Hiroshima Report 2019序文
序文
『ひろしまレポート2019年版―核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る2018年の動向』(以下、『ひろしまレポート2019年版』)は、平成30年度に広島県から委託を受け、(公財)日本国際問題研究所が実施した「ひろしまレポート作成事業」1の調査・研究の成果である。核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する具体的措置・提案の2018年の実施状況を取りまとめ、日本語版及び英語版を刊行した。
核兵器廃絶の見通しは依然として立たないばかりか、核兵器を巡る状況は複雑化している。核兵器不拡散条約(NPT)上の5核兵器国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)および他の核保有国(インド、イスラエル、パキスタン)からは、核兵器保有の放棄に向けた具体的な動きは見られない。逆に、程度の差はあれ、核戦力の近代化や運搬手段の更新などといった核抑止の中長期的な維持を見据えた施策を講じている。さらに、米国は中距離核戦力全廃条約(INF条約)からの脱退を表明した。こうした状況に不満を強める非核兵器国は核兵器の法的禁止を追求し、2017年7月7日に核兵器禁止条約(TPNW)を採択した。しかしながら、これに消極的な核保有国、ならびに核保有国と同盟関係にある非核兵器国(核傘下国)は条約への署名を拒否しており、TPNW賛同国との間の亀裂が深まっている。北朝鮮核問題も、米朝/南北首脳会談の開催により外交的解決への期待が高まる一方で、北朝鮮は依然として核兵器放棄の戦略的決断を下したかは分からない。また、イラン核問題では、米国が包括的共同作業計画(JCPOA)からの離脱を発表し、その先行きが注視されている。さらに、核兵器の取得に新たに関心を持つ国が出現しないとの保証はなく、グローバル化の進展とも相まって、非国家主体による核兵器の取得・使用への懸念が高まることも考えられる。また、原子力平和利用に対する関心の高まりは、核不拡散や核セキュリティへのリスクの高まりをもはらむものである。このような核兵器を巡る情勢を踏まえ、国際社会において、核軍縮、核不拡散、核セキュリティの一層の強化・推進が求められているにもかかわらず、それらに係る多くの措置が停滞を余儀なくされているという状況が続いている。
こうしたなか、核兵器の廃絶に向けた取組を進めるにあたっては、まずは核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する具体的な措置と、これらへの各国の取組の現状と問題点を明らかにすることが必要となる。これらを調査・分析して「報告書」及び「評価書」にまとめ、人類史上初の核兵器の惨劇に見舞われた広島から発信することにより、政策決定者、専門家及び市民社会における議論を喚起し、核兵器のない世界に向けた様々な動きを後押しすることが、『ひろしまレポート』の目的である。
各対象国の核軍縮などに向けた取組の状況を調査・分析・評価し、「報告書」及び「評価書」を作成する実施体制として、研究委員会が設置された。同委員会は、平成30年度内に会合を開催し、それらの内容などにつき議論を行った。
研究委員会のメンバーは下記のとおりである。
主 査:樽井澄夫(日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長)
研究委員:一政祐行(防衛省防衛研究所主任研究官)
川崎 哲(ピースボート共同代表)
菊地昌廣(核物質管理センター理事)
黒澤 満(大阪女学院大学教授)
玉井広史(日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター嘱託)
水本和実(広島市立大学広島平和研究所副所長)
戸﨑洋史(日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員)(兼幹事)
作成された「報告書」のドラフトに対して、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの分野において第一線で活躍する、下記の国内外の著名な研究者や実務家より貴重なコメント及び指摘を頂いた。
阿部信泰 ハーバード大学ケネディ・スクール・シニア・フェロー
マーク・フィッツパトリック(Mark Fitzpatrick)前国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所長兼不拡散・軍縮プログラム部長
ジョン・シンプソン(John Simpson)サウサンプトン大学名誉教授
鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター・センター長
また、『ひろしまレポート2019年版』では国内外の有識者に、TPNWなど核軍縮・不拡散問題の動向、並びに展望と課題に関するご寄稿を得た2。
英語版の作成に当たっては、ゴードン・ジョーンズ氏(Gordon Wyn Jones、キングス・カレッジ大学院)に編集作業、並びに内容面でのコメントを得た。記して謝意を表する。
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