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国際平和拠点ひろしま

コラム 8 若者から見る核軍縮―日本と広島の役割

柳津 聡

2020年は被爆75周年、核軍縮にとって節目の年だ。しかし、核兵器をめぐる情勢は冷戦以降最も厳しいと言える。昨年は米国のINF条約脱退、イランのJCPOA一部履行停止、米朝交渉決裂、中東諸国の核開発示唆など、核保有国や主要国が既存の核軍縮枠組みへのコミットメントから後退する動きが見られた。この趨勢からの転換を図れるか—2020年は勝負の年でもある。

核軍縮を支えてきた二国間・多国間枠組み(新START、NPTなど)への信頼は、広義の国際公共財であり、各国の遵守と賛助によって維持される。チャールズ・キンドルバーガーが「一つの覇権国が多国間のルール作りを主導するとき、世界システムが安定する」と論じたように、冷戦後の核軍縮は米国のリーダーシップに依る所が大きい。しかし、多極化する世界の中で米国が国際協調を主導する意欲を失いつつあるなか、米国のみに依存せずに各国が分担して核軍縮枠組みへの信頼を醸成し続けることが肝要だ。

日本は唯一の戦争被爆国としての経験を外交資源として活用し、核なき世界の実現をリードすべきだ。日本の主体性が期待される論点として、核兵器禁止条約(TPNW)への対応が挙げられる。核兵器の非人道性を強調し、その保有の政治的コスト増大を目指す同条約の新たなアプローチの価値を、日本政府は認めるべきだと私は考える。米国の核の傘への依存が当面の条約批准を妨げるとしても、オブザーバーとしての締結国会議参加などを通じての関与は可能だ。この行為自体は必ずしもNPTや日米安保体制との矛盾ではなく、むしろ核軍縮枠組みの停滞を打破するために有効な圧力と言える。目の前の安全保障情勢に対するプラグマティズムと長期的目標の核廃絶に向けた百年の計を使い分けるしなやかさが、真の「橋渡し役」としての日本外交に求められているのではないだろうか。

核兵器問題への関心を高め、政府の説明責任を強化することが、これらの外交努力を後押しする。この点で、広島県が行ってきた様々な施策が議論の起点となり得る。例えば、私が昨年夏に参加した広島-ICANアカデミーでは、核保有国を含む11カ国から参加した15人の若者が、被爆者や専門家と対話を重ね、「核兵器の人道的影響」「核兵器と国際安全保障」「市民社会の活動」「軍縮外交と国連の役割」の4テーマを探究し、自国での草の根運動の形を模索した。私自身、韓国・朝鮮人被爆者の存在や被爆者に対する差別の歴史への無知を痛感し、「未来志向の被爆国日本」といった表層のイメージに甘んじず原爆投下の傷跡について謙虚に学び続ける責任を感じる機会となった。

気候変動などのグローバル課題に対する若者の危機感と行動が政治を動かす潜在力をもつということが注目を浴びる今日、広島-ICANアカデミーのような日本中、世界中の若者と協働する広島県の試みは、今後も核廃絶に向けての国民的議論を触発していくだろう。私も米国でのシンポジウム企画など、自分にできることから始めていきたい。

(ハーバード大学1年)

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