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国際平和拠点ひろしま

Future Leaders' Program 2019 - Novemberグローバル未来塾inひろしま2019 第4期研修報告(11月17日)

11月17日(日)に行われた第4期グローバル未来塾inひろしまの研修について受講生からの報告書をお伝えします。講師は広島大学 関 恒樹教授です。

(受講生からの報告書を編集せず掲載しています。)

【報告書1】

講義名 フィリピンから考える「平和」について
研修講師名 広島大学 関恒樹教授
報告者 広島大学附属福山高等学校 宮本芽依

 関恒樹教授はフィリピンでの様々な差異のうち、特に貧困の格差に焦点を当てて講義された。フィリピンの現状やこれからの課題など関教授自らの経験も踏まえて分かりやすく説明してくださった。関教授の講義を3点に分けて説明する。
 1点目は民族の差異についてだ。フィリピンでは地域によって、民族・言語・宗教が異なる。スペインの植民地であった歴史から、クリスチャンが多数を占めている中、ムスリムの人々もいる。また、農耕をする山岳少数民族や先住民など、民族も様々である。そんなフィリピンではタガログ語やセブアノ語など100以上の民族言語が存在するそうだ。少し離れた地域へ行くと全く言葉が通じないらしい。この多言語社会で問題となっているのは「国語」だ。どの民族も自分たちの言語に誇りを持っているため、フィリピン全体の統一言語が定まっていない。
 2点目は貧富の差異についてだ。フィリピンでは、4〜5人に一人が最低限の生活を送る条件を満たしていない。また、中流層以上の人々は英語を話し、中流層以下の人々はタガログ語やセブアノ語などの民族言語を話している。民族言語には化学や物理などを学ぶのに必要な専門用語がない。そのため、高度な内容を学ぶためには英語で学習する必要がある。しかし貧困層は英語を話せないので、言語という面でも教育格差が生まれる。極度の貧困である人口は減少しているが、非常に緩慢なペースである。さらに人口が急増しており、中間層の増大が顕著になっている。貧困層は仕事を求めて都市部へ移住し、川沿いや線路沿い、空き地などに集落を作って住み始める。不法占拠や災害時の被害なども問題になっている。それに比べて、富裕層は高層マンションや壁に囲まれ、ガードマンに守られた家に住んでいる。このように、フィリピンは富裕・中間層と貧困層の「住み分け」が進んでいる。住んでいる家だけではなく、日用品を買うお店、学校なども異なる。
 3点目はフィリピンのこれからについてだ。通常、第一次産業から国の産業が発展して行くのに対し、フィリピンは現在、第三次産業である観光業などのサービス業を中心に成長している。通常とは異なる発展の仕方だが、これからの経済成長を支えるのは海外への出稼ぎ労働者だと言われており、グローバル化ならではの発展の仕方かもしれない。フィリピンからの出稼ぎ労働者は主に看護師、家内労働者、ケア・ワークとして働いている。フィリピンでは2025年に全人口の20%が75歳以上になると予測されている。海外で技術を学んだ労働者が将来フィリピンでケア労働者として働くことが期待されている。さらに、新たなサービス業の主役として、BPOがある。BPOとは先進国企業が一部の業務を切り離し、途上国に請け負わせるというものである。これは海外出稼ぎに代わる国内での就労先として注目されている。
 この講義を通じて、私はフィリピンでの貧富の格差がなくなるためにはどうすれば良いのかを考えさせられた。この講義を聞く前は貧しい人々に対して支援すれば解消されるだろうと思っていた。しかし、富裕層と貧困層で分断されていて、お互いに交わろうとしていない状況では支援するだけでなくお互いの意識も変えていかなくてはいけないのかなと思った。フィリピン研修では、関教授のおっしゃったことを考えながら学ぼうと思う。


【報告書2】

講義名 フィリピンから考える「平和」
研修講師名 広島大学総合科学部国際共創学科IGS 関恒樹教授
報告者 広島大学附属福山高等学校 山下こころ

関教授は、文化人類学、特に途上国の生活保障を専門とし、1989年から自らフィリピンに出向いて現地で都市の貧困や海外出稼ぎ、移民の問題について研究してこられた。講義ではご自身が長年研究されてきたフィリピンの民族格差や貧富の差、それを通して考える平和について教えて下さった。
1点目は、フィリピンの民族的・言語的背景である。フィリピンは多民族国家であり、一つの国の中にクリスチャン(カトリック教徒)、ムスリム、山岳少数民族、先住民の大きく分けて4つもの民族が暮らしている。それぞれの民族は、北部の低地にはクリスチャン、南部にはムスリム、山間部には山岳少数民族や先住民というように「住み分け」をしており、互いに交流することは少ない。それだけにとどまらず、クリスチャンとムスリムの間では40年近くにわたって武力を用いた紛争が今なお続いている。また、フィリピン国内では100以上の言語が話されており、共通の言語が少ない状況である。とりわけ問題を複雑にしているのが、フィリピン語という国語が中心部周辺のみで話されているタガログ語をもとにして作られたということだ。そのことに対しタガログ語以外を使う人々が反発したとともに、国語を作ったにもかかわらずまったく浸透していないという問題が起こっている。これらの民族・言語に関する二つの問題点により、フィリピンでは国内で一つの共通認識や一体性を作ることが難しい状況である。
2点目は、フィリピンは「貧しい」のかという問題についてである。フィリピンには4~5人に一人が最低限の社会生活を送る条件を満たしていない、人数自体は減少しているがペースは非常に緩慢であるという現状がある。しかし、関教授はフィリピンがただ単に貧しいということよりも国内における貧富の差の方に注目すべきだとおっしゃった。今も多く残るスラムと対照的な存在として、近年都市部に複合商業施設や壁に囲まれ厳重に警備されたゲーテッドコミュニティーなどが形成され、富裕層・中間層と貧困層の「住み分け」が広がっている。そんな貧富の差が浮き彫りになっている状況と同時に、フィリピンは現在目覚ましい経済成長を遂げている。フィリピンの経済成長の特徴としてサービス産業の割合が高いという点が挙げられる。従来の1,2,3次産業と進んでいく成長とは違い、農村は貧しい状態のまま都市部で行われているサービス業だけがどんどんと発展している。これはグローバル化が進む現代ならではの経済成長の姿といえる。
3点目は目覚ましい経済成長を支えている海外出稼ぎ労働者(OFW)の存在である。世界各国で働く彼らは、ヨーロッパや先進国の少子高齢化を支えるため、看護師や介護の仕事に就いていることが多く、ここでも第三次産業従事者が多いことが見て取れる。また、最近では先進国企業が一部の業務を切り離し、賃金が相対的に低い途上国に請け負わせるという雇用の形も生まれている。代表的な例はコールセンターの対応業務などが挙げられ、海外出稼ぎに代わる国内での就労先となっている。
 この講義を通じて、私のフィリピンに対する認識は大きく変わった。講義を受けるまではフィリピンはまだまだ発展途上の国で、中心部であっても屋台が立ち並び、道は舗装されていないような状況だと思っていたが、現在目覚ましい経済発展を遂げており、都市部には先進国と肩を並べるくらいの華やかな建物が立ち並んでいると知った。しかしそれだけではなく、フィリピンの抱える複雑な問題に関しても学んだので、その一つ一つを1月に行くフィリピン研修において自分の目で確かめたいと思った。


【報告書3】

講義名 貧困問題(フィリピン)
研修講師名 広島大学 関教授
報告者 私立修道高等学校 森 慶真

この度の研修において、関教授は、2020年1月に催される予定である我々のフィリピン研修の先駆けとして、自身の渡航経験も踏まえながら現地の貧困問題及び民族間での問題についての講話をされた。講和の内容としては主に以下の4つである。

1、一国家における複数民族の同時存在
現在、フィリピンにはクリスチャン、ムスリム、山岳少数民族、先住民族など、各々の宗教、民族固有の暮らしを持った人々が存在している。よって、使われる言葉も様々で、100以上の民族言語が存在している。そのような環境において国づくりをする際、必要とされるのは、多角的かつ包括的な見方である。我々日本人はあまり「民族」という概念を同国民との関係において意識しないため、フィリピン研修では民族間での問題も意識する必要がある。

2、国全体ではなく層別に観察し、貧富の格差を見出す
我々が他国の経済状況を認知する際、機関、団体などが提示する国民1人当たりの収入や生活費を見がちであり、さらに言えば「先進国であるのか発展途上国であるのか」という視点で判断する者もいるかもしれない。しかしフィリピンにおいては貧富の格差が大きいため、そのような全体的な見方は適さない。現に、多くの貧しい人々が不法占拠、スラムの形成を行っているのに対し、裕福な人々は壁に囲まれ、銃を持った警備員に守られた住宅地(gated community)に住んでいる。このような状況は「segregation」(富裕・中間層と貧困層の「住み分け」、「分断」)と呼ばれている。

3、非段階的産業発展とこれから
通常、産業というのは「第一次→第二次→第三次→…→第n次」といったように段階的に発展していくものである。ところがフィリピン国内の産業発展は前述のような段階的発展を遂げず、観光客や海外からの滞在者へのサービス産業である第三次産業を中心に発展した。これは「グローバル化」に重きを置く、世界の趨勢に則ったフィリピン独自の発展方法ともいえるかもしれない。これからの取り組みにより、フィリピンが新興国のように急激な経済成長を遂げることができるのかどうか議論の余地がある。

4、労働者の海外進出やBusiness Process Outsourcing
フィリピンではGNPの1割を占める送金が海外で働くフィリピン人によりなされる。年間約200万人が海外へ出稼ぎに行っており、看護師や家内労働者などのケア・ワークの分野で働いている者が多い。日本では高齢化が進んでいるためケア労働者としてフィリピン人を受け入れる動きが大きくなっている。またフィリピン国内ではBusiness Process Outsourcingの発展が進んでおり、フィリピン人の人件費が安いがために委託された先進国企業の業務を下請けしたりしている。

以上4点を含む講和は、私のケニアでの生活を彷彿とさせた。決して豊かな国ではないけれど、贅沢に暮らす人も一握りに存在し、その同じ国土で多くの貧窮者が一日一日を生きながらえている。我々は地球市民として同胞を救うべく、取り組まねばならない。まず始めは偏見を取り除き、現状を直視することからであろう。そして次は行動すること。人を救うのは人と人とのつながりである。私自身、スラムで暮らす人々に何か与えられれば、と志して出向き、たくさんの温かさをもらったように思う。そのような温かみを学びながら真の国際協力を通じ、「富んだ人」にならねばならないと今回の講和を終え、痛感している。


グローバル未来塾inひろしまについては以下のURLからご覧ください。

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