Hiroshima Report 2024(4) IAEA との協力
IAEA保障措置の強化策として最も重視されているものの1つが、追加議定書の普遍化である。本調査対象国のうち、豪州、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、インドネシア、日本、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、英国及び米国は、包括的保障措置に加えて、IAEA追加議定書のもとでの保障措置が、現在のIAEA保障措置システムの標準、あるいは「一体不可分な部分(integral part)」だと主張している。また、ウィーン10カ国グループは作業文書で、「小型モジュール炉、新型原子炉技術、輸送可能な原子力発電所を含むがこれらに限定されない、新技術の導入に関連する法的及び規制上の課題を評価し、適時に対処するための国際協力の重要性を強調する」92とした。
インドネシアは、上述の立場には至らないものの追加議定書の重要性を認め、NPT準備委員会では、「追加議定書の実施を含むIAEA保障措置制度の強化は、あらゆる平和的な原子力活動に関連する核不拡散リスクに対処するための我々の協力的努力の重要な要素であると考えている」とし、「包括的保障措置協定は、追加議定書とともに、NPT締約国が条約の下での義務を遵守していることを保証できる検証要件を含んでいる」と述べた93。
これに対して、NAM諸国(一部の国を除く)は、追加議定書の締結はNPT締約国の自発的措置であり、IAEA保障措置システムの標準とすることに反対している。また、ブラジルは、「軍縮義務と核不拡散義務の間のすでに深刻な不均衡を悪化させるような提案は、核不拡散体制の病気に対する誤った薬である。追加議定書の自発的性格を変更したり、追加議定書をNPT第3条に規定されている核不拡散義務の検証スタンダードのレベルにまで高めたりすることは、進むべき道ではない」94と発言した。エジプトも、「条約第3条を超える追加の核不拡散義務を課すいかなる試みも強く拒否する。自発的な追加議定書のような手段を条約の義務に結びつけようとする提案は、条約のグランドバーゲン(核不拡散、核軍縮及び原子力平和利用)が達成しようとする微妙なバランスを破るものであり、容認できない」95(括弧内引用者)とした。イランは、「包括的保障措置協定は、NPT第3条に基づく検証基準を構成するものである。核兵器国が核軍縮義務を遵守していない一方で、包括的保障措置協定を発効している非核兵器国に対し、包括的保障措置協定に基づく義務を超える追加的な約束を受け入れるよう求めることは容認できない」96と述べた。
NAM諸国だけでなく核兵器国のロシアも、「追加議定書の普遍化を支持するが、自発的なものであり、強制的な措置として課すことは許されないと強調する」97との立場を続けている。
2023年のIAEA総会決議「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」では、追加議定書に関して、前年の決議と同様に下記のように言及された98。
➢ 追加議定書の締結はIAEA加盟国の主権的な決定だが、いったん発効すれば追加議定書は法的義務となることに留意しつつ、追加議定書の締結・発効を行っていない加盟国に対して、可能な限り早期に締結・発効を行うこと、並びに発効までの間は暫定的に履行することを奨励する。
➢ 効力を持つ追加議定書によって補完される包括的保障措置協定を有するIAEA加盟国のケースでは、これらの措置は、強化された検証標準を受諾していることを意味する。
IAEA保障措置の強化・効率化に関して、IAEAは、各国の原子力活動について幅広い情報を検討し、これに従って各国において個別の(tailor-made)保障措置活動を調整するという「国レベルの保障措置概念(SLC)」に基づき、「国レベルの保障措置アプローチ(SLA)」を開発・承認してきた。
IAEAの報告書「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」によれば、IAEAは2023年6月末時点で、拡大結論を得た71カ国、包括的保障措置協定及び追加議定書を発効させているものの拡大結論を得ていない37カ国、包括的保障措置協定は発効させているものの追加議定書については未発効の26カ国についてSLAを開発・承認した99。また、同報告書によれば、VOA及び追加議定書を発効している2カ国(フランス及び英国)に対してSLAを開発した100。
保障措置技術の研究開発に関しては、IAEAの長期プラン101のもとで、当面の計画として「核検証のための開発・実施支援計画2022~23年」が実施され、豪州、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、英国、米国など22カ国と欧州委員会(EC)が参加している102。
IAEAが2023年9月に公表したデータによれば、調査対象国でIAEAへの2022年の分担金を未支払いなのは、イラン及びシリアである103。また、中国による2023年の分担金の納付が遅れており、9月下旬時点で全額が納付されず、11月上旬時点でも半額しか拠出されていないと指摘された。
92 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.17, June 15, 2023.
93 “Statement of Indonesia,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 7, 2023.
94 “Statement by Brazil,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
95 “Statement of Egypt,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 4, 2023.
96 “Statement of Iran,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 7, 2023.
97 “Statement by Russia,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
98 GC(67)/RES/11, September 29, 2023.
99 GC(67)/16, August 2, 2023.
100 Ibid.
101 IAEA, “IAEA Department of Safeguards Long-Term R&D Plan, 2012-2023,” January 2013.
102 IAEA, “Development and Implementation Support Programme for Nuclear Verification 2022-2023,” January 2022.
103 GC(67)/INF/7, September 22, 2023.