーを含めた新たな国際秩序の構築に向けた基本精神を訴えかけていく必要があるのではないかと強く感じています。


(注1)GX(グリーントランスフォーメーション)…脱炭素社会の実現に向けた取り組みを通じて経済社会システムの変革をすすめること。
(注2)COP26…2021年にスコットランドのグラスゴーで開催された「第26回気候変動枠組み条約締約国会議」のこと。
(注3)ABCD包囲網…日本に対して、1930年代後半から、アメリカ(America )、イギリス(Britain)、中国(China)、オランダ(Dutch)の 4 カ国が行った経済制裁のこと。
(注4)モラル・エンバーゴ…道義的輸出禁止措置のこと。第四次中東戦争では、サウジアラビアをはじめとするアラブ石油輸出国機構(OAPEC)が、イスラエル支援国に対してアラブ原油の販売停止又は制限をした。




合同会社エネルギー経済社会研究所
代表 松尾 豪氏

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