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国際平和拠点ひろしま

75年の時を経て埋めていく歴史 未解明の原爆被害を追う「ヒロシマの空白」

 中国新聞社(本社:広島市中区)が2019年から連載している「ヒロシマの空白」は、これまで表に出なかった原爆被害の実態を独自の取材から解き明かすとともに、いまだに残るさまざまな問題を投げかけ、2020年度の新聞協会賞を受賞。2021年7月に書籍としても発行されました。連載の企画・編集は、中国新聞社内の部署である「平和メディアセンター」が担っています。センター長である金崎由美さんと、記者の水川恭輔さん、桑島美帆さんにお話を伺いました。

 「中国新聞社では、日頃より平和報道には力を入れていますが、特に力を入れたのが、被爆75年の節目となる2020年に向けての連載『ヒロシマの空白』でした。1954年末までの原爆の犠牲者は“14万人±1万人”という推計値が知られている一方、死者の名前を積み上げた実数は8万9000人ほどです。このように大きな誤差が生じている現状で、被害の実態をどう捉えるのかを軸に、水川記者を中心にまだ知られていない原爆被害の実態を調査報道の手法で解き明かす。そして、桑島記者たちも加わって過去の写真を集め、焼失して全容が分からなくなった広島の街並みを紙面とウェブサイトで再現する。この両輪で取材をすることになりました」(金崎さん)

被爆翌日の本通り周辺。手前には脚を折り曲げた遺体が見える(撮影/岸田貢宜氏 提供/岸田哲平氏)

 先輩記者たちが取材してきた積み重ねがあり、もう新しい発見など難しいだろうと言われている実情もあります。水川さんは資料を改めて読み直し、新しい切り口を探しました。
「今回、このような取材に思いが至ったのは、自分に子どもが生まれて4カ月の育児休暇を取得したことで、家族が一緒に過ごすという、ごく当たり前ように思える時間を過ごしたことが大きかったと思います。例えば、8月6日の原爆投下当日に生まれ、数時間しか生きられずに亡くなった子もいたのでないかということや、学校や会社に所属していない人たちの存在はこぼれ落ちやすかったのではないか、ということです。また、疎開中に両親たちが亡くなり孤児となった方には国からの救済を受けられない方もおられ、調査もされていないという事実もあります。その当事者の方から『自分のような被害者もいることを知ってほしい』と言われ、これまでの取材方法を見つめ直すきっかけにもなりました」(水川さん)

産業奨励館の対岸で写真に納まる人たち(浜井徳三さん提供)

 桑島さんは被爆前の「街並み再現」を担当。各家庭に眠っている写真を集めるため、八丁堀、本川地区、千田地区、国泰寺、島病院付近と、一軒一軒回りながら情報提供を呼びかけました。
「写真を通して、家族も知らなかった事実が明らかになることが何度もありました。また、生まれる1週間前にお父様を原爆で亡くしたという方から連絡をいただき取材したこともありました。誌面に掲載された当時の写真を見たことで、軍医をしていた父親がどのような暮らしをしていたのかを知りたいと思ったとのことでした。そんなふうに、長い間フタをしてきた過去に遺族の方が向き合うきっかけにもなったようです」(桑島さん)

すずらん灯で飾られた1930年ごろの本通り商店街(益田崇教さん提供)

戦前の猿猴橋東詰めからの風景。橋の往来はにぎやかだった(広島市公文書館所蔵)

 連載の反響は、定期購読の読者からはもちろん、2020年7~8月にかけてYahooニュースにも連携されたことで、県外からも寄せられました。
「連載を読まれて、自分も過去について話してみよう、行動してみようと思っていただいたことはとても嬉しい反響でした。まだまだ知られていな事実があるということは、いかに原爆被害が甚大かということでもあります。すべてを明らかにするのは無理だと諦めるのではなく、たった一人の真実でも明らかにできたことが、今回の連載の大きな成果だと思います。これからも被爆地の新聞社として、地道に取材を続けていきたいです」(金崎さん)

 新聞協会賞の選考理由に「75年を経ても歴史の空白を埋められることを実証した」との一文がありました。金崎さんが「この連載は結論ではなく、通過点」とおっしゃるように、まだまだ新たな事実が見つかるはずとの思いで取材は続けられていきます。

【ヒロシマの空白HP】
https://hiroshima75.web.app/

【書籍『ヒロシマの空白』】

中国新聞社×ザメディアジョン
詳細は(https://flag.style/magazine/books_kuhaku_pr/

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