(4) IAEAとの協力
IAEA保障措置の強化策として最も重視されているものの1つが、追加議定書の普遍化である。本調査対象国のうち、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、フランス、ドイツ、インドネシア、日本、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、スウェーデン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、英国及び米国は、包括的保障措置に加えて、IAEA追加議定書のもとでの保障措置が、現在のIAEA保障措置システムの標準、あるいは「一体不可分な部分(integral part)」だと主張している。
これに対して、NAM諸国(一部の国を除く)は、「追加的な措置は、核兵器の不拡散をすでに約束し、核兵器オプションを放棄した非核兵器国の権利に影響を与えてはならない」87と主張する。また、ブラジルは2019年NPT準備委員会で、「追加議定書をNPTのもとでの不拡散検証の標準とするいかなる試みにも反対する」88とした。他方で、2002年に追加議定書を締結している南アフリカは、追加議定書はNPT上の義務ではなく自発的措置であるとしつつ、「未申告の核物質・活動がないことに関して、信頼を構築し、信頼できる保証を提供することを可能にする不可欠な手段である」89と論じた。
2021年のIAEA総会決議「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」では、上述のような意見の相違を踏まえつつ、追加議定書に関しては、前年の決議と同様に下記のように言及された90。
➢ 追加議定書の締結はIAEA加盟国の主権的な決定だが、いったん発効すれば追加議定書は法的義務となることに留意しつつ、追加議定書の締結・発効を行っていない加盟国に対して、可能な限り早期に締結・発効を行うこと、並びに発効までの間は暫定的に履行することを奨励する。
➢ 効力を持つ追加議定書によって補完される包括的保障措置協定を有するIAEA加盟国のケースでは、これらの措置は、強化された検証標準を受諾していることを意味する。
IAEA保障措置の強化・効率化に関して、IAEAは、各国の原子力活動について幅広い情報を検討し、これに従って各国において個別の(tailor-made)保障措置活動を調整するという「国レベルの保障措置概念(SLC)」に基づき、「国レベルの保障措置アプローチ(SLA)」を開発・承認してきた。
IAEAの報告書「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」によれば、IAEAは2021年6月末時点で、拡大結論を得た70カ国、包括的保障措置協定及び追加議定書を発効させているものの拡大結論を得ていない36カ国、包括的保障措置協定は発効させているものの追加議定書については未発効の27カ国についてSLAを開発・承認した(2020年には新たに2カ国について開発)91。また、同報告書によれば、VOA及び追加議定書を発効している2カ国(フランス及び英国)に対してSLAを開発した92。
保障措置技術の研究開発に関しては、IAEAの長期プラン93のもとで、当面の計画として「核検証のための開発・実施支援計画2020〜21年」が実施され、豪州、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、英国、米国など20カ国と欧州委員会(EC)が参加している94。
調査対象国でIAEAへの2021年の分担金を未支払い(2021年9月17日時点)なのは、ブラジル(前年までの分も未納)、チリ(前年までの分も未納)、イラン(前年までの分も未納)、メキシコ、パキスタン、スウェーデン、シリア、トルコ、米国である95。
87 NPT/CONF.2020/PC.III/WP.17, March 21, 2019.
88 “Statement by Brazil,” Cluster 2, 2019 NPT PrepCom, May 3, 2019. ブラジルはアルゼンチンとの間でABACC という国際機関による相互監視を受諾しており、この監視が追加議定書に代替するものだとしている。
89 “Statement by South Africa,” Cluster 2, 2019 NPT PrepCom, May 2, 2019.
90 GC(65)/RES/12, September 2021.
91 GC(65)/16, July 21, 2021.
92 Ibid.
93 IAEA, “IAEA Department of Safeguards Long-Term R&D Plan, 2012-2023,” January 2013.
94 IAEA, “Development and Implementation Support Programme for Nuclear Verification 2020-2021,” January 2020.
95 GC(65)/INF/12, September 17, 2021.