ドキュメンタリー番組を教材化し全国の小・中・高へ ヒロシマを伝え、平和への行動を起こすきっかけに
被爆地・広島にあるテレビ局として、番組を通じて広島の想いを発信し続けている広島テレビ放送。これまでに制作した番組を学校教育で活用してもらおうと、動画と学習指導案等をセットにした「広島テレビ平和教材」を作成しました。動画と指導指針等を同局ホームページ上で公開し、全国の小中高等学校で利用できるようにしています。
プロジェクトの発起人の一人で、かつて同局のアナウンサーで報道番組などを担当した、総務局次長の児玉勝司さんにお話を伺いました。
プロジェクトを立ち上げ、教材化を実現した児玉勝司さん
広島テレビ放送は1962年に開局して以来、広島のメディアとして原爆投下後の広島、また、そこに日本がどう向き合ってきたのかを取材し、番組にまとめてきました。60年にわたって制作した戦争や平和をテーマにしたドキュメンタリー番組は200本を超えます。しかし、放送番組を見ていただけるのは基本的に1回限り。大半の番組は、放送後はライブラリ室で眠ったままになっています。「せっかくの資料を、若い人たちのために利用できないか」と考え、教育関係者に相談しました。当初は教育という公的な事業に民間が絡むことは難しいという見解でしたが、広島市教育委員会の協力を得ることができ、さらに開局60年記念事業の一つとして進めることになりました。
教材の元になったドキュメンタリー番組の一場面
私たち制作チームが最初に取り組んだのは、200本以上あるドキュメンタリー番組から、肖像権などの権利処理が可能で、画像の質が劣化をしていない番組を選び出すことでした。そして、広島市教育委員会の協力を得て、小学3年生から高校3年生までの学年ごとに、平和教材としてふさわしいテーマ10本を選んで再編集しました。番組はもともと大人に見てもらうことを想定して制作したものだったので、子どもたちに分かるものにしていくアイデアは広島市教育委員会にいただきました。あわせて、授業の進め方の指針となる学習指導案やワークシートも作成し、2022年6月に広島テレビのホームページで公開しました。教育委員会や学校法人単位で事前登録していただくと、サイトにアクセスするためのID・パスワードを発行し利用していただけるようになります。
ワークシートと学習指導案
この教材をより広く使っていただくために、まずは広島県教育委員会から県内23の市町の教育委員会に情報を発信していただきました。そして全国に向けても同様の方法で情報を発信し、現在、10の都道府県、100を超える市町村からの登録をいただいています。
2023年1月には英語版も制作し、海外にも広島の想いを届けています。海外の学校制度はさまざまなので、シンプルに一つのドキュメンタリーを15分程度に再編集し、英語のナレーションと授業の展開例などを付けて公開しました。
英語版の案内ページ
実際に使用した県内の学校からは、映像だから分かりやすい、生の声なので印象が強い、取材だからこそ見て知ることができる情報がある、という評価をいただいています。県外でいえば、平和学習で広島に来る予定がコロナ禍で中止となったという学校から、この平和教材で被爆者の声や、今の広島での平和活動を知ることができたという声が届いています。先生からは、動画教材や指導案などとっかかりになるものがあるので、授業で取り上げやすい、という声もいただきました。全国に発信することができてよかったなと思います。
小学4年生用の教材「残してください 被爆ポンプ」の画面
教材の中で特に印象に残っているのは、小学4年生用の教材「残してください 被爆ポンプ」です。もとの動画は、当局で月1回、土曜日の深夜に放送している番組「WATCH」で実際に放送したものです。小学生の女の子が街中にある被爆ポンプに関心を寄せて、これは何なのかを探り、最終的に絵本にまとめていくという内容です。
原爆投下から77年を超えた今も、広島の街を歩けば被爆の何らかの形が息づいていることが分かります。この教材の狙いとして、平和の願いを伝えようとしている思いに気づき、その思いを受け継いで平和を大切にしていこうとする心を育てることを挙げています。
こうした平和教材を通して、教材に登場した人に会ってみたいな、被爆者の声を聞いてみたいな、原爆資料館を訪ねてこの目で資料を見てみたいな、と広島を訪ねてくれる人が増えていくとうれしいですね。そして広島で何があったのかを「知る」だけではなく、それを誰かに「伝え」たり、広島の惨禍を二度と起こさない社会・世界にするにはどうすればいいのだろうかと「考える」きっかけになれば。さらに、そういう世界にするために「行動できる」一人になってほしいと願っています。
広島テレビ放送株式会社
広島市東区二葉の里3-5-4
TEL:082-207-0404
「広島テレビ 平和教材」専用ページ
https://www.htv.jp/peacelearn/index.html
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