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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023(8) CTBT

A) CTBT署名・批准
CTBTの署名国は2022年末時点で186カ国、批准国は176カ国である。

条約の発効に必要な国と特定された44カ国(発効要件国)のうち、5カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国)の未批准、並びに3カ国(インド、北朝鮮、パキスタン)の未署名が続き、条約は発効していない(このほかに、調査対象国ではサウジアラビア及びシリアが未署名)。これら8カ国による条約への署名あるいは批准に向けた新たな動きは、2022年も見られなかった。NPT運用検討会議の最終文書案では、「締約国は、CTBTの緊急の発効を追求することを約束し、まだCTBTを批准していないすべての国、特にその付属書2に記載されている残りの8カ国に対して、あらゆる便宜を図ってそうするよう促し、この点に関して、2010年行動計画の行動10で規定されている核兵器国の特別な責任を想起する」と記載された。

9月22日には、CTBTの早期発効を目指し、隔年で行われてきた閣僚級のCTBTフレンズ会合を、岸田総理が主催して初めて首脳級の会合として開催した。岸田総理は会議での演説で、「CTBTの普遍化と早期発効に向けた強いコミットメントを我々が今一度明確にし、そのための具体的な努力を進める」とし、CTBTの検証体制の強化を求め、日本もより一層貢献していくという考えを示した。岸田総理は、その具体的な取組として、「特にアジア太平洋地域において、批准国・未批准国の双方に対し、条約の運用体制の整備・強化を一層積極的に支援していきます。また、我が国国内に所在するものを含め、観測施設の維持・強化を進め、国際監視制度の一層の充実を図っていきます」と述べた269。共同声明には、発効要件国を中心とする未署名国・未批准国への早期の署名・批准の呼びかけ、北朝鮮による新たな核実験は受け入れられないとの表明、核実験モラトリアム維持の呼びかけ、CTBTの検証制度の完成に向けた取組の歓迎、若者を含む社会の認知向上と最も高い政治レベルでのCTBTの重要性の訴えなどが盛り込まれた270。

2022年の国連総会では、条約の早期発効のために遅滞なく無条件での署名及び批准の重要性と緊急性を強調した決議「核実験禁止条約」271が賛成179、反対1(北朝鮮)、棄権4(インド、サウジアラビア、シリアなど)で採択された。

2021年9月のCTBT発効促進会議では、2019年6月から2021年5月に署名国・批准国が行った条約発効促進のための活動(未署名国・未批准国へのアウトリーチなど)の概要を取りまとめた文書が公表され、発効要件国に対する二国間の取組(豪州、オーストリア、カナダ、チリ、日本、カザフスタン、ニュージーランド、ロシア、スイス、英国など)、それ以外の国に対する二国間の取組(豪州、オーストリア、カナダ、日本、カザフスタン、ニュージーランド、ロシア、英国など)、グローバル・レベルでの取組(豪州、オーストリア、カナダ、日本、カザフスタン、ニュージーランド、ロシア、スイス、英国など)、地域レベルでの多国間の取組(豪州、ニュージーランド、ロシアなど)が紹介された272。

 

B) CTBT発効までの間の核爆発実験モラトリアム
5核兵器国、インド及びパキスタンは、核爆発実験モラトリアムを引き続き維持している。核兵器の保有の有無を公表していないイスラエルは、核爆発実験の実施の可能性についても言及していない。

北朝鮮は、2018年4月20日に核実験(及びICBM発射実験)の凍結を発表したものの、2019年12月末の朝鮮労働党中央委員会総会で、金総書記が核・ICBM実験の一方的な停止に拘束される理由はなくなったと発言した273。また、金総書記は2022年1月、ICBM発射実験及び核爆発実験のモラトリアムを再考し、それらの再開を迅速に検討するよう関係部門に指示した274。

2022年9月のIAEA事務局長報告「北朝鮮への保障措置の適用」では、以下のように述べて、北朝鮮が核爆発実験の再開に向けて核実験場の改修や整備を精力的に進めているとの見方を示した。

2018年5月に部分的に破壊された実験坑道を再び使用するために、2022年3月初旬、豊渓里近くの核実験場の3番坑道付近で掘削作業が開始された。3番坑道の掘削作業は、2022年5月までに完了した可能性がある。3番坑道の入口付近とその北に位置するサポート・エリアにも、いくつかの木造のサポート施設が同時に建設された。2022年6月には、サポート・エリアから4番坑道と2番坑道に通じる道路の一部を補強する作業が見られた。道路の建設は、数週間の中断後、2022年8月に再開された275。

これに先立つ5月には、韓国大統領府の金泰孝(Kim Tae-hyo)国家安保室第1次長から、北朝鮮が起爆装置の作動試験を繰り返し行っていることが探知され、核実験の最終準備段階に入っているとの分析が明らかにされた。米国のキム(Son Kim)北朝鮮担当特別代表も6月7日の電話記者会見で、「北朝鮮は核実験の準備を済ませた。いつでも実験ができる」と述べた。しかしながら、北朝鮮は2022年中には核爆発実験を実施しなかった。

 

C) 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会との協力
調査対象国によるCTBTO準備委員会への分担金の支払い状況(2022年12月31日時点)は、下記のとおりである276。

➢ 全額支払い(Fully paid):豪州、オーストリア、カナダ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インドネシア、イスラエル、日本、カザフスタン、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国
➢ (未払いにより)投票権停止(Voting right suspended):ブラジル、イラン

 

D) CTBT検証システム構築への貢献
CTBTの検証体制は着実に整備されてきた。他方で、国際監視制度(IMS)ステーションの設置については、本調査対象国のうち未署名国で検証システムの構築に全く関与していないインド、北朝鮮、パキスタン及びサウジアラビアを除けば、エジプト及びイランでの進展が遅れている。中国はNPT運用検討会議に提出した国別報告で、「近年、中国において相当数の核実験禁止監視局の認証が認められ、CTBTの検証体制構築のハイライトとなっている。…中国のその観測所群の認証受理とデータ送信開始は、CTBTの検証体制準備に対する中国の確固たる支持を反映した重要なマイルストーンとなった」277と自国の活動を評価した。しかしながら、依然として中国の半数近くの施設でCTBTO準備委員会による認証が完了していない278。

 

E) 核実験の実施
2022年に核爆発実験を実施した国はなかったが、米国は前年に続き2022年版「軍備管理・不拡散・軍縮合意遵守報告書」で、中国及びロシアが、CTBTのスタンダードが「出力ゼロ(zero yield)」であるとの共通の理解に反して、出力を生じる核実験を実施した可能性があると指摘した279。中露は、条約に違反するいかなる実験も実施していないとして、米国の疑念を否定している。

核爆発実験以外の活動については、米国が核備蓄管理計画(SSP)のもとで、「地下核実験を行うことなく備蓄核兵器を維持及び評価する」ことを目的として、未臨界実験、あるいは「Zマシン」(強力なX線を発生させる装置)を用いて超高温・超高圧の核爆発に近い状態をつくり、プルトニウムの反応を調べるという実験を含め、核爆発を伴わない様々な実験を継続してきた。米国は、年1回程度のペースで未臨界実験を実施しており、2021年6月及び9月に、それぞれナイトシェードB及びナイトシェードCと称して実施していた280。国家核安全保障局(NNSA)は未臨界実験などの種類及び回数をホームページで公表してきたが、2015年第1四半期を最後に更新されず、2018年以降は過去の情報についての掲載も確認できなかった。

米国以外の核保有国では、ロシア国防省が2021年6月、既存の核兵器の信頼性を検証することを目的として未臨界実験を実施したと公表した281。また、2022年中の実施の有無は定かではないが、フランスは核兵器の信頼性・安全性を保証する活動として、極端な物理的状況下での物質のパフォーマンス、並びに核兵器の機能をモデル化するシミュレーション及び流体力学的実験(hydrodynamic experiments)を実施していること、これらは新型核兵器の開発を念頭に置くものではないことを明らかにしている282。フランスと英国は2010年11月に、X線及び流体力学実験施設の建設・共同運用に関する協定を締結した283。

残る核保有国は、核爆発を伴わない実験の実施の有無に関して公表していない。2020年には、中国が米国のZマシンを上回る能力を持つ施設を近く完成すると報じられたが284、その後の動向は明らかかではない。また、衛星画像から、中国がロプノールの核実験施設の拡張工事を進めており、核兵器関連の実験が可能になるとの分析もある285。

CTBTは核爆発を伴わない実験を禁止していないが、NAM諸国はそれらを含めて核兵器にかかる実験の即時・無条件の停止、並びに実現可能で、透明性・不可逆性があり、検証可能な方法での核実験場の閉鎖などを求めてきた286。NAM諸国はNPT運用検討会議でも、「核兵器国は、核爆発を伴わない、残存あるいは既存の兵器の安全性と信頼性を維持するための措置しかとらないと表明している。この観点から、当グループは、これらの国に対して、核兵器の近代化、開発またはさらなる改良のためのいかなる種類の核実験も引き続き実施しないよう求める」287とした。なお、「核爆発実験」の禁止を定めたCTBTとは異なり、TPNWでは「核実験の禁止」が規定されており、これには核爆発実験以外の実験も含まれると解釈しうる。ただし、これに関する検証措置などはTPNWには規定されていない。

 


269 「第10回CTBTフレンズ首脳級(ハイレベル)会合」首相官邸、2022年9月21日、https://www.kantei.go.jp/ jp/101_kishida/statement/2022/0921ctbt.html。
270 “Joint Statement on the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty,” Ministry of Foreign Affairs of Japan, September 21, 2022, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100395802.pdf.

271 A/RES/77/94, December 7, 2022.
272 CTBT-Art.XIV/2021/4, September 22, 2021.
273 “Report on 5th Plenary Meeting of 7th C.C., WPK,” NCNK, January 1, 2020, https://www.ncnk.org/resources/ publications/kju_2020_new_years_plenum_report.pdf/file_view.
274 Colin Zwirko, “North Korea Hints at ‘Resuming’ Long-Range Weapons Tests after New US Sanctions,” NK News, January 20, 2022, https://www.nknews.org/2022/01/north-korea-hints-at-resuming-long-range-weapons-tests-af ter-new-us-sanctions/.
275 GOV/2022/40-GC(66)/16, September 7, 2022.

276 CTBTO, “Status of Assessed Contributions,” December 31, 2022, https://www.ctbto.org/sites/default/files/2023-01/20221231_Status%20of%20Assessed%20Contributions.pdf.
277 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
278 CTBTO, “Station Profiles,” https://www.ctbto.org/verification-regime/station-profiles/.
279 The U.S. Department of State, Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments, April 2022.

280 U.S. Department of Energy Office of Scientific and Technical Information, “Operational and Mission Highlights: A Monthly Summary of Top Achievements October 2021,” October 1, 2021, https://www.osti.gov/biblio/1829627; U.S. Department of Energy Office of Scientific and Technical Information, “Operational and Mission Highlights: A Monthly Summary of Top Achievements July 2021,” August 12, 2021, https://www.osti.gov/biblio/1813824.
281 Isaac Evans, “Russia Conducts Non-Nuclear Tests, Adhering to UN Treaty,” The Organization for World Peace, June 29, 2021, https://theowp.org/russia-conducts-non-nuclear-tests-adhering-to-un-treaty/.
282 NPT/CONF.2015/PC.III/14, April 25, 2014.
283 NPT/CONF.2015/29, April 22, 2015.
284 Michael Peck, “China Will Soon Have Its Own Z Machine to Test Mock Nuclear Explosions,” National Interest, August 15, 2020, https://nationalinterest.org/blog/reboot/china-will-soon-have-its-own-z-machine-test-mock-nuclear-explosions-166995.
285 “Satellite Photos Show China’s New Nuclear Test Site in Xinjiang,” Nikkei Asia, August 15, 2022, https://asia.nikkei.com/static/vdata/infographics/satellite-photos-show-chinas-new-nuclear-test-site-in-xinjiang/.
286 NPT/CONF.2020/PC.III/WP.16, March 21, 2019. また、未臨界実験に際しては広島県、広島市、長崎県、長崎市も抗議を行ってきた。

287 NPT/CONF.2020/WP.21, November 22, 2021.

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