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国際平和拠点ひろしま

同じ過ちを繰り返さないために 世界で平和への考えを発信する力を育む「広島学」



 日本が核兵器を持つことに賛成か、反対か―。これは東広島市黒瀬町にある武田高等学校グローバルスタディーズコース2年生の「広島学」という授業で行われたディベートのテーマです。グローバルスタディーズコースは普通科としての学習と並行して1・2年生では広島学、3年生では平和学の授業を通して、客観的な視野で平和について考え、自分の意見を発信する経験を重ねています。


2年生が行ったディベートの様子



 グローバルスタディーズコース(以下GSコース)がスタートしたのは、同校が創立50周年を迎えた翌年の平成30年。建学の精神である「世界的視野に立つ国際人の育成」に立ち返り、国際教育に特化したコースとして設立されました。特徴的なカリキュラムは、第2外国語を学び、ヒロシマに起こったことを知る「広島学」、世界的な視野で平和を考える「平和学」、宗教や異文化コミュニケ―ションなどをテーマとする「比較文化学」などです。

コースの設計に携わった堀田宗男(ほった・むねお)副校長によると、広島学の始まりには生徒の声も大きく影響しているとのこと。GSコースができる前、留学した生徒からたびたび言われたのは「ヒロシマのことを聞かれて答えられなかった。」「日本人の宗教観を聞かれて説明できなかった。」という声でした。「世界で活躍する国際人になるには、英語力を身に付けるだけでなく、英語で考え英語で自分の考えを発信できなければなりません。広島に住んでいる以上、原爆が落とされたヒロシマを語ることができる、そして平和に対する考えを持たなければいけないと強く感じました。」と言います。

【1年生の平和学課外学習】

袋町小学校平和資料館見学                         広島平和記念資料館研修 

シュモーハウスの見学

【2年生の平和学課外学習】

大久野島研修では毒ガス資料館や毒ガスが製造されていた遺構を訪れる

 「広島学」は、1年生が「ヒロシマ」を知ることから始まります。袋町小学校平和資料館への訪問、平和記念公園での資料館見学や記念碑めぐり、江波のシュモーハウスの見学などでヒロシマの歴史をたどります。2年生になると、広島から視野を広げて日本という立ち位置で平和を考えるため、大久野島の毒ガス資料館を訪れ、第2次世界大戦で日本は被害者であり加害者でもあったことを知ります。3年生では「平和学」となり、世界の中での日本の姿を見ます。例えば今年は、GSコースに在籍するドイツからの留学生、同コース担当教諭のアメリカ出身のアシュリー・サウザー先生、そして日本の生徒たちという3カ国でのディスカッションを通して、自分とは違う視点で平和について考えています。

広島学を担当するサウザー先生

 サウザー先生は、アメリカ出身でALT(外国語指導助手)として広島県に。アメリカン大学大学院で平和構築学を専攻し、2007年に武田高等学校へ赴任しました。現在は教鞭をとる傍ら、広島市立大学の修士プログラムで平和学を研究しています。広島に赴任した当初、平和記念公園に行くことができなかったと言います。「原爆を落とした国の者として心に余裕がありませんでした。しかし平和記念公園に行ってみると、誰が悪い、どちらが悪いというメッセージはなく、戦争を人間の過ちとしてとらえた言葉がありました。人間であるという共通点を強調しながら戦争を客観的にとらえ、平和を考えていくことができると思えました。」と振り返ります。そのためにも、「ヒロシマを知って過去から学ばなくてはならない。生徒には、論理的に平和を語れる力を身に付けてほしい。」と力を込めます。

『きけ わだつみのこえ』を読み、一人一人感想を発表

 取材日の2年生の広島学の授業は、事前に読んできた本『きけ わだつみのこえ』の感想を発表することから始まりました。一人一人が気になる箇所が違ったり、同じ箇所でも感想が違ったり。2年生の東風青空(こち・せいら)さんは「意見を交流させることで、自分の中にはない考え方を知ることができ、学んでいるテーマをもっと深く知ることができます。」と話します。

東風青空さん

 そして授業はディベートに突入。生徒たちは、日本が核兵器を持つことに「賛成派」と「反対派」に分かれ、それぞれが英語で立論、質疑、最終弁論を行います。観覧する生徒が審査員として、どちらの主張がより説得力があったかをジャッジ。核兵器を持つことに賛成派として登壇した2年生の水口直美(みずぐち・なおみ)さんは、本来は反対派。「ディベートの準備を始めた当初は考え方が理解できず、立案するための考えが浮かびませんでした。調べていくうちに核を持つことが戦争の抑止力になるという考え方を知り、反対派への質疑を考えることで、本来は反対派である自分の考えを理論的に理解できました。」と自分を客観視する経験をしています。

水口直美さん

 「先生から話を聞いたり、自分で調べたりすることで、それまで難しい内容だから分からないと思っていたニュースを理解できるようになりました。以前よりも情報がたくさん入ってくるようになりました。」と東風さん。「広島で平和を考えることが世界の問題を考えることにもつながっていることを知り、視野が広がりました。」と水口さん。

 広島学を通して、武田高校が願うのは、世界がどのような環境、状況にあっても、自分の考えを発信できる力を身に付けること。人類が二度と同じ過ちを繰り返さないために。

 広島学の学びは続きます。

武田高等学校

広島県東広島市黒瀬町大多田443−5

https://takeda.ed.jp/

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