災難乗り越え新たな芽吹き 力強く生き続ける被爆イチョウ
広島市東区の明星院では、被爆から77年、その間、度重なる台風の被害や落雷に遭いながら、今もなお生き続ける推定樹齢150年を超えるイチョウの被爆樹木が、この春も鮮やかな新芽を出しました。
生まれたときからこの木と共に過ごしてきた、八木恵生(やぎ・えしょう)住職にお話を伺いました。
被爆したイチョウが生き続けるのは、広島駅北口の『二葉の里』と呼ばれる地域の一角にある、『真言宗御室派 明星院』というお寺の境内。爆心地から約2kmに位置し、原爆投下時はこの地域でもひどい被害が出たそうです。
「爆風で周囲の街並みはすべて倒壊。この寺も建物が崩れ、直後の火災によってほとんどが焼失してしまいました。当時、寺にいた人たちも命からがら逃げることしかできなかったと聞いています。」
原爆によって、一瞬にして焼け野原になってしまった明星院と二葉の里。その後、街の復興と共に寺も少しづつ再建され、元の姿を取り戻していきました。境内で被爆したイチョウもまた、街の人たちと共に生き続けてきました。毎年春に芽吹く新芽、秋の鮮やかに色づいた葉と落ち葉の絨毯(じゅうたん)、たわわに実る銀杏。明星院の大きなイチョウの木は原爆に遭ってもなお、訪れる人たちを楽しませてくれていたのです。
「残念なことに、昨年(2021年)の8月に広島を直撃した台風によって、イチョウの幹が折れてしまったのです。これを見たときは、さすがにもうダメだと思いました。しかし長い時を生き続けてくれたこの木を何とかしてほしいと樹木医さんに相談し、現在の姿となって再び芽吹き始めてくれました。」と八木さんは、優しい目でイチョウを見上げます。
これまでの落雷や台風の影響で高さは3分の1ほどになり、太く力強く伸びていたたくさんの枝も落ちてしまいました。残った幹にも腐食が見られたため、防腐処置を施して一部をくり抜き、仏頭を安置してしめ縄をくくりました。
「この姿に手を合わせてくださる方が次第に増えてきました。こんな姿になっても、力強く生き続けているイチョウにあやかりたいと、今では幹を撫でていかれる方もたくさんいらっしゃいます。」
イチョウの下でそう話す八木さんの足元や幹のあちらこちらから、鮮やかな新緑の葉を出す小さな枝が伸び始めています。
明星院の境内にはイチョウのほかにも、大きなソテツと2本のクロマツが被爆樹木として残っています。
「原爆の生き証人ですから、これからも大切にしていかなければなりません。ご自身で見て、ぜひ触っていただいて、その力強さを感じていただければと思っています。」
そのほかにも、仁王門に安置されている二体の仁王像、本堂の中に安置されている赤穂浪士の義士像など、原爆に遭いながらもその姿を現在まで残し続けている貴重な物を拝見することができます。
「お寺は心の拠り所。立ち寄っていただいたときに、心がほっとできる場所としてあり続けたいと考えています。世界がこんな状況になってしまった今、イチョウを眺めたり、お参りしていただくことで、改めて平和の大切さと安らぎを感じていただければと思います。」
真言宗御室派 明星院
TEL:082-261-0551
住所:広島市東区二葉の里2丁目6‐25
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