平和を考える映画② 『FLEE フリー』国際平和拠点ひろしま〜核兵器のない世界平和に向けて〜

平和を考える映画② 『FLEE フリー』

#peacetimes

　年間200本以上の映画を上映している広島市中区の映画館「八丁座」「サロンシネマ」を運営する序破急の方々に、「今観ておきたい平和を考える映画」をテーマに、おすすめの作品を紹介してもらいます。

　八丁座・サロンシネマでは、毎年８月には平和について考えを深めるきっかけとなる映画を上映しております。この夏は、アフガニスタン難民の半生を描くアニメーション作品『FLEE フリー』を、8月19日から25日まで八丁座で上映いたします。

「FLEE」とは、「安全な場所へ逃げる」という意味の言葉です。アフガニスタンで生まれ現在は亡命したデンマークで暮らす青年が、激しい内戦により祖国から逃れて難民として生き延びてきた日々を語っていきます。国や家族を奪われて孤独に生きていくひとりの男の半生を通して、紛争・難民・人種差別・LGBTQ+等の現代社会の問題が浮かび上がってきます。今年のアカデミー賞では、史上初となる「国際長編映画賞」「長編ドキュメンタリー賞」「長編アニメーション賞」の３部門でノミネートされました。

真実を伝えるドキュメンタリーでありながら、あえてアニメーションという表現で製作された理由は、主人公や周囲の人々のプライバシーを守り安全を確保するためだったそうですが、時にファンタジックで美しいタッチで描くアニメーションだからこそ、過酷な場面でも目をそらすことなく作品の世界に入っていくことができる作品に仕上がったとも言えます。

　戦争や人権抑圧といった真実を伝えるドキュメンタリーや実写ドラマでは、どうしても見続けることが辛くなるような場面がリアルに映し出されることがあります。こうした映像をスクリーンで見たくないという観客も少なくありません。せっかく平和への願いを込めて作り上げたのにお客様に敬遠されてしまう映画が多いのは残念なことですが、アニメーションであれば表現というフィルターを通して心に深く届けることができます。近年そのようなテーマ性を持ったアニメーション映画も多く製作されています。

昨年もサロンシネマでは、アフガニスタンのタリバン政権下で過酷な日常を生き抜く少女を描いた『ブレッドウィナー』、北朝鮮における政治犯の強制収容所の実態を告発した『トゥルーノース』といった社会派アニメを上映しました。

　異例のロングランヒットとなり八丁座の動員記録を樹立した『この世界の片隅に』も、まさしくそのようなアニメーション映画でした。片渕須直監督は戦時下の広島・呉の庶民の生活を徹底的に取材してドキュメンタリーのように映画を完成させましたが、アニメーションという表現だからこそ、戦争の厳しい現実や反戦・平和を祈る心が多くのお客様に届いたのだと思います。

　反戦・平和をテーマにしたアニメーション映画は、今後も多く製作されていくことでしょう。国際平和都市・広島の劇場として、八丁座・サロンシネマではこれからも積極的に上映していきたいと思います。