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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023(6) 国家安全保障における核兵器の役割・重要性の低減

A) 国家安全保障戦略・政策、軍事ドクトリンにおける核兵器の役割及び重要性の現状
2010年代後半以降、大国間競争及び地政学的競争が顕在化するなかで、核保有国は国家安全保障における核兵器の役割及び重要性を再認識してきた。2022年には、ロシアによる核恫喝を伴うウクライナ侵略、並びにこれを契機とした核兵器国間の亀裂のさらなる拡大や戦略的競争の一層の悪化のなかで、核保有国・同盟国は核抑止力への依存を実質的に一段と高めたようにみえる。後述するように、第10回NPT運用検討会議でも多くの国が懸念を表明するとともに、核兵器の役割及び使用可能性を低減するよう求め、最終文書案では、「核兵器の全面的な廃絶までの間、締約国は、核兵器が再び使用されないことを確保するためにあらゆる努力をすることを約束する」こと、並びに「核兵器国は、すべての軍事・安全保障上の概念、ドクトリン及び政策における核兵器の役割と重要性を、撤廃を視野に入れて低減するための措置を講じるべきである」ことなどが盛り込まれた。

 

ロシアの核恫喝
2022年2月24日にウクライナへの侵略を開始したロシアは、侵略前から核による恫喝を繰り返した160。

プーチン大統領は2月7日に開かれた仏露首脳会談後の記者会見で、ウクライナがNATOに加盟し、軍事的手段を用いたクリミア奪還を決定すれば、欧州諸国は世界をリードする核兵器国の1つであるロシアとの戦争に自動的に巻き込まれることになり、その戦争に勝者はいないと発言した161。そしてロシアは、欧州NATO諸国に到達可能で核・通常弾頭のいずれも搭載可能なSRBMのイスカンデル、GLCMの9M729、空中発射型弾道ミサイル(ALBM)のキンジャールをウクライナ周辺に展開した。2月19日には、プーチン大統領の指揮下で、またルカシェンコ(Alexander Lukashenko)ベラルーシ大統領も同席するなかで大規模なミサイル発射演習を実施し、ICBMのヤルスに加えて、イスカンデル、キンジャール、海洋発射型極超音速ミサイルのツィルコン、SLCMのカリブルなどを発射した。

2月24日のプーチン大統領による開戦演説でも、「ソ連が解体し、その能力のかなりの部分を失った後でも、今日のロシアは軍事面で依然として最も強力な核兵器国の1つである。しかも、いくつかの最新兵器で一定の優位性を保持している。このような背景から、潜在的な侵略者がわが国を直接的に攻撃した場合、敗北と不吉な結果に直面することは、誰にとっても疑いのないことであろう」162と述べ、ウクライナ、並びにウクライナを支持・支援する米国などNATO諸国に対して、公然と核攻撃の恫喝を行った。同月27日には、プーチン大統領はロシアの核戦力に「特別任務態勢への移行」を命じ163、ショイグ(Sergei Shoigu)国防相が翌日、戦略ロケット軍、太平洋艦隊、北方艦隊などの核戦力部隊が「戦闘態勢」に入ったと発表した(ロシアは講じられた具体的な態勢については言及せず、他方で米国防総省高官は、ロシア側に特筆すべき具体的な動きは確認できていないと述べた164)。また同日、ベラルーシでは国民投票の結果、自国領土内へのロシアの核兵器配備を可能にする憲法改正が承認された。

3月2日には、ラブロフ(Sergey Lavrov)外相がインタビューで、第3次世界大戦が起これば、「核戦争につながり、破壊的な48戦争になるだろう」165とし、「ウクライナはソ連の核の技術と運搬手段を依然として保持している」として、それ以上の根拠は示さないまま、ウクライナが核兵器を取得すればロシアは真の脅威に直面し得るとも述べた166。さらに、3月22日には、プーチン大統領はどのような条件で核兵器を使用するかとの問いに対して、ロシアのペスコフ(Dmitry Peskov)大統領報道官は、「もしそれが我が国への存立の脅威であれば、そうなりうる」と答えた167。ウクライナには、壊滅的な損害をロシアにもたらすような攻撃を行う力はなく、NATOもこの戦争への直接的な軍事介入の可能性を繰り返し否定するなかでのそうした発言に対して、ロシアにとって「国家存立の脅威」がいかなる状況を意味するのか、核兵器使用の敷居をかなり低く設定しているのではないかとの疑念が高まった。ペスコフ報道官は同月30日、ロシアの核兵器使用について、改めて「国家存立の脅威がある場合のみ」だとしつつ、ウクライナでの「作戦のいかなる結果も、もちろん核兵器を使用する理由ではない」と補足し、疑念の緩和を試みた168。しかしながら、依然としてロシアによる核兵器使用への懸念は続いた。その30日には、核兵器を搭載したと見られるロシアの2機のスホイ24爆撃機が、3月2日にスウェーデンの領空を侵犯していたとも報じられた169。

ロシアによるウクライナ侵略を受けてスウェーデン及びフィンランドがNATO加盟の検討を開始すると、ロシアのメドベージェフ(Dmitry Medvedev)安全保障会議副議長は、両国が加盟すれば、ロシアは地域での防衛力を高める必要があると警告し、「バルト海の非核化という話は、もはやありえない」と述べるなど、核兵器の配備も示唆した170。4月14日には、日本海で潜水艦2隻からカリブルSLCMの発射実験を、また4月20日にはサルマトICBMの初の発射実験も実施した。

ロシアは6月にも、ヤルスICBM発射機など100以上の車両を動員する核戦力の機動演習を実施した。他方で8月にはショイグ国防相が、「軍事的な観点から言えば、設定された目標を達成するためにウクライナで核兵器を使用する必要はない。ロシアの核兵器の主要な目的は、核攻撃を抑止することだ」とし、「メディアは、特別軍事作戦の過程でロシアの戦術核兵器が使用されるのではないか、あるいは化学兵器を使う用意があるのではないかといった憶測を流している。これらの情報攻撃はすべてまったくの嘘である」とも述べた171。

しかしながら、ウクライナの反転攻勢によって支配地域を奪還されるなど、ロシアの劣勢が強まるなか、プーチン大統領は9月21日、国民の部分的動員を発表した演説で、「ロシアの領土の一体性への脅威が生じた場合、国家と国民を守るために、あらゆる手段を行使する。これははったりではない」172と述べ、再び核兵器の使用を示唆しつつウクライナやNATOを威嚇した。同じ頃、ロシアが制圧するウクライナ東部や南部で親ロシア派が実施した「住民投票」の結果として、ロシアはそれらの地域をロシアに併合し、そこでは核兵器使用を含む軍事ドクトリンが適用されるとした。これは、『領土の一体性への脅威』が東部・南部のロシア占領地にも適用され、それら地域が奪還されれば核使用を辞さないとの威嚇であったと一般的に解釈されている。

ロシアによる核兵器の使用が再び強く懸念され、ロシアがウクライナとの国境近辺で核実験を計画している可能性が疑われること、ロシア国防省で核兵器の管理を担う秘密部門に関連があると見られる列車がウクライナ方面に向けて動き出したこと、あるいは新型原子力魚雷「ポセイドン」を搭載するロシアの原子力潜水艦「ベルゴロド」が北極海に向かい、ポセイドンの発射実験に向けた準備が進んでいることといった報道もみられた173。ロシアが10月に実施した核戦力部隊の演習では、ICBMのヤルス、SLBMのシネワ、並びに戦略爆撃機のTu95からALCMが発射された。一方で、米国からは、核兵器の使用が差し迫って計画されているという兆候はないとの分析も示された174。

11月に入ると、ロシアは核兵器使用に係る国際社会の懸念の払拭を図った。ロシア外務省は声明で、「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦われてはならない」との考えを明記した2022年1月の5核兵器国共同声明に言及しつつ、これへの「コミットメントを完全に再確認する」としたうえで、「この分野におけるロシアのドクトリンのアプローチは、極めて正確に定義されており、もっぱら防衛的目標を追求し、拡大解釈を認めないものである。これらのアプローチでは、ロシアは、国家の存立が危うくなった場合、WMDの使用を伴う侵略や通常兵器の使用を伴う侵略に対してのみ、核兵器の行使が許されている」と明記した175。11月17日にはロシアが核兵器を使用する可能性はあるのか、また使用の是非を検討したことはあるかとの質問に対して、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、こうした質問自体が容認できないとし、「討議していない。これまでも討議したことはない」と述べた176。

この間、ロシアの度重なる核恫喝は、西側諸国を中心に厳しく非難された。たとえば、グテーレス国連事務総長は3月14日、「かつては考えられなかった核兵器を使った紛争がいまや起こりうる状況だ」177と述べ、即時停戦を呼びかけた。

ブリンケン米国務長官は、「もしロシアがこの一線を越えれば、ロシアに対して破滅的な結果がもたらされるだろう。米国は断固とした対応を取る。我々は現在、非公開のチャネルを通じて、それが何を意味するのか、より詳細に説明している」178と警告した。また、米国がロシアに、核兵器の使用について数カ月にわたり非公式に警告してきたとも報じられた179。バイデン大統領も10月に、ロシアがウクライナで核兵器を使用するとは思わないとしつつ、「世界最大の核保有国の1つの指導者が、ウクライナで核を使うかもしれないと言及するのは無責任だ」と批判し180、また別の日にはロシアが戦術核兵器の使用に踏み切れば、重大な過ちを犯すことになると警告した181。

NATOのストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)事務総長は、「核兵器のいかなる使用も絶対に容認できない。それは紛争の性質を完全に変えてしまう。ロシアは、核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦われてはならないことを認識しなければならない」と述べ、「ロシア及びプーチン大統領からのこのような核に関する発言を何度も目の当たりする際、我々はそれを真剣に受け止める必要がある。そのため我々はロシアにとって深刻な結果を招くという明確なメッセージを伝えている」182とした。岸田総理も、国連総会での演説で、「今般、ロシアが行ったような核兵器による威嚇、ましてや使用は、国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威であり、断じて受け入れることはできません」183と述べるなど、ロシアの行為を繰り返し非難した。

他方、ロシアと良好な関係を維持する国々は、ロシアの核恫喝を少なくとも直接的に批判したわけではなかった。国際的なフォーラムでの声明をトーンダウンさせるために影響力を行使した国もあった。たとえば、TPNW第1回締約国会議で採択された「宣言」では、「我々は、核兵器の使用の威嚇と、ますます激しくなる核のレトリックを憂慮し、それに失望している。我々は、核兵器のいかなる使用または使用の威嚇も、国連憲章を含む国際法の違反であることを強調する。我々は、明示的であれ暗示的であれ、またいかなる状況であっても、あらゆる核威嚇を明確に非難する」、またNPT運用検討会議の最終文書案でも、「今日の核兵器使用の脅威が冷戦の最盛期以降のいかなる時よりも高まっていること、並びに悪化した国際安全保障環境に対して、深い懸念を表明する」こと、「国連憲章に従い、各国はその国際関係において、いかなる国の領土保全または政治的独立に対しても、あるいは国連の目的に反するその他のいかなる方法によっても、武力の威嚇または行使を行わないことを再確認する」ことが、ロシアを名指しで非難することなく記載された。

それでも、ロシアによる侵略や核恫喝への直接的な非難を表明してこなかったいくつかの国々から、ロシアによる核兵器使用可能性への懸念が示唆された。たとえば、10月26日の露印国防相電話会談では、シン(Rajnath Singh)国防相が、「核や放射性物質兵器の使用は人道に反する」と述べ、ロシアとウクライナの「どちら側も使うべきではない」と伝えた184。

11月14日の米中首脳会談では、米国だけでなく中国も、ウクライナでの核兵器使用に反対する姿勢を表明した185。

他方、イランはロシアに攻撃用無人機(ドローン)を供与し、これがウクライナに対して使用された(イランは開戦前に供与したものだと主張しているが、撃墜されたドローンの解析から、疑念が持たれている)。また、イランが射程300kmのファテフ100や射程700kmのゾルファガールといった弾道ミサイルの供与を検討していることなども報じられた。

 

米国の核態勢見直し(NPR)
米バイデン政権は2022年3月末、NPRの策定を完了したと発表した。しかしながら、その時点では報告書を公表せず、以下のような3つのパラグラフからなるファクトシートのみを公表した186。

➢ 2022 NPRは、米国の核戦略、政策、態勢、戦力に対する包括的でバランスの取れたアプローチを示している。安全、確実、かつ効果的な核抑止力と強力で信頼できる拡大抑止の約束を維持することは、引き続き国防総省と国家にとって最優先事項である。
➢ NPRは、核兵器の役割を減らし、軍備管理におけるリーダーシップを再び確立52するという我々のコミットメントを強調するものである。我々は、引き続き戦略的安定性を重視し、コストのかかる軍拡競争を回避し、可能な限りリスクの低減と軍備管理の取極を促進する。
➢ 戦略見直しの完了と同時に、大統領は米国の核抑止戦略に関するビジョンを明確にした。核兵器が存在する限り、米国の核兵器の基本的な役割は、米国、同盟国及びパートナーに対する核攻撃を抑止することである。米国は、米国またはその同盟国及びパートナーの死活的利益を防衛するための極端な状況においてのみ、核兵器の使用を検討する。

NPR本文187が公表されたのは2022年10月末であり、国家防衛戦略(NDS)及びミサイル防衛政策見直し(MDR)をあわせた3本の戦略文書が1つのファイルにまとめられての公表であった。

NPRでは、米国の安全保障における核抑止の重要性を、以下のように再確認した。

それは、安全、確実、かつ効果的な核抑止力と強力で信頼できる拡大抑止への継続的なコミットメントを再確認するものである。戦略的抑止は、国防総省及び米国にとって引き続き最優先の任務である。当面の間、核兵器は、米国の軍事力の他の要素では代替できない独自の抑止効果を提供し続けるだろう。現在の安全保障環境において侵略を抑止し、我々の安全保障を維持するために、我々は直面する脅威に対応する核戦力を維持する188。

同時に、「抑止力だけでは、核の危険は減らない。米国は、安定性を強化し、費用のかかる軍拡競争を回避し、世界的に核兵器の重要性を低下させたいという意思を示すために、軍備管理、不拡散、リスク低減に改めて重点を置いた包括的でバランスのとれたアプローチを追求する」という方針も明確にした189。「同盟国やパートナーを安心させ、敵の意思決定の計算を複雑にしながら、核兵器使用の非常に高いハードルを維持する戦略と宣言政策を採用する」190とも明記した。

他方で、本『ひろしまレポート』の他の節でも言及するが、具体的な宣言政策については、オバマ(Barack Obama)・トランプ(Donald Trump)両政権期に策定されたNPRから、大きな変化はさほど見られなかった。バイデン大統領は、選挙期間中から核軍備管理・軍縮に積極的に取り組むことを公約に掲げ、核兵器の先行不使用政策の採用、あるいは核戦力近代化計画の見直しなどが検討されたと報じられていた。しかしながら、「2030年代までに、米国はその歴史上初めて、戦略的競争相手及び潜在的敵対者として、2つの主要な核保有国に直面することになるであろう」191という脅威認識、さらにはロシアによるウクライナ侵略を受けて、核態勢を大幅に変更できる状況にはないとの判断が強く示唆された。

 

中国
中国は、NPT運用検討会議に提出した国別文書で自国の基本的な核政策について下記のように記述するなど、変化はないことを繰り返し表明した。

防衛的核戦略を揺るぎなく追求し、その核戦略・政策において最大限の透明性を発揮し、核戦力の開発を大幅に抑制し、核兵器の使用に対して極めて慎重な姿勢をとってきた。中国は、核兵器を保有した日から、その完全な禁止と徹底的な廃棄を提唱し、核戦力を自国の安全保障に必要な最小限の水準に維持してきた。当初から、いかなる時、いかなる状況下でも核兵器の先行使用は行わないという方針を堅持し、5つの核兵器国の中で唯一、非核兵器国や非核兵器地帯に対して核兵器の使用や威嚇を行わないという明確かつ無条件の約束をしてきた。中国は、核兵器のない世界という究極の目標を達成するために、今後も相応の貢献を行う192。

中国はまた、「一貫して核戦力を自国の安全保障に必要な最低レベルに維持しており、核投資、数、規模の面で他国と競争したことはなく、いかなる形の軍拡競争にも参加しておらず、他国への核の傘の提供や他国への核兵器の配備もない。核兵器はあくまでも戦略兵器であり、その使用には極めて慎重な姿勢で臨んでいる」193として、最小限抑止を維持する方針を明記した。

米国は近年、中国が核戦力の積極的な近代化に伴い、核態勢も変化させつつあるとの見方を強めてきた194。中国はそうした見方を一貫して否定しており、たとえば2022年6月には魏鳳和(Wei Fenghe)国防相が、「中国は50年以上にわたってその能力を開発してきた。目覚ましい進歩があったと言ってよいだろう」としたうえで、「中国の…政策は一貫している。自衛のために使用する。我々は核(兵器)を最初に使用することはない」195と述べ、従来の核政策に変化はないと明言した。

他方で、中国は、核弾頭または通常弾頭のいずれの搭載を念頭に置いているかは不明だが、少なくとも弾道ミサイルを用いた対兵力打撃オプションを追求しているとみられ、商業衛星の画像から、新疆ウイグル自治区のタクラマカン砂漠に実物大のミサイル標的用の模型―実物大の桟橋、駆逐艦、さらには海軍基地など―を設置し、実際に弾道ミサイルを用いて攻撃の実験を行っていると報じられた。

また、中国は近年、核・ミサイル戦力を用いた示威的ともみえる「演習」を繰り返している。2022年8月にペロシ(Nancy Pelosi)米下院議長が台湾を訪問した直後には、台湾を取り囲むようにして9発の弾道ミサイルを発射し、このうち5発は日本のEEZ内に落下した。また、中国は(時にロシアと共同で)核兵器搭載可能な爆撃機の日本周辺での飛行を繰り返し実施しており、11月には中国のH6爆撃機及びロシアのTU-95爆撃機それぞれ2機(計4機)が、日本海、東シナ海、太平洋にかけて長距離を共同飛行したと発表した196。

 

北朝鮮
北朝鮮は2022年に、様々なタイプのミサイル実験を過去にない頻度で実施するとともに、国家安全保障における核兵器の役割を拡充するとの発言を繰り返した。

KCNAは4月17日に、北朝鮮が核戦力強化を目的とした「新型戦術誘導兵器(New-type tactical guided weapon)」の発射実験を実施し、その兵器システムは「長距離砲兵部隊の能力を飛躍的に向上させ、戦術核運用の効率を高める上で大きな意味を持つ」197と報じた。発射されたのは、KN24 SRBMの改良型と見られている。

4月25日の朝鮮人民革命軍創建90周年軍事パレードでは、火星17型ICBMや新型と見られるSLBMなどとともに、初めて「戦術ミサイル縦隊(tactical missile units)」と称した部隊が登場した。また、金総書記は演説で、「我々の核戦力の基本的使命は戦争を抑止することだが、この地で我々が決して望まない状況が醸成される場合にまで、我々の核が戦争防止という1つの使命にだけ束縛されているわけにはいかない。いかなる勢力であれ、我が国家の根本的利益を侵奪しようとするのであれば、我々の核戦力はその2つ目の使命を断固として決行せざるを得ない」198と述べた。ここでの「2つ目の使命」が、「戦術核運用」であると見られる。

そして、北朝鮮は9月9日に、法令「核戦力政策について」を採択した199。この法令では、北朝鮮の核戦力は(金正恩)「国務委員長の唯一の指揮に服する」こと、並びに「国務委員長が核兵器に関するあらゆる決定権を持つこと」が定められた。また、「国務委員長が任命する成員で構成された国家核戦力指揮機構は、核兵器に関する決定から実行に至る全過程で、国務委員長を補佐する」とした。

核兵器の使用に関しては、「国家核戦力に対する指揮統制システムが敵対勢力の攻撃によって危険に瀕する場合、事前に決まった作戦計画に従って、挑発原点(starting point)と指揮部(command)をはじめとする敵対勢力を壊滅させるための核打撃が自動的に、即時断行される」とした。また、「国家と人民の安全を深刻に脅かす外部の侵略と攻撃に対処し、最後の手段として核兵器を使用することを基本原則とする」とし、「以下の場合に核兵器を使用することができる」と定めた。

➢ 北朝鮮に対する核兵器、またはその他大量破壊兵器による攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合
➢ 国家指導部と国家核戦力指揮機構に対する敵対勢力の核及び非核攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合

➢ 国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事的攻撃が強行されたり、差し迫ったと判断される場合
➢ 有事に戦争の拡大と長期化を防ぎ、戦争の主導権を掌握するための作戦上の必要が提起されることが不可避な場合
➢ その他の国家の存立と人民の生命安全に破局的な危機を招く事態が発生し、核兵器で対応せざるを得ない不可避な状況が生じる場合

さらに、この法令では、「外部の核脅威と国際的な核戦力態勢の変化を恒常的に評価し、それに応じて核戦力を質的・量的に更新、強化すること」、並びに「責任ある核保有国として、核兵器を他国の領土に配備したり共有せず、核兵器と関連技術、設備、兵器級核物質を移転しない」とも定めた。

金総書記は同月8日の演説で、「最も重要なことは、我々の核戦力の戦闘的信頼性と作戦運用の効果性を高められるように、戦術核運用空間を不断に拡張し、適用手段の多様化をさらに高い段階で実現し、核戦闘態勢を各方面で強化していかなければならない」200と述べ、北朝鮮の核戦力が、日本や米国を標的にした報復攻撃としてだけでなく、朝鮮半島における戦争遂行やエスカレーション優越も企図した攻撃能力としても、その役割を拡大させていることを強く示唆した。

 

B) 核兵器の先行不使用(NFU)
核兵器の先行不使用(NFU)、あるいは敵の核兵器使用を抑止することが核兵器の「唯一の目的(sole purpose)」だとする政策に関して、2022年には核保有国の政策に変化は見られなかった。また、NPT運用検討会議の最終文書案では、NFUや「唯一の目的」のいずれについても言及はなされなかった。

5核兵器国のなかでは、中国のみがNFUを宣言しており、2022年もこのコミットメントに繰り返し言及した201。また、中国は、すべての核兵器国が核兵器のNFUを約束し、これに関する国際的な法的文書を交渉・締結すべきであるとも主張している202。米国は、中国がNFUを適用する状況についての言説には曖昧性があるとの見方を示しているが203、中国は否定している。

米国については、バイデン大統領が2020年の大統領選挙で、NFU、あるいは核兵器の「唯一の目的」は核攻撃に対する抑止だと宣言する政策を実現すべく取り組むと繰り返し論じており、これが米国の政策として採用されるか否かが注目された。しかしながら、2022 NPRでは、「核兵器が存在する限り、米国の核兵器の基本的な役割は、米国、同盟国、パートナーに対する核攻撃を抑止することである」とし、NFUや「唯一の目的」を採用しなかった。同時に、以下のようにも述べて、そうした宣言政策の採用を目指すとの方針も明記した。

我々は、核兵器の先制不使用と唯一目的の政策を含む、宣言的政策の幅広い選択肢を徹底的に検討し、米国とその同盟国・パートナーに戦略レベルの損害を与えうる競争国が開発・配備している非核能力の範囲に照らして、これらのアプローチは受け入れがたいレベルのリスクをもたらすと結論づけた。一部の同盟国やパートナーは、壊滅的な効果をもたらす可能性のある非核手段による攻撃に対して特に脆弱である。我々は、唯一目的宣言に移行するという目標を保持しており、同盟国やパートナーと協力して、それを可能にする具体的なステップを特定する予定である204。

英国、フランス、豪州、ドイツ、日本、韓国などといった米国のいくつかの同盟国は、敵対国や競争相手国に誤ったメッセージを送り、抑止力が低下するとして、米国に政策変更を行わないよう働きかけていると報じられた205。

NPT非締約国のなかでは、インドがNFUを宣言しつつ、インドへの大規模な生物・化学兵器攻撃に対する核報復オプションを留保している。これに対して、インドの「コールド・スタート」戦略に対抗する目的で小型核兵器やSRBMを取得したパキスタンは、NFUを宣言せず、通常攻撃に対する核兵器の使用可能性を排除していない。

北朝鮮については、2022年9月に制定した法令「核戦力に関する政策」で、核兵器の使用条件に、敵対勢力による一定の非核攻撃が実施されたり、切迫したと判断されたりする状況などを含めており、このことは核兵器を先行使用する可能性があることを意味している206。北朝鮮指導者は近年、核兵器先行使用の可能性を繰り返し強く示唆してきたが、これを「法令」の形で核政策としても明文化したことになる。

 

C) 消極的安全保証
非核兵器国に対して核兵器の使用または使用の威嚇をしないという消極的安全保証(negative security assurances)に関して、2022年に政策変更を行った核兵器国はなかった。無条件の供与を一貫して宣言する中国を除き、核兵器国はそうした保証に一定の条件を付している。

このうち英国及び米国は、NPT締約国で、核不拡散義務を遵守する非核兵器国に対しては、核兵器の使用または使用の威嚇を行わないと宣言している。ただし英国は「安全保障・防衛・開発・外交政策統合見直し」で、「化学兵器や生物兵器などのWMDの将来的な脅威や、それに匹敵する影響を与える可能性のある新たな技術の出現により、この保証を見直す必要が生じた場合には、その権利を留保する」207とした。

フランスは2015年2月、「NPT締約国でWMD不拡散の国際的な義務を尊重する非核兵器国に対しては核兵器を使用しない」として、その前年に公表したコミットメントを精緻化した208。ただしフランスは、消極的安全保証を含め核態勢にかかる「コミットメントは国連憲章第51条の自衛権に影響を与えるものではない」209との立場を変えていない。ロシアは、核兵器国と同盟関係にある非核兵器国による攻撃の場合を除いて、NPT締約国である非核兵器国に対して核兵器の使用または使用の威嚇を行わないとしている。

フランス、英国及び米国はNPT運用検討会議で非核兵器国の安全保証に関する共同声明を発出し、ここでもそれぞれのコミットメントを再確認した210。

ロシアによる核恫喝を伴うウクライナへの侵略は、消極的安全保証にも、またロシアなどが1994年にウクライナと交わしたブダペスト覚書にも反する行為であるとして、西側諸国などはNPT運用検討会議などの場でロシアを非難した。しかしながら、ロシアは、核兵器の使用または使用の威嚇を行わないことも含めてブダペスト覚書に違反しておらず、「ウクライナに対して核兵器使用の威嚇を行っているとの批判があるが、それは根拠のない、現実でもない、また容認できない憶測に基づくものである」と反論した211。NPT運用検討会議の最終文書案では、「すべての核兵器国が、ウクライナのNPT加入に伴う安全の保証に関する覚書に基づく1994年のコミットメントを含め、この条約の非核兵器国に一方的にまたは多国間で与えられた安全の保証に関する既存のすべての義務及びコミットメントを完全に遵守することの重要性を再確認する」と記載された。しかしながら、ロシアは最終文書策定の交渉過程でブダペスト覚書への言及に反対しており、会議最終日に明言はしなかったものの、最終文書の採択に反対した一因になったと考えられる。

消極的安全保証は、NPTの文脈で、核兵器の取得を放棄する非核兵器国がその不平等性の緩和を目的の1つとして、NPT上の核兵器国に提供を求めるものであるが、インド、パキスタン及び北朝鮮も同様の宣言を行っている。2022年には、これらの国々の宣言に変化はなかった。インドは、「インド領域やインド軍への生物・化学兵器による大規模な攻撃の場合、核兵器による報復のオプションを維持する」としつつ、非核兵器国への消極的安全保証を宣言している。パキスタンは、無条件の消極的安全保証を宣言してきた。北朝鮮は、2022年に制定した法令で、「非核兵器国が他の核兵器国と連携して北朝鮮に対する侵略や攻撃行為に加担しない限り、これらの国々を対象として核兵器で威嚇したり、核兵器を使用したりしない」と規定した。

消極的安全保証は、非核兵器地帯条約議定書で定められたものを除き、法的拘束力のある形では非核兵器国に供与されていない。NAM諸国はNPT運用検討会議で、「すべての核兵器国が、すべての非核兵器国に対して、あらゆる状況下における核兵器の使用または使用の威嚇に対して、効果的、無条件、非差別的、撤回不可、普遍的かつ法的拘束力のある安全の保証を提供するための緊急交渉も優先事項として、さらに遅延なく推進すべきであると強調する」212とした。中国は、「国際社会が非核兵器国に対する無条件の消極的安全保証に関する国際的な法的手段を早期に交渉し締結することを提唱し、この点に関してCDにおいて早期に実質的な作業が開始されることを支持する」213と主張しているが、他の4核兵器国は一貫して消極的である214。NPT運用検討会議の最終文書案では、「核兵器の全面廃絶に至るまでの間、核兵器国は、(a)彼らが引き受けているすべての既存の安全の保証を守り、尊重すること、並びに(b)それぞれの国の声明に一致して、条約締約国である非核兵器国に対して核兵器の使用、または使用の威嚇を行わないことを約束する」よう求めるとともに、「締約国は、CDに対して、核兵器の使用または使用の威嚇から非核兵器国を保証するための効果的な国際的取極に関する議論を直ちに開始し、国際的に法的拘束力のある文書を排除せず、この問題のあらゆる側面を扱う提案を作り上げることを目的として、制限なく実質的に議論し、その交渉開始について非核兵器国が緊急かつ重要視していることを想起するよう求める」と記載された。

2022年の国連総会で採択された決議「核兵器の使用または使用の威嚇に対して非核兵器国を保証する効果的な国際協定の締結」では、核兵器国に対して、法的拘束力のある制度につながる可能性のある「共通のアプローチに関する早期の合意に向けて積極的に取り組む」ことなどを求めた215。この決議への加盟国の投票行動は下記のとおりであった。

➢ 賛成120(ブラジル、中国、エジプト、インド、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、メキシコ、パキスタン、サウジアラビア、シリアなど)、反対0、棄権60(豪州、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、北朝鮮、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国など)

 

D) 非核兵器地帯条約議定書への署名・批准
これまでに成立した非核兵器地帯条約に付属する議定書では、核兵器国が条約締約国に対して法的拘束力のある消極的安全保証を提供することが規定されている。しかしながら、表1-5に示すように、5核兵器国すべての批准を得たのはラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)議定書だけである。2022年に、非核兵器地帯条約議定書に新たに署名・批准した核兵器国はなかった。5核兵器国のいずれもが署名していない東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)議定書については、条約締約国と5核兵器国との協議が継続していると繰り返されてきたが、これがどこまで進んでいるかは明らかにされていない。

 

消極的安全保証を規定した非核兵器地帯条約議定書について、署名や批准の際に解釈宣言と称して実質的に留保を付す核兵器国がある。非核兵器地帯条約締約国をはじめとして、NAM諸国やNACなどは核兵器国に対して、非核兵器地帯条約議定書への留保や解釈宣言を再考・撤回するよう求めてきた。(無条件の消極的安全保証を認めている中国を除く)核兵器国からの前向きな姿勢は見られないが、NPT運用検討会議の最終文書案では、「核兵器国に対して、非核兵器地帯条約議定書の批准に関連してなされた留保あるいは解釈宣言を見直すこと、並びにこの点に関して非核兵器地帯のメンバー国との対話に関与することを奨励する」と記載された。

 

E) 拡大核抑止への依存
ロシアによるウクライナ侵略は、拡大核抑止を巡る動向にも影響を及ぼした。

まず、これまで中立を続けてきたスウェーデン及びフィンランドが、ロシアの脅威が高まったとして、NATOへの加盟を決断し、申請した。スウェーデンのリンデ(Ann Linde)外相がNATO事務総長に宛てた書簡で、スウェーデンは「核兵器の枢要な役割を含めNATOの安全保障と防衛に対するアプローチを受け入れ、NATOの集団防衛軍事機構と防衛計画に全面的参加する」216と表明した。11月にはスウェーデンのクリステション(Ulf Kristersson)首相が、NATO加盟が実現した場合に自国内への核兵器の配備を容認する用意があるとも述べ、フィンランドのマリン(Sanna Marin)首相も自国内への核兵器配備について、「いかなる前提条件も付けるべきではない」と発言した217。なお、1997年のNATO・ロシア基本議定書に従って、米国は冷戦後の新たなNATO加盟国には核兵器を配備していない。2022年末時点で、NATO加盟国のうちハンガリーとトルコの2カ国は、フィンランドとスウェーデンの加盟を承認していない。

また、2022年6月に採択された「NATO戦略概念」では、前回(2010年)の戦略概念よりも核抑止の重要性が重視された書きぶりとなり、拡大核抑止との関連では以下のように記された218。

➢ 同盟国、特に米国の戦略核戦力は、同盟国の安全の最高の保証である。…NATOの核抑止態勢は、欧州に配備されている米国の核兵器と、関係する同盟国の貢献にも依存している。NATOの核抑止任務に対する関係国の(核・通常)両用航空機(DCA)の貢献は、この努力の中心であり続けている。
➢ NATOは、核抑止任務の信頼性、有効性、安全性及びセキュリティを確保するために必要なすべての措置を講じる。同盟は、核抑止の独特で明確な役割を再確認しつつ、すべての領域と紛争のスペクトルにおいて、能力と活動の統合と一貫性をより確実にすることにコミットしている。NATOは引き続き、信頼できる抑止力を維持し、戦略的コミュニケーションを強化し、演習の効果を高め、戦略的リスクを低減していく。

6月のNATO首脳会談で採択されたコミュニケでも、「欧州の安全保障環境が悪化していることを考えると、信頼性が高く、結束した核同盟が不可欠である。核兵器は独特なものである。NATOが核兵器を使用しなければならないような状況は、極めて稀である。NATOに対して核兵器が使用されれば紛争の性質が根本的に変わることを、NATOは再確認している。しかしながら、加盟国の基本的安全保障が脅かされるようなことがあれば、NATOは、敵対勢力にとって容認できず、敵対勢力が期待する利益をはるかに上回るコストを敵対勢力に課す能力と決意を持っている」219とした。

米国は、NATO加盟国のベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ及びトルコに、航空機搭載の重力落下式核爆弾をあわせて100発程度配備するとともに、核計画グループ(NPG)への加盟国の参加、並びに核兵器を保有しない加盟国による核攻撃任務への軍事力の提供といった核共有(nuclear sharing)を継続している。ドイツのランブレヒト(Christine Lambrecht)国防相は、核共有のもとで米国が配備する核爆弾を搭載するドイツのDCAの更新問題について、2022年3月にF35戦闘機を調達する方針を表明した。また、米国の2023会計年度予算で、英国の米空軍基地が、アップグレード中の「特殊兵器」(核兵器)保管場所のリストに追加された。米国の核爆弾は2008年に英レイクンヒースから撤去されており、英国の基地に再び保管されているか、将来の受入れのためにアップグレード中なのかは明らかではない220。4月には、ポーランド与党「法と正義」のカチンスキ(Jaroslaw Kaczynski)党首が、国内に米国の核兵器を配備することには「オープン」だが、現在検討されていないと説明した221。

NATOは、核共有にかかる演習を2022年も実施した。3月には、米空軍のB52戦略爆撃機がドイツ及びルーマニアの両軍とルーマニアの空域などで訓練を実施した。10月には、例年実施されているNATO核兵器演習「Steadfast Noon」が、NATO加盟30カ国中の14カ国の戦闘機や偵察機など最大60機が参加して実施された。ストルテンベルグ事務総長は、「ウクライナでの戦争を理由として、定期的に、また以前から計画された演習を突然中止することは、極めて誤ったシグナルを送ることになりうる」とし、「NATOの確固たる予期できる行動と軍事力を示すことが、エスカレーションを防ぐ1番の方法だ」222と述べた。演習では、参加国のDCAによる模擬核爆弾投下、関連する偵察・空中給油、並びに地上要員による核爆弾の運搬や航空機への取り付けなどの手順の確認などといった訓練が実施された。

NATO諸国以外の同盟国の領域には米国の核兵器は配備されていないが、日米間では拡大抑止協議、また米韓間では拡大抑止政策委員会が、それぞれ拡大抑止に関する協議メカニズムとして設置されている。日本では、2月に安倍晋三元総理が、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する核共有について、国内でも議論すべきだとの認識を示した。他方、岸田総理は3月10日の参議院予算委員会で、「拡大抑止は不可欠であり、米国と緊密に協議、協力していくことは重要」であり、「引き続き信頼性の維持・強化に向け、日米間でしっかり協議していく」と述べる一方、共同運用としての核共有については、一般論として「国際状況などを踏まえた国民的議論はあり得る」ものの、政府として核共有の議論は行わないとの考えを明らかにした223。

5月23日の日米首脳会談では、共同声明で、「バイデン米大統領は核を含むあらゆる種類の能力で裏付けられた日本の防衛に対する米国の関与を改めて表明した」こと、並びに「米国の拡大抑止が信頼でき、強靱であり続けることを確保する重要性を確認した」ことが明記された224。また、日本が12月に公表した『国家安全保障戦略』では、「核を含むあらゆる能力によって裏打ちされた米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力を一層強化する」225ことが再確認された。

米韓関係では、2022年5月の首脳会談共同声明で、「バイデン大統領はあらゆる範囲の能力を用いた米国による韓国への拡大抑止について確認し」、2018年1月以来開催されていない拡大抑止政策委員会を再開することでも合意した226。同委員会は9月に開催された。この間、5月に就任した尹錫悦(Yoon Suk-yeol)大統領は、選挙期間中に、米国による核兵器の韓国への再配備や核共有の実現を公約に挙げていたが、政権発足後は、そうしたアレンジメントを追求しないと明言した。しかしながら、韓国の政治サークルなどではしばしば核共有への関心が表明されている。

豪州については、2021年に米英との安全保障枠組みであるAUKUSが結成され、その取組の1つとして、米英の支援により豪州が原子力潜水艦(核弾頭は搭載しない)を取得することが合意された(第2章(2)も参照)。また、10月には、米国が豪州のティンダル空軍基地に最大6機のB52戦略爆撃機を配備する計画であると報じられた227。

核共有、とりわけ米国によるNATOの5カ国に対する戦術核配備に対しては、NPT第1条及び第2条違反だとしてロシア、並びに米国と同盟関係にない非核兵器国などから批判されてきたが、2022年のNPT運用検討会議では中国が核共有への厳しい批判を繰り返し、以下のように主張した。

いわゆる核共有の取極は、NPTの規定に反し、核拡散や核紛争のリスクを増大させる。米国は、欧州からすべての核兵器を撤去し、他のいかなる地域においても核兵器の配備を控えるべきである。関連する非核兵器国は、核共有やその他の核抑止の取極といった扇動を止め、NPTの義務と自らの公約を真摯に履行すべきである。NATOの核共有モデルをアジア太平洋地域で再現しようとする試みは、地域の戦略的安定を損なうものであり、地域の国々から強く反対され、厳しい対抗措置に直面することになろう228。

中国の批判に対して、ドイツは答弁権(right of reply)を行使し、「NATOの核共有の取極は…NPTに完全に一致し、遵守している」229と反論した。また、中国は、日本も名指ししつつ「アジア太平洋における核共有の試み」についてNPT運用検討会議で繰り返し言及したが、日本は、核共有を検討していないと反論した230。

核兵器国と同盟関係にない非核兵器国は、拡大核抑止への依存に対しても批判した。NACはNPT運用検討会議で、「現実に、核兵器国及び拡大核安全保障のもとにある国々は、その安全保障及び核ドクトリン・政策・態勢における核兵器の重要性を増加させている。これらは、核兵器のない世界という目標の達成に反している」231と批判し、「核兵器国を含む軍事同盟の一員である国に対して、重要な透明性及び信頼醸成措置として、国家及び集団安全保障のドクトリンにおける核兵器の役割を削減・除去するためにとられた措置及び将来計画されている措置について報告するよう求める」232とした。最終文書に向けた起草過程では、「核兵器の役割低減に関する核同盟国の責任」が記載されたが、ドイツをはじめとする同盟国が反対し、削除された。

この間、ロシアもNATOの核共有を批判し、また自国は「核兵器を領土外に配備せず、核兵器の管理権を直接的にも間接的にも他国に移譲しない」233との政策を繰り返した。他方、ロシアと同盟関係にあり、冷戦期にはソ連の核兵器が配備されていたベラルーシは、必要であれば自国領土へのロシアの核兵器の配備を受け入れる用意があることを繰り返し表明した。2月17日には、「必要であれば、敵対者や競争相手がそのような愚かで無頓着な手段を取った場合、我が国の領土を守るために、核兵器だけでなく、現在開発されている強力な核兵器(super-nuclear)も配備することになる」234と発言した。同月27日には、ベラルーシで憲法改正案への賛否を問う国民投票が行われ、現行憲法の「自国領を非核地帯とし、中立国を目指す」という条文を削除した改正案が可決された。2022年末時点でロシアがベラルーシに核兵器を配備したとは報じられていないが、5月の首脳会談で、ロシアは核・通常両用の9M720(イスカンデル)短距離弾道ミサイルの供与を表明し、ベラルーシは自国のSu-25戦闘機に核兵器を搭載できるよう改修することをロシアに求めた235。

 

F) 核リスク低減
核軍縮の停滞・逆行が続き、核兵器の使用可能性も高まりつつあると懸念されるなか、近年、そうした懸念に対応するとともに、核軍縮に関して合意し得る数少ない具体的な施策として、核リスクの低減に対する関心が高まっていた。「核リスク低減」にどのような措置を含めるかには相違がある。核兵器国が主として意図せざる核兵器の使用を防止するための措置と捉えてリスク低減に関する議論を展開しているのに対して、非核兵器国は、意図的な核兵器の使用の防止も含め、さらに核兵器の削減や透明性の向上などといった措置を核リスク低減の文脈で提案している。『ひろしまレポート』では、双方の主張や提案を取り上げつつ、核リスク低減を主として「意図せざる核兵器使用の防止」と捉えて分析・評価する。

 

核兵器国の取組
5核兵器国は2022年1月3日、「5核兵器国の指導者による核戦争の防止及び軍拡競争の回避に関する共同声明」を発出し、「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦われてはならないことを確認」したうえで、「未承認の、あるいは意図せざる核兵器の使用を防止するために、国家としての措置を維持し、さらに強化する意図がある。我々は、我々のいかなる核兵器も、お互いの国家、あるいは他の国家を標的としたものではないという照準解除に関する以前の声明の有効性を繰り返す」と述べた236。

また、5核兵器国は上記の共同声明に先立って、NPT運用検討会議に作業文書「戦略的リスク低減」237を提出した。この作業文書では、「戦略領域及び核のドメインにおいて、リスク低減は、基本的には核兵器の使用及び核保有国を含む武力紛争のリスクを低減させることである。潜在的な敵対国の政策、行動及び意図を誤って解釈したり、自らの行動の結果を予見できなかったりすることで生じうる紛争や危機を予防・解決するための努力を含」んでおり、「核兵器国は、不正確な推定による核兵器の使用のリスクを、誤認、誤通信、誤算の可能性を低減することにより制限するという願望を共有している」とした。また、その主要な3つの要素として、対話を通じた信頼醸成と予見可能性の構築、明確性、コミュニケーション及び理解の増大、並びに効果的な危機防止及び危機管理措置を挙げた。さらに、核兵器国間で考案・活用されてきたリスク低減措置として、公式なリスク低減協定・取極、戦略的安定性に関する定期的な二国間対話、5核兵器国プロセスの継続、5核兵器国による用語集の作成、ドクトリン・政策に関する核兵器国の議論、自制・安心供与を促進する政治声明、核兵器の照準解除、並びに二国間危機管理コミュニケーション・チャネルの設置・維持が挙げられた。

しかしながら、2022年2月にロシアがウクライナに対する武力攻撃を開始し、また核兵器の使用可能性も示唆して恫喝を繰り返すと、5核兵器国によるNPT運用検討会議への一定の共同歩調はなくなった。8月の会議を前に、フランス、英国及び米国は改めて作業文書「核兵器国のための原則と責任ある実行」238を提出し、「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦われてはならない」との認識、並びに核軍縮への3カ国のコミットメントを再確認するとともに、ロシアによる核恫喝を強く非難した。また、これら3カ国は、「戦略的リスク低減に関する取組が軍縮義務を代替するものではないことを認識しつつ、これを、核紛争のリスクを低減し、相互の信頼及び安全を強化するための補完的かつ必要な措置とみている」としたうえで、NPT運用検討会議が支持すべきリスク低減の要素として、1945年以来の核兵器不使用の記録の堅持、核兵器国間及び核兵器国・非核兵器国間の対話の促進、核政策・ドクトリン及び予算に関する透明性の確保、核兵器の照準解除、情報収集及び行動方針決定に際する指導者への十分な時間の確保、核兵器の事故防止のため核兵器の安全、保安、継続的管理の維持、核兵器使用に関する人間による管理の維持、核兵器国間の確実なコミュニケーション・チャネルの設置と促進、並びに将来の軍備管理・軍縮検証要件・手段の研究及び多国間対話を挙げた。

米国は2022 NPRで、核リスク低減に関する政策や措置について詳述した。まず、潜在的敵対国との平時の対話の重要性を挙げ、「米国はロシアとの戦略的対話や危機管理においてかなりの経験を積んでいるが、米国の一貫した努力にもかかわらず、中国とはほとんど進展がない。世界は核保有国に対して、リスク低減や危機管理に関するコミュニケーションも含め、責任ある行動をとることを期待しており、米国は中国との間でこのような努力を続けていくつもりである」239とした。また、偶発的あるいは無許可の核兵器使用により、意図せざる核エスカレーションが発生するリスクを低減するための取組として、以下のように言及した。

米国のICBMは「即時発射(hair-trigger)」式の警戒態勢にはない。…日常的な警戒態勢にある部隊は何重もの管理下にあり、米国は誤報・事故による発射、あるいは不正発射を防ぐため、厳格な手続きと技術的セーフガードを維持している。残存可能な冗長センサーは、潜在的な攻撃が検知され、特徴付けられるという高い信頼性をもたらし、大統領が情報を収集し、行動方針を検討するための十分な時間を確実にする審議プロセスを確保する政策と手続きを可能にする。…どのような場合でも、米国は、核兵器使用の開始と終了に関する大統領の決定に情報を与え、実行するために重要なすべての行動の「ループ内の」人間を維持する。…米国は、戦略核戦力の外洋標的化(open-ocean targeting)という長年にわたる慣行を日々維持している。さらに、ICBM戦力の一部をアップロードする能力を保持する一方で、これらのミサイルに弾頭を1個だけ搭載する構成を日々続け、それによって敵の先制攻撃へのインセンティブを減らしている。…国防総省は、危機安定性に対する潜在的なリスクをより深く理解するための作業を継続する。さらに、2022年会計年度国防授権法の指示に従い、国防総省は米国の核兵器、核指揮・命令・通信(NC3)、統合戦術警告/攻撃評価システムの安全、セキュリティ、信頼性に関する独立したレビューを委託する予定である240。

米国は、NPT運用検討会議に提出した作業文書で、核リスク低減に関する冷戦期以来の取組(ホットライン協定、核リスク低減センターの設置、弾道ミサイル発射通告、相互照準解除、核戦争防止協定、大規模戦略訓練の通告、空中・海洋事故協定、危険な軍事事故協定、及び核戦争勃発リスク低減協定など)を紹介するとともに241、国別報告ではNPRに記載した取組に加えて、核兵器の確実性(核兵器が意図的に作動した場合に安全、確実、かつ信頼性をもって作動し、事故や事件による爆発、あるいは不正な爆発が起こらないことを保証)を担保するために講じている措置を記載した242。

中国は、自国の核戦力の安全性及び信頼性について、国別報告で以下のように説明した。

中国は、核兵器を取得した日から、その数的に限られた核戦力を絶対的な安全性と信頼性の状態に維持することを保証するために、一連の実際的かつ効果的な措置を積極的に講じ、核兵器の貯蔵、輸送及び訓練プロセスの各段階における安全管理のための法律、規則、信頼できる技術的手段による厳格な制度を導入してきた。核ミサイルの無許可かつ偶発的な発射を防止するため、中国は規制制度や運用準備の優先順位の階層における明確な規定に加えて、設備技術の分野で多くの特別な技術的安全措置を採用している。…中国ではこれまで、核兵器に関わる安全・保安上の問題は発生していない243。 

その中国に対しては、米国のベル(Alexandra Bell)国務次官補代理(軍備管理・検証・遵守担当)が、「最初の一歩として、互いのドクトリン、危機時の意思疎通、危機管理について話し合いたい」としつつ、中国は核兵器がもたらすリスクを低減するための措置を協議することに関心を示していないと述べた244。

ロシアは国別報告で、「国家間の信頼醸成措置としての核リスク削減は、現在の戦略的現実を考慮し、国際的な安全保障と安定を強化しながら核軍縮に向けて前進するという一般的な文脈で捉えている。核紛争及びその他の軍事的紛争を防止する観点から、ロシアは、国際・地域レベルでの関係の危険な悪化につながりかねない状況を回避し、核戦争の勃発を回避するように行動し、また、核の脅威を低減するために必要な措置をとっている」と述べた。また、ロシアが講じてきた具体的措置として、ホットラインの設置、ミサイル発射事前通告、核戦争防止に関する二国間協定、危険な軍事活動の防止に関する二国間協定などを挙げた245。

 

非核兵器国の提案
NPT運用検討会議では、非核兵器国からも、核リスク低減に関して様々な提案がなされた。

この問題に近年、積極的に提案を行ってきたストックホルム・イニシアティブ246は作業文書で、政治的シグナルとしての宣言的コミットメント、核兵器国による新たなコミットメントとリスク対話の拡大、すべての締約国による支援措置、研究・分析・教育・啓発、並びにプロセスの確立に関して、数多くの措置や取組を包括的に提案した。このうち、狭義の核リスク低減措置に関しては、以下のようなものを挙げた。

➢ 強固で信頼性の高い危機管理通信技術に基づくホットライン、共同データセンター、軍対軍の対話及びその他の協力的措置を通じた、誤算または誤認及び核兵器の偶発的使用のリスク低減
➢ 特定の技術がいかにしてリスクを低減し、安全保障環境の改善に寄与しうるかの検討を含め、特にデジタル領域(サイバー、人工知能、機械学習)及び運搬システムの分野における新技術が、新たな核リスクにつながる可能性や既存のリスクを悪化させる可能性を低減する措置
➢ 防御・攻撃システム(新型運搬手段や両用長距離運搬システムなど)及び対空能力における開発の核リスクへの影響

また、戦略的・核リスク低減を今後のNPT運用検討サイクルにおける常設事項とし、クラスター1の特定課題とすることなども提案した247。

オーストリアも作業文書で、①既存の核兵器に結びついたリスクに関連する透明性措置、②事故、ミス、無許可または意図的な核兵器の爆発のリスクを低減及び排除する措置、③核リスク低減のためのその他の措置に関して提案を行った248。NPDIは、実際的な核リスク低減措置の策定に向けて、以下のことが重要であるとした249。

➢ 核兵器の透明性向上の継続的努力
➢ 核脅威に関して早期の紛争の防止と解決の追求
➢ リスクの認識、核ドクトリン、戦力態勢に関する対話の強化
➢ 核兵器と通常兵器の間の曖昧さと複雑な関係を減少させる宣言による自制と努力
➢ 消極的安全保証
➢ 核兵器システムの運用状況の警戒態勢解除と低減
➢ 通告とデータ交換協定
➢ 潜在的に危険な新技術とサイバー能力に関する脆弱性の最小化
➢ 軍・軍接触の促進、危機に耐えうる通信ラインとリスク低減センターの設置

➢ 意図しない、または事故による使用の防止
➢ 運用の不確実性、核使用の過程、最善な実行の共有、エスカレーション防止の過程の一層の研究

NACやNAM諸国は核リスク低減の必要性は一定程度認めつつ、他方でそれは核兵器の保有を正当化するものではなく、あくまでも核兵器廃絶までの間の暫定的な措置で、核軍縮の代替策ではないという点を強調した。

 

NPT運用検討会議の最終文書案
NPT運用検討会議の最終文書案では、「核兵器の全面的な廃絶に至るまでの間、締約国は核兵器が決して再び使用されないことを確保するためにあらゆる努力をすることを約束する」とし、そうした努力の一環として、核リスク低減について締約国、特に核兵器国が取り組むべき措置や行動が記載された。

たとえば、「核兵器国は核の恫喝につき如何なる扇動的(inflammatory)なレトリックも避けることを約束する。…核兵器国は、誤算、誤認、ミスコミュニケーションあるいは事故のリスクを緩和するために必要なすべてのリスク低減手段をさらに特定、検討及び実施することにコミットする」とし、以下のような措置が列挙された。

➢ 核兵器国間で、あるいは非核兵器国とともに、核ドクトリン・核兵器、国際的緊張の根本原因への対処、相互信頼及び予測可能性を強化する観点から関係を強化する方法、並びに新興技術の潜在的意味に関して、定期的な対話を強化すること

➢ 効果的な危機予防及び危機管理の取極、メカニズム及び手段(指導者間及び軍・軍間の連絡の強化、危機回避のための通信回線、抑制の宣言発出、並びに通告及びデータ交換協定を含む)を発展させ、これを実施するためにあらゆる努力をすること
➢ 相互、あるいはいかなる国家も核兵器で標的にしないという慣行を維持し、可能な限り低い警戒レベルに保ち、意思決定に利用できる時間を増やし、危機のエスカレーション阻止(de-escalation)を可能にする政策と手続きを引き続き維持・発展させること

同時に、「核兵器が存在する限り核リスクは持続することを強調し、核兵器の全面的な廃絶がこれらの兵器に関連するすべてのリスクを除去する唯一の方法であることを再確認する。締約国は、核リスク削減は核軍縮の代替でも前提でもなく、この分野における努力は、第6条の義務及び関連する核軍縮の約束の実施における前進に寄与し、これを補完するものでなければならないことを再確認する」ことも最終文書案に明記された。

 

ロシア・ウクライナ戦争
2021年末以降、ロシアがウクライナに対する軍事的圧力を高めるなか、米国は2022年1~2月にかけて、ロシアに様々な提案を行った。その1つがリスク低減措置であり、NATOやロシアの演習に関するブリーフィングの交換、軍事演習の透明性の向上、宇宙・サイバー空間における脅威の低減、海・空における事故の防止などが含まれた250。ロシアは、軍備管理や偶発的衝突回避などリスク低減措置の一部については前向きな反応を示しつつ、米国やNATOはウクライナ問題に関するロシアの主張に対応していないとし、米・NATOがとるべき措置を追加して要求した251。

ロシアによるウクライナ侵略後、偶発的な核兵器使用を防止するための措置が講じられた。たとえば、米露間では3月1日、米露の双方の軍の間に衝突回避のホットライン(deconfliction hotline)が設置された252。また、米国は3月及び4月の2回にわたって、ロシアの誤解を回避するため、実施が予定されていたミニットマンⅢ ICBMの発射実験を延期した253。米国は8月にも、台湾周辺で軍事演習を開始した中国との緊張の高まりを回避するため、ICBM発射実験を延期したと発表した254。他方、ロシアは、4月のICBM発射実験に際して、新STARTに従って事前通告していたことを明らかにした255。

ウクライナでの戦争、並びにこれに伴う西側諸国とロシアの対立が続くなかでも、意図せざる核エスカレーションの防止も重要な目的として含みつつ、米露は様々なレベルや形態で対話のチャネルを維持してきたことをそれぞれ認めている。 


160 ロシアがNPT運用検討会議に提出した国別報告では、「軍事ドクトリンに示された核兵器の役割についての考え方は、2020年6月2日付の『核抑止に関するロシア連邦の国家政策の基本原則』…に明記されている。この文書は、我が国が『核の脅威を低減し、核を含む軍事衝突の引き金となりうる国家間関係の悪化を防ぐために必要なあらゆる努力を払う』と述べている。また、ロシアの核抑止政策は厳密に防衛的なものであり、国家の主権と領土の保全が目的であることを明確に定義している」と記載した。NPT/CONF.2020/17/Rev.1, March 19, 2021.
161 David M. Herszenhorn and Giorgio Leali, “Defiant Putin Mauls Macron in Moscow,” Politico, February 7, 2022, https://www.politico.eu/article/vladimir-putin-russia-welcomes-emmanuel-macron-france-into-his-lair-kremlin-ukraine/.
162 Address by the President of the Russian Federation, February 24, 2022, http://en.kremlin.ru/events/president/ news/67843
163 Yuras Karmanau, et al., “Putin Puts Nuclear Forces on High Alert, Escalating Tensions,” AP News, February 28, 2022, https://apnews.com/article/russia-ukraine-kyiv-business-europe-moscow-2e4e1cf784f22b6afbe5a2f9367255 50.
164 The U.S. Department of Defense, “Senior Defense Official Holds an Off-Camera Press Briefing,” February 28, 2022, https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/2948793/senior-defense-official-holds-an-off-camera-press-briefing/.

165 “Russia’s Lavrov: A Third World War would be Nuclear, Destructive,” Aljazeera, Mar 2, 2022, https://www. aljazeera.com/news/2022/3/2/russias-lavrov-says-a-ww-iii-would-be-nuclear-and-destructive.
166 Ibid.
167 「ロシア大統領報道官、核使用を排除せず 『国家存立の脅威』に直面なら」CNN、2022年3月23日、https://www.cnn.co.jp/world/35185215.html。
168 “Kremlin Spokesman: Russia would Use Nuclear Weapons Only in Case of ‘Threat to Existence of State,’” Reuters, March 29, 2022, https://www.reuters.com/world/kremlin-spokesman-russia-would-use-nuclear-weapons-only-case-threat-existence-2022-03-28/.
169 “Swedish Defence Minister Calls Russian Violation of Airspace ‘Unacceptable,’” Reuters, March 2, 2022, https:// www.reuters.com/world/europe/swedish-armed-forces-says-russian-fighter-jets-violated-swedish-airspace-2022-03-02/.
170 Ebunoluwa Olafusi, “Russia Threatens to Deploy Nuclear Weapons if Sweden, Finland Join NATO,” The Cable, April 14, 2022, https://www.thecable.ng/russia-warns-of-nuclear-weapon-deployment-if-sweden-finland-join-nato.

171 “Russia Says ‘No Need’ to Use Nuclear Weapons in Ukraine,” Reuters, August 16, 2022, https://www.reuters.com/ world/europe/defence-minister-shoigu-says-russia-has-no-need-use-nuclear-weapons-ukraine-2022-08-16/.
172 Pavel Polityuk, “Russia Holds Annexation Votes; Ukraine Says Residents Coerced,” Reuters, September 25, 2022, https://www.reuters.com/world/europe/ukraine-marches-farther-into-liberated-lands-separatist-calls-urgent-referendum-2022-09-19/,
173 “Si muove il sottomarino Belgorod. Nato in allarme: Test per il supersiluro Poseidon,” La Repubblica, October 2, 2022, https://www.repubblica.it/esteri/2022/10/01/news/belgorod_sottomarino_mar_baltico_russia-368180406/.
174 Katie Bo Lillis and Natasha Bertrand, “US Believes It’s Unlikely Putin will Use a Nuclear Weapon but Threat Has ‘Elevated’,” CNN, September 28, 2022, https://edition.cnn.com/2022/09/28/politics/us-putin-nuclear-weapon-not-probable/index.html.
175 “Statement of the Russian Federation on Preventing Nuclear War,” Ministry of Foreign Affairs of Russia, November 2, 2022, https://www.mid.ru/ru/foreign_policy/news/1836575/?lang=en.

176 “Russia is not Considering Using Nuclear Weapons – Kremlin Says,” Reuters, November 17, 2022, https://www. reuters.com/world/europe/russia-is-not-considering-using-nuclear-weapons-kremlin-says-2022-11-17/.
177 “Secretary-General’s remarks to the Press on the war in Ukraine,” United Nations, March 14, 2022, https://www.un.org/sg/en/content/sg/press-encounter/2022-03-14/secretary-generals-remarks-the-press-the-war-ukraine-delivered.
178 “Meet the Press – September 25, 2022,” NBC, September 26, 2022, https://www.nbcnews.com/meet-the-press/meet-press-september-25-2022-n1299064.
179 Paul Sonne and John Hudson, “U.S. has Sent Private Warnings to Russia against Using a Nuclear Weapon,” Washington Post, September 22, 2022, https://www.washingtonpost.com/national-security/2022/09/22/russia-nuclear-threat-us-options/.
180“Biden: Putin a ‘Rational Actor Who’s Miscalculated Significantly,” CNN, October 11, 2022, https://transcripts.cnn. com/show/cton/date/2022-10-11/segment/01.
181 Brett Samuels, “Biden: Russia would be Making ‘Serious Mistake’ to Use Tactical Nuclear Weapon,” WSAV, October 25, 2022, https://www.wsav.com/news/biden-russia-would-be-making-serious-mistake-to-use-tactical-nuclear-weapon/.
182 “NATO Warns Russia of ‘Severe Consequences’ in Case of a Nuclear Strike,” Reuters, September 28, 2022, https://www.reuters.com/world/europe/nato-warns-russia-severe-consequences-case-nuclear-strike-2022-09-27/.
183 「第77回国連総会における岸田総理大臣一般討論演説」2022年9月20日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/ fp/unp_a/page3_003441.html。

184 “India’s Defence Minister Warns against Nuclear Weapons in Call with Russian Counterpart,” Reuters, October 26, 2022, https://www.reuters.com/world/indias-defence-minister-warns-against-nuclear-weapons-call-with-russi an-2022-10-26/.
185 Nana Shibata and Ken Moriyasu, “Xi told Biden that China Rejects Nuclear War in Ukraine,” Nikkei Asia, November 15, 2022, https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/US-China-tensions/Xi-told-Biden-that-China-rejects-nuclear-war-in-Ukraine.
186 The U.S. Department of Defense, Fact Sheet: 2022 Nuclear Posture Review and Missile Defense Review , March 28, 2022, https://media.defense.gov/2022/Mar/29/2002965339/-1/-1/1/FACT-SHEET-2022-NUCLEAR-POSTU RE-REVIEW-AND-MISSILE-DEFENSE-REVIEW.PDF.

187 The U.S. Department of Defense, Nuclear Posture Review, October 2022 (hereinafter, 2022 NPR).
188 Ibid., p. 1.
189 Ibid., p. 1.
190 Ibid., p. 3.
191 Ibid., p. 4.

192 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
193 Ibid.
194 The U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2022, November 2022 などを参照。
195 “China’s Defense Minister Says Country’s Nuclear Arsenal ‘For Self Defense’,” CNBC, June 11, 2022, https://www.cnbc.com/2022/06/12/chinas-defense-minister-on-countrys-nuclear-weapons-arsenal-.html.

196 統合幕僚幹部「中国軍機及びロシア軍機の動向について」2022年11月30日。
197 “Respected Comrade Kim Jong Un Observes Test-fire of New-type Tactical Guided Weapon,” KCNA, April 17, 2022, http://www.kcna.co.jp/item/2022/202204/news17/20220417-01ee.html.
198 “Respected Comrade Kim Jong Un Makes Speech at Military Parade Held in Celebration of 90th Founding Anniversary of KPRA,” April 26, 2022, http://www.kcna.co.jp/item/2022/202204/news26/20220426-02ee.html.
199 “Law on DPRK’s Policy on Nuclear Forces Promulgated,” KCNA, September 9, 2022, http://www.kcna.co.jp/ item/2022/202209/news09/20220909-02ee.html.

200 “Respected Comrade Kim Jong Un Makes Policy Speech at Seventh Session of the 14th SPA of DPRK,” KCNA, September 10, 2022, http://www.kcna.co.jp/item/2022/202209/news10/20220910-23ee.html.
201 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
202 “China Calls on Big 5 to Make Firm Commitment on No-First-Use of Nukes,” Shine, January 4, 2022, https:// www.shine.cn/news/nation/2201040430/.
203 The U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2021, p. 90.

204 2022 NPR, p. 9.
205 Demetri Sevastopulo and Henry Foy, “Allies Lobby Biden to Prevent Shift to ‘No First Use’ of Nuclear Arms,” Financial Times, October 29, 2021, https://www.ft.com/content/8b96a60a-759b-4972-ae89-c8ffbb36878e などを参照。
206 “Law on DPRK’s Policy on Nuclear Forces Promulgated.”
207 United Kingdom, Global Britain in a Competitive Age.

208 NPT/CONF.2015/10, March 12, 2015.
209 Ibid.
210 The U.S. Department of State, “P3 Joint Statement on Security Assurances,” August 4, 2022, https://www.state. gov/p3-joint-statement-on-security-assurances/.
211 “Statement by Russia in Exercise of the Right of Reply,” 10th NPT RevCon, August 2, 2022.

212 NPT/CONF.2020/WP.23, November 22, 2021.
213 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
214 フランスは、非核兵器国の安全の保障に関する1995年4月の一方的声明でなされた「コミットメントが法的拘束力のあるものだと考え、そのように述べてきた」との立場である。NPT/CONF.2015/PC.III/14, April 25, 2014.
215 A/RES/77/39, December 7, 2022.

216 Jens Petersson, “As Sweden Gets Ready for NATO, will Its Approach to Nuclear Weapons Change?” Bulletin of the Atomic Scientists, July 27, 2022, https://thebulletin.org/2022/07/as-sweden-gets-ready-for-nato-will-its-approach-to-nuclear-weapons-change/.
217 「NATO加盟なら核配備容認も スウェーデン新首相」AFP News、2022年11月2日、https://www.afpbb.com/ articles/-/3431982。

218 NATO, Strategic Concept, June 29, 2022, p. 8.
219 NATO, “Brussels Summit Communiqué,” June 14, 2021, https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_185000.htm.
220 Hans Kristensen, “Lakenheath Air Base Added to Nuclear Weapons Storage Site Upgrades,” Federation of American Scientists, April 11, 2022.
221 Wojciech L, “Polish Deputy Prime Minister Suggests Basing of US Nuclear Weapons and up to 150,000 Troops in Poland,” Overt Defense, April 4, 2022, https://www.overtdefense.com/2022/04/04/polish-deputy-prime-minister-suggests-basing-of-us-nuclear-weapons-and-150000-troops-in-poland/.

222 Jens Stoltenberg, “Pre-Ministerial Press Conference,” at the meetings of NATO Defence Ministers, October 11, 2022, https://www.nato.int/cps/en/natohq/opinions_208037.htm.
223 “Kishida Says Japan won’t Seek Nuclear Sharing with U.S.,” Nikkei Asia, February 28, 2022, https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/Kishida-says-Japan-won-t-seek-nuclear-sharing-with-U.S.
224 “Japan-U.S. Joint Leaders’ Statement: Strengthening the Free and Open International Order,” May 23, 2022, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100347252.pdf.
225 日本『国家安全保障戦略』2022年12月。
226 “U.S.-ROK Leaders’ Joint Statement,” May 21, 2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/05/21/u-s-rok-leaders-joint-statement/.

227 Angus Grigg, Lesley Robinson and Meghna Bali, “US Air Force to Deploy Nuclear-Capable B-52 Bombers to Australia as Tensions with China Grow,” ABC, November 1, 2022, https://www.abc.net.au/news/2022-10-31/china-tensions-taiwan-us-military-deploy-bombers-to-australia/101585380.
228 “Statement by China,” 10th NPT RevCon, August 2, 2022.
229 “Statement by Germany (right of reply),” NPT RevCon, August 4, 2022.
230 「中国、日本の核共有論批判 NPT全主要委で討議開始」『時事通信』、2022年8月9日、https://www.jiji. com/jc/article?k=2022080900255&g=int。
231 “Statement by NAC,” General Debate, NPT RevCon, August 1, 2022.
232 NPT/CONF.2020/WP.5, November 11, 2021.

233 NPT/CONF.2020/17/Rev.1, March 19, 2021.
234 “Belarus to Deploy Nuclear Weapons Only in Case of Threats from West, Lukashenko Says,” Tass, February 17, 2022, https://tass.com/world/1405141.
235 Jaroslaw Adamowski, “Russia to Provide Nuclear-Capable Missiles and Fighter Jets to Belarus,” Defense News, June 28, 2022, https://www.defensenews.com/global/europe/2022/06/27/russia-to-provide-nuclear-capable-missiles-and-fighter-jets-to-belarus/.

236 “Joint Statement of the Leaders of the Five Nuclear-Weapon States on Preventing Nuclear War and Avoiding Arms Races,” January 3, 2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/01/03/p5-statement-on-preventing-nuclear-war-and-avoiding-arms-races/.
237 NPT/CONF.2020/WP.33, December 9, 2021
238 NPT/CONF.2020/WP.70, July 29, 2022.

239 2022 NPR, p. 13.
240 2022 NPR, p. 13. 米国はNPT運用検討会議に提出した国別報告でも自国の取組を記載した。NPT/CONF.2020/47, December 27, 2021.
241 NPT/CONF.2020/WP.55, May 19, 2022.
242 NPT/CONF.2020/47, December 27, 2021.

243 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
244 “U.S. Says China Resisting Nuclear Talks after Xi Vow to Boost Deterrent,” Reuters, November 2, 2022, https://www.reuters.com/world/asia-pacific/us-says-china-resisting-nuclear-talks-after-xi-vow-boost-deterrent-2022-11-01/.
245 NPT/CONF.2020/17/Rev.1, March 19, 2021.
246 カナダ、ドイツ、インドネシア、日本、カザフスタン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、スウェーデン、スイスなど20カ国が参加。

247 NPT/CONF.2020/WP.9, May 14, 2021.
248 NPT/CONF.2020/WP/60/Rev.1, August 12, 2022.
249 NPT/CONF.2020/WP.10, September 10, 2021.

250 Hibai Arbide and Azamiguel Gonzalez, “US Offered Disarmament Measures to Russia in Exchange for Deescalation of Military Threat in Ukraine,” El Pais, February 2, 2022, https://english.elpais.com/usa/2022-02-02/us-offers-disarmament-measures-to-russia-in-exchange-for-a-deescalation-of-military-threat-in-ukraine.html.
251 “Россия будет вынуждена реагировать в том числе путем реализации мер военно техническ ого характера характера,” Kommersant, February 17, 2022, https://www.kommersant.ru/doc/5218858.
252 Tara Copp, “US, Russia Agree to Deconfliction Hotline As Putin’s Attack on Ukraine Escalates,” Defense One, March 3, 2022, https://www.defenseone.com/threats/2022/03/us-russia-agree-deconfliction-hotline-putins-attack-ukraine-escalates/362750/.
253 Jake Thomas, “U.S. to Ease Nuclear Tensions with Russia, Cancel ‘Minuteman’ Missile Tests,” Newsweek, April 1, 2022, https://www.newsweek.com/us-ease-nuclear-tensions-russia-cancel-minuteman-missile-tests-1694406.
254 “U.S. Delays Minuteman III Missile Test over Taiwan Tensions,” Reuters, August 5, 2022, https://www.reuters. com/world/us-delays-minuteman-iii-missile-test-amid-tensions-over-taiwan-wsj-2022-08-04/.

255 “Russia Test-Fires New Intercontinental Ballistic Missile,” The Asahi Shimbun, April 21, 2022, https://www.asahi. com/ajw/articles/14603920.

 

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