知事インタビュー
~G7広島サミットに向けて~
2023年5月19日から21日までの3日間, G7広島サミットが開催されます。世界から広島に注目が集まる中,広島県・へいわ創造機構ひろしま(HOPe)では,核兵器のない平和な世界の実現に向け,知事の思いや国際社会への期待を発信するため, 広島で平和活動の経験があり,G7参加国の米国出身であるアナリス ガイズバートさんによる,湯﨑広島県知事(へいわ創造機構ひろしま代表)へのインタビューを実施しました。
広島県知事紹介
氏名:湯﨑 英彦
出身:広島県広島市佐伯区
経歴
通産省(現経済産業省)に入省。
株式会社アッカ・ネットワークスを設立。
代表取締役副社長を務める。
同社退任後,平成21年11月から広島県知事に就任,
現在4期目。
令和3(2021)年 ,へいわ創造機構ひろしま(HOPe)を設立し,同代表を務める。
インタビュアー紹介
氏 名:Annelise Giseburt(アナリス ガイズバート)
出 身:米国 シアトル
経 歴
2016年~2021年まで広島県に在住。 国連機関のユニタール(国連訓練調査研究所) 広島事務所※,NGO組織のANT-Hiroshima※でインターンを経験した。現在は,広島県の平和の取り組み等にも参加し,ジャーナリストとしても活躍。東京に在住。
※ユニタール(国連訓練調査研究所)広島事務所の概要はこちらhttps://unitar.org/ja/hiroshima
※ANT₋Hiroshimaの概要はこちらhttps://www.ant-hiroshima.org/
アナリス 核兵器の恐ろしさを世界に発信することに,被爆地広島でサミットを行う意義があると思いますが,湯﨑知事はどのようにお考えですか。
知事 ロシアがウクライナに侵攻し,核兵器使用の脅しをかけているという現状があります。広島は,人類史上初の被爆地として,「武力の行使が行き着くところは核兵器であり,その使用が,いかに非人道的なことか」そして,「平和があれば大きな繁栄をつくり上げることができる」という2つのメッセージを示すことができます。G7の首脳の皆様には,しっかりとこれらのことを認識していただき,平和の回復に強くコミットして,世界へ平和のメッセージを出していただきたいと思います。このように,現在の核兵器をめぐる世界情勢と核兵器による被爆を経験した地である広島という開催地のマッチングの観点からも広島でサミットが開催されることは,大変意義深いことだと思います。
【広島にあるのは,被爆と復興の「歴史」だけではありません。被爆地として,広島の自治体,市民団体,教育機関は,平和のために被爆体験の証言・継承,平和教育,研究など,様々な取り組みを実施しています。次に,広島県の取り組みについてお聞きしました。】
アナリス 湯﨑知事は,平和に関してどのようなことに取り組んでおられますか。
知事 核兵器廃絶に向けては,大きく言って3つの流れがあると思っています。1つ目は,NPT(核兵器不拡散条約)(注1)を中心とした核不拡散や核軍縮の基本的なフレームワークです。これは,国家安全保障の側面からのアプローチです。NPTは核軍縮のため非常に重要な枠組みですから,参加国がこの義務をしっかりと果たし,核兵器廃絶を後押ししていくことが非常に重要だと思っています。そういう意味で,NPTの会議に,我々も参加し,核兵器廃絶の必要性を引き続き訴えていきます。ただそれだけだと不十分で,核抑止力による安全保障という考えが,各国の安全保障の基本にありますから,我々としては,核兵器に依存しない安全保障の枠組みについて,研究し,提案していきたいと思います。これは,核兵器反対派が,核兵器国も非核兵器国も納得するものをつくらないといけないので,広島県としては国際的な研究機関と連携しながら進めています(注2)。
2番目は,核兵器の非人道性です。これは,TPNW(核兵器禁止条約)(注3)に結実しているわけですが,多くの皆さんに広島,あるいは長崎に来ていただき,被爆の実相を目の当たりにしていただき,心で感じてもらうということが非常に重要だと思っています。
3番目は,持続可能性という観点です。核兵器の問題を,地球や人類の持続可能性の観点から捉え直して,気候変動,食糧問題,パンデミック等,他の地球規模の課題解決に取り組んでいる皆さんと連携をしながら,次の国連の開発目標(注4)の中に核兵器廃絶を入れていこうという取り組みです。
【私(アナリス)も広島の平和活動に参加した経験があります。ユニタール広島事務所や,NGOのANT-Hiroshimaで2年間インターンをしていました。特にANT-Hiroshimaでは被爆樹木について勉強し,被爆樹木ツアーを行っていました。現在は,広島-ICANアカデミー(注5)という,核兵器廃絶に貢献する若者を育成する研修プログラムに,ファシリテーターとして参加しているほか,日本の市民団体の文書の翻訳などを行っています。
平和活動に参加したいと思ったきっかけは,大学三年生の時に初めて広島を訪れた時でした。その時,私は平和記念資料館や平和記念公園を訪れ,強い衝撃を受けました。また,広島に原爆を投下したのがアメリカということで,広島の被爆はアメリカ出身である自分の事でもあるように感じられました。そのため,原爆について広島で詳しく学びたいと思いました。はじめは,広島の原爆の事を学んでいたのですが,移住して学んでいるうちに,核兵器の歴史や核兵器廃絶運動にも関心が広がりました。 また,広島には,美味しい料理がたくさんあって綺麗な自然に囲まれている街も印象的でした。 現在は東京に住んでいますが,広島との繋がりを今でも強く感じます。
広島で平和活動に取り組んだ経験のある私としても,G7サミットが広島で開催されることは非常に感慨深く思います。
次に,今回のサミットが国際平和にどのように影響するか知事にお聞きしました。】
アナリス 今回のサミットでは,各国の首脳の皆様が,被爆地広島を訪れますが,何を期待しますか。
知事 広島で,この被爆の実相を心で感じて欲しいです。実際に広島に来られると,心に刺さるようなインパクトがあると皆さん言われます。ウクライナの問題にしても,核兵器廃絶の問題にしても,世界平和を考えるに当たって,広島で持った非常にプリミティブ(根源的)な感覚をベースに考えて欲しいです。特に核抑止論というものは机上の考えだと思います。敵の核ミサイルのサイロを破壊するためにICBM(大陸間弾道ミサイル)とSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が何基必要かということをフィクションでやっているわけです。
アナリス 非現実的ですね。
知事 そうなんです。でも,それを世の中の人はみんな現実だと呼んでいますし, 指導者が合理的な判断のもと「核兵器を使わないだろう」という抑止論を信じていると思います。しかし,本当の現実というのは,広島で起こったことや,長崎で起こったことです。いきなり核兵器を全部取り払うということは難しいかもしれませんが,各国の首脳の皆様には,世界を代表するリーダーとして,核兵器廃絶のためみんなで一緒にどういうことをやる必要があるのか,真剣に考え,平和の回復に強くコミットして,世界へメッセージを出していただきたいと思います。
【私(アナリス)は,サミットで広島を訪問されたG7の首脳の皆様をはじめ,関係国の皆様が,今回のサミットで核兵器の非人道的な影響を改めて認識し,広島や長崎の被害だけでなく,世界各地で行われた核実験などの被曝者や,それに関連する環境汚染問題にも目を向けていただきたいと思います。また,過去に核兵器を手放した国や,非核兵器地帯を設置した国,核兵器禁止条約に批准している国の事例からも学んでいただきたいと思います。
世界を変えられるのは,G7といった経済力や軍事力がある国に限りません。これからの世界を担う若者に対する期待は,大きいものがあります。】
アナリス 世界の若者に対する期待についてお聞かせください。
知事 次の時代を担っていくのは常に若者です。核兵器使用のリスクが高まっている中,この問題が,気候変動と同じように差し迫った問題であるということを認識してもらいたいと思います。気候変動の問題は,若い人たちの動きに非常に大きなインパクトを与えました。各国政府や国際的な動きに対して,自分が何かして,すぐに状況が変わるというものではないのですが,問題の解決には,みんなが協力して取り組む必要があります。私だけでは変わらないけど,私がやらないと変わらないということです。核兵器の問題も,遠い世界のように思われて,自分には関係ないみたいな感じがするかもしれませんが,一度使われたら被害を被るのは,あなたです。しかも,あなたどころか,あなたの何世代後まで大きな影響を与えるということです。他の問題と関連付けて,取り組んでもらえるといいなと思います。
アナリス 最後に,これからの平和な世界の実現に向けて,読者にメッセージをお願いします。
知事 先ほどの話ともかぶりますが,気候変動や,食糧問題や,貧困問題のように,今,世界は,様々な問題に直面しています。その一つに核兵器の問題があって,それは単なる一つではなくて,非常に重要な一つであるということを認識して欲しいです。こういった様々な課題を,世界の一人一人が力を合わせ,解決しなければなりません。G7広島サミットが開催されるこの好機に,皆さんで平和に向けての一歩を踏み出し,平和な世界を実現させるため,頑張りましょう。
【皆さんも,今回のG7サミットに注目しながら,核兵器廃絶や持続可能で平和な世界の実現のために何ができるか一緒に考えてみてください。そして,ぜひ,一度,広島に来てみてください。】
(注1)NPT(核兵器不拡散条約 Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)
冷戦期に,核兵器の新たな取得を模索する国,あるいは核兵器を製造する潜在能力を持つ国が増える中で,まずは核兵器の拡散を防止することが核兵器の廃絶につながるとの考えのもとに作られました。核不拡散,核軍縮,原子力の平和利用を三本柱とする,核不拡散体制の中心的存在です。2023年2月現在,締約国数は191か国・地域で,非締約国はインド,パキスタン,イスラエル,南スーダンです。
(注2)国際的な研究機関と連携
広島県は,ストックホルム国際平和研究所(SIPRI),王立国際問題研究所(チャタムハウス)など海外の有力な研究機関と連携協定を締結し,その共同研究の成果をNPT運用検討会議等で提言として発信することにより,核軍縮の具体的なプロセスを進展させることを目指しています。
(注3)TPNW(核兵器禁止条約 Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)
2021年1月に50か国が批准し発効しました。締約国による核兵器の開発,実験,製造,取得,保有,使用・威嚇を法的に禁止しています。2023年2月現在,92か国が署名し,68か国が批准しています。
(注4)次の国連の開発目標
広島県とへいわ創造機構ひろしま(HOPe)は,国際NGOなどと一緒に,2030年に現行のSDGs(持続可能な開発目標)が終了した後,新たに設けられるであろう国連グローバル目標に,「核兵器廃絶」が位置付けられることを目指して活動しています。
核兵器の問題を持続可能性の観点から捉え直し,「真に持続可能な未来に核兵器は必要ない」という考えのもと,平和と繁栄が続く未来を目指しています。
(注5)広島-ICANアカデミー
世界中の若者を対象に,核兵器と安全保障に関する研修を通して,世界に具体的に貢献し,グローバルに活躍できるリーダーの育成を目指すプログラムで,広島県と国際NGOのICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が,共同で実施しています。
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