当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018序章

(1)2017年の主な動向

核問題を巡る2017年の最大の注目は、核兵器禁止条約交渉会議の開催と同条約の採択であった。2016年の国連総会決議で条約交渉会議の開催が決定され、2017年3月及び6~7月の「核兵器の全面廃絶に向けた核兵器禁止のための法的拘束力のある文書を交渉する国連会議」での交渉を経て、7月7日に核兵器禁止条約(TPNW)が採択され、9月20日に国連本部で署名開放された。推進国は、核兵器の非人道性を重視し、核兵器の禁止規範を条約の形で具現化することが核兵器廃絶に向けた重要なステップであるとの信念の下、核兵器の保有や使用などを法的に禁止する条約を策定した。核兵器の法的禁止はもちろん、市民社会も積極的に参画しての条約策定は、核軍縮の歴史において初めての事例であった。核保有国や拡大核抑止に依存する同盟国は、核軍縮に係る実効性を期待し得ないなどとして条約策定に反対し、交渉会議に参加せず(オランダを除く)、条約に署名する意思がない旨表明している。豪州、カナダ、ドイツ、日本など核軍縮の推進を唱導してきた国々は、TPNWへの対応を巡り、推進派からの批判に直面した。他方で、反対派が主張するように、核兵器の数や役割が条約の成立によってただちに低減されるわけではない。核兵器禁止規範が普遍的な国際規範として受容されるまでには相当の時間を要すると考えられる。さらに、TPNW推進国と反対国の核軍縮を巡る亀裂は顕在化している。しかしながら、そうした「二極化」が問題だとしても、これをむしろ核軍縮を前進させる契機としていくことが求められている。この間、北朝鮮核問題は一層深刻化した。9月3日の第6回地下核実験は爆発威力が160kt程度と推計され、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載する水爆の実験に成功したと発表した。また北朝鮮は、ICBMをはじめとする弾道ミサイル実験を2017年も繰り返し、核・ミサイル能力の急速な進展を国際社会に見せつけた。国連安全保障理事会決議の下での北朝鮮に対する制裁措置を巧妙に回避した北朝鮮の不法行為も引き続き数多く報告された。

核セキュリティに関しては一定の成果がみられた。2016年をもって終焉を迎えた核セキュリティサミットが各国の核テロ対策の取組に一定の透明性をもたらし、またメディアを含む国際社会の関心を惹起したことから、核セキュリティサミットの成果と教訓をいかに継承していくかが注目された。国際原子力機関(IAEA)を中心に、核セキュリティの最高水準の維持・向上に向けて様々な国際会議や他のイベントが年間を通じて開催されるなど、評価されるべき継続的な取組が数多くみられた。このほか2016年に発効した改正核物質防護条約は加盟国を順調に増やしつつあり、またテロリストにとって魅力的な高濃縮ウラン(HEU)やプルトニウムが完全に撤去された地域もある。他方で、民生用プルトニウム在庫量の増大などから、核兵器に転用可能な核物質の世界全体の在庫量は依然増加傾向にある。また、サイバーセキュリティなど新たな問題への対応も喫緊の課題となっている。

(2)調査、分析及び評価する具体的措置

『ひろしまレポート2018年』では、以下のような文書に盛り込まれた内容を軸に、調査、分析及び評価する具体的措置として、65の評価項目(核軍縮:32項目、核不拡散:17項目、核セキュリティ:16項目)を選定した。

-2010年NPT運用検討会議で採択された最終文書に含まれた行動計画と1995年中東決議の実施

-2015年NPT運用検討会議の最終文書最終草案

-核不拡散・核軍縮国際委員会(ICNND)の提言

-2015年NPT運用検討会議に向けた準備委員会で日本が提出した提案

-平和市長会議(2013年に「平和首長会議」に改称)の「核兵器廃絶の推進に関する決議文」(2011年)

評価項目の選定にあたっては、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの推進・強化に重要な役割を果たし、「核兵器のない世界」に向けた取組の検討に資すること、並びに客観的な分析及び評価が可能で、各国の取組の状況・態様を明確化することなどを基準とした。『ひろしまレポート2018年』では、原則として前年と同様の項目及び基準を用いつつ、TPNWの成立を受けてこれを新たに評価項目に加え、調査、分析及び評価を行った。

1.核軍縮

(1)核兵器の保有数(推計)

(2)核兵器のない世界の達成に向けたコミットメント

A)日本、新アジェンダ連合(NAC)及び非同盟運動(NAM)諸国などがそれぞれ提案する核軍縮に関する国連総会決議への投票行動

B)重要な政策の発表、活動の実施

C)核兵器の非人道的結末

(3)核兵器禁止条約(TPNW)

A)TPNWの署名・批准

B)核兵器の法的禁止に関する国連総会決議への投票行動

(4)核兵器の削減

A)核兵器及び核兵器を搭載可能な運搬手段の削減

B)核兵器の一層の削減に関する具体的計画

C)核兵器能力の強化・近代化の動向

(5)国家安全保障戦略・政策における核兵器の役割及び重要性の低減

A)国家安全保障戦略・政策、軍事ドクトリンにおける核兵器の役割及び重要性の現状

B)「唯一の目的」、先行不使用、あるいは関連ドクトリンに関するコミットメント

C)消極的安全保証

D)非核兵器地帯条約議定書への署名・批准

E)拡大核抑止への依存

(6)警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

(7)包括的核実験禁止条約(CTBT)

A)CTBT署名・批准

B)CTBT発効までの間の核爆発実験モラトリアム

C)包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会との協力

D)CTBT検証システム発展への貢献

E)核実験の実施

(8)兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

A)条約交渉開始に向けた取組

B)生産モラトリアム

(9)核戦力、兵器用核分裂性物質、核戦略・ドクトリンの透明性

(10)核兵器削減の検証

(11)不可逆性

A)核弾頭及びその運搬手段の廃棄の実施または計画

B)核兵器関連施設などの解体・転換

C)軍事目的に必要ないとされた核分裂性物質の廃棄や平和的目的への転換など

(12)軍縮・不拡散教育、市民社会との連携

(13)広島の平和記念式典への参列

2.核不拡散

(1)核不拡散義務の遵守

A)核兵器不拡散条約(NPT)への加入

B)NPT第1条及び第2条、並びに関連安保理決議の遵守

C)非核兵器地帯

(2)国際原子力機関(IAEA)保障措置(NPT締約国である非核兵器国)

A)IAEA保障措置協定の署名・批准

B)IAEA保障措置協定の遵守

(3)IAEA保障措置(核兵器国及びNPT非締約国)

(4)IAEAとの協力

(5)核関連輸出管理の実施

A)国内実施システムの確立及び実施

B)追加議定書締結の供給条件化

C)北朝鮮及びイラン問題に関する安保理決議の履行

D)拡散に対する安全保障構想(PSI)への参加

E)NPT非締約国との原子力協力

(6)原子力平和利用の透明性

3.核セキュリティ

(1)兵器利用可能な核分裂性物質の保有量

(2)核セキュリティ・原子力安全に係る諸条約などへの加入、参加、国内体制への反映

A)核セキュリティ関連の条約などへの加入状況

B)「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告」改訂5版

(3)核セキュリティの最高水準の維持・向上に向けた取組

A)民生利用における高濃縮ウラン(HEU)及びプルトニウム在庫量の最小限化

B)不法移転の防止

C)国際評価ミッションの受け入れ

D)技術開発―核鑑識

E)キャパシティ・ビルディング及び支援活動

F)IAEA核セキュリティ計画及び核セキュリティ基金

G)国際的な取組への参加

(3)対象国

『ひろしまレポート2017年』では、NPT上の5核兵器国、NPTに加入せず核兵器を保有している(とみられる)3カ国、非核兵器国の中で核兵器拡散の懸念が持たれている国、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)参加国、新アジェンダ連合(NAC)参加国、「核兵器の非人道的結末」に関する共同ステートメントの参加国などのなかから核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの分野で積極的に活動する国、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの今後の推進に重要だと思われる国(地理的要素も勘案)の計36カ国を調査対象とした。『ひろしまレポート2018年』でも引き続き、これらの国について調査、分析及び評価を行った。対象国は、下記のとおりである(アルファベット順)。

-NPT上の5核兵器国:中国、フランス、ロシア、英国、米国

-NPT非締約国:インド、イスラエル、パキスタン

-非核兵器国:豪州、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、エジプト、ドイツ、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、シリア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)

– その他:北朝鮮1

(4)調査、分析及び評価の方法

調査対象国の核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する2017年の動向について、各国政府の公式見解(NPT運用検討会議、国連総会、IAEA総会、ジュネーブ軍縮会議(CD)、TPNW交渉会議などでの演説及び作業文書、その他政府発表の文書)をはじめとする公開資料を用いて調査、分析及び評価を行った。評価については、項目ごとに可能な限り客観性に留意した評価基準を設定し、これに基づいて各国の取組や動向を採点した。本事業の研究委員会は、各国のパフォーマンスを採点する難しさ、限界及びリスクを認識しつつ、優先課題や緊急性についての議論を促すべく核問題への関心を高めるために、そうしたアプローチが有益であると考えた。各具体的措置には、それぞれの分野(核軍縮、核不拡散、核セキュリティ)内での重要性を反映して、異なる配点がなされた。この「重要性」の程度は、本事業の研究委員会による検討を通じて決定された。他方、それぞれの分野に与えられた「最高評点」の程度は、他の分野との相対的な重要性の軽重を意味するものではない。つまり、核軍縮(最高評点101点)は、核不拡散(最高評点61点)あるいは核セキュリティ(最高評点41点)の2倍程度重要だと研究委員会が考えているわけではない。「核兵器の保有数」(核軍縮)及び「兵器利用可能な核分裂性物質の保有量」(核セキュリティ)については、より多くの核兵器、または兵器利用可能な核分裂性物質を保有する国は、その削減あるいはセキュリティ確保により大きな責任があるとの考えにより、多く保有するほどマイナスの評価とした。また、研究委員会は、「数」あるいは「量」が唯一の決定的な要因ではなく、核軍縮、不拡散及び核セキュリティにはミサイル防衛、生物・化学兵器、あるいは通常兵器の不均衡などといった他の要因も影響を与えることを十分に認識している。しかしながら、そうした要因は、客観的な(無論、相対的なものではあるが)評価基準の設定が難しいこともあり、これらを評価項目には加えなかった。また、『ひろしまレポート2013年』に対して寄せられた意見を受け、『ひろしまレポート2014年』からは、国家安全保障への核兵器への依存、及び核実験の実施に関する調査項目については、その程度によってマイナスの評価を行うこととし、『ひろしまレポート2018年』においても同様の評価手法を採っている。なお、『ひろしまレポート2018年』では、TPNWの成立を受けてこれへの署名・批准状況を新たに評価項目に加えた。


[1]NPT締約国は、1993年及び2003年の北朝鮮によるNPT脱退宣言に対して同国の条約上の地位に関する解釈を明確にしていない一方で、北朝鮮は2006年、2009年、2013年、2016年(2回)、2017年の6回にわたる核爆発実験を行い、核兵器の保有を明言しているため、「その他」として整理した。

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る