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国際平和拠点ひろしま

【ウェビナーレポート】2020 Hiroshima – ICAN Academy

     

    

スピーカー/パネリスト

     

広島県知事 湯崎英彦

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長 ベアトリス・フィン

元オーストリア大使、オーストリア外務省軍縮・軍備管理・不拡散部長 アレクサンダー・クメント

国連事務次長兼軍縮担当上級代表 中満泉

NPO法人Peace Culture Village事業部長 メアリー・ポピオ

   

   

広島に原爆が投下されてから75年目を迎えた8月6日夜、「2020広島-ICANアカデミー第1部」の最終セッションがオンラインで生中継されました。核軍縮問題の専門家の方々が、広島-ICANアカデミーの参加者からの鋭い質問に丁寧に答えてくださいました。ディスカッションでは、国や地方自治体、市民活動家、そして国連などの貴重な見解も示され、地球上から核兵器を廃絶する際に直面する課題、正しい方向に向かうための具体的な行動について、興味深い話を、たくさん伺うことができました。

    

    

    

    

核軍縮のために、政府と市民社会は、どのように連携できるか?

    

湯崎英彦  

時に、政府は、国民によってコントロールされているという事を簡単に忘れてしまいます。市民社会は、地方自治体とは異なる専門知識や資源を提供しています。だからこそ、お互いを尊重し合うことがとても重要なのです。広島県は、多くの独立したNGOや研究機関と連携しています。その他にも、市民社会が意思決定プロセスも尊重してくれることを期待しています。

     

     

ベアトリス・フィン

     

        

広島-ICANアカデミーは、行政と市民社会の連携を示してくれる素晴らしい例です。私たちが世界をどのように形成していくかという点で、地方自治体の重要性はますます高まっています。

私は世界中を回っていますが、人々は皆、若い人たちは世界に興味がないのだと言います。私はそうは思いません。最初の課題は、若者がこの分野で自分の居場所を確保し、貢献する場を持ち、実際に物事を動かしたり変化を起こすことができると感じられるようにすることだと思います。

政府と市民社会は、それぞれ異なりますが、補完的な役割を担っています。政府や選挙で選ばれた代表者と定期的に連絡を取り合っている市民社会は、民主主義にとって不可欠なものです。大変なこともありますが、継続的な対話こそが民主主義を作るものなのです。私たちの仕事は、政府を可能な限り後押しすることであり、政府の仕事は、有権者の声に耳を傾け、それに応えることなのです。

最初に取り組むべきことは、共通の目標を見つけることです。政府は私たちと同じ人間で構成されています。政府の中の個人が全体にどれほどの影響力を持つことができるかを知り、驚いたこともあります。だからこそ、政府の中で良好な関係を築くことができる個人を見つけることが重要です。そのような人たちは、どこで物事が行き詰っているのかや、どこを我々がより強く押し進める必要があるのかについて、重要な洞察力を与えてくれるでしょう。率直な意見交換を伴い,互いの限界や課題を共有しながら,正確な情報が常にやりとりされることが,信頼性と信用性を高める 助けとなります。私たちが政府に恥をかかそうとしているのではなく,物事を前進させようとしていることを政府側が理解してくれれば、私たちは問題の解決策を見つけ、より創造的な戦略を立てることに注力することができます。

     

     

アレクサンダー・クメント

     

    

核兵器の分野は、非常に閉鎖的な安全保障の専門家の集団であり、立ち入ることは困難です。議論の多くは抽象的であり、核兵器が実生活に与える実際の影響を忘れがちです。ですから、市民社会は、核兵器が使用されたときに生じる言いようのない苦しみや破壊を思い出させるという点で、重要な役割を担っています。

私は核兵器禁止条約の採択に至るまでの過程で、市民社会、特にICANと非常に密接に連携してきました。市民社会と政府は対立する立場にあるべきだと思われがちですが、実際にはパートナーなのです。パートナーシップがあれば、素晴らしい結果をもたらすことができます。

オーストリアは、軍縮の進展がないことに非常に不満を抱いていた多くの国々のひとつでした。そこで、核兵器保有国や拡大抑止に依存している国が軍縮の道を主導することを期待するのは非現実的であるため、新たなアプローチが必要だということで意見が一致しました。同様に、市民社会においても、過去の反核キャンペーンを再び活性化する必要がありました。私たちにはそれぞれの役割と行動手段があります。各国は、多国間会議で活動し、声明を起草し、決議案を可決し、会議を開催しています。これらは、市民社会が問題を提起し、専門家を招いて、新たな視点で貢献する機会となっています。この機会は双方にとって非常に実りあるものです。市民社会は、政府が自国の政治体制に対して、リソースと政治資本を投入する価値があると説得する際にもサポートできます。市民社会は、その後、この流れを用いて,他の機関に対してロビー活動をおこない、最終的には他の国が追随するような手本を作ることができます。

     

    

メアリー・ポピオ

    

      

メアリー・ポピオ氏は、広島を拠点とした平和教育を通じて、人々の意識の向上を目指すPeace Culture Villageの活動を紹介し、広島-ICANアカデミーの参加者に広島の活動家との交流を呼びかけました。教育はPeace Culture Villageの使命の中で重要なものであり、「核兵器を廃絶できたとしても、人類が普遍的な幸福をつくり上げるために、お互いに率直に、誠実に、懸命に関わり合うことを学ばなければ、私たちは互いに,そして私たち自身を破滅させるための手段を探し続けるだけでしょう」と話しました。 彼らは、軍縮を平和文化の他の側面と結びつけながら、全体的かつ異なる分野をまたぐ視点を通してこの意識の発展を促進することを目指しています。特に若い人たちが広島を自分たちの体験や立場と結びつけることができるよう、オンラインや対面での活動に力を入れています。2020年8月6日に開設された「ピース・ポータル」は、デジタル技術を用いて、広島を訪れることのできない世界中の人々に、広島を拠点とした平和学習を提供するなど、魅力的で没入感のあるテクノロジーが主要なツールとなっています。

     

     

軍縮アジェンダを推進するためのICANのキャンペーン戦略

     

ベアトリス・フィン

私たちは明確に,核兵器禁止条約それ自体に注力しており,この条約は核兵器は受け入れることができないものであるという新しい規範を示すことができるようにするために,核兵器を非合法化し,非難するための法的な手段です。このことを達成するまで、軍縮は不可能です。核兵器禁止条約発効への取組みと並行して、この法律が存在し,それは皆に関わりのあるものであるということを人々に理解してもらうために核兵器禁止条約を身近なものとして感じてもらうようなものにすることを目指すいくつものプロジェクトがあります。

私たちが行う投資資金の引揚げ活動は,金の流れを追跡することを含みます。核兵器産業は依然として巨大産業であり、2019年には9つの核保有国が約730億米ドルを核兵器に費やしています。核兵器に投資することは受け入れられるべきではないので、ICANでは銀行や年金基金、投資家などの金融機関が核兵器製造に投資することは不名誉だと思うよう働きかけています。「核兵器にお金を貸すな(Don’t Bank On The Bomb)」のようなリソースを使うと、自分がお金を預けている金融機関の投資状況を調べる事ができ、自分のお金を他に動かすことで、個人が新しい規範作りに一役買うこともできます。

私たちの活動の一つであるシティーアピールでは、核兵器禁止条約に署名する準備ができていない国家を飛び越して、核兵器の標的になりうる都市に直接出向くというものであり,パリ市が核兵器禁止条約を支持したことにフランス政府が不満を持っていたのは、その影響だったと言えます。

国会も同じです。政府が核兵器禁止条約を支持していなくても、世界中の議会でこの問題を提起するためには、選挙で選ばれた個々の議員が必要です。私たちは、既存の核兵器を受け入れる以外に取りうる選択肢はないという前提に疑問を投げかけ始めるための議員を集めています。

これらの活動はすべて、核兵器の正当性に疑問をもたせ、人々が「核兵器は嫌い」と声を上げやすくすることを目的としています。アメリカの同性婚など、他の問題に目を向けると、政治家の多くは、流れが変わってから、「自分たちはずっと同性婚を支持していた」と言い始めました。このように、私たちが変わらないと指導者の立場は変わらないということを理解する必要があります。そのため,核兵器を受け入れることに異を唱えることが簡単であたりまえになるように取り組んでいます。政治家が核兵器に反対せざるを得なくなるような社会状況をつくるために取り組んでいます。

     

      

小国、中堅国の貢献、そして、国際政治における新たな規範作りの際の、これらの国の役割については、どのように考えているか?

    

アレクサンダー・クメント

国際法は、国家の主権平等に基づいて運営されているので、どの国でも、大国でも小国でも法的に権利を持っています。結局のところ、最も強大な国であっても、正当かどうかが最も大切になってくるので、他国と協力することで、私たちは本来の自分の力以上の力を発揮し、政府レベルで国際的な言説を変えることができます。現段階でこのアプローチが、核兵器保有・依存国の政策を変えられるかどうかを判断することはできませんが、私たちが影響を与えているという心強い兆しはもう既に出てきています。オーストリア単独での役割は非常に限られていますが、志を共にする国々とのパートナーシップの中で、市民社会と協力しながら、私たちは変化の担い手となり、非常に効果的な役割を果たすことができるのです。

      

     

核傘下国

     

ベアトリス・フィン

核傘下国については、安全保障体制の一部であり、核兵器の使用に参加するように準備している国となりますが、これらの国は問題の重要な一部です。核兵器禁止条約が非常に大きな力をもつ理由のひとつは、軍縮の足かせになっている国々をさらけ出していることです。ドイツや日本のような国は、被爆の記念日に追悼すると同時に、また同じことを繰り返す準備をしています。そして、核保有国の前に、まずこれらの核傘下国々に働きかける必要があるのです。核傘下国々は、核保有国を外力から守っていますが、人道主義の擁護者であることを誇りとする国々にとっては、これは非常に体面的に困る立場です。核兵器使用による人道的影響は、これらの国の原則に反しているため、核兵器の問題を他の人道的問題と切り離そうと必死になっています。私たちはそういった国に圧力をかけ続け、核兵器との密接な関係についての体裁の悪い質問に答えてもらうよう挑み続けなければなりません。人道的な枠組みが鍵を握っています。技術的な視点だけで条約に反対するのは、あまりにも簡単なのです。

     

     

原爆投下の歴史や核兵器の歴史と現状について、政府や市民社会は、どのように個人を教育できるか。

    

湯崎英彦

この広島-ICANアカデミーは、まさにその一例です。広島は小学校から核問題に関する教育プログラムを数多く実施しています。この平和教育の中心には被爆者の声があります。また、他国の国際関係の学習方法も多様で、そこから様々なことを学ぶことができます。教えることよりも、学ぶことに重点を置いた生徒中心のアプローチを見ることができます。私たちは核軍縮に賛成ですが、議論を進めるためには相手の声に耳を傾けることも必要です。

      

     

近年の核軍縮の進展と、ナショナリズムや新技術、過去の条約の破棄などがもたらす不安定な状況を背景に、現在の軍縮の行き詰まりを打破し、さらなる進展を実現するにはどうすればよい?

    

中満泉

     

一つの方法がこの非常に複雑な状況を解決することはありません。様々な対策を同時に追求していく必要があります。

私たちが最初にすべきことの一つは、核兵器保有国の合理的な安全保障上の懸念を理解し、何が核兵器保有国を過去20数年の間に築いた進歩から逆行させ、新たな軍拡競争に身を置くことになったのかを理解することです。それを理解することは、こうした負の傾向を逆転させようとするための私たちの戦略の基礎となり得るのです。

それと並行して、実用的なリスク低減策を講じて、偶発的な核爆発のリスクを低減する必要があります。私たちは,それ自体が互いの,そして核兵器国間の信頼醸成に有用的となるであろうリスク低減方策を構築するためのプロセスを始めるために,この共通の関心事を利用することができます。

核兵器を廃絶するための私たちのアプローチに対する,新鮮で包括的な視点を私たちは必要としていると考えています。既存のメカニズムを構築し続けることはもちろん必要なことですが、軍縮の考え方に新しいアイデアを取り入れていく必要があるのです。国連は、核兵器禁止条約が、大変必要とされ長らく待ち望まれていた新たな活力を議論に注入していると捉えています。人間を私たちの安全保障の中心に据えることは決定的な要素です。

若者の役割もまた、国際安全保障の議論と軍縮の言説に、このような新鮮なアイデア、新しいアプローチやエネルギーをもたらすために不可欠です。若者がこの役割に取組むために必要な知識と技術を身につける機会を増やすことは、国連やその他の機関の優先事項であるべきなのです。

     

    

最近のポジティブな勢いを維持するにはどうしたらいいか?

    

アレクサンダー・クメント

核抑止力は、長年にわたって培われてきた強力な概念であり、必ず機能するという確信を持てれば素晴らしいことです。しかし、核兵器に伴う人道的リスクは、核抑止力が常に機能するという概念に異を唱える、非常に強力な論拠です。機能しない場合はどうなるのかということを話し合う必要があります。核抑止力の概念は不可侵であるならば、軍縮を進展させるのは不可能です。もちろん、これは逆もありえます。核抑止力が常に機能し、絶対的に安全が保証されるものであることが証明されるならば、私は、おそらく何も言いません。

サイバー問題、超音速兵器、人工知能などが加ったことによって、私たちは核兵器国に対して,どの段階で抑止論についての見解が傾き始めるのか問いただす必要があります。核兵器に依存している国が、教条的な核抑止論に異論を唱えようとしないならば、核軍縮は実現しないと私は強く感じています。結局のところ、核兵器は、あまりにも恐ろしく、核抑止力の概念はリスクが高すぎるということを皆が認めることで、初めて核軍縮が可能になるのではないでしょうか。

     

  

ベアトリス・フィン   

世界中のありとあらゆる国に、正当な安全保障上の利益がある事を頭に入れておくことは重要であると思います。そして、世界中のありとあらゆる人も同じように正当な安全保障上の利益があります。しかし、そのことは、個人単位でも国単位でも、自分の身を守るために民間人の大量殺人を行うと脅すことが、容認可能であるということを意味するものではありません。

これは権力の問題であり、強大な国々が支配していることを私たちは忘れがちで、どういう訳か、私たちはそれらの国々の安全保障上の利益を尊重し、国民や他の国の利益は無視しています。私たちはリーダーシップやリーダーシップの欠如についてよく話しますが、リーダーシップが欠如しているとは思いません。世の中にはたくさんのリーダーがいます。私たちは単にどのリーダーに目を向けるのか 決めないといけないのです。

変化とは常に不快なものです。核保有国が自ら核兵器を手放すことが容易であると感じる日は決して来ないでしょう。核兵器は冷戦時代に作られたもので、全ての正当性は冷戦であり、冷戦が終わると、どの権力も常にそうであるように、新たな正当性を作り出すのです。大量破壊兵器に頼ることから頼らないことへと移行する瞬間は、常に困難であり、それに反対する人々は常にいるものです。

核保有国や核の傘下国が、この問題を主導することを待つことはできません。だからこそ、私たちはこの条約を勢いと活力をもった新たな創造的解決策としてみなければならず、まさにジェンダー平等や反差別のように,ひとたび変化が起きれば,権力を持つ人々でさえ、実際はよりよいものであると認識するであろうからです。

私には、将来への希望がたくさんあります。私は時折,100%の成功だけが、つまりは核兵器の完全な廃絶だけが、十分によいことであると私たちが考えている、と思うことがあります。実際に廃絶が成功しているかどうかも分からないので、このような考え方は空しいものです。しかし、何もしなければ、得るものはありません。さらに、もし市民社会も活動家も政府も何もしていなければ、おそらくすでに核戦争が起きていたでしょう。だからこそ、広島と長崎の悲劇を二度と起こさないようにするためには、必要不可欠な活動なのです。ツイッターでの「つぶやき」のひとつひとつ、条約を批准する政府、私たちの署名、質問をする国会議員、私たちに賛同する都市、核開発に資金提供をやめる銀行など、一歩一歩が私たちを前進させてくれるのです。どの行動が決定的なものになるかはわかりませんが、私たちが進むべき方向性はわかっており、私たちができる限りのことをして、貢献していかなければなりません。

    

          

湯崎英彦

    

     

議論に新しい視点や側面を取り入れようとすることは、非常に大切です。人道的な側面は、原爆投下直後から存在していましたが、核兵器禁止条約はこの側面を新たな方法で利用し、かなりの成功を収めました。中満国連事務次長の任命もその一例であり、軍縮の論議を刷新するために、外部から抜擢されたのです。核抑止論に挑むと同時に、核保有国とその傘下にいる国の代替安全保障戦略を模索していかなければなりません。そのために、相手側の動機やニーズをよく理解しておく必要があります。

      

      

キャンペーンにおける女性とマイノリティの役割

   

中満泉

ジェンダーの平等と多様性を高めることは、正しいことであるだけでなく、より良い意思決定につながります。私が国連に入り、初めてボスニアに平和維持要員として派遣されたときは、女性がほとんどいなかったため苦労しましたが、差別されたとは思いませんでした。私は若い女性がもっと国連に入ってくることを奨励していますし、国連はジェンダーの平等と透明性を促進するために懸命に取り組んでいます。

     

     

ベアトリス・フィン

私は中満国連事務次長の意見に賛成ですが、不完全な権力構造により多くの女性やマイノリティを単純に追加するのではないことに注意し、その構造そのものを変えていくことが必要だと考えています。私も若くて世間知らずゆえに,しりぞけられた経験がありますが、最近の若い女性たちは徐々に自信を持ってきていると感じています。しかしやはり、私の意見は世間知らずで女性的だから却下されていると感じることが依然としてあり、一方で男性の同僚による主張は合理的だと見られます。

     

     

 

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