当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024概要―2023年の主な動向

2023年5月に開催されたG7広島サミットにおける「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」の採択をはじめとして、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの再活性化に向けた様々な取組が試みられた。しかしながら、核問題を巡る状況の悪化を抑制するには至らなかった。核問題を巡る亀裂は核兵器国・非核兵器国間だけでなく、それ以上に核兵器国間で深刻化し、核問題にかかる合意の形成を一層難しくした。

 

(1) 核軍縮
G7広島サミットで採択され、「核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書」である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」では、核軍縮問題を中心に国際社会がとるべき行動・措置を包括的に提示した。このほかにも、核軍縮の再活性化に向けて、様々な取組や提案がなされた。しかしながら、核軍縮を巡る状況の悪化を止めるには至らず、核保有国によるさらなる核軍縮の合意や実施に向けた具体的な取組といった進展はほとんど見られなかった。
ロシアによる新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止、及び包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回は、既存の核軍縮条約の存続可能性に大きな懸念を与えた。また、そのロシアは2023年も、ウクライナ戦争を巡って核の恫喝を繰り返した。
核保有国は、引き続き国家安全保障における核抑止力の重要性にかかる認識を強め、核戦力の近代化を進めている。なかでも、中国による急速な核戦力の増強と核戦略の変更の可能性が指摘されている。核兵器国と同盟関係にある非核兵器国も、提供される拡大核抑止を重視している。
核兵器の保有や使用などの法的禁止を定めた核兵器禁止条約(TPNW)の署名・批准国は漸増しているが、核保有国及びその同盟国は条約に署名しないとの方針を変えていない。

 

G7広島サミット

「核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書」である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」では、核軍縮問題を中心に国際社会がとるべき行動・措置を包括的に提示した。他方で、核兵器の存在及び核抑止を肯定するものだとの強い批判も見られた。
G7参加国首脳、招待国首脳及び国際機関代表、並びにウクライナ大統領は、平和記念資料館の視察、被爆者との対話、並びに原爆死没者慰霊碑への献花を行った。

核兵器の保有数(推計)

総数は12,512発(推計)と漸減している一方で、退役したものを除いた核弾頭数(軍事的ストックパイル)、及び作戦部隊に配備されている核弾頭数は増加に転じたと見積もられている。
中国の核弾頭数増加のペースが加速化している。インド、パキスタン及び北朝鮮は、10年以上にわたって核弾頭数を漸増させている。

核兵器のない世界の達成に向けたコミットメント

「核兵器の廃絶」あるいは「核兵器のない世界」という目標に公然と反対する国はない。しかしながら、核保有国による核軍縮の着実かつ具体的な実施・推進は2023年もほとんど見られず、多くの非核兵器国はそうした状況への批判を強めた。
日本が主導して提案・採択された国連総会決議「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」に対して、英国及び米国などを含む148カ国が賛成した。他方で、中国、ロシア及び北朝鮮などが反対した。

核兵器の非人道性

「人道グループ」などを中心に非核兵器国は、NPT準備委員会及び第2回TPNW締約国会議などの場で、核兵器の非人道性を主張した。
第2回TPNW締約国会議で、「被害者援助・環境修復のための国際信託基金」設立の実現可能性とガイドライン可能性を検討することが決定された。

核兵器禁止条約(TPNW)

TPNWの締約国は、2023年末時点で69カ国となった。
第2回締約国会議が11~12月に開催され、「宣言」及び「決定」がコンセンサスで採択された。「宣言」では、核抑止の正当性を否定し、核兵器の世界的な禁止を追求していく意思が言及された。
核保有国及び同盟国は、引き続きTPNWに反対している。他方、第2回締約国会議に、少数ながら米国の同盟国がオブザーバー参加した。日本はこの会議に参加しなかった。

核兵器の削減

ロシアは、現地査察の受け入れ拒否を理由に米国から新STARTの不遵守を認定されたことに反発し、条約の履行停止を表明した。現地査察の受け入れ及びデータの提供を行わない一方で、新STARTの数的制限に関する義務は遵守するとした。米国も対抗措置として、同様の措置を打ち出した。
米国は、ロシア及び中国との二国間軍備管理協議に前提条件なしで関与する意思を表明した。しかしながら、ロシアは米国の敵対的な方針を理由に拒否した。中国は、最大の核戦力を持つ米露のさらなる核兵器削減なしには核兵器削減プロセスには参加しないとの立場を繰り返し表明している。
核保有国は、いずれも核戦力の近代化を継続し、なかでもロシア及び北朝鮮は核弾頭搭載可能な各種の運搬手段の新たな開発・配備を積極的に推進している。中国による質的・量的な核戦力の強化も顕著で、米国は中国が2030年までに1,000発以上の運用可能な核弾頭を保有するとの見積もりを示した。

国家安全保障戦略・政策における核兵器の役割及び重要性の低減

ウクライナへの侵略を続けるロシアは、2023年も核恫喝を繰り返し、ロシアによる核兵器使用の可能性に対する強い懸念を国際社会にもたらした。
北朝鮮は、核兵器の役割として戦争を抑止すること、並びに戦争の主導権を握ることを挙げ、核兵器の先行使用の可能性を明示するとともに、戦略的・戦術的両面から核戦力の強化を進めている。
国家安全保障戦略・政策における核兵器の役割、「唯一の目的」や先行不使用政策、消極的安全保証、拡大核抑止のいずれについても各国の政策に顕著な変化は見られなかった。中国の最小限抑止や核兵器先行不使用といった政策に変化が生じつつあるとの指摘に対して、中国はそうした変更はないと主張している。
ロシアとベラルーシは、ロシアの戦術核兵器をベラルーシに配備することに合意し、その搬入は10月に完了したことを明らかにした。ロシアは、ベラルーシに配備される核兵器の管理・使用の権限はロシアが有していると述べている。
日本及び韓国は、それぞれ米国と拡大抑止の強化に向けた取組を進めている。
5核兵器国、あるいはストックホルム・イニシアティブに参加する非核兵器国などは、NPT準備委員会などで核リスク低減のための措置について、様々な提案を行った。

警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

核兵器の警戒態勢に関して、核保有国の政策に変化はなく、米露の戦略核兵器は高い警戒態勢のもとに置かれている。
中国が一部の核戦力を高い警戒態勢に置いているのではないかとの指摘に対して、中国はこれを否定している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

ロシアがCTBTの批准を撤回した。条約発効要件国44カ国のうち、6カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、ロシア、米国)が未批准、並びに3カ国(インド、パキスタン、北朝鮮)が未署名で、条約は依然として発効していない。
核兵器の保有を公表している国は、北朝鮮を除いて、核実験モラトリアムを宣言している。ロシアは、米国が核爆発実験を実施しない限り、自国も行わないとしている。
2018年以降、核爆発実験を実施した国はない。米国は、中露が「出力ゼロ」でない核実験を実施している可能性があると主張したが、中露はこれを否定している。
北朝鮮は核爆発実験の準備を完了しているとされるが、2023年には再開されなかった。
いくつかの核保有国は、未臨界実験やコンピュータ・シミュレーションなどといった爆発を伴わない核実験を実施していると見られる。

兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

ジュネーブ軍縮会議(CD)では2023年も、FMCT交渉を開始できなかった。パキスタンは、兵器用核分裂性物質の新規生産のみを禁止する条約の策定に、依然として強く反対している。FMCTに関する国連総会決議には、中国、イラン、パキスタン及びロシアが反対した。
➢ 日本は豪州及びフィリピンと、FMCTに関するハイレベル記念行事・イベントを共催した。
中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮は兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを宣言していない。インド、パキスタン及び北朝鮮は兵器用核分裂性物質の生産を続けていると見られる。また、中国が民生用として開発を進める高速増殖炉及び再処理施設を核兵器目的に利用する可能性も懸念されている。

核戦力、兵器用核分裂性物質、核戦略・ドクトリンの透明性

➢ 透明性に関する核保有国の政策に大きな変化はなかった。
➢ 中国は、意図と政策の透明性が重要だと主張する一方で、保有する核戦力の種類・数などは一切公表していない。

核軍縮検証

国連の「核軍縮検証問題をさらに検討するための政府専門家グループ」が最終報告書を公表し、核軍縮検証に関する議論を継続するよう勧告した。
米国のイニシアティブで発足した「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)」では、仮想演習の実施を含め、検証措置に関するさらなる議論と検討が行われている。

不可逆性

米露は部分的ながら、戦略核運搬手段、核弾頭、余剰核分裂性物質の廃棄や転換を継続していると見られるが、具体的な実施状況は報告されなかった。

軍縮・不拡散教育、市民社会との連携

NPT準備委員会及びTPNW第2回締約国会議で、軍縮・不拡散教育、ジェンダーを含む多様性・包摂性、市民社会の参加の重要性が強調された。
日本が資金拠出し、若い世代の未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらうという「ユース非核リーダー基金」の第1期のプログラムが開始された。
核兵器の開発・製造などに携わる組織や企業などへの融資の禁止や、引揚げを定める国が出始めている。独自にそうした方針を定める企業も増えつつある。

広島・長崎の平和記念式典への参列

広島の式典には111カ国が参列した(長崎の式典は悪天候のため規模を縮小して開催)。

 

(2) 核不拡散
NPTの締約国は191カ国を数えるものの、核兵器を保有するインド及びパキスタン、並びに核兵器保有を否定しないイスラエルが、非核兵器国としてNPTに加入する見通しは立っていない。北朝鮮は、核兵器を放棄する意思はないと明言している。イランは、米国による包括的共同行動計画(JCPOA)からの離脱(2018年)への対抗措置として、合意で規定された義務の不履行を拡大している。
国際原子力機関(IAEA)追加議定書を締結する国は漸増しているが、依然として40以上の非核兵器国が未締結である。

核不拡散義務の遵守

北朝鮮の核問題の解決に向けた進展は見られなかった。北朝鮮は、核保有国の地位を決して放棄せず、むしろ強化しなければならないと言明し、積極的な核・ミサイル開発を継続している。
中国及びロシアは、国連安全保障理事会(安保理)などの場で北朝鮮の核・ミサイル活動を擁護するような発言を繰り返した。
イランは、JCPOAの規定を大きく超えて、濃縮度20%及び60%の高濃縮ウラン(HEU)を含む濃縮ウラン保有量、稼働する遠心分離機の数・性能などを高めている。JCPOA再建に向けた関係国による間接交渉が断続的に開催されたが、2023年中には合意には至らなかった。
➢ 第4回「核兵器及び他の大量破壊兵器(WMD)のない中東地域の設置に関する会議」に、イスラエル及び米国は引き続き参加しなかった。

国際原子力機関(IAEA)保障措置

NPT締約国である非核兵器国のうち、2023年末時点で135カ国がIAEA保障措置協定追加議定書を締結した。他方、ブラジルをはじめとする一部の非同盟運動(NAM)諸国は、追加議定書による保障措置がNPT上の義務ではないと主張している。
IAEAは2022年末時点で、69カ国に対して統合保障措置を適用した。またIAEAは2023年6月時点で、136カ国について「国レベルの保障措置アプローチ(SLA)」を開発・承認した。
イランは、IAEA保障措置協定追加議定書の適用など、JCPOA上の検証・監視措置を引き続き停止している。IAEAは、イランの核施設に設置された監視カメラ、オンライン濃縮モニター及び電子封印のデータにもアクセスできなかった。
IAEAは、イランによる過去の秘密裏の核開発計画に関連すると疑われる4つの場所について、申告の正確性・完全性に関する問題が未解決であるとし、イランにさらなる明確化と情報の提供を求めている。
最初の研究用原子炉が完成間近であるサウジアラビアは、少量議定書(SQP)を破棄し、包括的保障措置協定の全面的な実施を決定したと述べ、IAEAもサウジアラビアと必要な査察について議論していると述べた。
豪州、英国及び米国(AUKUS)とIAEAは、豪州の原子力潜水艦導入にかかる核燃料への保障措置の実施に関して技術的な議論を開始した。中国などからは批判や懸念も示された。
ロシアによるウクライナの原子力施設に対する攻撃・占拠により、IAEAは難しい保障措置活動を強いられている。

核関連輸出管理の実施

原子力供給国グループ(NSG)メンバーは、国内体制の整備を含めて概ね着実かつ適切に輸出管理を実施してきた。これに対して、途上国を中心に制度・実施の強化が必要な国も少なくない。
北朝鮮は、瀬取りやサイバー活動などによる違法調達や不法取引を継続している。また、ロシアは、北朝鮮からミサイルをはじめとする武器弾薬を調達したと見られ、これは安保理決議への明らかな違反である。
中国はパキスタンへの原子炉の輸出を進めているが、NSGガイドライン違反が指摘されている。

原子力平和利用の透明性

中国は2018年以降、「プルトニウム管理指針」に基づく報告書を提出していない

 

(3) 核セキュリティ
ウクライナの原子力施設はロシアによる侵略によって引き続き軍事占拠や攻撃に晒され、施設の原子力安全及び核セキュリティが著しく損なわれかねない状況が続いた。紛争下で国家が原子力施設に対してもたらす脅威への対処という新たな課題が一層浮き彫りになった。
原子力施設に対するサイバー攻撃やドローンを用いた妨害破壊行為の脅威は、引き続き注視が必要な状況である。特に、人工知能(AI)などがもたらすサイバーリスクが懸念される。また、内部脅威対策及び核セキュリティ文化の醸成の取組強化が求められている。世界の兵器利用可能な核物質の在庫量について、高濃縮ウラン(HEU)の最小限化の取組が進展し、民生用の在庫量が減少した。他方で、分離プルトニウムは民生用が増加し、増加傾向が続いている。
2つの本調査対象国が「国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)」を受け入れた。

核物質及び原子力施設の物理的防護

世界の兵器利用可能な核物質の在庫量は、HEUについては軍事用・非軍事用を合わせた全体として減少傾向が続いている。分離プルトニウムについては、非軍事用が日本では減少した一方、主にフランスで増加し、全体として増加傾向が続いている。
本調査対象国27カ国中20カ国が依然としてテロリストにとって魅力的となりうる兵器利用可能な核物質を保有している。

核セキュリティ・原子力安全にかかる諸条約などへの加入及び国内体制への反映

トルコが放射性廃棄物等安全条約を批准した。大半の関連条約について締約国数が漸増した。
「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告(INFCIRC/ 225/Rev.5)」に基づく措置の実施については、引き続き措置の国内体制への反映の進展について新たな情報発信が減少している。6月にサイバーセキュリティに関するIAEAの国際会議が開催され、人工知能(AI)などがもたらすサイバーリスクが懸念されるようになっている。

核セキュリティの最高水準の維持・向上に向けた取組

民生利用のHEU最小限化について、カザフスタンでHEU燃料炉の低濃縮ウラン燃料炉への転換が進んだ。また、日本及びノルウェーも取組を継続している。
オランダが5度目となるIPPASミッションを、スイスはフォローアップミッションを受け入れた。日本は2024年半ばに2度目となるIPPASミッションを受け入れるべく、準備を進めている。
多国間の取組については、G7の不拡散局長級会合などによる活動が行われた一方、米ロが共同議長を務める「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」は、2022年以降、すべての活動を一時的に停止したままである。核セキュリティ・サミット・プロセスから派生したイニシアティブについても内部脅威に関する活動を除き、活発な動きは見られなかった。

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る