2020年10月24日,ホンジュラス共和国の批准により核兵器禁止条約 (TPNW)の批准国が50か国となった。条約の発効条件は50か国の批准であり,今回の批准により核兵器禁止条約は90日後の2021年1月22日に発効されることになる。
今回,核兵器禁止条約に関する出来事を振り返りたいと思う。
2010年5月 核不拡散条約(NPT)再検討会議
この会議で核兵器の非人道性を国際人道法との関係で初めて明確に位置付け,採択された最終文書には核兵器禁止条約のような法的枠組が必要であると明記された。※1
※1 RECNA, 2010年核不拡散条約再検討会議 最終文書
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/database/importantdocument/un/no1/2-1
2011年11月 国際赤十字・赤新月運動代表者会議での決議
赤十字国際委員会(ICRC)は,すべての政府に法的拘束力を持つ国際条約によって,核兵器の使用禁止と完全廃棄を目指す,誠実かつ緊急で断固たる交渉を追求し,合意することを要請する決議を採択した。※2
※2 RECNA, 2011年「国際赤十字・赤新月運動代表者会議」
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/database/importantdocument/policy-advice/organization/no1
2012年5月 2015NPT再検討会議第1回準備委員会
スイスなど16か国が核兵器の人道的側面に関する共同声明を発表。この共同声明において,「すべての国家は,核兵器を違法化し,核兵器のない世界を達成するための努力を強化しなければならない」と主張し,NPTの「運用検討のサイクルにおいて,核兵器の人道的結果について徹底的に取組むことが不可欠である」とした。
※3 ひろしまレポート2013,p9. https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/100815.pdf
2013年,2014年 「核兵器の人道的影響に関する国際会議」
核兵器の使用に対する人道的影響を科学的な事実に基づいて議論するため,ノルウェー,メキシコ,オーストリアで3回開催された。この会議について,(公財)広島平和文化センター理事長(当時)の小溝泰義氏は,ひろしまレポート2018のコラムで次のように評価している。
長年にわたる広島・長崎の被爆者の証言と核廃絶への切実な訴えがその基礎であることは,TPNWの全文からも明らかだが,こうした認識を加速した直接の契機は,2013年から14年に3度開催された「核兵器の人道的影響に関する国際会議」だ。繰り返す核兵器事故と核戦争の危機の史実を知った参加者が被爆者による被爆証言を聞いたとき,核の惨劇が誰の身にも起こりうるとの危機意識に目覚め,非核兵器国の多くに核軍縮交渉への当事者意識を生んだ。※4
※4 小溝泰義,「【コラム3】核兵器禁止条約と核軍縮の今後」,ひろしまレポート2018,https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/272923.pdf
2016年 国連総会
「多国間核軍縮交渉の前進(Taking forward multilateral nuclear disarmament negotiations)」が採択
反対国 35か国(豪州,ベルギー,カナダ,フランス,ドイツ,イスラエル,日本,韓国,ノルウェー,ポーランド,ロシア,トルコ,英国,米国など)※5
※5 ひろしまレポート2017,p12, https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2019/09/318029.pdf
2017年3月,6月~7月 「核兵器の全面廃絶に向けた核兵器禁止のための法的拘束力のある文書を交渉する国連会議」(以下,交渉会議)開催
2016年に採択された決議「多国間核軍縮交渉の前進」に基づき交渉会議が開催された。
交渉会議についてひろしまレポート2018(https://hiroshimaforpeace.com/hiroshimareport/report-2018/)では次のように説明している。
交渉会議の開催に向けてイニシアティブを取った国の一つであるオーストリアは、初日の演説で、「会議場に数多くの国が集結していることを誇りに思う。それは、核兵器禁止への幅広い、世界的な支持を示すものだ」と述べた。条約策定を支持する国々及びNGOなど市民社会の代表が大多数を占めた交渉会議では、条約に規定される具体的な義務や措置を巡り意見の相違—核兵器の使用に加えて使用の威嚇も明示するか、CTBTに規定された核爆発実験の禁止だけでなく他の実験も包摂すると解釈できる「核実験」の禁止とするか、核兵器の「通過」も禁止の対象に含めるか否かなど―もみられた。それでも、核兵器の非人道性を重視し、核兵器の禁止規範を条約の形で具現化することが核兵器廃絶に向けた重要なステップであるとの信念、並びに交渉会議期間内に条約を採択するとの目標について、条約推進派の総意は揺るがなかった。交渉会議議長を務めたホワイト(Elayne Whyte Gómez)コスタリカ大使の強いリーダーシップもあり、TPNWは会議最終日の7月7日に賛成122、反対1(オランダ)、棄権1(シンガポール)で採択された。
また,この交渉会議については,上述の2016年の国連総会決議に反対または棄権した核保有国・核傘下国は,オランダを除き条約交渉会議に参加しなかった。2017 年 NPT 準備委員会でも、5 核兵器国は条約交渉を批判するなどし,核保有国・核傘下国と非核兵器国の「分断」が生じるのではないかと懸念されることとなった。
(詳細はひろしまレポート2018「第1章核軍縮(3)核兵器禁止条約(TPNW)」をご覧ください。)
2017年7月7日 TPNW採択
賛成122,反対1(オランダ),棄権1(シンガポール)
核兵器禁止条約が国連で採択された後,広島の被爆者であるサーロー節子さんが行った演説の一部を紹介する。
私たちはこの驚くべき成果を祝うために集っているわけですが、
ひととき立ち止まって、ヒロシマとナガサキで命を奪われた方々の声に、思いをはせてみましょう。
1945年8月のあの時と、
その後72年の間に亡くなった
数十万人の方たちです。
亡くなった方々はそれぞれ、名前を持ったひと、でした。
誰かに愛されたひとたち、だったのです。
https://www.hju.ac.jp/news/2017/12/77-httpsyoutubei9c6-qobmko-ngo-ngo-1945.php
サーロー節子さんの演説はICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のYouTubeでアニメーションとして配信されているのでこちらもぜひご覧いただきたい。
※動画は英語となります。
2017年9月20日 TPNW署名開放
署名開放された9月20日には51か国が署名した。
また,同日にガイアナ共和国,バチカン,タイ王国が条約に批准した。
2020年8月6日広島に原爆が投下されて75年
被爆75年を迎えた今年の8月6日,アイルランド,ナイジェリア連邦共和国,ニウエがTPNWに批准。
そして,2020年8月9日,長崎に原爆が投下されて75年がたった日に,セントクリストファー・ネービスがTPNWに批准し,批准国が44か国になった。
2020年10月24日批准国が50か国に到達
ホンジュラス共和国の批准により批准国が50か国に到達した。
TPNWに批准している国はどのような国なのか?
批准した国々を紹介する。
参考:https://www.icanw.org/history_of_the_tpnw
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/database/condensation/tpnw