広島大学総合科学部総合科学科 菅野計馬氏が論文「核兵器禁止条約成立にヒロシマが果たした役割」を発表されましたので紹介します。
本論文の作成にあたっては,広島県平和推進プロジェクト・チームに取材いただき,本県の「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく取組などを説明させていただきました。
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論文概要
論文概要は菅野氏作成の資料から引用しています。
核兵器禁止条約の概要
内容
①核兵器の非人道性に言及
②核兵器に関わる主要な活動(開発・移転・使用・威嚇など)をすべて非合法化
③被爆者の支援や核汚染環境の修復を定める
評価
肯定的評価:全面的禁止への評価や”hibakusha”の記述への賞賛など
否定的評価:実効性への疑念や安全保障上の危惧など
国内外の状況
国外:参加に積極的な国と消極的な国に二分化。世論は参加を支持する傾向。
国内:政府は参加に消極的姿勢。世論の過半数・与党一部は参加を支持。
現況:35か国が批准(2020年1月27日時点)
*発効には50か国の批准が必要
核兵器禁止条約の成立過程
時期区分 |
期間 |
主な出来事 |
①気運高揚期 |
1996 |
ICJの勧告的意見 |
②具体化期 |
1997 |
モデル核兵器禁止条約 |
【停滞期】 |
1998-2006 |
|
③再模索期 |
2007-2009 |
改訂版モデル核兵器禁止条約、潘基文国連事務総長の「五項目提案」 |
④人道的アプローチ展開期 |
2010-2015 |
ICRC総裁声明、「核兵器の非人道性に関する共同声明」 、「非人道性会議」 |
⑤交渉期 |
2016-2017 |
交渉開始決定、条約交渉、条約成立 |
川崎(2018b)を主に参考にし、筆者作表
研究結果
ヒロシマの歴史
時期区分 |
期間 |
概要 |
①空白期 |
1945-1954 |
被爆体験が非統一的に形作られた時期 |
②全国化期 |
1955-1974 |
原水爆禁止運動の内外において、被爆体験の普及がなされた時期 |
③国際化期 |
1975-1994 |
被爆体験が世界的に普及した時期 |
④歴史化期 |
1995-2015 |
被爆体験を歴史化する動きが見られる時期 |
⑤条文化期 |
2016-2017 |
被爆体験を法的に「普及」させると同時に、様々な規定に「変容」させることを目指した時期 |
宇吹(2017)を参考にし、筆者作表
ヒロシマの果たした二つの役割
①短期的役割:条約交渉過程(2016年~2017年)における支援
e.g.⑴水本(2019):核兵器禁止条約が成立した背景には、交渉を進行させた有志国の努力及び国際NGO、被爆地の市民の全面的支援があった
②長期的役割:戦後数十年(1945年~2015年)にわたる「核なき世界」に向けた議論・民意の醸成
e.g.⑴冨田(2017):何十年にもわたる原水爆禁止運動を通して「核なき世界」実現のための論点はすでに出尽くしていたため、短期間で条約が成立
多様なアクターの果たした役割
時期区分 |
期間 |
概要 |
例 |
① 空白期
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1945-1954
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⑴被爆者団体や市民団体が組織化し、平和運動を開始 ⑵宗教団体や学生・学生団体も平和運動に参加 ⑶行政は平和運動の先駆けとなるとともに、復興に向けた取り組みを開始
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①⑴「原爆被害者の会」や「原爆乙女の会」の結成 ②⑶「原水爆被災白書」作成運動、原爆ドーム保存運動
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② 全国化期
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1955-1974
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⑴原水爆禁止運動を展開 ⑵多様なアクターが原水爆禁止運動を継続 ⑶市民団体や行政、学生が被爆体験を継承・発信
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③ 国際化期 |
1975-1994 |
⑴様々なアクターが被爆体験の海外普及を推進するとともに、原水爆禁止運動を継続 ⑵被爆者、市民団体、宗教団体が被爆体験の継承・発信を積極的に展開 ⑶行政は核廃絶のための国際的ネットワークを構築開始 |
④⑴広島創価学会:「被爆体験を聞く会」の開催や被爆証言集・反戦出版の発行 ⑤広島県平和推進プロジェクト・チーム:「(参加・署名・批准などの)要望は、成立前もそうですし成立後も、政府に対して、行っている」 |
④ 歴史化期 |
1995-2015 |
⑴様々なアクターが被爆体験の継承・保存を推進 ⑵被爆者や行政が核兵器禁止条約成立に向けた行動を開始 |
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⑤ 条文化期 |
2016-2017 |
様々なアクターが共同活動・独自活動を行い、核兵器禁止条約成立を支援 |
結論
研究結果
- ヒロシマの果たした役割には長期的役割(=戦後数十年にわたる「核なき世界」に向けた議論・民意の醸成)と短期的役割(=条約交渉過程における支援)の二つが存在する
- ヒロシマは、被爆体験の継承・発信や原水爆禁止運動の推進などを通じて長期的役割を、条約成立に向けた共同活動・独自活動を通じて短期的役割を果たした
考察:三つの課題が示唆された
①被爆者なき後、被爆者の役割を代替する存在の養成が必要である
∵各アクターの活動は被爆者の被爆体験を基礎に展開
②今後、アクター間の協力関係を維持・強化し、平和運動を行うことが課題である
∵条文化期において、多くのアクター間の協力が顕著に見られるようになった
③平和運動への企業(マスコミを除く)のコミットメントを促進する必要がある
∵様々なアクターが平和運動を展開していたが企業の関わりは小さい
研究の限界:各アクターの平和運動について包括的な研究が出来ていない
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