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国際平和拠点ひろしま

世界最大の対話イベント、広島で開催

     

     

アントニオ・グテーレス国連事務総長が、2018年、ジュネーブ大学でおこなった演説で、国連の軍縮アジェンダを発表し、若い世代が重要な役割を担っている事を明確にしました。事務総長は、「私たちの世界に変革をもたらすことができる若者たちは、最も重要な力である」と説明し、若者が声を広め、変革を先導していくための知識とスキルの修得をサポートすると約束しました。

    

     

広島への原爆投下と国連設立から75年を迎えた今年の8月6日に,国際平和のための対話イベント「UN75 in Hiroshima」が開催されました。これは国連事務総長がビデオメッセージによる開会あいさつで述べたように、「すべての人にとってより良い未来を実現するために国際協力を一緒に活性化する方法についての世界最大の対話」の一環として開催されました。新型コロナ・ウイルス対策として、イベントの参加者全員はフェイスシールドを着用し、広島県外から2名がビデオ通話で参加しました。

    

    

    

    

国連事務総長は広島には来られませんでしたが、国連事務次長兼軍縮担当上級代表を務める中満泉氏が広島県知事の湯崎英彦氏と共にパネルディスカッションに参加し、一橋大学の秋山信将教授がモデレーターを務めました。一般公募で選ばれた参加者の「SDGs(持続可能な開発目標)の実現のために軍縮はどう貢献できるか」というテーマのプレゼンテーションを、パネリストの二人も興味深く聞いていました。広島に原爆が投下された8月6日に広島で開催された本イベントにふさわしく、発表された提案の多くが核軍縮に焦点をあてたものでした。

    

    

   

   

中満氏は、セッションの冒頭の挨拶で、軍縮とSDGsの関連性について説明されました。軍縮アジェンダは、専門家が支配する閉鎖的技術グループから、軍縮についての議論を引き出し、それをSDGsに結び付けて幅広く議論する初の試みであること、そしてUN75は世界最大の対話プロセスであり、政府の壁を超えた「包括的な多国間主義」を目指すプロセスであると繰り返し話され、これから25年先までの優先事項を設定する上で、若い世代が重要な役割を果たすことを強調されました。

    

     

    

    

また、中満氏は、挨拶の締めくくりとして、「国連の設立は、非常にトップダウンだったが、最近の「Me Too運動」、「Fridays for the Future」、「Black Lives Matter」などの「草の根運動」を見ると、現在の世界変化は、ボトムアップでなければなりません。このような運動が持つ、とてつもないエネルギーにより、それぞれの要求が政策立案者やリーダーたちの権限にまで影響を与えています。今日のリーダーたちの重要な役割とは、若者が貢献でき、革新的なアプローチを構築し、組織をつくり、相互に繋がりを持ち、経験を共有できるようにすることです。みなさんの創造的なエネルギーと革新的な発想を聞き、それをニューヨークに持ち帰るのを楽しみにしています。」と話されました。

     

湯崎知事の期待も大きく、「地球の未来は、皆さんにかかっている。」と伝え、軍縮とSDGsが密に関係していることを強調しました。また、この2つの目標が、ある種の好循環となって、どのように相互作用し、強固なものになっていくかについても説明しました。

    

    

    

    

セッションは4つのテーマに分かれていました。

  • 提言(アドボカシー): 体験談が持つ力と広島の被爆者、語り部の役割
  • 核軍縮教育およびコミュニティとの連携
  • テクノロジーによる包括性とSNSの役割
  • 軍縮と社会的/経済的な問題の橋渡し

    

    

提言(アドボカシー): 体験談が持つ力と広島の被爆者、語り部の役割

   

長興茅さんは、広島の被爆者の通訳を担当した時の話をしてくれました。被爆者は、キプロス政府が核兵器禁止条約に批准するよう説得していました。彼女は,国民個人の気持ちと政府の政策にはギャップがあり、不満を感じていました。被爆者の証言を聞いて、明らかに心を揺さぶられたはずなのに、キプロスはまだ条約に署名していません。彼女は、各国が軍縮と平和に向けた一歩を踏み出すため、インセンティブの仕組みを提案しました。そのインセンティブとして、国連加盟国の強みを生かした、モノ、ノウハウ、人材などが挙げられます。例えば、国連は、日本の核兵器禁止条約に批准することを条件に、再生可能エネルギー分野の専門家を日本に派遣することもできると説明しました。

    

    

    

    

メアリー・ポペオ(Mary Popeo)さんは、広島を拠点とするPeace Culture Village (PCV)の活動を紹介しました。この活動の目的は、広島ベースの平和教育を通じて、意識を向上させることです。メアリーさんは「SDGs、そして軍縮が実現する世界を作るには、教育が鍵を握っています。もし核兵器を廃絶できたとしても、世界中の人々が普遍的な幸福を追求する中で、相互に率直に、正直に、親密に関わり合うことを学ばなければ、私たちはお互いに、そして自分自身を滅ぼす道を歩むことになります。」と述べました。

    

    

    

    

メアリーさんは、仲間とコーヒーショップに集まり、新型コロナ・ウイルス発生後の世界で、どのように被爆者の体験談を共有し続けていけるか議論を重ねた経緯を説明しました。その結果として、「Peace Portal」を8月6日に立ち上げたことを報告しました。このプラットフォームでは、デジタル・テクノロジーを使い、広島平和記念公園を案内するアプリのほか、広島を訪れる事ができない世界中の人々に、広島ベースの平和学習も提供しています。彼女は大のゲーム好きであることを告白しつつ、ゲーム・テクノロジーには、平和文化や広島のメッセージを発信していく無限の可能性を感じていると語りました。

    

     

    

    

被爆二世で高校教師でもある田代礼子さんも、個人の体験談が、国境を超える力を持っている事に触れ、被爆者の証言の重要性について語りました。田代さんの母親は6歳の時に被爆しましたが、70歳になってから、やっと自分の被爆体験を語るようになりました。2010年、ニューヨークの高校で、自らの被爆体験を話したところ、イスラエルの攻撃で家族を亡くした、パレスチナ人の少年が、「アメリカがしたことを、なぜ許すことができたのですか?」と尋ねました。彼女の答えは、少年を驚かせました。当初、彼女はアメリカ人に対して深い憎しみを抱いていました。しかし最終的には、憎しみは、さらなる憎しみを生み出すだけであり、その憎しみの悪循環により、戦争に引き戻されてしまうのだと気づいたのです。彼女は、その悪循環を断ち切らねばならないと心に決めました。彼女の言葉を聞いても、その少年は理解に苦しんでいたようで、受け入れ難い様子でした。しかし1年後、田代さんの母親は、その少年からメッセージを受け取ります。そこには、「許すこと、そして寛容になることを学んだ」と書かれていました。田代さんは、このエピソードを広め、戦争に対する抑止力は、核兵器を持つことではなく、人と人との交流だと伝えました。

   

   

    

    

軍縮教育: 学校、コミュニティと学問

    

アンキタ・セヘガル(Ankita Seghal)さんのプレゼンテーションは、「私は広島と長崎の原爆投下について、ほとんど知らないまま大人になった」という説明で始まりました。中学の教科書で、原爆投下についての説明は段落2つ分だけだったと彼女は記憶しています。彼女は、長崎を訪れ、被爆者と話すことで、初めて原爆の実相を知ることが出来ました。今日,最も強力な核爆弾は広島で14万人の命を奪った原爆の4000倍の威力を持つることを強調した上で、学生たちが本当の意味で問題に向き合えるようになるため、被爆者の体験談を動画やライブ・セッション、オンライン・チャットを通じて、世界中の学校や市民グループに届けることから始める計画を提案し、グレタ・トゥーンベリさんが主導したムーブベントのように、若者を中心とした、事実に基づく情報を広げていくことに焦点をあてた活動が続いていくだろうと語りました。最後に、アンキタさんは、政府間の対話を超え、より広い市民社会で、平和文化を確立する事を提案しました。

     

   

     

    

鈴木健斗さんも、若者があらゆる変化、特に軍縮を推進する大きな可能性を持っていることに同意しました。一方で、軍縮などの問題に取り組んでいる同世代が少ないことにフラストレーションも感じていると話しました。また、彼の提案では、変化をもたらす鍵として、どうすれば若い世代の人たちに、地球規模の問題を「自分事」として捉えてもらうか、どのように個人レベルで問題に取り組んでもらうかについて焦点を当てていました。彼は、世界各地の若い軍縮リーダー(YDL: Young Disarmament Leaders)が主導する3段階のプロセスを想定しました。YDLは、学校を訪問し、生徒のみなさんに外国の生活をもっと知ってもらいます。そして、その国のニュースを見たときに、より身近に感じること、繋がりを感じられるようにするというものです。その後、YDLは、世界各地の紛争問題について議論を進めます。そして、最終的には、その問題解決のため、個人として何ができるのかを話し合います。

    

   

    

    

柳津聡さんは、学校を超えた教育の概念について取り上げ、政府のリーダー、研究者、そして政策専門家だけでなく、すべての人が広島と長崎の生の体験を学ぶという恩恵を受けられると述べました。彼の提案は、シンクタンク、市民社会、学界から成る新しい知的コミュニティを通じて、専門知識を、民主化、人間化することを狙いとしています。通常、政府指導者しかアクセスすることはできない軍事費や地政学的な問題に関する最新の研究知識を、想像を絶する核戦争の結末を理解している若い社会活動家が出席するフォーラムで共有します。

    

    

    

    

そのような新しい知的コミュニティは、核軍縮のための現実的な計画を政府に提案することもできます。そうすることで政府は、そのような提案を真剣に受け止め、安全保障政策が正当だとする説明責任を持ち、より透明性を持たせることになります。柳津さんのこの提案は、過去の課題としての「平和の考え方」を、人々が投票して決める政策問題へと転換する方法だと考えています。

    

   

テクノロジーとSNS: ソーシャル・メディアを使った包摂性と、テクノロジーの役割

  

   

広島インターナショナル・スクールの上別府瑛美さんは、グローバルな問題にスポットライトを当て、世界の約半分の人口に発信できるメディアである、ソーシャル・メディアを更に有効活用していくことを提案しました。彼女は、Black Lives Matterなどの運動は、ソーシャル・メディアを活用しているが、軍縮問題については、ソーシャル・メディアは有効活用されていないと述べました。ソーシャル・メディアは、世界中で起きていることに焦点を当てるだけでなく、貴重な教育リソースを示すことにも活用できると述べました。また、軍縮に関するコンテンツが少ないのは、おそらく切迫感がないからだという鋭い指摘をしました。彼女が言うように、誰も核攻撃で自分が死ぬとは思っていないのです。ソーシャル・メディアを活用することで、自分の投稿に責任を持ち、行動に移そうという気持ちに意識を高めることができます。

    

    

   

     

高校2年生の小泉花音さんは、国連が、若者の参画と軍縮を促進させるための具体的なステップに焦点を当てました。彼女は、国連が提供している素晴らしいオンラインコースを受講しましたが、すべてのコースを1か所にまとめてウェブサイトに掲載することで、検索しやすくなるという提案をしました。また、国連の若者向けプログラム参加の年齢制限を引き下げることで、より若い世代の考えにも影響を与えることができると提案しました。この点については、後に左さんも同じ点を指摘しています。また、国連がすぐに対応できることの1つとして、すべてのTwitterアカウントを公式承認することが挙げられました。これまでに成功したハッシュタグ・キャンペーンの例を示し、より具体的で参加しやすくすることを提案しました。

    

    

    

    

菅原由梨子さんは、新型コロナ・ウイルス危機の中、各国が自国のことに手一杯になっている間、軍縮およびSDGsを推進するためのテクノロジーの活用方法について考察しました。

彼女は、新型コロナ・ウイルス危機にあっても、良い事があると気づきました。特に、オンラインによる繋がりが強化されたことを挙げています。彼女は、大学のオンライン授業で、様々なアイデアについてアメリカの大学教授と話し合う機会を持つことができました。これは、普段の状況では、ありえない事でした。このテクノロジーにより、プラットフォームを共有することができます。そのため、国が国際協定から離脱することを決めたとしても、個人としての真の声を発信していくことができると説明しました。

     

     

    

     

軍縮と社会的/経済的な問題の橋渡し

    

左元さんは、キラー・ロボット反対キャンベーン(Campaign To Stop Killer Robots: 完全自律兵器)を代表し、軍縮教育と女性の平等参画が持続可能な開発目標の達成にどのように役立つか、彼自身のアウトリーチ活動に基づいて、見解を述べました。

彼は、日本政府と一部の日本の学術機関が、禁止兵器および完全自律兵器の開発を制限しようとしていることに触れ、日本が中心となって国際的な倫理ガイドラインを策定すること、そして大量破壊兵器、地雷、クラスター爆弾などの禁止兵器や完全自律兵器に関わるテクノロジーの研究開発のため、増大している軍事費が大学や研究機関に投入されないようにすることを求めました。また、彼は、女性が暴力や紛争の犠牲となる可能性が高いことを明らかにし、日本で若い女性が率いている組織への支援を積極的におこなうことを求めました。

    

     

   

    

ヒシン・エン・フィービー(Hsin Yen Phoebe)さんは、「エコロジカル・リテラシー」に基づき、社会を包括的に再評価、再構築することを提案しました。これにより、地球破壊につながる兵器を保持するという考えが立ち行かなくなります。これを達成するため、私たちの教育システムは、相互依存と相互関係を促進し、地球規模での意識を教えていくべき、つまり簡潔に言えば「エゴを減らして、エコを増やすこと」だと提案しました。

   

     

    

     

慶應大学3年生のハナコ・トラビン (Hanako Ttravin)さんは、SDGsの達成に向けて行動すると、武器に依存する原因を排除することになり、それが、どのように武器や、武器による暴力の増加に影響を与えていくかを考察しました。彼女は、データを基にして、雇用不安の問題が、世界各地の若者が犯罪組織やテロ集団に足を踏み入れる主な要因であることを示しました。また、効果的で意味のある公平な議論をおこなうには、多様性が重要であると強調しました。

    

     

    

    

パネリストからの言葉

   

セッション中、パネリストたちは、最大限の敬意を持って、参加者のプレゼンテーションに耳を傾けるだけでなく、貴重なフィードバックと励ましの言葉をかけました。

特に、中満氏は、非常に寛大なアドバイスをしてくれました。最初の2つの議論のテーマについて取り上げながら、個人的で感情的な証言(例えば被爆者の証言)の力を、現状を維持しようとするインセンティブ構造を考慮して、現実的で説得力のある議論に結び付けていくことが重要だと強調されました。また、「常にドアを開けて、受け入れることです。あなたが核兵器についてどのような想いを持っていても、他の人が考える防衛の在り方を理解しなくてはなりません。」と話されました。

    

    

    

高校2年生の小泉さんが自身の経験談を話した際、中満氏は、最も心に響く言葉を投げかけてくれました。小泉さんは、東京で議員グループから、彼女の行動は意味があるものだとしても、現実的には影響力はほとんど無いと言われました。小泉さんは、実際に直面した権力構造について、さらに学ぶようになりましたが、中満氏は断言しました。「大人が、あなたの行動は重要ではないと言ったとしても、決してがっかりしないでください。そんな大人を嘲笑してください。意識の高い個人のおかげで世界は常に変わっています。ですから、決してがっかりしない。」また、彼女は、毎週金曜日にスウェーデンの国会議事堂の前に一人で座り込むようになったグレタ・トゥーンベリさんの事を、人々がかつては嘲笑していた事も話されました。

    

     

中満氏は、こう続けました。「常に学び、成長するよう心がけてください。ひとつの場所に留まってはいけません。他者の言葉に耳を傾け続けてください。世界には、様々な見解や視点があります。優れた考えと政策は、異なる考えを集めて、話し合い、共通する点を探すことで生まれます。そして、それが政策になっていくのです。」湯崎知事も、個人が変化をもたらすことができると考えています。トップの人間というのは、特定の問題について、知らないことも多く、専門家のアドバイスに頼っており非常に大きな力がアドバイスにあると告白しました。

    

    

    

   

世界が直面している課題は、膨大で、一筋縄では解決できそうにないかもしれません。しかし、中満氏は、自分が楽観主義者と言い,「個人としてできる事が必ずあります。私たちは、変化をもたらす一員になるため、このような課題に常に関わり、常に必要な知識、スキル、エージェンシー(自ら考え主体的に行動して,責任をもって社会変革を実現していく力)をつけるのです。」と話されました。また、核軍縮について、彼女は新型コロナのパンデミックにより、小さなチャンスが訪れるはずだと考えています。新型コロナ時代を迎え、各政府は、短期的に経済の回復を支えるため、軍事費削減を前向きに検討するはずで、「私たちは知識とスキルを身に付けて、現実的で達成可能な、優れた代替政策を提示していきましょう」と締めくくられました。

     

     

「UN75 in Hiroshima」のプレゼンテーションを通じて、チャンスを最大限に活かそうとしている熱心で若い世代の変革者の存在を、私たちは知ることができました。

    

    

   

     

参加者のレポート(上別府さん)を見る。 参加者のレポート(メアリー・ポペオさん)を見る。

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国際平和のための対話イベント「UN75 in Hiroshima」

国連の開発目標であるSDGsやグテーレス事務総長が発表した「軍縮アジェンダ」の前進を目指し,公募によって選ばれた方々と中満国連事務次長が議論を行う国際平和のための対話イベント「UN75 in Hiroshima」の目的などについて掲載しています。

UN75 in Hiroshima

「UN75 in Hiroshima」当日動画

当日のライブ配信動画をYouTubeにアップしていますのでぜひご覧ください。

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アントニオ・グテーレス国連事務総長からのビデオメッセージ

8月6日(木)に開催された国際平和の対話イベント「UN75 in Hiroshima」におけるアントニオ・グテーレス事務総長からのビデオメッセージです。

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