当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

序章 (1) 2019 年の主な動向

核を巡る動向に好転の兆しは見えず、停 滞・逆行のスパイラルに陥っているように見える。ロシアによる中距離核戦力全廃条 約(INF 条約)違反を指摘してきた米国は2 月、ついに条約からの脱退を通告した。 条約の規定により 6 カ月後の 8 月2日に脱退が成立し、INF条約は失効した。2021 年2月5日に期限を迎える新戦略兵器削減条 約(新 START)の期限延長問題に関しても、ロシアが延長を求めるのに対して、米 国は関心がないことを示唆している。米国は、米露だけでなく中国の参加が必要だとの主張を強めつつあるが、中国は、「最大の核戦力を持つ米露のさらなる核兵器削減 なしには参加しない」との立場を繰り返し 表明している。米国も中露が関与する軍備管理交渉を開始するための努力をほとんど行っていない。核保有国はいずれも核戦力の近代化を継続し、なかでもロシア及び中国は核弾頭搭載可能な各種の運搬手段の新 たな開発・配備を積極的に推進している。 未発効の包括的核実験禁止条約(CTBT) や交渉が開始されない兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)をはじめとする多 国間核軍縮の停滞が解消に向かう兆しも見 えない。2017 年 9 月 20 日に署名開放され た核兵器禁止条約(TPNW)の署名国及び 批准国は着実に増加しており、近い将来の条約発効が視野に入りつつある。しかしながら、核保有国やその同盟国は引き続き、 TPNWに署名しない方針を明確にしている。

核不拡散に目を転じると、北朝鮮は 2018 年に続いて、核・長距離ミサイルの実験や核兵器使用の威嚇を行わなかった。しかしながら、2 月の米朝首脳会談では事前の予 想に反して合意は成立せず、その後も北朝 鮮核問題の解決に向けた進展は見られなかった。北朝鮮は依然として核兵器の保有を放棄するとの戦略的決定を行っておらず、 核・ミサイル開発を継続していると見られ、 2019 年末には 2 年間続いた核兵器及び長距離ミサイル実験のモラトリアムの終了を宣言した。また国連安全保障理事会決議のも とでの北朝鮮に対する制裁措置を巧妙に回避した北朝鮮の不法行為も引き続き数多く報告された。イラン核問題も再び緊張が高 まりつつある。2018 年 5 月の米国による包 括的共同作業計画(JCPOA)離脱以降もイ ランは合意の遵守を継続していたが、米国 による対イラン制裁の再開と段階的な強化に反発し、2019 年半ば以降、合意の一部履 行停止に踏み切った。年末までに、イランのウラン保有量及び濃縮度、稼働する遠心分離機の数、並びにより高性能な遠心分離機の開発のペースなどが JCPOAの上限を超え、JCPOA は終焉に近づきつつある。 他方、イランは JCPOA で求められている検証措置を継続しており、また米国がイランの原油輸出に関する制裁を解除すればウ ラン保有量・濃縮度の上限に関する措置を 講じると述べた。

核セキュリティに関しては、2019 年も各 国の核セキュリティの強化に関する個別の取組や、それらの成果に関する情報発信は 概して減少傾向にあったが、核テロ脅威へ の警戒感を持つ国や、原子力導入に熱心な国々などで核セキュリティの水準強化への取り組みに進展が垣間見えた。また、核セキュリティ関連条約の批准や核鑑識などの取組にも改善が見られたほか、人材育成のための取組も裾野が広がりつつある。他方、 2019 年は原子力発電所へのサイバー攻撃が新たに顕在化し、また技術革新に基づくドローンのような核セキュリティ上の脅威認 識も拡大した。2020 年 2 月には 3 年ぶりのハイレベル会合となる国際原子力機関 (IAEA)の核セキュリティに関する国際 会議(ICONS)を控え、また核セキュリテ ィ関連条約として注目される改正核物質防護条約運用検討会議の初開催を 2021 年に予定するなか、今後、各国の核セキュリティが持続可能かつ前向きに改善されている 実態が詳らかになることが期待される。

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る